パノパナ岩渕想太×R-指定 対談「人とぶつかれたらこんな表現してない」

成功フォーマットができてしまった

岩渕 ロックバンドって、自分の表現や自分に対して深く掘り下げて、それをリスナーにぶつけようとしている人が少ないんじゃないのかなって思うんですよね

「フェス」や「ライブ」が主戦場になってきたのもあって、よりフィジカルで享楽的なものを目指すのが「成功の近道」と捉えている人が多いのかなって思っていて。

R-指定 成功できるフォーマットがあるっていうのはなるほどなと思って。逆に俺らは成功できるフォーマットがないからしんどいのかもしれない。

ヒップホップのお客さんって、“ヒップホップが好き”なんです。どのラッパーが好きというよりヒップホップ全体で見ているので、その年に誰かが天下をとっても、ニューヒーローが生まれたらお客さんはそっちに行っちゃって、入れ替わる。だからCreepy Nutsは別のジャンルのところに出ていきたいと思っているんです。

海外はラッパーがしっかり稼げる成功例がある程度できていますけど、日本にはまだそれがほぼなくて試行錯誤している状態です。ただ、さっきの話と同じように、ラッパーに成功のフォーマットみたいなものができてしまったら、それはそれで「ふざけんなよ!」ってなるのかもしれない。

岩渕 確かに。 R-指定 ラップが日本に少し浸透し始めたくらいのとき、売れたい人たちは、KICK THE CAN CREWやRIP SLYME、ケツメイシみたいにやってみていましたけど、二番煎じや三番煎じはすぐに消えていきましたね。

ヒップホップはやっぱり「そいつじゃなきゃいけない」みたいな感じが大事だから。

あと、昔の成功例としては、着うた(R)がありますね。シンガーの添え物として、サビが終わったあとに8小節くらいラップが入ったみたいな。そういう突破口みたいなのがあって、みんなが試して……でも結局“本物”の人しか残らなかった。

岩渕 バンドは自分たちが歌う必然性や、やるべき音楽は何なのかに対して真剣に向きあっている人が少ないんですよ。でも、Rさんの歌詞を見ていたらそこに対して悩んでいるし、もがいている部分を出しているじゃないですか。

バンドが気がつけていない現状をなんとかしないといけないなと思いますし、僕もやっぱりもがいていたいと思います。 R-指定 本当は精神衛生上、両方できたらいいんですけどね。手グセみたいな部分と、さらけ出すのと。

だって、あんまりさらけ出し続けると無になりますからね(笑)。「これ以上やったら死ぬぞ!」ってくらいに自分と向き合いすぎると危ないので、いい感じにバランスをとっていきたいとは思います。実際、長く続いているミュージシャンはそのバランス感覚がえぐいなと思いますし。

岩渕 成功している人や長く続いている人は、常に何かに対して怒り続けたり、吐き出すことを無理やりにでも見つけたりできていると思っていて。やっぱりずっと自分の中で葛藤し続けてきたからこそバランス感覚がある。そういう人たちが本当にカッコいいし、強いし、残っていけているんだなとはすごく思っています。

人とぶつかれるやつだったらこんな表現してない

R-指定 ヒップホップのリスナーもなのかもしれないですけど、たとえばロックキッズの若い子たちが自分の中に怒りがあまりないとしても、世の中的にはすごく怒りが多いじゃないですか。

昔に比べて個人の中から出てくるものは少ないかもしれないですけど、ひとつの出来事に対して「こうしないといけない」みたいな、みんなで正していくような怒りはすごく多いなと思っているんですよね。 岩渕 「これはありえない」「これは人間として最低」みたいなことに、みんなで乗っかるというのは多いですよね。

僕もかつてそうだったし、俯瞰し続けていたし、だからこそ自分がバンドをやって歌詞を書いたときに振り返って、あのころの自分はすごく“無”だった怖さに気づいたんです。だから違うよと、もっと自分自身の感情を表に出したほうがいいと。自分もそうだったからこそ、無である怖さともがいていることを歌いたいんです R-指定 俺もそうですよ、人とぶつかれるやつだったらこんな表現してないです(笑)

マジで私生活は事なかれ主義で、波風立てないようにしていて、だからこそ音楽で出てくる。日本人だから無理して外国人の真似してロックしてヒップホップして……じゃなくて、日本人だからこそできること、できる表現に行き着くんだと思っています。ヒップホップという表現がいちばん救ってくれる。

岩渕 僕がバンドに求めるものとまったく一緒です。うまく立ち振る舞うのは得意だし、ずっとヘラヘラしているのも得意だし、いままでもそうやって生きてきた。でも、何かに対して強く声を荒げて怒ることができなければ、自分の思っていることを言うことができない。

だからこそ、バンドの音に合わせてだったら言えるとか、ライブの中では叫べるみたいなことが本当に表現の動機になっていて、これは日本人のロックバンドだからこそできることなんじゃないかなって。普段から言えていたらこんなことやっていないし、そこが強くあるし、そういう自分も凄く好きなんですよね(笑)。
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