2年半の懲役で失ったものと、得たもの
──「ブランク」という話がありましたが、かずきむぎちゃさんは2年半の懲役を受けて刑務所に入ってしまいましたよね。その2年半は動画活動をまったく行えていませんでしたが、YouTubeを離れている間に、何か「変わった」と実感することはありましたか?あとは、動画を投稿する人間が増えすぎて、もう簡単に稼げる時代じゃなくなったなとも思います。人は使える時間が限られているのに、YouTuberが増えすぎたことで一人のYouTuberに使われる時間が分散されている。
特定の一人のコンテンツを集中して観る時間はもうないでしょう。最終的には今以上に飽和状態になって、はじめしゃちょーやHIKAKINさんのようなトップYouTuberだけが稼いで、他は小銭程度っていう暮らしになるのかなと思います。
──まったく希望を持っていませんね。
かずきむぎちゃ あとは、がーどまんがYouTuberになってたことは驚きましたね。
──たしかに、がーどまんさんもラッパーとYouTuberの兼業ですもんね。 かずきむぎちゃ 出所してYouTubeにまた触れるようになってから彼の成功を知って。MCバトルの会場で挨拶とかしてきよったキッズだったのに、人気YouTuberになってバリバリ稼いでるやんこいつみたいな(笑)。
──かずきむぎちゃさんはYouTuberとしても勢いが出てきたところで、残念ながら傷害事件で逮捕という結果になってしまったじゃないですか。当時はどのような心境だったのでしょうか。
かずきむぎちゃ 最初ね、指名手配されたんです。ラッパーの阿修羅MICって人がいるんですけど、阿修羅くんは、ぼくが指名手配されてから一週間くらいかくまって、遊ばせてくれたんです。その後、自首しました。
阿修羅くんは弁護士も紹介してくれて──その弁護士の人に相談したら、8年くらい実刑つくよみたいなことを言われたんですよ。
元々弁当(執行猶予)があったんで。そこに強盗致傷、営利略取、監禁致傷。それを合わせたらまあ最長8年は覚悟しといてくださいみたいな。その時点で当時22歳だったんで、まあ20代は終わったなっていう、絶望感はありましたね。
結果的に、2年半になって、そこは胸を撫でおろしたのが正直なところです。
過激なコンテンツとどう向き合うべきか
──最近YouTubeはまたすごい過激な人が増えてきたなっていう印象を受けます。かずきむぎちゃさんとは同列に語れませんが、行き過ぎた動画コンテンツをつくる過程でそれこそ「逮捕」まで至る人が立て続けに出ている印象を受けます。かずきむぎちゃ そうですね。
──かずきむぎちゃさんは、日本における過激系YouTuberというジャンルを切り開いた存在でもあるのかなとも思っていて。
かずきむぎちゃ ぼくがですか!(笑)
──いや、迷惑芸とかではないんですけどね。
かずきむぎちゃ まあ、ツンツンに尖っている感じはあったかもしれません。
──過激なコンテンツが問題視され、YouTubeでは年々規制が強くなっています。一方で、迷惑な行為や犯罪スレスレの行為を動画としてアップして再生数を稼ぐ、という手法は普遍化しています。かずきむぎちゃさんはどう考えていますか?
かずきむぎちゃ 名前を出す時点で彼にとってはメリットに繋がってしまうけど、へずまりゅう(※)とかはちょっと、やりすぎかな。でも、へずまりゅうのアレが違法行為なのか、迷惑行為なのか、あるいは社会にとって必要ないのかは別の問題として、YouTuberとしては成立しているんです。
その動画を観る人がいる時点で、YouTuberとしては結果につながってしまっている。批判的な人もまず「受け入れてしまっている」ということを認めるべきだと思いますね。
※ 有名YouTuberの撮影現場に「凸」を続けることで名を挙げたYouTuber。YouTuberの嫌がる様子や自宅などのプライベートまでを動画に収める手法はかねてから問題視されていたが、2020年6月にYouTuberの家族までもが標的となる。時を同じくして複数の被害者から被害届が出され、逮捕にまで至った
──動画をアップして、その動画を観る人が発生した時点で、エンターテイメントになってしまっている、という論ですね。
かずきむぎちゃ そうです。YouTuberという職業は動画を観られた時点で広告が回って、お金が発生します。それでコミュニケーションや経済が回っているのだから結果として「あり」でしょう。
ただ、僕個人としては迷惑系というか道徳的にいかんなっていう行為は、やるべきではないと思っています。あれをやらないで人気を獲得できるのだったらやらない方がいい。さらに言えば迷惑系をやっているのに再生されないYouTuberというのが一番タチが悪い人だなとも思います。
視聴者側のリテラシーへの懐疑
──投稿者だけでなく、それをどういう理由であれ観ることで加担してしまう視聴者側のリテラシーの問題でもあるということですね。ぼくらは「ゆとり」と呼ばれる世代なんですが、それ以降の人は綺麗なモノが当たり前になりすぎて残酷さやえぐいモノに慣れていないんです。でも生きていれば触れにくい問題や残酷なことは必ず目の前に現れる。
そういう残酷な何かと相対した時に、自分は穢れたくない、潔白でいたいと考えるんです。自分は違うぞっていう意思表示をしたいがために他者をディスったりすると思うんですよ。
でも結局は汚いものを見て、批判であれ拡散してもうてたら、どっちもどっちやでって。自分のことを高次から客観的に考えている人間がもっと多かったら、へずまりゅうのあの動画を再生するか再生しないかまで深く考えられるはずなんです。
──かずきむぎちゃさんの中では、自分の中で「これだけはしない」と線を引いていることとかありますか。
かずきむぎちゃ 誰も得しないことはしないですね。何かを攻撃するとしても、それで得するのが自分の自尊心の満足だけならば、絶対にしないほうが良いです。
意味の分からん、くだらん動画やったとしても、笑う人が多い方が良い。
──あくまで人に届ける、観てもらうためにコンテンツはあると。
かずきむぎちゃ そうですね。ただ、自分に火の粉が飛んできたときは別ですよ。
手のひらをパッと返してきたりする奴だとか。過去にもいろいろYouTuberは詰めてきましたけど、その人たちとかも全部向こうから喧嘩売ってきてるわけなんで。
基本、誰のためにもならん動画はつくらんですけど、いざという時はわからんです。やっぱりハンパに調子にノったYouTuberっていうのは、YouTuber業界でも平和と秩序を乱す存在なんで、粛清していかなならんなって思います(笑)。
YouTubeで稼ぐのは、ドラッグで稼ぐようなもの
かずきむぎちゃ あとは、有名になった先で何をするかをもう少し考えたら、と思いますけどね。目的や夢によって芸能界入りするのか、それともあくまでYouTuberという素人の存在としてやっていくのかっていうのを考えろよって思います。そうじゃないといくらお金を稼げても、無駄じゃないですか。結局YouTubeで稼いだお金なんてあぶく銭です。そんなのヤンキーがドラッグをさばいてるのと変わらないですよ。
YouTube自体にぼくの夢はないです。今、稼いだお金を別のところに投資していっている。音楽やヒップホップもそうです。地元にショップをつくっても良い。実際に動いています。そういう意識ですかね。
──YouTubeでの収益を「ドラッグさばいてるのと同じ」という表現は独特ですね。
かずきむぎちゃ パチンコで勝ったお金とか、ドラッグさばいたお金とか。稼ぐ方法は、手段はどうでもいいっていう感覚だと思います。こだわって生み出したお金じゃない。もちろん、時として不本意なこともやらないといけないだろうけど。
僕はYouTube稼いだお金は、遊びで散財もするし、他の活動で費やすようにしています。
ラッパー「SILENT KILLA JOINT」という人格
KAI-YOU Premiumでは、かずきむぎちゃさんのラッパー名義・SILENT KILLA JOINTにも取材。彼の視座から観ることができる、そのディープな世界観を語ってくれた。
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