主役でも名前を見なくなる……なんてことも珍しくない
──4つの養成所・専門学校を経て声優デビュー。途中で諦めてしまう人も多い中で、白井さんが声優に魅了され続けた理由を教えてください。白井悠介 アニメが好きで、好きなものに携わりたいという思いが声優を目指す動機でした。単純に好きなことへの憧れが、デビューまで諦めずに続けられた理由だと思います。
30歳ぐらいになっても事務所に入れなかったり芽が出なかったりしたら、さすがに諦めていたかもしれません。でもラッキーなことに、ギリギリ29歳のときに初めてアニメのメインキャラクターに決まったんです。
基本的にはすごく楽観的で、「いつか受かるはず」と思いながらのらりくらり生きていたんですが、そこで合格していなければ、僕のポジティブさも底を尽きていたことでしょう(笑)。
もちろん1つひとつのオーディションには、今も昔も真剣に臨んでいます。常に「この役は自分だ…!」と言い聞かせながら臨むんですけど、なかなかうまくいかないですよね。
──メインキャラクターに決まったことで、手応えのようなものはなかったんですか?
白井悠介 1つアニメのメインキャラに決まったら、トントン拍子で売れるんだろうなって思っていた時期がありました(笑)。というのも、同じ事務所の逢坂良太くんが初めて主役が決まって以降、オーディションに受かりまくる姿を近くで見ていたので。僕も同じような未来予想図を描いてワクワクしていたんですが、そんな甘い世界ではありませんでした。
たとえば僕が落ちたオーディションで主役を掴んだ人が、それ以降まったく名前を見なくなる……なんてことも珍しくない世界です。1つ役を掴んだからといって油断できない──声優を続ける中で、その実感はどんどん強くなっていきました。 白井悠介 そうは言っても、僕は恵まれている方です。メインキャストとして初めて出演できた『美男高校地球防衛部LOVE!』は多くの方に受け入れてもらえましたし、いろんな方に自分を知っていただく機会にもなりました。作品との巡り合いも含めて、考えるほどに声優は難しい仕事だなって思いますね。
難しい仕事……なんですが、正直オーディションの合否を待つドキドキ感も楽しい(笑)。考え方を変えると、何度もオーディションに落ちるのは受け続けられるからであって、事務所がそれだけ挑戦の機会を与えてくれているということです。
オーディションによっては事務所ごとに人数制限があるので、事務所内でも競争がある。与えられる機会に感謝しつつ、日々結果を出さないといけないと感じています。
声優は“なんとも言えない距離感”で演技する職業
──デビューを目指していた時代とは違い、様々な役を演じるようになった今、声優として一番嬉しい瞬間を教えてください。白井悠介 「キャラクターから自分の声が聞こえる」──その実現が、声優としての根底にあります。自分が関わった作品が世の中に出る瞬間、アニメなら放送時、ゲームなら配信時に、画面から自分の声が聞こえたときはすごく嬉しいです。それはデビュー前も今も変わりません。
──一方で、声優の“仕事”はこの数年で大きく変化しました。白井さんご自身でも、その変化を実感しているのではないでしょうか?
白井悠介 デビュー当初は、まさか自分がこんなに歌って踊るとは考えもしませんでした。最近ではバラエティ番組に出演させていただく場合もありますし、当時の自分からしたら想像もできなかった未来です。ありがたいことですし、仕事の幅が広がったぶん、僕自身いろんなことに挑戦していきたいです。
──白井さんの「しらいむチャンネル」のように、声優のYouTubeでの活動も珍しいものではなくなりました。
白井悠介 僕の場合は趣味の延長というか、1人で好きなことをやってみる媒体があったら楽しそうだと思ったので。と言いつつも、なんだかんだ同じ養成所に通っていた伊東健人くんや、同時期にデビューして以来交流がある榎木淳弥くんなど、たくさんの声優さんに出演・協力していただいているんですけど(笑)。
白井悠介 一言で表すのは難しいんですけど、役そのものになりきる俳優さんと違って、声優は役が一番前にいて、その少し下がったところにいるようなイメージなんです。
今でこそ声優そのものの露出が増えていますが、もともとは声優という仕事は役がないと成立しないので、作品とキャラクターがあって、初めて声優が活躍できる。
だから役や作品のことをないがしろにしてはいけないのはもちろん、声だけで演じるからこそ、役を深く理解する必要があります。だからと言って、役=自分かというとそうではないですし、離れすぎてもいけない。
このなんともいえない難しい距離感を保ちながら演技という表現に向き合うのが声優という職業なんじゃないでしょうか。
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