大学の同級生と博多のソウルフードを食べる
「地元・山口から離れた福岡での大学時代はどうだったんですか?」
「大学時代は、話しきれないですね。しょっちゅうシンゴ会議開いてたし、弾き語りの旅に出たこともあった。もし僕があのまま彼女と付き合ってたら音楽はやってなかっただろうし。その後、ホストにもなりました。卒業直前にはヒゲドライバーも結成して」
元従業員らとの間で「元祖」をかけて巻き起こったお家騒動という望まない形でも有名になってしまった元祖長浜屋ですが、福岡市民のソウルフードであることには変わりありません。南くん
ヒゲドライバーさんの大学の同級生
「長浜屋、3日間ぶりだ(笑)」
「確かに、THE・博多とんこつって感じで美味いですね」
「美味いの宇宙にとどまってないんですよ! 長浜屋には、その上の感情がある。僕なんて、昔は週に3〜5回は食べてましたよ。もうね、ドラッグです」
「正直ここのくだり、今回の取材で必要なのか疑問でしたけど、一番推してきましたもんね」
合コンに明け暮れた大学1年
ヒゲさんたっての希望による飯テロを挟んだところで、本題へ。「『シンゴ会議』って何なんですか?」
「別にタダの飲み会なんですけど、だいたい僕んちで開催されてたから、そういう名前になったんです」
「別府湾の朝日に向かって叫ぶのが恒例行事だったね」
「何を叫ぶんですか?」
「彼女つくるぞーとか、くだらないことです。うちの学部、100人中2人しか女子いなかったので」
「だから、1年の時はしょっちゅう合コンしちょった」
「どんどんチャラくなってませんか・・・」
「シンゴんちでもやったことあるよね。俺の中学の同級生とその友達で」
「あれ合コンていうのかな?」
「見知らぬ男女が同じ人数集まったらそれは合コンです」
「シンゴのこと好きになった子もおったね」
「ちょっといい感じになった子はおったけど、その後一回会ったくらいで、何もなかったよ」
フラれて天竺に旅立った
「逆に、シンゴが好きになった子もおったな」
「生まれて初めて告白した子だ! 合コンで会ってしばらく連絡をとってたんだけど、アクションを起こす前に他の男と付き合っちゃった。一応、実は好きやったって伝えはしたけど、結局フラれた」
「それで一人旅に出たんだっけ?」
「ちょうど、ジュンちゃんがアメリカに行くとか言い出した時だったのもある。かたや俺は何もしてないのにフラれて、ダサいなって思って。ちょうど夏休みだったし、ギターと財布だけ持って、徒歩で弾き語りの旅に出たんです。お金はなかったけど、困ったら弾き語ってお金にするつもりだった」
「すごい自信ですね。目的地は?」
「とりあえず南に歩き出した。たまたまテレビで、熊本に『天竺』っていう場所があるって知って、そこを目指して」
「『フられたから天竺目指して弾き語りの旅に出た』っていう響きすごいですね」
「『西遊記』みたいに、天竺に経典でもとりにいくかって。でも、何も計画してないから、案の定、初日に山の中に迷い込むんですよ。どこだかわかんないし、夜になって野犬も出てきて、どうしようって思ってるうちにさまよい着いたのが、魯暖坊っていう窯元のお店だったんです。はじめは、無鉄砲すぎるって説教されたけど、そこに泊めてもらえたんです」
「東京では考えられないですね」
「次の日、お店の隣でバザー的な催しが開かれてて、ギター片手に旅に出たならそれで働けって言われて、弾き語りをしたんですよ。お客さんからおひねりももらいました。それで結局もう一泊泊めてもらって、温泉にも入れさせてもらった。しかも、バイト代もくれて。だから、出発した時よりもお金は増えてるんですよね」
「至れり尽くせりですね。それで天竺にはたどり着いたんですか?」
「いや、大学に出さなきゃいけない書類が発覚して、熊本近くで断念して4日目で引き返しました。電車で」
「その時になぜかもらった麦わら帽を部屋にかざってたよね」
「『ワンピース』で言うと1話が始まったばっかで旅が終わった感じですね」
合コンから生まれた名曲
「2年の時に、合コンにめっちゃタイプの人が来るんですよ。僕はいつもは盛り上げ役だったんですけど、その人の前では本当に何もできなくて、連絡先も聞けなかった。打ちひしがれたその帰り道の、中洲のネオンの感じをモチーフにしたのが『マイティボンジャック』です」
「でも、それから合コンするのやめたんだよね」
「『合コン禁止令』って書いた紙を部屋に貼って、それからはキッパリやめた」
「あの儚くて美しい名曲は、合コン三昧の果てに生まれたんですね」
大学生らしい大学時代
もう一人の友人・宮っちとも合流。宮っち
ヒゲドライバーさんの大学の同級生
「ヒゲさんは、大学では何を勉強していたんですか?」
「九州大学工学部エネルギー科学科の流体力学専攻でした。ちなみに、『金八先生』が大好きで、先生を目指してた時期もあったから教員免許もとってます。具体的には、物事を全て粒子で捉える粒子法っていう学問。例えば液体を全部玉に置き換え、その動きをシミュレーションして(以下割愛)」
「なるほど、全然わかりません。それは今の音楽活動に活きてますか?」
「いやー。でも、プログラミングには慣れてた分、それに近い操作感の『Tracker』っていう音楽ソフトとかは得意でした。理系脳だから、作曲よりもプログラミングって言う方が自分にはしっくりくる」
「勉強も大変だったけど、とにかくよく飲んだよね」
「シンゴが変な飲み会開いたことあったよな。急にみんなに『明日の夜10時にエネ科校舎の屋上に集合。一緒に飲みたいやつを待つ。返信は不要』ってメールしてきて。恐る恐る行ったらほんとにいたもんな」
「急に飲みたくなって、先輩がやってたのを真似して送りつけたんだよね。とにかく良く飲んでたね」
「木刀事件とかあったね」
「みんなでBBQした後、シンゴの部屋でW杯ドイツ大会の日本対オーストラリア戦見とったんよね」
「前半で点入れてめっちゃ盛り上がってたけど、窓が開いてて、多分うるさかったんだろうね。急にドアがバンって開いて、木刀持ったジャージのにいちゃんが『るっせーぞおまえら!!!!』って怒鳴って木刀を壁に叩きつけて」
「めっちゃキレられて、もう謝り倒した(笑)。それからみんな黙りこくって、しかも後半でボコボコに逆転されて、最悪だったね」
幼なじみとの再会・文通
なんとなくヒゲさんの大学時代のノリも理解し始めたところですが、まだまだ謎は残っています。「ホストになったというのは?」
「人生で唯一ちゃんとお付き合いしたKさんにフラれて、ホストになりました」
「天竺よりずっと反動がデカいですね。Kさんとはどうやって知り合ったんですか?」
「近所の幼なじみだったんです。それこそ、幼稚園の時は『大人になったら結婚しようね』って言い合ってたくらい仲がよくて。でも、小学校高学年くらいから、お互い思春期で遊んだりもしなくなったんですね。しかも、中学であっちが引っ越して地区も変わって、段々疎遠になっていった。
Kさんが高校に上がる時に色々あったみたいで、グレちゃったっていう噂は聞いてたんです。けど、接点もなくて、話をすることもなかったんです」
「僕が大学2年の時に中学の同窓会があって、そこでKさんに久しぶり再会しました。かなりケバい格好で、やっぱり荒れてるんだろうなって思って、話しかけたんです。お母さんに心配かけちゃいかんよって。
話を聞いたら、その時は化粧品関係で働いてたからケバかっただけで、就職してちゃんとしようと立ち直っているところだったらしいんです。でも、今までそういう風に自分のことや家族のことを心配してくれる人はいなかったから、むしろ感謝されて。それで距離が縮まって、文通するようになったんですね」
「文通ですか? 2003年とかの話ですよね?」
「僕が文通に憧れがあって、Kさんもいいよって言ってくれたんです。僕はその時福岡にいたから、山口で就職したKさんと手紙でのやり取りを半年くらい続けて、それで、自分の気持ちを伝えて付き合うことになりました」
彼女に「教祖」と呼ばれていた
「なんでフラれたんですか?」
「いや、最初は、僕から言い出したんです」
「何か不満があったんですか?」
「付き合う前からKさんの昔の話を聞いて、彼女にアドバイスとかもしてたんです。それで、荒れていた時にいろいろあったお母さんとも、徐々に仲直りしていったって聞いてます。
でも、そのせいか、Kさんは僕のことを友達に話す時に『教祖』って呼んでたみたいで」
「それは、男女の仲というよりも、先生と生徒みたいな関係だったってことですか?」
「僕はそんなつもりなかったし、はっきり恋愛感情を持ってました。手紙にも『好きだ』くらいのことは書いてたけど、向こうはそういうのも全然なかった。
やっぱりどっか『教祖』扱いだったから、付き合うようになってからも、向こうは僕に対して恋愛感情なんて持ってないんじゃないかっていう不安がありました。だから、このままの状態で付き合うのもおかしいんじゃないかって伝えて、なんとなく別れちゃうんです。
けど、しばらくしてKさんからやっぱり別れたくないと。結局また付き合うんですけど、今度は向こうからフラれる。『いい人すぎて、私に付き合わせるのは悪い』っていう理由で」
「『いい人すぎてフられた』ってよく聞きますが、わかるようでわからない。どういうことなんですかね?」
「僕からしても、何なのそれって感じでしたよ。
けど、半年くらいの間に、1回別れてまた戻ってダメだったんだから、今度こそキッパリ別れようと。それで、僕は連絡先も消して手紙も全部捨てたんです。でも、またあっちから『やっぱり付き合いたい』という連絡がきて。
最初に別れた時もおおごとで、次は涙ながらに別れ話を切り出されて、それでまた付き合うなんて、僕にはもう無理だったんです。正直、参ってた。だからもう、それっきりにしたんです」
フラれた理由は男らしくなかったから?
「後になって考えるに、『自分は汚いけどあなたはピュアすぎる』っていうのは、僕が手を出さなかったのが原因だったんじゃないかっていうのが僕の結論です」
「なんで手を出さなかったんですか?」
「だって、結婚すると思ってたから。だったらそんな急ぐことないって僕は思ってた」
「そういう意味ならカッコイイと思います。それは彼女にも話したんですか?」
「そんな話はしてたと思います。Kさんもその時は『そうだね』と言ってくれてたけど。
Kさんが僕の前に付き合ってた彼氏が、超ワルだったらしいんだけど、それでも長い間付き合ってたんですよ。逆に僕はいい人すぎて、半年しか一緒にいれなかった。それってなんて情けないんだって思いました。『教祖』として経典開いてるだけで何一つ男らしいことができなかった、自分は男としてなんて薄っぺらいんだろうと。
だから、一番濃い男の世界に飛び込んで『男らしさとは何たるか』を学ぼうと思ってホストになったんです」
「そういう理由だったんですね!? ここまで「なるほど」って感じでしたがいきなり飛躍しすぎじゃないですか」
「正直あまりにショックで、この死にたい気持ちを利用したらなんでもできると思ったので。その頃パンクミュージックにハマってて、パンクな生き様に憧れたところもあります(笑)。ある日大学の授業が終わって、『俺はホストになる!』って教室で宣言して、すぐにお店に電話しました。
そもそも、僕はKさんと一生一緒にいたいと思っていたから、音楽をやめて公務員になって働く決心までしたくらいだったんです。だって、モテるために音楽始めたんだから、音楽は関係なかったけど、夢が叶えば音楽はいらなかった。
でも、そう決心した矢先にフられてまた音楽も戻ってきました」
「正直すぎませんか」
ねりまちゃん
「元カノが自分のことを友達に話す時に『教祖』って呼んでた」というところを何度も読み返しております
CKS
大長編ヒゲドライバーすぎる