80年代ポップカルチャーを語る上で絶対に外すことのできない映画と言えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でしょう。

その劇中でタイムマシンに改造されたあの自動車の「デロリアン」が、1/8スケール(全長52.7㎝)という迫力のサイズで模型化されてデアゴスティーニから登場します。

模型好きとしては一度は見ておきたいと思うところですが、週刊『◯◯◯』でおなじみの、分冊型で毎回一部のパーツが少しずつ手元に届くデアゴスティーニさんの製品となると、「お金も時間もかかるんだろうなぁ」というイメージもあるはず。正直、筆者も最初はそう思ってました。

1月31日(火)創刊、全130号で完成させる週刊『バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン』/デアゴスティーニ提供

そこで今回は、模型専門誌の編集者を経て現在はホビーメーカー勤務の筆者が、デアゴスティーニ本社にお邪魔して実物をくまなく拝見し、週刊『バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン』の魅力がどれだけのものなのか体感。みなさんに「ホントのところ」をお伝えすることにしました。

この記事を読んだら、もう見なかったフリはできませんよ! 心の準備はいいですか……?

撮影・文:からぱた 編集:新見直

そもそもデロリアンって?

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下「BTTF」)やカーマニアなら、「デロリアン」というのがあくまで自動車メーカーの名称であり、あの銀色のクルマは「DMC-12」というモデルだということをご存じかもしれません。

DMC-12を手がけたのは、ジョルジェット・ジウジアーロ。フォルクスワーゲンの初代「Golf」やニコンの一眼レフカメラなど、数々の傑作デザインを産んでいるイタリアの超有名工業デザイナーです。

そのジウジアーロがデザインしたDMC-12の特徴は、エッジの立ったシェイプと無塗装のステンレスで仕上げられた外装でしょう。その未来的なルックは、「タイムマシンのベース」としてこれ以上ない説得力を持っています。

週刊『バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン』第8号のマガジンより

デロリアン・モーター・カンパニーの設立からじつに5年余りの歳月を経て登場したDMC-12は決して「成功したプロダクト」ではありませんでしたが、唯一無二のスタイリングとBTTFをはじめとした数多のエピソードによって、いまなお熱烈なファンを生み続けています。

今回デアゴスティーニから発売される週刊『バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン』では、BTTFの劇中で使用された車両のレプリカの中でも最も再現性の高いモデルに目をつけました。そして、そのモデルへの入念な取材と3Dスキャンによってパーツの材質や形状を再現することにこだわっています。その完璧さはBTTFのスタッフも太鼓判を押すほど。

超重量級デロリアンとの遭遇

実物と出会うまでにたくさんの写真を見て「いやいや、1/8スケールなら正確で当然でしょ」とタカをくくっていた私。しかし、デアゴスティーニ本社で待ち構えていた“デロリアン”の迫力は、触った瞬間に恐ろしい実感を伴って脳髄を刺激してきました。

何を隠そう、めちゃくちゃ重たいのです……。

本体重量はなんと約8kg(試作品のため、製品版では多少増減するかも)。お正月に友達から贈られた全長90cmくらいの新巻鮭より重たく感じるのですから大したものです。 正直、知らずに持ち上げようとしたら「うわっ!」と声を出してしまうほどの重量なのですが、これは外装のほとんどをダイキャスト(金属を型に流し込んでつくったパーツ)で再現しているため

樹脂製のモデルだとどうしても塗装で再現せざるを得ない金属地も、このモデルでは「ホンモノの金属」という点で、素材の質感そのものを楽しむことができてしまうわけです。 当然表面には実車同様の微細なヘアライン加工(ヤスリによる仕上げ加工で残った微細な線状の模様)が入っており、これも金属製ならではのポイント。

まず「重たい」「マジで金属」というこの2点で脳内から「これは欲しいじゃないですか……」というアラートがビシバシと鳴り響いてきます。

これでもか! というギミックの数々

本モデルの数ある特徴の中でもとりわけ気にかかるのが「内蔵されたLEDによって、劇中同様にめちゃくちゃいろんなところが光る」という点でしょう。

そりゃお金と手間をかけてつくる巨大モデルなんですから、光ってくれないと困りますよね〜とスタッフさんに点灯をお願いすると、やおらガルウイングのドアをスイーッと開くじゃありませんか。そう、翼のようにぐいっと持ち上がるドアがデロリアンの「未来ポイント」なんですよね。

そう、翼のようにぐいっと持ち上がるドアがデロリアンの「未来ポイント」なんですよね/デアゴスティーニ提供

ちょ、ちょっと待って下さいよ。なんですかそのスムーズな開閉は。よく見るとドアのヒンジ近くにはこれまた金属製のダンパーが仕込まれており、重たいドアもスムーズに持ち上げて、カチッと開状態でストップするんですね。

さらにサイドウインドウもダイヤルをクルクルと回すと開閉します。

これまた妙なカタチに切り欠かれたガラスが上下する、デロリアンならではのマニアックなギミックなんです

DMC-12はリアエンジンなのでフロントがトランクになっている&映画で使用された初期型ではボディサイドに給油口がないデザインなのですが、ボンネットの後端に手をかけると、こちらもスイーッと開いてカチッと止まり、内部には給油口とスペアタイヤが!

ドクがタイムスリップの前に下着を用意しておかなきゃね、とボンネットを開いて鞄を放り込んでいたシーンが一気に蘇ります

「まだ光ってないのに、テンションが高まりきってしまった……」というのが正直な感想なんであります。

いざ、ライトアップ

車内のディテールもまるで実車そのもの。シートやハンドルといった自動車らしい部品のかたわらにびっしりと配置された「タイムマシン用のパーツ」はクリアー素材も多用されており質感もバッチリ。

いよいよ助手席サイドから指を差し入れてシフトレバー後部のボックスに並んだ黒いボタンを……って、その小さいのがボタンなんですか!? ホントに?

そう、本モデルでは無粋な「1/1のスイッチ」を仕込むことなく、あくまで映画用の車両のディテールの延長にスイッチを設けてあるのです

ヘッドライトが光り、タイムマシンの行き先時刻表示(7セグのLEDな!)が光り、ウインカーやドアの衝突防止灯がバババッと点灯すると、気分は完全にデロリアンのオーナーに(大げさじゃなく、クルマに命が吹き込まれたような錯覚に陥るのです)。 さらにタイムスリップのシーンでバリバリバリっと青く光る車体外部のケーブル類も光ファイバーによって輝いているときたら、「部屋の電気消してもらえますか!」と叫ばざるをえません。

薄暗い部屋の中でボウッと光を放つデロリアンにうっとりしていると、「まだ光るんですよ……」とこんどはダッシュボードの下にゴソゴソと指を突っ込むスタッフ氏。これ以上どこが光るのかとドキドキしていると、ブレーキランプがひときわ明るく輝いたじゃありませんか。 もしかして、ブレーキランプもブレーキペダルに連動しているのですか(半ば呆れ顔で)。この時点で自分の頬が緩みっぱなしになっていることと、「ホエ〜〜」という声しか出せていないことに気づきました。デロリアン、恐ろしい子……。

ホバー変形、後部を外せばゴツいエンジンもお目見え

デロリアンはBTTF3部作を通してさまざまな形態に改造されてきましたが、今回のモデルは基本的に第一作の初登場時を立体化しています(マニアならナンバーや各種パーツのバージョンで「どのシーンに登場したモデルか」が判別できるはず)。

どっこい、全130号のシリーズ序盤も序盤、第4号には動力源となるプルトニウムを差し込むリアクターのほかに、なんと「ミスター・フュージョン」がパーツとして用意されています。

デアゴスティーニ提供

ゴミすらも動力源に変換してしまうこの装置が付けられたのはBTTF第一作のラストシーン、「2015年から1985年にタイムスリップしてきたドクが乗るデロリアン」であり、ここでは同時にタイヤを横倒しにして飛行するホバー・コンバージョン姿も印象的です。 本モデルは「クルマとしてのDMC-12」をしっかりとつくり込んだ上で「タイムマシンとしての姿」も抜かりなく再現するため、タイヤを支えるサスペンションをパーツ化しつつ、磁石を巧みに利用してタイヤの角度を固定する機構を搭載。

ホバー・コンバージョン作動時でも、通常走行時でも安定感のあるディスプレイが可能

こうした工夫は、デロリアンとして強くイメージに残っているギミックを、ディテールを犠牲にせず再現するというこだわりが感じられるポイントといえるでしょう。

このほか、本来の自動車としての「DMC-12」のパワーソースである2849ccのV6エンジンも、タイミングベルトまで抜かりなくパーツ化 こちらは車体後部上面にぎっちりと積まれたタイムマシン用パーツをごそっと外すことで覗き込むこともできます。エンジンやトランスミッションも立体的に入り組んだ構造が体感できて、超リアル!

デアゴスティーニ提供

ちなみに「ミスター・フュージョン」のパーツはそれ単体でも超かっこよく、いろんなものにくっつけたくなるデザインとなっているので、スタッフ氏は「この号だけ爆発的に人気が出たらどうしよう……」とあらぬ心配をしていました。わかる、わかるぞその気持ち!

第4号の「ミスター・フュージョン」パーツ。劇中モデルではドイツのKRUPS社が販売していた電動コーヒーミルが流用されています

大きいことは、いいことだ!

……と、ここまで細かなわくわくポイントをご紹介してきたわけですが、このモデルについて現場にいたスタッフ氏といっしょに盛り上がった点はとにもかくにも「大きい」ということ

創刊号から第25号まで購入するともらえる実寸大のナンバーブレートと、リモコンを並べた比較画像

全長52.7㎝の金属製ボディは存在感などという陳腐な言葉で表現するのもはばかられるほどで、ドアとボディの間に自然と現れる隙間や各部のパーツの厚さ/薄さ、可動機構におけるサイズと強度のバランスなどは「このスケールでなければ絶対に表現不可能」と言い切れるリアルさを実現しています

「模型」というのは縮小するがゆえにどうしても省略や誇張が含まれるもので、一般的なサイズの模型だと、隙間は細い溝で表現したり、パーツの強度を保つために厚みや可動機構がどうしてもスケール通りにならないことがほとんどです。

それが、1/8スケールだと「実車の構造やディテールをほぼ完璧に再現できる」というのは新鮮な驚きでした。 そして、デロリアンならではの魅力は無塗装のボディ。塗装仕上げのカーモデルでは伝わらない「素材の質感」は強烈で、実車を手に入れなければ味わうことのできなかった、ひんやりとした硬質な手触りを誰でも楽しむことができます。

これをコツコツと自分の手でつくり上げ、ついに完成させたときの充足感は「自分がBTTFのスタッフになったのと同等」と言っても過言ではないでしょう。 少なくとも、通算8000台あまりしかつくられなかったデロリアンの機構や質感を所有すること、映画に登場した唯一無二のプロップを(実車のデロリアンを改造する過程を追体験しながら)自分のものにするということが、この製品以外で味わうことができない体験であることは間違いありません。

もちろんマガジンもすごいらしいよ

「でもでも、大きくて複雑な模型を組み立てたことなんてない!」と不安な気持ちになっているアナタ、大丈夫です。

これまで数多くのパートワーク(分冊)誌を手がけてきたデアゴスティーニさんですので、カラーのイラストに丁寧な説明文が添えられた組立図がマガジンとして付属します。

パーツはすべてネジ止めかはめ込み式になっていて、必須の工具はドライバーのみ。しかもそのドライバーも創刊号に付属します! ドライバーが回せる人ならば間違いなく組み立てることができるはず。

また、マガジンには、映画の制作秘話や脚本の変遷、キャスティングの裏話などを紹介した「メイキング・ザ・ムービー」や、「世界一有名なタイムマシン、デロリアンはどのようにしてつくられていったのか?」をデザイナーやコンセプトアーティストの証言から明らかにする「ビハインド・ザ・シーン」、映画の主人公をはじめとしたキャスト陣や作中の重要なモチーフなどを取り上げる「コラム・オブ・ザ・フューチャー」といった記事も満載。

週刊『バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン』第8号のマガジン掲載「ビハインド・ザ・シーン」

スタッフによれば「BTTFのプロデューサーやコンセプトデザイナーから、本アイテムのために新規インタビューを敢行しました」とのことで、これまでファンが知り得なかった情報も掲載される可能性が大だそうです。

しかも全130号を集めたら大変なページ数になりますから、その情報量たるや……。

130週間で組み立てるデロリアン、アナタはどうする?

デアゴスティーニのマーケティング担当者さんに持ってもらう

1月の創刊から130週間の長丁場。はっきり言って、途中には盛り上がる作業も地味な作業もあるでしょう(模型を完成させるというのはそういうことです)。それでも、全部集めて、組み立てて、末永くあなたの気持ちを満たし続けてくれることは間違いないのです(完成した模型というのはそういうものです)。

もはや「走る」以外のことはほぼ完璧に再現されたこのデロリアンに、試されているのはあなたの愛。そう、“パワー・オブ・ラブ”なのでございます。
The Power of Love
ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース
¥ 250


ここまで読んで、少しでも「あとで後悔するかもしれない……」という気持ちがあったなら、絶対にこのお祭りに参加することをオススメします。少なくともワタシは、置き場所の確保を始めましたからね。みなさん、是非に。
この記事どう思う?

この記事どう思う?

関連キーフレーズ

プロフィール

からぱた

からぱた

プラモデルハンター

1982年生まれ。大学では美術史学を専攻し、模型専門誌の編集者を経て現在はホビーメーカーに勤務する。サラリーマンフォトグラファーとして活動する傍ら、カルチャーとしてのプラモデルを思索する毎日。
https://twitter.com/kalapattar

からぱた

からぱた

プラモデルハンター

1982年生まれ。大学では美術史学を専攻し、模型専門誌の編集者を経て現在はホビーメーカーに勤務する。サラリーマンフォトグラファーとして活動する傍ら、カルチャーとしてのプラモデルを思索する毎日。

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。