株式会社BookLiveが運営するポートフォリオサービス「Xfolio(クロスフォリオ)」に、5月から小説カテゴリが追加され、作品の投稿が可能になった。
クリエイター向けのポートフォリオサービスというと、イラストレーターや漫画家向けと捉えられがちだ。「クロスフォリオ」の小説への対応は、「原作」「作画」を分業して行う作品の増加を見据えたコラボレーションの提案や、小説家に対する新しいマネタイズの提案、ひいては拡大を続けるクリエイターエコノミーに対する提案など、複数の文脈で読み取ることができそうだ。 そんな中、新たな異世界ものコミカライズ作品『暗殺者一族の末弟、異世界の英雄となる』が「クロスフォリオ」上で連載決定(連載開始は2024年春を予定)。また、これに先んじて原作小説も「クロスフォリオ」で無料連載が開始されている。
原作はTVアニメ化もされた異世界転生小説『八男って、それはないでしょう!』で知られるY.A(ワイエー)さん。作画は台湾でヒット作を手がけ、現在は日本でも活躍中のSalah-D(サラディ)さんが担当する。
Y.A(ワイエー)小説家。アニメ化された代表作『八男って、それはないでしょう!』を筆頭に多くのメディアミックス作品を創出。現在は『ソードアート・オンライン』のスピンオフ小説『ソードアート・オンライン オルタナティブ グルメ・シーカーズ』(電撃ノベコミ+)など複数作品を連載中。
クロスフォリオ上のY.Aさんのポートフォリオ
原作『暗殺者一族の末弟、異世界の英雄となる』無料連載ページ
今回は「クロスフォリオ」の小説カテゴリ開始と、『暗殺者一族の末弟』連載決定を記念して、Y.AさんとSalah-Dさんの対談を実施。Salah-D(サラディ)台湾出身・在住の漫画家。オリジナル漫画「陰間條例」シリーズが台湾で舞台化。『クラス≪無職≫の英雄譚~公爵家を追放されたが、実は殴っただけでスキルを獲得できるとわかり、大陸一の英雄に上り詰める~』のコミカライズを連載中。
クロスフォリオ上のSalah-Dさんのポートフォリオ
ポートフォリオをどのように使うことで、仕事を得られ、クリエイターとして生き残れるのか。2人が仕事を獲得してきた経験から導き出すアピールの仕方と、新作コミカライズについて話を聞いた。
取材・文:太田祥暉(TARKUS) 編集:恩田雄多
目次
ポートフォリオが作成しやすい 「Xfolio」にクリエイターも好印
──そもそも、お二人はこれまでポートフォリオを作成されたことはありましたか?Y.A Web上に小説を投稿する以外はアナログな人間なので、ポートフォリオという横文字自体、実は今回が初見でした(笑)。
強いて言えば、投稿サイト「小説家になろう」の自分のページに、書籍化した作品をまとめるくらいはしていましたけど、それくらいで。
Salah-D 私の場合、同人誌即売会で作品のアピールポイントや自分のWebサイトへのリンクを記した名刺を配っていました。でも、ポートフォリオと言われると違うかもしれないですね(笑)。
──今回「クロスフォリオ」でつくられたご自身のポートフォリオを触ってみて、どのように感じられましたか?
Y.A まずUIがきれいですよね。その上で、レイアウトを調整したり、X(Twitter)のリンクも貼れたり、カスタマイズ性が高い。
作家としては、何より小説が直に投稿できることが嬉しいです。これまでのポートフォリオサービスだと、アカウントのリンクを掲載することがせいぜいで、そのままサイト上で読むことはできませんでした。 Salah-D 小説だけじゃなく、イラストも直接見られるのが嬉しいです。他のサービスだと、投稿した画像が意図しない形にトリミングされてしまうことがあるんですが、「クロスフォリオ」はどれも綺麗に表示されています。
見る側もストレスなく閲覧できるので、クリエイターとしてはとても好印象ですね。 ──ポートフォリオというのは「経歴を視覚的に説明しつつ、次の仕事に繋げるために用意するもの」です。本格的なポートフォリオが初というお二人は、これまでどのように仕事を得ていたのでしょうか?
Salah-D 私の場合、台湾でデビューした事情もあって特殊なんですが……。
台湾ってそもそもそんなにデビューできる機会がないんですよ。新人賞のようなアワードも、ほぼ経験者が名を連ねているんです。
Y.A そうなんですか!
Salah-D ありがたいことに、私は2014年に「台湾行政院漫画賞」を受賞することができました。そういったアワードや同人活動が認められることで、活動の幅を広げていきました。 Salah-D それこそ、同人誌即売会では編集者の方にも名刺を配っていたんです。そこから担当編集を紹介されて、仕事に繋がっていきました。
今こうして日本で仕事ができているのも、台湾の出版社からの紹介なんです。
Y.A 僕の場合は趣味の延長線上なんですよ。
「小説家になろう」へ趣味で投稿を続けていたら、『八男って、それはないでしょう!』の書籍化オファーが届いて、2014年にデビューすることになったのが始まりです。
自分としても寝耳に水の話で、当時は家族にも新手の出版詐欺を疑われました(笑)。 Y.A そこからあれよあれよという間にコミカライズやアニメ化、他の作品の書籍化が決まりました。
書籍化した作品が僕のポートフォリオ代わりになっていて、「異世界ものをつくりたいんですけど……」や「この作品のスピンオフをやりませんか?」などの依頼をいただくようになったんです。
活動を続けていくことで自然と知り合いが増えていき、そこから仕事の連絡が来るようになったといったところでしょうか。
マネタイズ可能な「Xfolio」が、“数年後に廃業”を防ぐ新たな選択肢に
──ここ数年はコロナ禍の影響もあって人脈が広げにくい状況にありました。そんな中、クライアントがクリエイターを探す方法の一つとして「クロスフォリオ」のようなポートフォリオサービスの需要が高まりました。お二人は仕事をオファーされるために、どういったことをポートフォリオに記載するべきだと考えますか?Y.A 僕の経験上、自分がどんな作品を書いてきたのか、なるべく多くリストアップすることだと思います。短編であったとしても記載しておくと、「この作家さんは多作なんだな」とか、「こういったテイストもこなせるんだな」と判断される可能性が増えます。
我々の仕事は作品が名刺代わりですから、出し惜しみせずにより多く記載するべきなのかなと。 Salah-D あとは自分が得意なスタイルをきちんと載せることですね。クライアントは私が投稿したイラストを通して、「作者がどんな作品を読んできたのか」「どんな絵柄が描けるのか」を判断します。
例えばアクションが得意であれば、それが伝わるようなイラストをたくさん公開すべきです。仮にいろいろなテイストの絵を投稿していたとしても、苦手な分野で依頼が来てしまったら、結局仕事が長続きしませんからね。
私自身、以前に無理やり苦手なジャンルに挑戦しようとしたこともありましたが、最終的にはお断りすることになってしまいましたし。自分の強みをアピールするのも大切だと思います。
──「クロスフォリオ」には、作品を公開する以外に、クリエイター自ら作品を販売できるEC機能も実装されています。お二人がもし作品を販売するとしたら、どのようなものを展開しますか? Salah-D 「クロスフォリオ」のショップ機能で何か販売してみたいですけど、今は漫画を描くことで手一杯で……(笑)! 時間に余裕ができたら、何か描いて活用してみたいですね。
逆に一読者としては、昔雑誌に掲載されていた読み切りや長らく重版されていない旧作を、著者自ら販売してくれると嬉しいですね。
Y.A 僕はマニアックな短編をつくってみたいです。書籍化には至らないけど、本当に好きな人──100人くらいだけに向けた内容の作品を書きたいです。
制約のないところで好きに書いて、ファンの方に喜んでもらえる。「クロスフォリオ」ではファンコミュニティも開設できるようなので、そういったコミュニケーションも面白そうですよね。
十年ほど前までは、作家はどうしても出版社との仕事がメインになるので、本を出していないと、存在感に欠ける時代だったと思います。でも今は、小説以外に漫画原作、アニメ脚本、スマートフォン向けゲームのシナリオ、そして「クロスフォリオ」のようなファンへの直販など、いろいろな方法があります。
もしかしたら数年後には、本を出さずとも作家が生きていける方法が確立されるかもしれません。 ──活躍の場や収益を得る機会が広がることで、書籍化以外で作家が生きていけるようになる……?
Y.A あくまで可能性ですけどね。小説家って一冊出した後が大変なんですよ。
新人賞を受賞したり、運よく書籍化が決まったりして一冊目を出した後、他の作品・作家との差別化で悩んだり、どうやって活動を続けていくが問われてしまう。
一冊目を出して終わるケースもざらにある業界です。下手すれば二冊目を出せないし、数年後には作家を廃業しているかもしれないし、この先自分は生き残れるのか……というような話を、作家同士ですることもあるくらいです。
そこで、ネット上でファンから直接購入してもらえる形に新たな活路が見いだせるかもしれないし、「クロスフォリオ」のようなサービスを使うことで新たな仕事が来るかもしれない。もちろん競争は激しいですけど、これまでよりクリエイターを続けやすい時代になっている気がします。
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