『カゲプロ』映像作家 しづロングインタビュー 現象に追い越された5年間を振り返る

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「自分が気持ちいいかどうか」という感覚は動画でもアニメでも変わってない

──現象の発火点として「カゲロウデイズ」があって、大人が動き始めたタイミングで「コノハの世界事情」があった。他にもしづさんの視点からターニングポイントを感じた曲はありますか?

しづ 初めてキャラの素材、アニメーションの素材を他のアニメーション会社に任せて制作した「チルドレンレコード」ですね。初めて他の人と一緒に動画をつくったんですけど、それは『カゲプロ』に関わって最初に苦しかったことですね。

──何が苦しかったんですか?

しづ 自分のやりたいことを言葉にして他の人に伝えるということが本当にできなかったんです。自分が口下手というか、あんまりしゃべらないタイプっていうのもあるし、コンテが汚いっていうのもあるんですけど。当時は、いろんな工程を経て、何回かやりとりをして出来上がっていくやり方が苦手で、アニメをつくるのって大変なんだなと思いました。

──その後の動画で、しづさんの思い入れの強いものはありますか?

しづ TVアニメ版の主題歌だった『daze』ですね。あの時に久しぶりにアニメーションが少ない動画をつくった。昔の作風を進化させた映像をつくれたと思いました。基本的に、アニメーションをつくるよりも、『daze』みたいなモーションタイポグラフィのようなものが好きなんですね。

──しづさんは、ご自身の作風や、クリエイターとしての武器はどこだと考えていますか?

しづ 語らないタイプだってよく言われるんですけど、そもそも自分の作風がよくわからないです(笑)。そんなに作風を意識していないというか、その時々に観てカッコいいと思ったものを「こういうのやりたいな」と思ってつくっているんですね。でも、タイム感、タイミングの取り方は昔から変わらないかもしれない。

──音と映像のタイミングが同期している感覚は大きなポイントだと思います。しづさんの動画の文字の打ち方は、文字と音楽でセッションしてるというか、凄腕の打楽器奏者、パーカッション奏者と通じる感覚がある。

しづ ほあー、ありがとうございます。今度からそういう風に言おう(笑)。

──そこは技術論というより感覚的なものなんでしょうか?

しづ そうですね。完全に感覚です。“自分が気持ちいいかどうか”ですね。

じんとしづ、音楽と映像が共鳴しあった劇場版『カゲロウデイズ – in a day’s -』

『カゲロウデイズ-in a day's-』場面写5

──その感覚は、今回のMX4Dの演出でも活きているのではないかと思います。演出とのつなぎ込みや連携に関しても、しづさんの動画が持っているタイム感に通じるものを感じました。

しづ あれは完全に編集による力技が功を奏したと思います。つくっている段階で「ここに演出効果を入れる」ということも想像していたんですけれど、実際にMX4Dのエフェクトをつける段階になったら楽しくなっちゃって。「どんどんエフェクトつけよう」って思って、すごく派手な感じになりました。

──めちゃくちゃ揺れましたし、メガネも濡れました(笑)。

しづ そうそう。「とりあえず揺らせ」みたいな気分になるんですよね(笑)

──映像とMX4Dの連携に関してこだわったところはありますか?

しづ シンタロー視点のシーンがあるんですけど、あそこで考えたのは、主観視点なので止まってるわけにはいかないなと思って、ずっとゆらゆらさせてたんです。そういうことを想像しながら、とにかく派手にしようという感じです。

──主観視点というのは今回のポイントですよね。20分の中でいろんな視点が切り替わる。冒頭でもテロリストの一人称的な主観視点から始まる。ある種VR的に体験しているような見せ方になっていました。

しづ そうですね。アニメというよりFPSというジャンルのゲームを参考にしていました。MX4Dのエフェクトとも相性いいと思いましたね。 ──今回の反響を見ても、ポジティブなものは「映像と連動してあんなに動くんだ」とか、「水や香りがすごい」とか、MX4Dの体験としての側面を楽しんでいた方が多かった印象です。様々な反響があるのも目にされていると思いますが、どう受け止めてらっしゃいますか?

しづ 楽しかったと言ってもらえる人にはすごくありがたいと思っています。でも、悪い意見もあります。実際、自分としてもできなかったことがあると思っていて、「お前もそう思うよな」って共感することもあります。実は、もっと言ってほしい、そういう意見がいろんなところに届いてほしいという気持ちもある。

ストーリーとしては短くなってしまったんですけど、もともとはPV的なつくり方という話から始まったので、ストーリーがオマケみたいな気持ちなんです。だから(体験として)楽しかったという感想が一番嬉しいです。

──ストーリーよりも体験の方に重きを置いていたということでしょうか?

しづ はい。ただ、ストーリーとしては、今回の『カゲロウデイズ-in a day's-』には、実は続編にあたる「route-2」があるんです。まだ詳しくは言えませんが、一人称的な主観視点を使っているのは、そことのつながりもあります。

──じんさんのインタビューでも、体験の快楽、没入感というキーワードは出ました。主題歌の『RED』もテンポが早く、渦中にいる酩酊感を表現したかったと。今回、映画と曲は全く別々で制作されていたというお話でしたが、結果的に、お二人の感覚はリンクしていたんだと改めて思いました。

最後に、5年間を振り返って、しづさんにとって『カゲプロ』とは何だったと思いますか?

しづ 学校ですね。『カゲロウデイズ』を通していろいろなことを知りました。よくないこともいろいろ知ったんですけど。単純に自分の絵も上手くなったし、動画も上手くなった。社会の仕組みというか、映画やアニメのつくり方も知れたし、仕事でいろんな人に挨拶するので社交的にもなれたし。本当に学校みたいな感じでした。

──『カゲプロ』と共に成長してきたということですね。

しづ そうですね。おいしいもの食べれたし(笑)。

──ははは(笑)。ちなみに、じんさんは『カゲプロ』を「本気で子供騙しにすること」と仰っていました。そもそも大人を喜ばせるつもりでつくってない、と。

しづ そうですね。最近、「あれは子供向けだ」と悪い意味を込めて言われるのをよく聞くんです。でも、誰だって子供の時に好きだったもの、観ていたアニメや漫画に影響を受けて作品をつくっていると思うんです。だから、子供時代って大切だと思います。大人が楽しめる作品もいいですけれど、子供をないがしろにしてどうするんだろうという気持ちはありますね
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作品情報

MX4D『カゲロウデイズ-in a day’s-』

原作
じん
監督
しづ(脚本・キャラクター原案)
制作
1st PLACE / JUMONJI
公開
2016年11月4日(金)から上映中
劇場
全国TOHOシネマズ MX4D™シアターにて公開中
キャスト
【シンタロー】寺島 拓篤 【エネ】 阿澄 佳奈 【コノハ】 宮野 真守
【マリー】 花澤 香菜 【セト】 保志 総一朗 【キド】甲斐田 裕子
【カノ】立花 慎之介 【ヒビヤ】富樫 美鈴 【モモ】柏山 奈々美
【???】 畠中 祐
製作
『カゲロウデイズ-in a day’s-』製作委員会

関連キーフレーズ

しづ

イラストレーター・映像作家

1993年生まれ。女性。映像作家としてミュージックビデオを中心に活動をしており、「カゲロウプロジェクト」のMV全般を担当。また「延命治療 / Neru」や「セツナドライブ|滝 善充(9mm Parabellum Bullet)」のMVも担当し、評価を得ている。またイラストレーターとして「アバター(著:山田悠介)」「カゲロウデイズ-in a daze-(著:じん(自然の敵P))」や「板東蛍子、日常に飽き飽き(著:神西亜紀)等の小説の表紙、他にも音楽アルバムのジャケットイラスト等で活動。アニメ化もされた「カゲロウプロジェクト」ではキャラクターデザイン、イラストを担当し、アニメでもオープニング映像の絵コンテやエンディング映像の制作等を手がける。

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