そしてブースでは「KATE×人気コスプレイヤー コスプレメイク本」が無料配布されます。
女性であれば、そしてもちろん男性であっても、一度は目にしたことのあるであろうコスメブランドのKATEが、なぜコミケに参戦しようと思ったのか。
コスプレカルチャーに詳しい駄チワワさんによる“平成のコスプレ史”を辿るコラムと、KATE担当者のインタビュー、そして火将ロシエルさん・えい梨さん・ウィルさん・桃月なしこさん・五木あきらさんという5人の人気コスプレイヤーのコメントから紐解いていきます。 そこには、「NO MORE RULES.」を掲げるKATEの“女性観の解放”というメッセージが込められていました。
1/31追記:KATEの「コスプレメイクブック」のデータ公開は、1/31 19:00をもって終了となりました。
コラム執筆:駄チワワ リード文およびインタビュー/編集:大原絵理香
駄チワワ寄稿:平成をコスプレ史で紐解く
KATEが来る。コミケに。
企業ブースに。
あの会場に、かのKATEが出展するのである。
逃げろ。
いや、逃げなくていい。
そんなわけで大企業の出展が続くコミケにあっても、ある世代や一部コスプレイヤーから支持されているKATE。
これは、コスプレメイクの変遷と、企業プロモーションについてのお話です。
1990年代前半、コスプレを後押ししたのは格ゲーだった
コスプレイベントが同人誌即売会から独立、そして複数のイベントが定期開催されるようになったのは1990年代前半。この時期、世は格闘ゲームブーム。次世代機によるリアルなグラフィックと操作感が、画面の中のキャラクターに一体化したいというプレイヤーの欲求を掻き立て、これを背景にコミケではコスプレイヤーの爆発的増加が起こったのです。
当時アナログで撮られた粗い写真を引っ張り出して見ると、まだコスプレ用のメイクは確立していません。
髪型も地毛をダイエースプレー(この時期に流行した整髪料。正式名称とは異なるが、ダイエーのプライベートブランド商品のためこの名前で親しまれていた)で固めるのが当たり前の時代ですから、仕方ありません。
V系メイクとの合流、安価コスメの普及
90年代後半には、さらにあるひとつのエポックが起こります。ビジュアル系ロックバンドのブームとクロスすることで、コスプレにもV系メイクの技法が持ち込まれていきます。これはコスプレとの親和性が高いものでした。また、この時期はバブルがはじけてデフレが本格化し、消費の主戦場が従来の百貨店からコンビニやドラッグストア、100円ショップに移っていく時期でした。安価な、いわゆるチープコスメやコンビニコスメの出現と普及は、コスプレメイクに大きな影響を与えていきます。
先の見えない平成不況下で、旧来のメインカルチャーの崩壊が相対的にサブカルチャーを押し上げていく時代。面白い傾向でした。
例えば、後のサブカルチャーに多大な影響を与え爆発的なアニメブームのきっかけとなったあの『新世紀エヴァンゲリオン』の放映開始が1995年、コミケが会場を晴海・東京国際見本市会場から有明・東京ビッグサイトに移し、規模拡大していったのも1996年でした。 2000年を挟んで海外製の安価なウィッグ・カラコンも広く普及するようになり、コスプレイベントの風景を変えていきます。
特に、ウィッグ装着の状態では薄めのメイクだと顔が負けて不自然になってしまうので、つけまつげと囲み目のアイライン、眉毛を剃って、もしくは塗りつぶしてペンシルで描いていくのが標準装備になっていきます(エンジ色のザ○ト軍服を着ながら……)。
環境も機材も個人を後押しした00年代
00年代はまさにネットの時代でした。デジカメで撮って、Cure(かつてライブドアが運営していたコスプレSNS、当初は個人サイトとして2001年サービス開始)に写真をアップ。イベント参加だけでなく、ネットを介することでより多くの人に自分のコスプレ写真を発表することが可能となっていきます。00年代後半には再びリーマン・ショックによる不況に突入しますが、この時、企業が広告費を削減したせいで空いてしまったプロ用撮影スタジオで個人向けの貸し出しが広まったり、テナントの空いた雑居ビルを改装したコスプレ撮影スタジオの開業をしたりする事象も相次ぎました。
これらは、デジタル一眼レフの普及と合わせて、スタジオやロケ撮影を駆使した、より本格的でアート志向の強い「作品」としてのコスプレ写真(雰囲気写真とも言われる)を生む潮流となっていきます。
コスプレメイクの特異性とは何か?
コスプレメイクもより本格化が進み、アニメっぽいハイライトやシェーディングの入れ方、また、テーピングによって輪郭や目の形自体を変える技法が生み出され、それらがネットを介して広まっていきます。手の届かない二次元という存在だからこそ、それをどう三次元で再解釈して近づくか? そこにコスプレの永遠のテーマがあります。
ここまでコスプレメイクの歴史をザッと駆け足で振り返ってみましたが、基本的にコスプレメイクって、女子の「かわいい文化」としてのメイクとはかなり異なるんです。
自分をかわいく見せるよりも、液晶の中のキャラに近づきたい願望の「具現化」なので、フィギュア職人の造形や塗装の感覚に近いと思います。言うなれば「セルフ改造手術」でしょうか。
KATEがコスプレにおいて人気を誇るワケ
さて、そんなコスプレメイクの世界におけるKATEって、かなりの巨大勢力だったりします。コスプレにおいてはポーチ内のブランドを統一するというよりかは、なりたいキャラクターになる「目的」に沿って使い分ける人が多いので、厳密なNo.1やシェア割合は決めようがありません。
しかし、ことKATEに限っては、コスプレメイクの世界で高い人気を誇るジャンルが一つあります。
それは、アイラインです。
漆黒に定評のあるKATE……というと、厨二臭いかもしれませんが。
男子ウケ前提のナチュラルメイクなんてどこ吹く風、明度&彩度の高さに振り切って強さを表現するKATEのスタイルが、コスプレイヤーのハートを、撃ち抜いてきたのでした。
しかし、あなどるなかれ。例えば二重が欲しい時、通常の女子メイクではアイプチやアイテープが使用されますが、コスプレメイクではまぶたの上に“もう一本の線を描く”のです。
これはダブルラインとも呼ばれる技法ですが、通常メイクで使われるのとはハッキリクッキリ、質量が違います。こうした方が遠目に見たり写真を通したりした時、二次元キャラの目元に近くなるからです。
そして、この技法の再現としてSNSなどで話題となったのが、まさにKATEのダブルラインエキスパート。
また、二次元キャラはよく目尻だけ長いまつげがデザインされてたりするので、これを三次元で表現するにはつけまつげではなく、やっぱりまぶたにまつげを直接描く、のです。
アイラインだけでもコスプレメイク一回につき通常メイクの3倍くらいの消費量になったりしますから、相応の市場が形成されてきたわけです。
昨今は出版不況といわれて久しいですが、コスプレメイクに関する出版物はこの2年くらいで各社から出て、号を重ねています。
いまどき、衣裳は公式品で出る。でも、顔だけは自分で“つくる”しかない……これが真理です。
コスプレイヤーを起用したプロモーションに可能性はあるか
最近は何だかコスプレブームだ社会現象だと言われているらしいですが……実は、個人的にはあまり実感はありません。近年では、コスプレイヤーにも様々な楽しみ方が生まれており、そこには、キャラ表現を追求するコスプレイヤーも、メディア露出をはじめ幅広いジャンルで活躍するコスプレイヤーも共存しあっています。
しかし、実際にはコミュニティ自体はそれぞれにあるため、その多様性がゆえ、プロモーションのターゲットとしては複雑化しているのも事実です。
そこに、今回のKATEのコミケ出展。最初にも書きましたが、これは待望の登場と言えると思っています。 おそらく、コスプレイヤーを起用した企業プロモーションはこれからも続くでしょう。
しかし、大切なのはそれがどこを向いて、どこまで寄り添うか、あるいは活用できるのか。コスプレイヤーを起用した上で、その切っ先をコスプレイヤーに向けるか、それ以外に向けるか。女子に向けるか、男子に向けるか。
今はまだ挑戦の段階かもしれませんが、その向こうにいつしか金字塔を打ち立てる日が来るかもしれません。
そして願わくば、今回のKATEがその良き例を世に示せますよう。
0件のコメント