『ダービージョッキー』(小学館) 一色登希彦
武豊原作。騎手のリアリティここにあり!
こちらはひとりの騎手が悩みながら成長していく物語。原案はなんと、この10月には前人未到のJRA重賞レース300勝を達成したベテラン騎手・武豊騎手が手掛けています。武騎手にも実際こんなことがあったのかな、と想像しながら読むといっそう面白い作品です。主人公は馬が好きな少年・上杉圭。反対する母を押し切って、競馬学校を受験。狭き門だが見事合格する。競馬学校では落ちこぼれだったが、3年生の時に転機が訪れます。それが、気性が荒く誰も乗りこなせないと言われていた競走馬・フラワーカンパニーと出会いでした。その競走馬としての才能を感じとった圭は、見事フラワーカンパニーを乗りこなすことに成功。
これをきっかけにメキメキ成長する圭だったが、卒業間際の模擬レースでフラワーカンパニーを骨折させてしまい、走れなくなったフラワーカンパニーは、なんと殺処分されてしまいます。打ちひしがれた圭は騎手をやめようとするが、やがてフラワーカンパニーの弟馬・トビオの騎手となり、レースの頂点ダービーを目指していく、という物語。
綺麗事だけでは生き残れない勝負の世界を、真正面から描きます。
とにかく、騎手の視点で描かれるリアリティのある「騎手像」が見どころ。例えば、体重40㎏台をキープするための我慢と努力。腹が減って、隠れて生のニンジンをかじるエピソードなどが象徴するように、生半可な根性では騎手にはなれないことが良くわかります。
また、レース直前の細かい心情描写には、こちらまで緊張してしまいそうな臨場感があり、思わず作品世界にのめり込んでしまいます。ひとりの人間としての騎手を知るのに最適な作品です。
『馬なり1ハロン劇場』(双葉社) よしだみほ
“馬”への偏愛溢れるショートギャグ
最後に紹介するのは、各話4ページで完結するこちらのショート型ギャグマンガ。作者のよしだ先生がいかに競馬が好きで、いかに競馬に精通しているかということが画面から滲み出てくるような、競馬愛にあふれる作品です。登場人物たちは実在する(した)競走馬たち。時事ネタを織り込みながら、馬同士の会話で、ボケ&ツッコミが繰り広げられます。実際のレースを元ネタにしていて、各話ごとにどのレースをネタにしているかを明らかにしているので、レース内容を知っている人は、ニヤニヤしながら読むことになるでしょう。
馬たちは洋服を着たり、二足歩行は当たり前、流行のお店にパンケーキを食べにいくなど、人間とほぼ同じ生活を送っています。実在の馬の性質を人間的な性格に落とし込み、大胆にキャラクター化しているところが実にマンガ的な妙! 競馬を知らないマンガ読みをも唸らせます。
何がすごいって、この作品、途中で休載は挟みながらも1989年から実に27年も延々と馬を描き続けて連載している馬偏愛マンガなのです!
もうこの世にはいない往年の名馬も天使の輪っかをつけて下界に下りてきて、現存の馬たちにアドバイスするシーンなど、実際そんなことがあったら……なんて想像すると、クスっと笑えます。競馬場に行ってから読むと、馬たちにますます愛着が沸いてしまいそうなキュートな作品です。現在、Webコミックアクションで連載中!
まとめ
いかがでしたか? 競馬マンガのアツさと奥行きが、少しでも伝わったら幸いです。冒頭で、競馬マンガは「人と馬との絆」を描いていると書きましたが、つまり、そのモチーフとなっている競馬もまた、馬と人という、種族を超越した生物同士の強い絆が不可欠な、人と馬の双方が命を賭けたスポーツでもあります。
太古の昔から、家畜としてはもちろん、乗用や運搬、農耕においてなくてはならない役割を果たしてくれ、まさに人類と共に歩みを進めてきた大事な相棒でもある馬とのドラマが、競馬には詰まっているのです。
そして、そんな競馬をテーマに、どんなひとでもゆる~く競馬を楽しめてしまうサイト「Umabi」が公開されています。実はこちらでも、人気サッカーマンガ『GIANT KILLING』などの原作者である綱本将也さんをはじめとしたマンガ家の方々によるオリジナル競馬マンガを読むことができます。
上に挙げた作品や「Umabi」でマンガを読んで競馬の面白さ・奥深さに心が動いたら、実際に馬に会いにいって、マンガで描かれるようなドラマを、今度は自分の目で確かめてみてはいかがでしょうか。
この記事どう思う?
関連リンク
0件のコメント