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福本伸行「没後に世界でブームになるかも」 横須賀企画展の編集者座談会レポート

福本伸行「没後に世界でブームになるかも」 横須賀企画展の編集者座談会レポート
『賭博黙示録カイジ』などで知られる漫画家・福本伸行さんの企画展、「福本伸行 横須賀ざわ...ざわ...展 カイジ×アカギ×黒沢の世界」が、11月19日(土)から12月25日(日)まで、神奈川県横須賀市にある世界三大記念艦「三笠」艦内で開催中だ。 期間中は、横須賀市出身の福本さんの代表作、『アカギ〜闇に降り立った天才〜』『賭博黙示録カイジ』『最強伝説 黒沢』の出力画およそ50点を展示。記念グッズの販売に加え、市内の飲食店ではコラボメニューも提供されている。

開催初日、歴代の担当編集者を招いて福本伸行さん自身が登壇するトークイベントも行われ、人気漫画の連載に至るまでの裏話などが飛び出した。 取材・執筆:恩田雄多

横須賀市出身の福本伸行による凱旋個展

会場となったのは三笠の中甲板にあたるエリアの一画。入口のある上甲板から見た場合、2つ下のフロアだ。入場のタイミングから、何か非日常的な空間へ足を踏み入れているような感覚を味わえる。

そもそも開催場所が三笠となった背景には、2014年に開催した横須賀に関連するアニメやマンガのシンポジウム「横須賀Sプロジェクト」がある。同イベント以降、シンポジウムに登壇された横須賀市出身の福本さんとの関係性がスタート。

2015年7月には、テレビドラマ『アカギ』の放送に合わせ、主人公・赤木しげるの墓碑を市内に設置。福本さんを招いて除幕式などを行っている。

今回は、同年に阿佐ヶ谷アニメストリートで開催された「ざわ...ざわ...展」を、規模を拡大して誘致。『アカギ』のほかに、『カイジ』『黒沢』といった代表作を加え、福本さんの思い出の場所でもある世界三大記念艦「三笠」での開催が決定した。

出力画に麻雀卓 心をざわつかせる展示!

展示スペースは艦内だけあって、やや天井が低い。しかしそれが、「ざわ……ざわ……」「……ッ!」などに代表される、福本作品特有の緊張感を際立たせているようだった。

50点以上の出力画が所狭しと並べられ、中央のスペースには福本さんサイン入りの交通安全ロボット太郎が鎮座。 また、イベント開催にあたって制作された色紙や、ドラマ「アカギ」の舞台小道具として鷲巣麻雀牌や鷲巣式麻雀卓、バフォメット像などの立体物も、ファンの注目を集めていた。

ドラマ「アカギ」の鷲巣式麻雀卓やバフォメット像

出力画はいずれも作品の名シーンやコミックスの表紙イラストなど。印象的なフレーズ、さらにインパクト大の表情と、そのワンシーンを見るだけで、手が汗でじんわりと湿ってきそうだった。

『最強伝説 黒沢』の出力画

担当編集者と本人が明かす作品誕生秘話

企画展初日である19日には、福本さんに加え、各作品の出版社から担当編集を招いてトークショーを開催。講談社『ヤングマガジン』から『カイジ』担当の森田さんと伊香さん、竹書房『近代麻雀』から『アカギ』担当の若島さん、小学館『ビッグコミックオリジナル』から『黒沢』担当の石原さんが登壇した。


まずデビュー前後を振り返り、「僕はあまり絵がうまくなかった。当時、住み込みでアシスタントをしていたかざま鋭二先生から、『これから新しい人が入ってくると福本くんはすぐに抜かれるだろうから、もう自由にしていいよ』と言われた(笑)」という福本さん。

「新人が入るまではいましょうか?」と何度か食い下がったものの、そのたびに「うちのことは気にしなくていいから」と出ていくことを勧められ、結果的に即引っ越すことになる。

「住み込みで働いていた事務所から引っ越した当日の深夜、誕生日を迎えた瞬間に鼻血が出てきて……ここが人生の勝負どころ、頑張らないといけない! と思いました」(福本さん)

1年間で26分しか進まない麻雀漫画『アカギ』

続いての話題は、『アカギ〜闇に降り立った天才〜』『賭博黙示録カイジ』『最強伝説 黒沢』に関するエピソード。

1992年から現在も連載が続く『アカギ』は、同じく福本さんによる『天 天和通りの快男児』に登場する赤木しげるを主人公にしたスピンオフという位置付けだった。

当時はすでに『天』を『近代麻雀ゴールド』(竹書房)で連載中だったため、福本さん自身、「同じ出版社で麻雀漫画を2作も描くのはどうなんだろう」と感じていたという。

そんな中、若干しぶりながらも提案した「アカギの若い頃を描いたりしたら……」というアイデアに対して、『別冊近代麻雀』『近代麻雀ゴールド』『近代麻雀オリジナル』の3誌を統括していた名物編集者・宇佐美和徳さんがGOサイン。結果として、自身最長の連載期間を記録している。

「こんなに長くなるとは思わないし、鷲巣麻雀編になると……」と含みのある表現に対して、「あるリサーチによると、連載1年間につき物語上は26分しか進んでいないらしい(笑)」と担当編集・若島さんが即座に後を引き継ぎ、会場を笑いでざわつかせた。

“福本さんならジャンケンでも面白い” 口説き文句が現実に

アニメ化・実写映画化と、自身最大のヒット作である『カイジ』。講談社の担当編集・森田さんによると、連載を依頼するにあたっては、なかなか電話がつながらずに苦労したという。

「10回目くらいでようやくつながったとき、最初に一言、『増刊ですか? 本誌ですか?』って。もちろん本誌ですと言ったら、『じゃあ、会いましょう!』と」(森田さん)

もう1人の担当編集である伊香さんは、当時の思い出を“衝撃的”と振り返る。

「会いに行くのに、具体的なアイデアが何も思いつかなくて。でも、福本さんならジャンケンでも面白く描けますと、森田さんに話してたんです。そしたら、(森田さんが)そのセリフをそのまま福本さんに言ってしまって(笑)」(伊香さん)

「でも、すごいのはここからなんです。1週間後に『アイデアができた』と言われたので行ってみると、その時点で、(物語序盤の)限定ジャンケンのエピソードがほとんど出来上がっていたんですよ! 僕らとしては口説き文句のはずが、本当につくってきてしまった」(森田さん)

連載の話をしたのが1995年夏、連載決定が同11月。連載開始となる翌年2月までのあいだ、福本さんは「他の漫画家が限定ジャンケンを描かないようにと祈っていた」という。

「それだけ、絶対に成功しようと思っていて。いわば、人生の分かれ道、勝たなきゃいけない勝負だと。『カイジ』の連載が始まったとき、僕は37歳。そういう意味では、漫画家として売れるまでにだいぶ時間がかかりましたね」(福本さん)

『天』、『アカギ』、『銀と金』、『カイジ』…どこが休載になるか戦々恐々

そんな『カイジ』のスタートに、実は戦々恐々としていたのが竹書房・若島さん。

「看板作品になってほしいと思って始めた『アカギ』が、見事にその期待に応えてくれて。かと思ったら、双葉社さんで『銀と金』が始まって、さらに、その4年後に始まった『カイジ』がめちゃくちゃ面白そうで……これはヤバイなと。どこが休み(休載)になってしまうんだろうって(笑)

結果的に、『カイジ』の連載が始まった年に『銀と金』が連載終了。福本さんも、「『銀と金』に関しては、周囲から『終わらないでくれ!』って言われた」と当時を振り返る。すると若島さんも、「当然ですよ。僕らもそうでしたけど、雑誌の存亡に関わるレベルですから」と、周囲の反応に理解を示した。

福本さんによると、「最初は『天』を終了するというアイデアもあった」という。

「でも、『天』や『アカギ』とか他の作品と比べて、当時の『銀と金』が一番物語として収まりやすそうだったんですよね」と、その裏話を披露した。

“平成の宮本武蔵”から生まれた(?)『黒沢』

一方、2003年に始まった『黒沢』に話が及ぶと、知られざる当初の構想が明らかにされた。

「最初は“平成の宮本武蔵”をイメージしていました。徐々に喧嘩や戦いを経て、という流れを考えていたんですけど、僕の場合、喧嘩や戦いには理由が必要で、理由だけで物語が進んでいっちゃったんですよね。それで、いつの間にか喧嘩する作品ではなくなってしまった(笑)」(福本さん)

小学館の担当編集である石原さんも、「命のやりとりをするマンガをつくりたいと思っていた」としながらも、連載が進むにつれて、予想もしていなかった面白さが生まれていったという。

「喧嘩や戦いがまったく出てこなくて。むしろ、黒沢が務める会社でのポジショニングにもがき苦しんでる。もう先生が徹底的に黒沢をいじめちゃってて、でも、それが面白いと思って」(石原さん)

“没後何年後かに、世界でブームになるかもしれません(笑)”

2017年1月からは『銀と金』のドラマ化が決定するなど、相次いで映像化されている福本さんの作品。昨今、漫画原作の映像化については賛否両論あるが、福本さん自身としては、「基本的に原作とは別物でいい」というスタンスだという。

「原作とは違うって言っても、(映画版『カイジ』で)香川照之さんが演じる利根川幸雄、面白いじゃないですか(笑)! それに、将来的に僕が死んだとして、残ったアニメや映画は翻訳すれば世界で放送できる。僕、没後何年後かに、世界でブームになるかもしれません(笑)」(福本さん)

漫画家と、各出版社の担当編集が集まった今回のトークショー。福本さん自身が「なかなかない機会」というだけあって、「(福本さんは)意外とおちゃめ」など、知られざる一面が暴露される場面も。

「朝早くに原稿を受け取りに行ったら、寝室から自分を呼ぶ声がする。行ってみたら、先生が竹書房の若島さん(男性)と抱き合いながら、『ヤッちゃった(テヘ)』みたいな。僕はその後校了の作業とかもあったんで、全然笑えませんでしたけど(笑)」(森田さん) 一方で、石原さんは、さすがと思わせるエピソードを紹介した。

「打ち合わせのときの話で、『部屋の中だったら、10回連続でライターを投げてキャッチできるけど、ベランダでやったら成功するかはわからない。人間はそういうもので、それがアイデアの源になる』って。本当に人間の捉え方がすごいなと」(石原さん)

さぞかし常日頃から人を観察しているのかと思いきや、創作のための人間観察はしない。ただし、生の人間の表現力からは、想像以上のインスピレーションを得られると力説した。

「観察はしないんですけど、アイデアを考えているときに、ファミレスにいる人たちなんかを少し参考にすることはありますね。それをそのまま描くのではなくて、そこに自分のアイデアを加えることで、キャラクターとして成立するんです」

トーク終盤には、質疑応答の時間が設けられ、熱烈なファンから「『賭博覇王伝 零』(※週刊少年マガジン、現在は休載中)の今後はどうなっているんですか?」「友人で “鷲巣様”(※『アカギ』の登場人物、鷲巣巌)と結婚したい人がいる。鷲巣様の理想の女性像を教えてください」など、パワフルかつ鋭い質問が相次いでいた。

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