大きく事業展開をすることを視野に入れ、株式会社を設立
──個人事業としてパブリッシャーを立ち上げているところも複数あるなか、株式会社として起業しパブリッシャーを立ち上げようと思った理由はなんでしょうか?Montro 片手間でやっていてはその分パフォーマンスが落ちると考えたからです。今は翻訳で海外のTRPGを翻訳して日本で売るのがメインですが、ゆくゆくは世界のTRPG界隈のクリエイターとクリエイターを繋ぐ他、プロデュース業務も手掛けていきたいです。
それは日本に限らず、世界のTRPG市場に対してクリエイティブなことをやっていくことを含みます。それを考えた時に、大きく事業展開することを視野に入れ、専業でやっていくことを目指し株式会社にしました。
──スケールが段違いに大きいですね。世界に打って出る、という日本のTRPGパブリッシャーは初めて聞きました。
Montro 2020年から2022年までの2年間、海外のインディーズTRPGを紹介することが多かったのですが、紹介したあと、そのTRPGのダウンロード数が増えて、作者からお礼を言われることがあるんです。
そうして海外インディーズTRPGの作家さんと知り合いになる機会が増えて、彼らの方から「日本語版を展開するならMontroに声をかけよう」と言ってくれる流れができました。そのつながりができたのも、マールストロムをはじめる後押しになりました。
結局、誰もやっていなかっただけで、日本と海外のTRPG界隈の橋渡しをする役目って待ち望まれていたんです。特に海外のインディーズTRPGデザイナーから。
自動翻訳技術の発達で、日本のTRPGユーザーたちに未訳TRPGへの抵抗が昔よりなくなってきた中、日本のTRPGユーザーと海外のTRPGユーザー、2つの界隈の間で情報を繋ぐ役割には需要がありました。
今までの出版社のパワーバランスが変わりつつあるこのタイミングは、新しいところが何か新しいことをはじめてもおかしくありません。
これからのTRPGの流れがどうなるかわかりませんが、マールストロムは作品を出し続けます。大きなボウルがなくても小さな皿がいくつもあれば、どこかしらで受け止められます。
一個のコンテンツに集中するのではなく、自分にあったゲームを見つけられる可能性を高くするという点で、いろんな種類のゲームをいっぱい出すのは日本のTRPG界隈のためにもなるかもしれない。そう考えています。
マールストロムは日本と海外のTRPGの「境目」を壊す渦となる
──マールストロムとして今後、どのような活動をしていく予定ですか?Montro 日本のTRPGと海外のTRPGの言語の壁をできるだけ取り除いていくというのが、マールストロムの目標です。英語圏の情報を日本に出すだけでなく、日本のTRPG界隈の話を英語圏に出していくことも大事だと思っています。選択肢が見えないところに、選択肢を提示していきます。
マールストロムからリリースするTRPGは、クリエイターが届けたいという形を最大限保ったままユーザーに出していきたいと考えています。
しかし一方で、「ルールブックが高い」という声もユーザー側から聞こえます。結局買う人も作る人もいないとTRPGはできません。最大限作り手には優しく、買う方も可能な限り安く提供したいと考えています。また、製品のリリース方法は基本的にPDF専売です。
──その理由は?
コロナ禍を経た現在はオンラインセッションが以前より普及しているからです。PDFは必要であれば印刷できますし、タブレットなどの画面でも見られますよね。それにリリースにかかる金額も抑えられます。
本当に人気が出たら紙の書籍にすることも検討しますが、書籍はコレクターアイテム(愛蔵版)という位置づけで、思わず本棚から出して触ったり、ペラペラめくったりするものを売っていくのが良いと考えています。
マールストロムから出すPDFのルールブックは目次のリンクをつけ、ワード検索ができるなど、PDFだからこそできる便利さに力を入れて出していきたいですね。PDFの利便性に関しては妥協するべきではないと思います。
オンラインセッションツールと連携し、遊ぶ人にも優しく
──オンラインセッションの普及は現在のシーンを語る上で欠かせません。PDF専売の他にも考えていることはあるのでしょうか?Montro オンラインセッションツールネイティブ層を想定する時に、ただルールブックを一方的に出すのではなく、可能な限りオンラインセッションツール側と連携していきたいです。
例えば海外のオンラインセッションツールである「FVTT」(Foundry VTT)は、『ザ・ループTRPG』(Tales from the loop RPG)の版元であるTRPGパブリッシャー・Free Leagueと提携していて公式のアセット(オンラインセッション用素材)を出しています。
他にもいろいろなTRPGシステムのアセットを公式に連携して出しているのですが、同様の形でマールストロムが公認しているツールとして日本のオンラインセッションツールに最適化して、セッションツール側と組んで出していきたいと思っています。
海外のTRPGデザイナーの情報を伝えるメディアも展開
──マールストロムはTRPGの翻訳出版だけではなく、ブログメディアを展開されています。どういったメディアにしていきたいですか?Montro せっかく海外のTRPGデザイナーと繋がりがありますから、海外のいろんな国の人のデザイン思想など、他では拾えないような情報を読めるメディアにしたいです。
TRPG紹介を通じて培った人脈を生かして、地域密着型みたいなメディアを目指していけたらと。そもそも日本のTRPG情報を海外に発信するメディアが希少ですから、重点的にやっていきたいことではあります。
それにMontro個人としてもTRPGを紹介する活動を続けていきます。マールストロムはマールストロムとして、Montro個人は個人として。
個人としての活動がマールストロムと一体化してなくなるわけではなくて、私は私で気まぐれにTRPGを紹介する活動は続けていこうと思っています。
Montro
日本語・スウェーデン語・英語翻訳家。株式会社マールストロム代表。
2020年よりTwitter上で海外のインディーズTRPGを日本語で紹介する活動を始め、それがきっかけで『ザ・ループTRPG』の翻訳に携わる。その他の翻訳作品は『Kutulu』(フロッグゲームズ刊/翻訳監修)、『Liminal』など。
シナモンロールが好き。
2
この記事どう思う?
producerM/上総観久
ゼロ年代からTRPGを遊んでいるTRPGプレイヤー。長年オフラインセッション専門だったが、コロナをきっかけに本格的にオンラインセッションでTRPGを遊び始めた。
0件のコメント