1953年に発表された手塚治虫さんの漫画『リボンの騎士』を原案に、新たな解釈で現代のヒーローを描くNetflix映画『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』が8月8日から配信されている。
『リボンの騎士』は男の心と女の心を持つサファイアを主人公とする物語。現代にまで続く戦うヒロインものの先駆けでありつつ、様々な先進的な要素を含んだ手塚治虫漫画初期の名作だ。
そんな『リボンの騎士』のリブート企画で監督をつとめたのは、魅力的なキャラクター描写と躍動的なアクションに定評のあるアニメーター・五十嵐祐貴さん。
『リボンの騎士』が描いた革新的な要素を丁寧に掬い取りながら、現代のエンターテインメントへとアップデートすべく情熱を注ぎ込んだ。
『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』メインビジュアル
キャラクター原案をイラストレーターの望月けいさんが担当し、原案協力として米山舞さんも参加。強力なスタッフ陣に加え、主人公・サファイア役の声優にラランド・サーヤさんを起用したことでも話題を呼ぶ本作。
偉大な原作のリブートに挑むという難題をどのように解釈し、乗り越えていったのだろうか。五十嵐祐貴監督の言葉から『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』が現代に描こうとする新たなヒーロー像を探る。
取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多(KAI-YOU)
※本記事は『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』のネタバレを含みます。
目次
『リボンの騎士』は“白い”手塚治虫作品
──『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』の監督になった経緯をうかがえますか?
五十嵐 初監督作だった2021年の『のらうさロップと緋桜お蝶』(『スター・ウォーズ:ビジョンズ』)の制作後に、相談を受けたのがきっかけでした。
手塚治虫作品のリブート企画として温めていたうちの一つだったようです。元々原作寄りの作風で考えていた企画がなくなり、「もう少し大胆にアレンジしてアクションに寄せたものを」ということで、声をかけていただきました。制作に取り掛かりはじめたのは2022年くらいです。
五十嵐祐貴監督
──監督にとって手塚治虫作品における『リボンの騎士』とはどのような作品ですか?
五十嵐 作品そのものやサファイアというキャラクターのことは知っていましたが、しっかりと読んだのは企画の話をいただいてからです。
手塚治虫さんの作品は、黒い面というか毒気のあるところが最大の魅力の一つと思っていたのですが、改めて読んでみると『リボンの騎士』はそういう要素があまりなく、いわば“白い手塚治虫作品”だなと感じました。
ですが、手塚治虫さんの生まれ故郷が兵庫県の宝塚で。お母様の影響で彼も宝塚歌劇を見たり、近所には宝塚音楽学校に通う姉妹が住んでいたりと、手塚治虫さんからしてみればご自身の原風景に直結している──そうしたノスタルジーや明るい雰囲気を感じる、複雑な魅力を持つ作品だと思いました。
『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』主人公のサファイア
“リボンヒーロー”に変身したサファイアの姿
──1953年に発表された『リボンの騎士』は、ジェンダーやLGBTQ+の観点から革新的と評価される作品でもあります。そんな作品を原案とするにあたって意識した点はありますか?
五十嵐 たしかに今から見るとそういった観点で読み直せます。しかし、当時の手塚治虫さんが現代的なジェンダー問題を意識して『リボンの騎士』を描いたわけではないと思います。あくまで宝塚歌劇団の「女性たちだけによる演劇のイメージ」を膨らませたのだと考えます。
個人的な考えとしては、そうした描写にしっかりと取り組むには僕は適任ではないと感じたので、『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』では正面からは取り上げていません。
むしろ、他力本願になってしまい申し訳ないのですが、今回の作品をきっかけに、また、『リボンの騎士』の更なる読み直しをしようという人が出てきてくれたら……という思いはあります。
『リボンの騎士』は素晴らしい作品で、手塚治虫先生は偉大な漫画家さんです。現代の読者にもっと知ってもらい、より身近に感じてもらうための橋渡しをしたい、という思いを持って今回の作品に取り組みました。
かつて『リボンの騎士』が与えたインパクトを再演したい
──原作から受け継いだ点や変更した点について教えてください。
五十嵐 何より意識したのは、当時の『リボンの騎士』が与えたインパクトを再演したいということです。手塚治虫さんの作品はいつも実験精神にあふれていますし、何をやるにしても挑戦がある。
『リボンの騎士』は「女性はこうである」という当時のジェンダーロールを破壊してみせた。今回も同じくらいのインパクトが必要だなと思ったので、オリジナルにある要素を活かしつつ、より魅力的に見せるにはどうすればいいかを考えていきました。
──変身シーンや「リボンの騎士、参上」の決め台詞などもあり、今作のサファイアは明確にヒーローとして描かれていたのが印象的でした。
五十嵐 『リボンの騎士』は“戦うヒロインもの”の先駆け的作品です。「プリキュア」や「美少女戦士セーラームーン」、魔法少女ものなど、その後の作品にも大きな影響を与えていると考えています。
ただ、そうした変身ヒロイン作品の変身シーンは、特撮作品からの影響がある。女の子向け作品と言いつつも、男の子向け作品との相関関係もある。そうした背景を踏まえ、魔法少女文脈や特撮文脈を今作のヒーロー像にしっかり取り入れなくてはいけないと思いました。
加えて、企画が走り出した当初は、海外の有名な某ヒーロー映画シリーズが盛り上がっていました。でも、そのシリーズ含め様々な作品がヒットする中で女性ヒーローものはなかなかうまくいってない印象があったんです。
日本では、もはや当たり前のように女の子が変身して戦う作品があるわけです。だからこそ『リボンの騎士』の作品性と、これまで日本で生まれてきたヒーロー的な文脈を合わせることで、グローバルに通用する新たな女性ヒーローものが描けるんじゃないかと思いました。
“戦うヒロイン”としてのサファイア
──前出の『のらうさロップと緋桜お蝶』では、孤児となった主人公の戦いが描かれました。今作のサファイアも故郷を失いながら、新たな地で人々のために戦います。“孤独に戦う主人公”という設計に監督のヒーロー像が反映されている部分はありますか?
五十嵐 自分のこだわりでそうなったというよりは、今回の“貴種流離譚”(※)的物語が求めるヒーロー像だったんだと思います。
サファイアは選ばれし者ではありますが、王家の生まれという恵まれた立場の一方で、両親と故郷を失ったという大きな苦しみも抱えている。現実においても生まれや育ちに恵まれている人は、他人から羨ましがられていたとしても、本人にしかわからない辛さがありますよね。
ただ、そうした選ばれし者として生まれた以上、負わなくてはいけない責任もある。生まれや育ちといった自分ではどうしようもできないものを受け入れ、その責任を果たそうとする姿は、ヒーローとしての宿命にも重なると思うんです。
そうした宿命を抱えるからこそ、ヒーローはみんなの憧れになる。その物語を描くことからは逃げないというのは強く意識した点でした。
※貴種流離譚(きしゅりゅうりたん):高貴な身分や神的な血筋を持つ主人公が、本来の居場所を離れて辺境をさまよい、苦難や試練を乗り越えた先で、元の地位に戻る、あるいは新たな尊い存在となる物語類型のこと。国文学者の折口信夫が提唱。
災厄“ネルガル”に全てを奪われたサファイアの故郷・シルバーランド
故郷を奪われたサファイアは、ゴールドランドの人々と新たな日常を過ごすが……
──そうしたヒーローの背負う宿命は劇中で“呪い”とまで言われています。サファイアはそこに抗うのではなく、素直に受け止めている姿が描かれていました。
五十嵐 生まれや育ちって永久につきまとうものですし、それに由来する問題を個人的には乗り越えたと思っても、周りからはいつまでもあれこれと言われてしまうところもある。
何かで成功したとしても「それって生まれが良いからでしょ?」とか「豊かな文化資本があったからでしょ?」みたいな。
そういう悩みは恵まれてるから生まれるものではなく、本当は誰しもが思いうることだとも思うんです。だからこそ、まず自分の生まれや育ちを引き受けるところからはじめないと、サファイアが次の段階に進めないと思いました。
──個人的には、すんなり受け入れ過ぎなのではないか? とも感じました。
五十嵐 今の若い人たち、たとえば会社の新人たちと話していると、みんな良い子ばかりなんです。サファイアほど過酷なものではないにせよ、何か自分が責任を負わなくてはいけない状況に対して、反抗したりせずしっかり背負うんだろうと感じたんです。
それはコロナ禍以降の、自分の力ではどうしようもない世界で“生き抜く”しかない現代人のリアリティなのだろうと思います。
そういう優しい人たちが普通に生きている今の状況を考えれば、サファイアもその優しさゆえに、自らの責任を素直に受け止めることになるんだろうなと思いました。




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作品情報
THE RIBBON HERO リボンヒーロー
- キャスト
- サファイア:サーヤ(ラランド)
- パイン:小林星蘭
- ベルベット:内山昂輝
- ジルコ:新谷真弓
- ロック:細谷佳正
- ヘケート:月ノ美兎
- チョロギ:手塚祐介
- チック:でびでび・でびる
- タック:ルンルン
- 教皇:壤晴彦
- 監督
- 五十嵐祐貴
- 原案
- 手塚治虫『リボンの騎士』より
- 脚本協力
- 香村純子
- キャラクター原案
- 望月けい
- キャラクター原案協力
- 米山 舞
- アニメーションキャラクターデザイン
- 新垣一成
- アートディレクター
- セドリック・エロール
- ネルガルデザイン
- okama
- 美術監督
- 野村正信
- 色彩設計
- 渡部夏美
- CGディレクター
- 長嶺明音
- 撮影監督
- 福田 光
- 編集
- 植松淳
- 音楽
- 神前 暁(MONACA) 髙田龍一(MONACA)
- 音響監督
- 三好慶一郎
- 音響制作
- 東北新社
- 製作
- ツインエンジン
- 制作
- OUTLINE
■イントロダクション
失われた王国の王女、サファイア。
災厄"ネルガル"に故郷シルバーランドのすべてを奪われ、絶望の果てにゴールドランドへとたどり着く。
過去を抱えながらも、人々の優しさに触れ、ささやかな希望を見出し始めた彼女。
しかし、平和な日常を嘲笑うかのように、再び災厄"ネルガル"が現れる。
かつて故郷を灰燼に帰した絶望が、今また、この場所から光を奪おうとしている。
もう、何も失わない。誰にも失わせない。
悲しみの涙を振り払い、少女は剣を取る。
これは、リボンを結び、運命に抗うことを決めた、一人のヒーローの物語。
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