マルチクリエイターの監督としての立ち位置
──これまでの個人制作や少人数での制作体制を経て、制作の全工程を自身でひと通り経験されているかと思いますが、監督としてはどういった立ち位置から指揮していくのでしょうか。吉浦 作品づくりで自分が核にしているのは、コンセプトや物語的なおもしろさだったり、見せ方のおもしろさなんです。
例えば小屋でのシーンで、パテマが天井に立っていて、エイジが地面に立ってそれを見ているという構図があります。この構図は重要なんですが、その時にキャラクターがどんな表情で、どんな仕草をするのか、小屋の内装はどうなっているのかというところは、各々の美術設定や作画チームの裁量なんです。だから、コンセプトとそれにまつわる構図だけを決めて、あとはそれぞれに委ねる、というのが今回のつくり方でした。
工程の最終段階である撮影処理は自分でやっているんですが、ここで色々なことを決め込めるんです。仕上がってきた背景美術と作画とを構成して、画面のトーンを決めていきます。そこでも監督としての意図を出していきました。
──この小屋でのシーンもそうですが、舞台をドアの外へ広げても、やはり会話劇は印象的でした。
吉浦 多いですよね(笑)。「よし、活劇やるぞ」と思って書いてみたけれど、やっぱり会話劇は増えちゃうんです。でも、「まあいいか、これが自分の味だし」と思うようにしました。
──仰るとおり、会話劇は吉浦監督の作品の大きな魅力だと思います。こういった会話の部分について、脚本を書いたり演出を付けるのはお好きなんですか?
吉浦 好きですね。制作初期の脚本は余計なことを書きすぎて小説みたいになっちゃうんですけど、そこから要らない文字をどんどん取り除いて、半分ぐらいの量にします。そのぐらいになってようやく、生っぽい話し言葉になっていくんです。それからまたあまり関係ない台詞を付け足していって、それでちょうど良くなっていきますね。
演出の面では、会話劇の中にアクションを仕込んでいくのが好きなんです。ただの会話シーンでも距離感を変えてみたり、取っ組み合いをさせたり、小道具を使ったり。脚本を書く段階で、そういう画のイメージを浮かべながら書いています。
がむしゃらにやり続けた結果、いつの間にかアニメをつくっていた
──アニメーションをつくりはじめた、そもそものきっかけは何だったのでしょうか?吉浦 元々はアニメというより3DCGに興味を持って、CGを勉強しようと思って大学に進みました。それも、物語というよりはゲーム的な世界をCGでつくりたいと思って。
でも、世界をつくったら、そこに人間も置きたくなるわけです。ただ、僕はキャラクターに関しては、CGよりも手描きの方が好きだったので、箱庭的なCGのセットを組んで、その中に手描きのキャラを入れた簡単なPVをつくりました。これがつくっていて結構おもしろかったんです。
そうしたら次は物語を付けたくなってきて、アート系のアニメからだんだんシフトしていきました。
最初はアニメをつくるつもりはなかったけれど、CGをつくりながらやりたいことをやっていった結果、アニメとして物語をつくるのが一番良いなと思った。それでいつの間にか、アニメをつくっていたような感じです。
──CGでつくっていたというのは、今も昔も変わっていないのですね。制作のスキルやセンスはどのように身につけていったのでしょうか。
吉浦 あまり考えたことはないですね。というのも、僕は習作というものが嫌いなんです。何かをつくるための練習って、つまらないじゃないですか(笑)。そんなのやるくらいだったら、作品を1本つくりながら無理やりスキルを得ようと思います。「つくりたい!」と思うものがまずあって、それをがむしゃらにつくっていった結果が今、という感じですね。
──ちなみに、影響を受けた作品やクリエイターさんはいらっしゃいますか?
吉浦 なかなか絞ることが難しいのですが……例えば『パテマ』のコンセプトの部分で参考にしたのが、『透明人間の告白』という小説です。ある事故で透明人間になってしまう男の話で、「透明人間になったらどうなるか」が詳細に書かれていておもしろいんです。「透明人間」というコンセプトからいろんなアイデアを引き出していて、それぞれに非常に納得がいきました。それなら僕も、サカサマになることでどんな描写ができるだろうかと突き詰めていったところがあります。
──「透明人間」も、SFというジャンルでとても魅力的なコンセプトですよね。やはりSF系の作品はお好きなのでしょうか。
吉浦 特に古典的なSF作品は好きですね。アイザック・アシモフやレイ・ブラッドベリなど。ただ、結構雑食なのでSFに限らず、好きな作品はたくさんあります。
小説であれば、最近は貴志祐介さんの作品がとても好きですね。それから、オールタイムベストとして筒井康隆さんや星新一さんも大好きです。時間さえあれば映画も見に行くんですが、この間も『クロニクル』を見て非常におもしろかったですし、『パシフィック・リム』も2回ぐらい見ましたね。でもそうやって、他の作品に触れている時にアイデアが浮かんだりもします。
──ジャンル問わず、とにかくいろんなものに触れられるんですね。
吉浦 おもしろいものはなんでもやりたいんです。遊び尽くして人生を全うしたいんですよね(笑)。
──そこで思いついたアイデアは、どんな風に残していくのですか?
吉浦 絵よりは文字で書き留めていますね。ビジュアルというよりはコンセプトで考えるほうなので、「サカサマ人間」という一言だけ残しておく。『パテマ』に関しては絵じゃないと説明できないところがあって、どうしてもビジュアルで考えざるを得ない部分があったので、絵も描きました。
11月13日(金)には設定資料集も発売するんですが、そこには企画書に描いた絵も載せていたりして、見返してみると、今回は自分でもたくさん描いたなと思いましたね。『イヴの時間』ではここまで描かなかったですね。
前の作品のバージョンアップだけはやりたくない
──吉浦監督にとって、アニメーション制作の醍醐味や、制作のモチベーションはどんなところにありますか?吉浦 やっぱり、つくり終えた時ですね。もしくは、だんだん出来上がっていく過程。自分の中にあった妄想が具現化される瞬間ですから、そこが一番楽しいです。つくり終えると「大変だったな」と思うこともあるけれど、また次もつくりたくなるんですよね。
──作品を見返すことはありますか?
吉浦 それが、全然ないんです。制作の過程で嫌というほど見ていますしね。正直に言うと、作品がお客さんの手に委ねられた瞬間から、見なくてもいいやと思うんです。
──それぞれで楽しんでもらえれば良いということでしょうか?
吉浦 それもありますし、一度お客さんに届けたら、僕らの手を離れて、自分たちのものではなくなってしまうので、その後はどうしようもないんですよね(笑)。僕らはつくることに情熱を注いでいる以上、終わったら気持ちはもう次に向かっちゃうんですよ。
──すでに「アニメミライ2014」のプロジェクトの中で新作『アルモニ』の制作も進んでいるかと思いますが、これからどんな作品をつくりたいと考えていますか?
吉浦 作品をつくるときに毎回考えているのは、一つ前の作品からは想像できないものをつくりたいということです。前の作品の単純なバージョンアップだけはやりたくないと思っているんですよね。『イヴの時間』から『サカサマのパテマ』も、なかなか考えられなかったのではないでしょうか。次の作品も、『パテマ』とはまた全然違うものをつくっています。その次も、そこからは想像できないような、おもしろいものをつくり続けたいですね。
それから、見る人の裾野も広げていきたいと思っています。『イヴの時間』は高校生以上から、かつてSFファンだったという人や、映画好きな人にも届いた気はしています。逆に、純アニメファンに届いたかは怪しいところかなと思っているのですが(笑)。『パテマ』では、言葉の壁を超えて伝わりやすいもの、年齢的には小学生から実家の両親にも見てもらえるようなものをつくりたいと考えていました。
──本当にシンプルに2人の物語になっていて、自然に感情移入していくことができる、誰にでも見やすい作品であったと思います。
吉浦 活劇のようで、結局はこの2人の話なんですよね。やっぱりキャラクターとしてこの2人に共感してもらえるようにしたかったので、それは嬉しい反応です。
『サカサマのパテマ』という作品は、この2人の絵が示す通り「サカサマのヒロインが空に落ちそうになる」というシンプルなアイデアからつくった作品です。笑えるシーンも泣けるシーンも、すべてこの「サカサマ」というアイデアを元に組み立てていった不思議な世界ですが、一方で王道を突き進んだ物語でもあります。
普段アニメは見ないという人も、この絵を見て「これはどうなっているんだろう」と思っていただけたのなら、とにかく幅広く、いろんな人に見てもらいたいと思っています。
文:たかはしさとみ
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吉浦康裕
アニメーション監督
1980年生まれ。福岡出身。大学在学中より自主制作アニメーションに取り組み、国内外で発表。卒業後、商業作品として個人制作アニメ『ペイル・コクーン』を発表。のち、短編シリーズアニメ『イヴの時間』を制作、さらに劇場版も公開。現在「アニメミライ2014」のプロジェクトで短編アニメ『アルモニ』を制作中。
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