映画『マジカル・ガール』インタビュー まどマギが与えた影響とは?

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映画『マジカル・ガール』インタビュー まどマギが与えた影響とは?
映画『マジカル・ガール』インタビュー まどマギが与えた影響とは?

映画『マジカル・ガール』監督・脚本のカルロス・ベルムト

予告編の公開と共にインターネットを中心に爆発的な注目を集めた、3月12日(土)公開の映画『マジカル・ガール』。

白血病の少女・アリシアが、日本の架空のアニメ「魔法少女ユキコ」のコスチュームに身をまとった衝撃の姿に、日本中が目を奪われた事はいまだ記憶に新しい。

予告編には、アイドルとしてデビューした長山洋子さんによる歌謡曲「春はSA-RA SA-RA」に合わせて踊る魔法少女になりたいアリシア、そして、「春はSA-RA SA-RA」とは対極的に官能的で情熱的なスペインの楽曲「炎の少女」と心に闇を抱えた美女・バルバラが登場。一見ポップでありながらも、どこか不穏で異様な空気を漂わせている。

映画『マジカル・ガール』予告編

予告編を見たユーザーからは、「どうやらただの映画じゃない」「ただの魔法少女モノの映画じゃない」「軽い気持ちで見るのが怖い……」など、さまざまな感想が寄せられた。

本作は、アリシアのささやかな願いが悲劇の連鎖を引き起こす、人間の暗部に迫るノワール映画でありながら、ダークでアンダーグラウンドな60年代の雰囲気を纏い、江戸川乱歩の『黒蜥蜴』など、多様な日本文化のエッセンスを取り込んでいるという。

そんな日本映画界の話題をさらっている注目作の公開に先立って、監督のカルロス・ベルムトさんにインタビュー。

ずばり『マジカル・ガール』はどんな映画なのか、そして、監督は『魔法少女まどか☆マギカ』を見ているのだろうか。

一足先に見た筆者からすると、ただの魔法少女を題材とした映画ではない。計算しつくされた美しい映像に、想像力をかき立てる魅力的な登場人物たちの過去。時に不安にさせ、時に情熱的に燃え上がる物語が頭に強く残る、衝撃的で強烈な映画であることは間違いない

取材・文/安倉儀たたた

白血病で余命わずかな12歳の少女アリシアは、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。彼女の願いはコスチュームを着て踊ること。 娘の最後の願いをかなえるため、父ルイスは失業中にもかかわらず、高額なコスチュームを手に入れることを決意する。どうしても金策がうまくいかないルイスは、ついに高級宝飾店に強盗に入ろうとする。まさに大きな石で窓を割ろうとした瞬間、 空から降ってきた嘔吐物が彼の肩にかかるー。心に闇を抱える美しき人妻バルバラは、逃げようとするルイスを呼び止め、自宅へと招き入れる。そして…。バルバラとの“過去”をもつ元教師ダミアンは、バルバラと再会することを恐れている。アリシア、ルイス、バルバラ、ダミアン―決して出会うはずのなかった彼らの運命は、交錯し予想もしない悲劇的な結末へと加速していく……。 映画『マジカル・ガール』あらすじ

※公式サイトで公開されている以外のネタバレは避けていますが、登場人物や映画のテーマ、世界観などについて言及しています

『マジカル・ガール』とは、一体どんな映画なのだろうか?

──「日本の架空のアニメ『魔法少女ユキコ』に憧れる白血病の少女・アリシアをめぐる悲劇を描いた物語」

恐らく多くの方は、この点に注目しつつも、予告編を見る限り、「どうやら普通の映画ではないようだ……」「一体どんな映画なんだ?」という感情を抱いていると思います。

まず最初に、『マジカル・ガール』とはどのような作品なのでしょうか?


ベルムト この映画では、「欲望のつながり」を1つのテーマとしています。自分の欲求を満たすために、誰かを傷つけてしまうこと──その連鎖を描きたかったのです。

みなさんが注目されている「魔法」もまた、自分が持っていないもの、現実でないものを得ようとする、つまり自分の欲望を発端として手に入れる力です。

しかし「魔法」は現実には効かないわけですから、「魔法で自分のほしいものを得ようとすると、誰かの幸せが犠牲になる

この映画における「魔法少女」とは、単なる美的な要素ではなく、「欲望の連鎖」と「女性」を表すためのシンボルとして取り入れました。

Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados(C)

──物語は、アリシアが欲しがっているコスチュームを父親が手に入れようとするところから始まりますね。

ベルトム 一番最初は、漠然と「脅迫の連鎖」を描きたいと考えていて、連鎖の発端となる、物語のキーとなるような要素が必要だと思っていました。

たとえば男女のセックスの関係を持って脅迫されるとか、全然世代の異なる人たちの脅迫とか、いろんなアイディアを出していたのですが、最終的に「少女がコスチュームをほしがる」というアイディアが思いついたんです。

そこから「魔法少女」につながり、はじめはコスチュームをほしがるんだけど、次は違うアイテムをほしがるといったように、どんどんと話の展開が見えてきました。

『魔法少女まどか☆マギカ』に感じたダーク

Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados(C)

──魔法少女といえば、日本ならではの存在だと思いますが、日本の影響は受けているのでしょうか?

ベルトム 魔法少女といえば、日本以外にないですよね(笑)。まず、美的な点に関しては、子供の頃から大好きだった『美少女戦士セーラームーン』の影響があります。一目見ただけで、「魔法少女」というイメージを持ってもらえるビジュアルですね。

内容的には、『魔法少女まどか☆マギカ』の影響を非常に受けました。

普通、アニメや漫画に登場する魔法少女が自分の欲求を満たすということは、その少女にとってのご褒美になると思っていたのですが、『まどか☆マギカ』では、まどかが自分の願いを叶えても、それはご褒美になるのではなく、罰になる

まどかが自分の願いを叶えようとすると、他の人たちが罪をかぶる、罪人になってしまう気がして、往来の魔法少女の作品にはなかった、非常に暗くて憂鬱、ダークな印象を受けました。

私は、その『まどか☆マギカ』のダークな部分からインスピレーションを受け、ただ真似をしたのではなく、自分の考えていたイメージと合致させて、『マジカル・ガール』に落とし込んでいます。

──たしかに『マジカル・ガール』には独特すぎるダークさがあり、『まどか☆マギカ』よりも、とても強い衝撃がありました……。

江戸川乱歩『黒蜥蜴』とまどかのつながり

Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados(C)

──ベルムト監督は、歌手の浅川マキや映画監督の勅使河原宏といった日本の60年代的な表現に惹かれているとうかがいました。

そうした60年代のアンダーグラウンドなダークさに通じるものを、『まどか☆マギカ』にも感じたのでしょうか?


ベルムト 難しい質問ですね……。『マジカル・ガール』では、江戸川乱歩の『黒蜥蜴』が重要なモチーフとなっています。江戸川乱歩さんの原作はもちろん、美輪明宏さん主演の映画版(1968年)からも影響を受けていて、『黒蜥蜴』へのオマージュ的な要素が入っています。

『黒蜥蜴』は、登場人物が自分の欲求を満たすためにどんどんと姿を変えて、変容していきますよね。

『マジカル・ガール』をはじめ、フィルム・ノワールでも犠牲を払ってでも自分の欲求を満たす様を描いています。そして、それは『まどか☆マギカ』も一緒です。まどかが変化しながら、何があっても願いを叶えようとする。そこに共通点があると思います。

無垢な少女に隠された二面性

Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados(C)

──先ほど、魔法少女は「女性」を表すためのシンボルとして位置付けているとおっしゃっていましたが、本作において「女性」とは重要なキーワードなのでしょうか?

ベルトム 女性には二面性があると考えています。たとえば、日本の男性はみんなアイドルが好きですよね? 多くの方は、自分がアイドルから脅迫されたり、襲いかかってきたりなんてしないと思っているでしょう。

ですが、そうした固定的なイメージの一方で、実はすごく攻撃的なアイドルもいるかもしれない。無邪気で決して攻撃してこない少女が攻撃する、はたまた攻撃される対象になる……。

日本のアーティストでいうと、ちあきなおみさんに私はそのような二面性を感じました(笑)。こうした女性の二面性は『マジカル・ガール』の中でも描かれているのです。

──私は一見無垢な少女にも見えるアリシアの純真さの中にも、何か暗い面影があるように感じました。

ベルムト なるほど。私にはアリシアの中にそうした暗さがあるのかわかりませんでした。この映画はそれぞれの見方で、違って見えるのでしょうね。他の方も、別のキャラクターにそのような面影を感じたと言っていましたが、私にはわかりません。

もし、多くの日本の観客がそう考えるなら、それは常に仮面の裏を考えているからかもしれません。能では女性は仮面の下に隠れていますし、悪魔になった時には面を変えて角がでてくる。仮面が変わることで内面も変わる文化は、スペインにはない要素ですから。

ただ、アリシア役のルシア・ポジャンは、普通の可愛い子ではありません

アリシア役 ルシア・ポジャンの素質

──なぜ、彼女がアリシア役を演じることになったのでしょうか?

ベルムト 同じ世代の少女たちを集めてオーディションした時に、タバコをねだる演技をしてもらったのですが、多くの子は、「お願い」とか「ちょうだい」というセリフで演技をしてくれました。

でも、彼女だけはなぜか「タバコをくれないと腕を折るぞ」と言いはじめたのです(笑)。そのセリフがでた瞬間に起用を決めました。

誰でも好きになるような可愛らしい外見で楽しい子だけど、オーディションの時みたいに非常にユニークな考え方や行動をするんです。自分でも漫画を描いたりするのも好きなようで、日本の「ハーレム」的な視点からすると、数いる少女の中でも一番明るくて楽しい子でしょうか(笑)。とにかく、ほかの典型的な美少女にはない素質を感じました。

「春はSA-RA SA-RA」は魔法少女ユキコのオープニング

Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados(C)

──そのアリシアが憧れている魔法少女ユキコを象徴する形で、長山洋子さんの「春はSA-RA SA-RA」が使われていますね。

ベルムト 「春はSA-RA SA-RA」は、TVアニメ「魔法少女ユキコ」のオープニングという設定です。80年代か90年代頃の魔法少女アニメのオープニングとして使えそうな曲を探している時に見つけました。イントロの始まりのアタックがアニメの主題歌らしくてとてもよかったんです。目を閉じて聞き直してみても、しっかりと私の魔法少女のイメージが浮かんできたので、この曲に決めました。

──ちなみにユキコはどのような魔法少女なのでしょうか?

ベルムト 最初は自分でつくったアニメーションを映画の冒頭で使おうかと考えていたので、世界観や物語は細かく設定してます。

とはいえ、スペイン人の私がつくった映像が日本らしく見えなかったらよくないなと思ったのでやめましたけれども(笑)。

もうほとんど覚えてないんですが、「魔法少女ユキコ」は『まどか☆マギカ』ほど攻撃的でも暗くもない現代的な作品で、『キルラキルに近い内容だったと思います

たしか、春夏秋冬をテーマに4人組の魔法少女を考えていて、ユキコは冬がテーマカラーなので、衣装も「雪」をモチーフにした真っ白なデザインでした。でも、だからといって、魔法のステッキも雪の形にするとわざとらしい。

Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados(C)

アニメのキャラクターは時代が経過するにつれてデザインや傾向が変わっていくので、雪や季節にこだわるのはよくない。もっと普遍的で一目で魔法少女だとわかるコンセプトにすることにしました。

魔法のステッキも、最終的にはハートマークにして、ハートなら割ることもできるし、愛情のシンボルにもなるように、さまざまな意味を持たせることができますからね。

ほかにも、タヌキとキツネとネコという3人組の魔法少女を考えたこともありました(笑)。でもさすがにおかしいなと思ってやめましたね。スペイン人には「タヌキと言ったら頭に葉っぱを乗せているもの」なんて考えがわからないですしね(笑)。

まったく別の映画を見ることになる

──ここまで聞いてみて、ますます魔法少女を題材にしたノワール映画とは想像もつかないと思います。映画を楽しみにしている日本の観客に向けて一言お願いできますか?

ベルムト 世界の先端を行くたくさんの観客がいる日本で公開することができて、大変うれしく思っています。その人たちが見てくれることで、この映画が完成するのですから。

もちろん、日本のみなさんのためだけにつくったわけではないのですが、私は日本文化が大好きだし、その要素がたくさん取り込まれています。

私はスペインの観客に『マジカル・ガール』というタイトルで、何かをわかってほしいとは思っていませんでした。でも日本でなら「魔法少女」という言葉だけで、みなさんの頭の中に具体的な存在がいっぱい浮かぶでしょう? そこにはすごく期待しています(笑)。

──期待……。それはつまり……?

ベルムト もし日本の方が、映画館で「これから怪物や悪者と戦う魔法少女の映画を見るぞ!」という気持ちで『マジカル・ガール』を見ようとしていたら……。ドウモスミマセン。まったく別の映画を見ることになります!(笑)

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作品情報

マジカル・ガール

公開日
2016年3月12日(土)
ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開
監督・脚本
カルロス・ベルムト
撮影
サンティアゴ・ラカハ
編集
エンマ・トゥセル
出演
ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ、ルシア・ポジャン
配給
ビターズ・エンド
2014年/スペイン/カラー/127分/シネスコ
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Carlos

監督・脚本

1980年3月6日生まれ。マドリードの第10美術学校でイラストレーションを学び、エル・ムンド紙でイラストレーターの第一歩を踏み出した。2006年にインジューヴ・コミック賞を受賞し、初の単独著作「El Banyàn rojo」(「赤いバニヤンの木」)を出版した。同書はバルセロナ国際コミック・コンベンションの4部門でノミネートされた。続いて短編集「Psicosoda」、「Plutón BRB Nero」を出版し、「la venganza de Maripili 」はアレックス・デ・ラ・イグレシアが作った同名のテレビシリーズの原作となった。

2008年には、TVEで放送されたテレビシリーズ「Felly Famm」を製作。翌年、初の短編映画“Maquetas”が第7回ノトド映画祭でグランプリを受賞し、すばらしい評価を受けた。同年、2作目の短編“Michirones”も発表。2011年、「Felly Famm」で持つ権利の利益を資金に、初の長編映画“Diamond Flash”を自身の会社サイコソーダ・フィルムでインディペンデント映画として製作。映画は6月8日に映画視聴サイト「Filmin」でオンライン配給された。リリースされるや、スペインで話題を呼び、2週間にわたって、サイトで最も多く視聴された映画となった。“Diamond Flash”は批評家にも認められ、映画雑誌「Caiman」が選ぶ2012年のスペイン映画第一位を、パブロ・ベルヘル監督の『ブランカニエベス』と分け合った。

2012年、コメディアン・グループ、ヴェンガ・モンハス出演のブラックユーモアあふれる短編映画“Don Pepe Popi”の監督・脚本を務めた。また、大ファンだと公言している日本のマンガ「ドラゴンボール」にオマージュを捧げ、再解釈したコミック「Cosmic Dragon」を出版している。

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