「Xfolio」で連載中の異世界転生モノは試金石となり得る作品
──そういう意味では、「クロスフォリオ」につくられたY.Aさんのポートフォリオで原作小説が無料連載中、来春にはSalah-Dさんのコミカライズが公開予定の『暗殺者一族の末弟、異世界の英雄となる』は、一つの試金石になりそうです。そもそも企画の発端はどういったところでしたか?Y.A 担当編集といろいろな企画について打ち合わせしていたんですが、その中に一つだけ、不穏なタイトルの案があったんです。編集者的にとても強い引きを感じたらしく、そこから膨らませていくことになりました。
──不穏……それが『暗殺者一族の末弟、異世界の英雄となる』だったと。
Y.A 確か、最初は暗殺者ものをやってみたい、というところから始まったんですよ。でも、ただ暗殺者を描くだけでは面白くないので、異世界で善行を重ねることになったんです。
定期的に人を殺さなきゃいけないんだけど、それを周りの人は「私たちの代わりに手を汚してくれた」と勘違いしているという構図も、そのときに思いつきました。あと、第1話はほぼ現実世界での話というのも早い段階で決まっていました。
異世界ものというと、第1話からすぐに転生・転移しがちですが、現実世界で活躍している姿をいの一番に見せたくて。いろいろ頭を捻った結果、現在の形になったんです。
──なるほど。異世界ものというのは大前提としてあったんですね。【『暗殺者一族の末弟、異世界の英雄となる』あらすじ】
歴史ある暗殺者一族の七男として生まれ、あらゆる殺しの技術を仕込まれた主人公・速水俊一(はやみしゅんいち)は家業を嫌い、普通に暮らすことを夢見る18歳の高校3年生であった。
しかし、12歳の頃から時おり訪れる強い殺害衝動のため、世間で裁けない悪党の暗殺だけを仕方なく請け負い続けていた。
家族の誰よりも卓越した技能を持ちながら、善人であろうとする(悪党は容赦なく殺す)俊一が、同業者に襲われ異世界に転生。
転生後の異世界でも殺戮衝動は収まらず、現代のときと同じく悪党を殺し続ける日々を過ごすのであった──。この物語は、後世に世界の英雄として名を称えられた、殺人鬼のお話である。
Y.A そうですね。そもそも昨今異世界ものが流行っているのは、読者が「もし自分が別の境遇にいたら評価されることもあるのかな……」と主人公に重ねて読んでいるからだと思うんですよ。
僕の作品で言えば『八男って、それはないでしょう!』も、30~40代の方が主要な読者層なんですよね。“リアルがクソゲー”のように言われる世の中で、仕事から帰って癒されるために異世界ものを読んでいる。
その結果が異世界ものの流行に繋がっているんだと思います。だからこそ、新たな異世界ものを生み出したかったんです。 Salah-D 私は一読者としてですけど、Y.Aさんがおっしゃった通り、異世界ものは感情移入しやすいと思います。現実世界では魔法をはじめ、チート的な能力も使えないけど、物語世界の主人公たちはすごい力を使って無双していく。その姿に触れることで、ストレスが解消できるんですよね。
──コミカライズを担当するSalah-Dさんが本作の話を最初に聞いたのは、どういったタイミングでしたか?
Salah-D まだプロットもない、アイデア段階の頃だったと思います。最初はとにかく登場人物がたくさんいるなと感じました(苦笑)。その後、物語の詳細を知る過程で、他の異世界ものとの差別化を図るためにも、リアルなアクションを描いていきたいと思いました。
──リアルなアクションというのは?
Salah-D 例えば、ワンパンで敵を倒すのではなく、どんな技を使って、どのように身体を動かして戦うのか、その過程をきちんと表現するということです。
本作の主人公は暗殺者なので、様々な殺しのスキルを習得している。それらを漫画として、いかにリアリティ高く描くべきか、今はずっと考えています。
──すでにキャラクターデザインはつくられていますね。 Salah-D Y.Aさんからいただいた詳細なキャラクター設定に基づいて描きました。特にヒロインのミリアは描きやすかったです!
Y.A どのキャラクターもスタイリッシュに描かれていますよね。個人的には、俊一みたいなイケメンの主人公を書いたことがなかったので、どんなデザインになるか楽しみだったんですよ。
彼は背負うものも大きいし、いろいろ悩みも多い。どこかその内面も感じさせるビジュアルに仕上がっていて感動しました。
原作者と作画担当「Xfolio」上での“実験”における関係性
──ちなみに、今回のような原作者と作画担当者がいるコミカライズの場合、お二人が直接やり取りする機会はあるんでしょうか?Y.A ほとんどないと思います。今回も基本的には担当編集を介してやり取りしているので、Salah-Dさんと直接お会いするのはこの取材が初めてです。
Salah-D そうなんです(笑)。私自身、他のコミカライズ作品でも同じようなケースですね。
──なるほど!
Y.A これまでのアニメ化や漫画化もそうですが、僕は絵を描けないので、先方にお任せするスタンスです。もちろんアニメであれば原作者として監修しますし、コミカライズで作画さんから質問が来たらお答えします。でも、基本的には好きに描いてほしいんですよね。その方が作品にとってもいいと思うので。
Salah-D ありがとうございます。私もオリジナル作品が台湾で舞台化されたとき、あまり干渉しないようにしていました。上演されるまでには台本のチェックもありましたが、あまり意見を言わず、プロにお任せするという意識でした。
『暗殺者一族の末弟』では作画担当としての立場ですけど、基本は原作小説に沿ってお話を膨らませていくことが求められていると思っています。 Y.A とはいえ、メディアミックスでは疑問点を早めに話し合うことが必要だと思っていて。以前アニメ化の際に、スタッフの方から「何か気になることがあれば早めに伝えてください」と言われたことがありました。
当然ですが、メディアミックスにもスケジュールがあるので、後になって口を出しても、もうそのときには修正不可能な場合があるんですよ。だから、Salah-Dさんも質問があったらすぐに伝えてください(笑)。
Salah-D わかりました(笑)。
Y.A この作品が「クロスフォリオ」の連載で受け入れられるのか、半ば実験的な意味合いもあると思っています。俊一の行動理由って、これまで僕が描いていた主人公像とは少し違っているんです。
暗殺者として活動しているときと普段の俊一。そのギャップを楽しんでもらいたいなと思いつつ、そんな彼に惹かれるミリアたちの姿も楽しんでいただきたいですね。
Salah-D 実際に漫画の原稿を描くのはこれからですが、迫力あるアクションシーンを表現したいと思っています。エピソードごとに違う方法で敵を倒せたらいいなと思いつつ、まずは自分の引き出しの量と格闘していきます!
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