イラスト1枚のアバターだからこそ、「IRIAM」は特別になった
──誰でも配信できるという点では、2020年4月より開始された「イラスト1枚で配信できる」機能が大きな転換点だったように思います。
真辺 一般的にイメージされるような大手VTuber事務所と我々「IRIAM」では、キャラクターを使った配信という点は同じでも、目指している世界観が違います。
髪や服まで動くようなリッチなLive2Dのモデルを用意するのにはかなりの投資が必要です。それを前提にしていては我々が目指す「誰でも自由に配信できる場」は実現できない。そこでイラスト1枚で配信できるようにしたんです。
「IRIAM」では、イラスト1枚だけで瞬きや表情のついた配信が可能。
真辺 ライバーになれる権利を一般開放しはじめた当時は、「ライバーの一人ひとりを大事にしていない」とか「ヤバい奴が入ってきて荒らされる」といった意見もいただきました。
それでも「IRIAM」は、多大なコストが払えない人でも、誰でも気軽に“キャラ”になれる場所でありたかったんです。
結果として参入のハードルが下がり、コミュニティは一気にカラフルになりました。批判もありましたが、今では「イラスト1枚だからこそ想像力が広がる」という声が主流です。
ギーク層から普通のリア充へ──「IRIAM」7年間のユーザー変化
───7年間サービスを運営する中で、ユーザー層に変化はありましたか?
真辺 リリース当初からコミュニティを意識してリアルイベントを開催していたんですが、当初のリスナーさんの多くは情報感度が高く行動力もあり、オタク的な30代以上の男性という印象でした。ライバーさん自体も、インターネットに詳しくて、一癖ある尖った部分を持った方が多かったですね。
コロナ禍でしばらくイベントを開けていなかったところ、ようやく4年ぶりにリアルイベントを開催できまして。
蓋を開けてみたら、VTuber文化が広まったことで若い子が増えていて衝撃を受けたんです。コミュニティとしても、かつてはギークな雰囲気があったんですが、今はリスナー/ライバー双方、普通の若い人が多くなっています。
2025年1月に開催された初の大型リアルイベント「ミライトパーティ2024 〜グランドフィナーレ〜」
真辺 配信での会話も「バイト先の店長に怒られた」みたいな生々しいエピソードをするのが当たり前になってますね(笑)。しかも、リスナーさんとライバーさんの双方が同じ目線の話題で話していることが多いです。
我々は「リスライバー」と呼んでいるんですが、今は多くのユーザーさんが見る側と配信する側を行き来するようになってもいます。一方的な“推し活”的なスタイルだけではなく、時には応援される側であり、時には応援する側でもあるという双方向性のあるコミュニティが形成されています。
村山 一般的なイメージとして、配信者って一人暮らしで配信部屋からライブ配信しているイメージがあると思うんですけど……。
でも「IRIAM」のライバーさんは、実家のリビングから配信して、おばあちゃんが乱入するような光景すら日常なんです。ライブ配信が“特別なステージ”ではなく“友だちとの通話”に近づいたのを感じます。
真辺 実写でなくイラスト・音声だけだからこそというのもありますね。「トイレ行くからおばあちゃん繋いでて!」と言っておばあちゃんを登場させられる(笑)。化粧をしなくてもいいし、ベッドの中からでも配信できるような気楽さがあります。
イラストだからこそ、自身の生活をそのまま配信に乗せられるリアルな距離感がある。そしてそれこそが、「IRIAM」の居心地の良さだと思います。
「IRIAM」がコミケに謎の「冷却ブース」を出展した理由
──コミュニティを重視するといえば、先ほども話に上がりましたが、「IRIAM」ではサービス開始当初からリアルイベントに情熱を注いでいますね。
真辺 はい。昔、個人的にニコニコ超会議に携わっていた経験もあって、単純にリアルイベントが好きなんです(笑)。直近でも、リスナーさんを招いて、一緒にサービスの企画を考えるオフラインイベントを開催しました。
村山 リアルイベントは運営側へのフィードバックの意味でも大きいですね。SNSでは辛辣に見えるコメントを書いている人も、会場で会うとそんなに怒っていなかったりする。アンケートではわからない、表情と空気から得られるフィードバックは、何物にも代えがたいものです。
「IRIAM」自体を訴求せず、コミケ来場者のために冷却ブースを設置したのも村山さんのアイデア
──リアルイベントといえば、「IRIAM」は2024年からコミックマーケットにも出展されていますよね。夏のコミックマーケットに出展された「冷却ブース」は印象的でした。
村山 コミケに来た方々からは、大きな反響をいただきました。
ただ、冷却ブース自体、前例もないし「何のためにそんなことするんですか?」と疑問視する声も当然ありました。でも、せっかく出展するのに、コミケ参加者が喜ばないことはやりたくなくて。
「IRIAM」は絵師さんやライバーさん、リスナーさんなど、ユーザー皆さんのクリエイティブで成立しています。
そしてそれは、コミケのサークルとファンの関係性に近いと感じているんです。なので、コミケに来ている人が「IRIAM」を好きになってくれたら、双方にとって良い効果が生まれると思っているんですよ。
だからこそコミケでは、僕らのサービス自体をアピールするよりも、日本最大のUGCイベントに参加している皆さんに少しでも役立つんだということ、「IRIAM」はUGCカルチャーの応援者なんだということを知っていただくのを優先しました。
「IRIAMで人生が変わった」ユーザーから聞いたうれしい反応
──実際にユーザーの方と顔をあわせて実感したことはありますか?
真辺 うーん、「意外と嫌われてないんだ」とかですかね……!
──(笑)。
真辺 サービスを運営していると、至らぬ部分がどうしてもあるので、ユーザーの皆さまからの反響って怖いんです。
ただ、熱心に使ってくれるユーザーさんもいるし、怖がり過ぎる必要はないというのは、顔をあわせていつも実感することですね。
うれしかった反響でいうと「人生が変わった」と伝えてくれるユーザーさんが多くいらっしゃいました。コアユーザーの方は使っている時間がめちゃくちゃ長いし、そこにリスナーさんやライバーさんとの関係性がある。
毎日3時間一緒に過ごす関係性が新しく生まれるわけですから、それは、人生が変わるきっかけになっても不思議ではないと思います。僕自身も「IRIAM」の中で、何度もかけがえのない体験をしてきました。
村山 僕はスマートフォンの待受をコミケの落書きコーナーの写真にしているんです。この言葉一つひとつ、書いている人の表情を含めて、それぞれのバックボーンがつまっている。
コミックマーケットの会場でユーザーから寄せられたメッセージ
村山 我々のサービスって不安やコンプレックスを煽って、別の人生や人格を提案しているように捉えられてしまうこともあるんです。でも実際に会ってみると、ユーザーさんたちはコンプレックスが原動力というわけではなく、別の姿でコミュニケーションをとることをシンプルに楽しんでいるエンタメ感度の高い方々。
「IRIAM」の主要なユーザー層や、ターゲットを正確に表情ベースで捉え、どんな人たちに向けて発信するのかは、広告の文言やデザイン、全てに影響する重要な情報です。
真辺 コロナ禍でユーザーと直に交流できなかった期間は、サービスの方向性に迷いが生まれそうになったこともありました。
それでも、ユーザーと実際に交流することで、もっと広い層に届けていけるんだと、目指すべき方向性が正確に見えました。
0件のコメント