なぜ美しい絵が描けるのか? ClariSを描くイラストレーター高野音彦インタビュー

素直に絵を描いている生々しさ、ライブ感を伝えたい

「ひらひら ひらら」のイメージイラストができあがるまでの一部過程 1/最初、ClariSの2人は後ろを向いていた

━━先ほど、少し「ひらひら ひらら」のMVのお話をうかがってしまいましたが、改めて、イラスト制作の過程をMVにするというアイディアはどこからきたんですか?

大野 ClariSという顔の見えない人がいて、高野さんというイラストレーターさんがいて……となった時に、どう見せようかという答えは、割とすんなり出てきました。

絵を描くという文化の中身を見せることって、絵の世界に憧れる人たちや単純に絵が好きな人たちに響くだろうなって。

デジタルのイラストが蔓延していて、”見て終わってしまう”「1枚の絵」として簡単に消費されるのが当たり前のようになっている今だからこそ、素直に絵を描いている生々しさ、ライブ感を伝えたい。なぜか自然と「絵を描く力を見てよ」って思いが生まれてきたんですよ。

━━高野さんの絵には、生々しさやライブ感はあったのでしょうか?

大野 僕は高野さんに今回のMV用にイラストを描いてもらうにあたって、たとえば「サビで盛り上がるように派手に描いてください」とか、高野さんに介入するようなそういった指示を出したりとかはしてません。

あくまで高野さんのドキュメンタリーでライブ感を伝えたかった。

最初はどうなるかまったく想像もできなかったんですが、送られてきた映像に映る、粘土みたいにこねて、地道に色を重ねていく様は、偶然の中から絵の方向性を見出す瞬間がありました。 最近のデジタルの描き方であれば、描いていく中で良い感じの方向性が見えれば、それまでのものを消して、その都度きれいにして描く人が多いんですけれど、高野さんは、消さずに下地を利用して色を上から重ねながら試行錯誤するので、デジタルなのにアナログの描き方が表現できてるんです

迷って迷って色を重ね続けた結果、偶然、絵の方向性が見えるという生々しさ。本当に高野さんの描き方は、ライブ感に溢れていましたね。

高野 やっぱりある程度のライブ感はほしいですね、偶然的な要素というか。アナログで描くと水彩画のにじみとかをコントロールできないじゃないですか。

でもPhotoshopだと、やろうと思えば1ピクセル単位でコントロールできる。それは僕は息苦しいなって思うのです。なので、デジタルですけれども、色をたくさん置いて、ある程度偶然性の中から絵の方向性を拾っていきたいですね。

「ひらひら ひらら」のイメージイラストができあがるまでの一部過程 2/最初木はなかったが、これではClariSの両側が持たないとの判断から夜桜を描いたそうだ

「ひらひら ひらら」のイメージイラストができあがるまでの一部過程 3

なぜ髪の毛をなでなでしまくるのか?

━━それにしても、1枚のイラストを描き上げるのに25時間42分ってすごいですよね。

大野 尺の都合でなくなくカットした部分もたくさんありますね……。高野さん、髪へのこだわりが尋常じゃないんですよ

髪の毛の曲線が結構エモーショナルで、女の子の髪の毛を「よしよし」となでなでしてるように色を重ねていくんです。

高野 髪の毛を描いている時が一番楽しかったですね(笑)。25時間のうちの4分の1くらいは髪を描くのに費やしたかもしれません。

「ひらひら ひらら」クララ(ClariS)

━━なぜ、そんなに髪をなでなでしまくったのでしょうか?

高野 キャラクターを描いていて、一番自由にできるのが髪なんですよね。口を2つにする訳にはいかないですし(笑)。髪の毛って、色にしてもシルエットにしても、ある程度自由にできるので、シルエットでおもしろさを出そうとしたら、基本的には髪で出すしかない。

あとは色もですよね。たとえば、肌の色は基本的には肌色しか置けない。ただ、髪の部分はそこに黄色を置いても青を置いてもピンクを置いても成立するんです。

大野 何層も何層も重ねて磨いてるんで、最初の方に塗った色が総じて手前に出てきてるみたいな、色の出し方がとにかくすごい。
頭の中で想像する髪の色って茶色とか黒じゃないですか。

でも高野さんの髪はそんな単純なものではなくて、黒の中に赤もあるよね、この赤の中には青も黄色もあるよねみたいに補色とかもどんどん使うし、バケツツールで色を流し込んでいるようなニュアンスも消してないし、水彩みたいに色を乗せたりとか……。

複雑な工程だからこそ、ここまで髪の色や髪の動きを立体的に出せているんだと思います。この綺麗さは生半可なものでは表現できないですよ。

あとは、目尻を描いてる時とか、絵を描いてるんじゃないんです。これからお出かけする女の子にお化粧しているみたいな(笑)。あれはペンじゃなくて、お化粧道具で塗ってますよ。大サビのところなんですけど、一番見てほしいかもしれません。

「ひらひら ひらら」カレン(ClariS)

━━MVでは、そのこだわり抜いた髪や目がアニメーションで動きますよね……!

大野 すごくおこがましいんですけど、絵を描いている時って、その人の頭の中で絵が動いてると思うんですよ。その人のイメージでは、髪や桜が風によってなびいているという「時間軸」がきっとある。僕はそれを形にしたいと思ったんですね。

だけど、現実的には必ず高野さんのイメージとは変わる。でも決して目を背けずにトライしてみようと思って、高野さんにヒヤリングしながら、「何を残して、どこを見せてあげなきゃいけないのか」ということを僕なりに考えました。

その結果、「この絵にもし時間があったらどう見えるか」をテーマに、「高野さんが描いたClariSが生きていたら、どのように動くんだろう」ということを想像しながら、最後アニメーションで動かせていただきました。

高野 おもしろく拝見させていただきました(笑)。

一瞬しか見れないイラストの儚さ

「ひらひら ひらら」をイメージして描き下ろされたClariSの最新アーティストイラスト/高野音彦

━━MVでは、最後の最後で逆再生のような形で、一番最初の筆入れされていない画面に戻ると思うのですが、あれはどういった意図があるのでしょうか?

大野 桜が咲いているのって本当に一瞬じゃないですか。1年間通して準備して、春に咲き誇る。その一瞬が終わると、またゼロに戻る。

一瞬だからこそ、そこに情緒と美を感じるのではないでしょうか? 儚い一瞬の盛り上がりに、何事も無かったかのように元あった状態に戻る。記憶の走馬灯のように、一瞬で記録を振りかえり遡ることで、桜のその刹那な部分を表現してみました。

桜を見たとき「もっと見せてよ」って思うんですけど、その思いを裏切って、一瞬だからこそいいんだよって。MVでは、あれだけ時間をかけて高野さんが描いたイラストを一瞬で吹き消していて、一瞬しか見れない儚さを少しでも感じてほしいですね。

━━まさに最後の最後で「あっ……」って切ない気持ちにはなりました(笑)。

大野 たった1枚のイラストなんですけれども、イラスト1枚ができあがるまでを見ていただくことで、もっと思いを馳せていただけたらうれしいですね。絵に投入された時間軸を感じて、変化であったり、ゼロが一になる瞬間のライブ感やエネルギー。

「時間」というのも、「ひらひら ひらら」MVのテーマかもしれませんね。

高野 僕はただ、自分の描いているところが映像にされていく━イラストレーターである自分にとっては、言わば生き様を映像にしているような気持ちで、ここは使わないでみたいなシーンもあったりするのですが(笑)。

ただ、客観的に見ておもしろい部分もあるので、是非楽しんでいただけたらなと思います。

ClariS 『ひらひら ひらら』Music Video

ClariS「ひらひら ひらら」をiTunesからダウンロード ClariS「ひらひら ひらら」をレコチョクからダウンロード ClariS「ひらひら ひらら」をmoraからダウンロード
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ClariS

新感覚☆レトロフューチャーユニット

新感覚☆レトロフューチャーユニット。
クララとカレンからなる女の子2人組。
2010年TVアニメ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」OPテーマ、シングル「irony」でメジャーデビュー。その後も話題のアニメとタイアップしシングル、アルバムともに立て続けにヒットを連発。
14年6月にリリースとなった3rdアルバム「PARTY TIME」をもって初代メンバーのアリスが卒業するも、同年11月には新メンバー”カレン”をむかえ新生ClariSが新たな一歩を踏み出すことを発表。
15年4月15日にキャリア初のBESTアルバム「~SINGLE BEST 1st~」を発売。
ユニット名“クラリス”という言葉には、ラテン語で「明るい、清潔、輝かしい」などの意味。恐るべきアイドルユニットClariSの快進撃は止まらない!
オフィシャルサイト:http://www.clarismusic.jp/
Twitter:https://twitter.com/claris_staff
Facebook:https://www.facebook.com/ClariSofficial

高野音彦

イラストレーター

東京でのんびりしたりキリキリしながら絵を描いたり描かなかったりしています。思い出したようにまれにコミケ等に参加します。サークル名は 【icenotes】 だったり 【christmas note】 だったり。
オフィシャルサイト:http://icenotes.com/
Twitter:https://twitter.com/icenotes

大野悟

映像ディレクター/アニメーションディレクター

多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。映像制作会社を経て、近作にMV「かけてあげる」(DAOKO)、MV「White tree」(シド)、MV「サンキューパンキュー」(GO-BANG’S)、「センチメンタル・ジャーニー まだ50歳ver.」(松本伊代)をはじめ、CMやライブ映像など多岐にわたって活動。

1件のコメント

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CKS

CKS

メイキング映像大体単調になりがちだけど、ちゃんと拍子に合わせてカットされてて、MVとしてのメイキング映像の一つの答えな気がする

コメントを削除します。
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