AVのフォーマットをつくり変えるためにできること
HMJMが劇場上映やイベントを推し進める中で、タートル今田さんは「もっとAVそのものに向き合うべきだった」と振り返る。明確な解決策ではないが、視聴者のことだけを考えぬき、必死に糸口を探そうとする姿勢が見えた。タートル今田さんの心中には、ひとつの仮説があるようだった。結果論ともいえるし、あるいは希望論とも呼べるだろう。ただ、そこに光明が見えてくるように感じた。
今田 「やっぱりAVを疎かにしちゃいけない、見た人にがっかりされるようなものは撮っちゃいけないなって思う。俺は見ている人のことを想像するから、そこにはずっとこだわってた。
AVを劇場やイベントで公開するって、俺はちょっと否定的だったんですよ。ロフトプラスワンでやったオールナイト上映でも『あの娘のドキュメント AV女優 杏美月のすべて』を、単純にカラミの尺を短くして流したけれど、それはあまりやりたくないな、と。でも、最初から劇場を目指したAVを録ってみるのは面白いかなって思っています」 筆者がその言葉を聞いて思い出したのは、初めてオーディトリウム渋谷で『テレキャノ』を見た夜のことだ。映画館という密室に男女がひしめきあって、時に驚き、声を上げて笑い、感覚を開放しながら視聴するのは新鮮な体験だった。画面から強烈なパンチを食らわされたようなショックを鮮明に覚えている。
「劇場用AV」の試みは、多くの人に同じような衝撃を提供でき、新たなカルチャー体験を生むかもしれない。『テレキャノ』はたしかにヒットして話題にはなったが、そのショックを受けたことのない人々がまだ圧倒的多数ともいえるのだから。
今田 「エロのハードル自体が下がってはいるんだよね。映画でも際どいシーンがあったり、AV女優の子たちが地上波に出たりとか、幅は広がった気はする。テレキャノみたいな表現はあんまり受け入れられるものではなかったはずだから。まぁ、AV業界は何かにつけてアンダーグラウンドな業界だからさ。沈んでは上がって、沈んでは上がって、上がっては叩かれて……(笑)。
だから、そのへんに関しての心配はないんですよ。中にいる人が育てば問題なくエロは続くと思います。映像は続けていくのが難しい業界に今なっちゃっているけれど、“映像をつくれる能力”ならHMJMはどこにも負けないと思っているし、ちゃんとつくり手は残りました。このフォーマットがダメなら、次にいけばいいじゃないですか。映像をやる力は絶対につけてもらったし、自分でつけられたとも思っているから、そんなに怖くはないんですよ。
HMJMの存続には不安は残るけど、この人たちが将来絶望的な状態になるとは思っていなくて。松尾さんも梁井(梁井一)も強いものを撮る人だからね。そこはぜんぜん心配してないですね」
タートル今田さん、いや、今田哲史監督は、AVから退くことを今では前向きに捉えている。 今田 「辞めることになって『俺は何がやりたいんだろう』って考えた時に、あれもやりたい、これもやりたいってたくさん出てきて。それって仕事量からいっても、AVを撮るためにあえて考えないようにしてきたことでもあるんだよね。
俺はディック東郷ってプロレスラーが好きなんだけど、5年くらい前かな、彼が世界のプロレス団体をまわって引退興行をやってたことがあったのね。その時に『同行カメラマン募集!』って告知があって、超行きたかったけど、AV監督だし会社も大変だからそんなのやれないじゃん。でも、今だったら機会があればできる。最初にHMJMへ入社する前に、プロレスのドキュメントを撮るか、HMJMに入るかで悩んだくらいだからさ。
たとえば、『ビヨンド・ザ・マット』っていうアメリカのプロレスラーたちを被写体にしたドキュメンタリー映画があって、日本でもこういうのを意地でもつくれたらな、と。テレキャノのおかげで名古屋のプロレス団体とつながったり、『劇場版プロレスキャノンボール2014』が生まれたり、知名度からいってもテレキャノで『広がり』はできたから」 幾多の女優たちを見つめてきたであろう、どこかうるんだ瞳。ゆったりとしたリズムで話しながらも、力強い答え。この雰囲気をまとったまま、次なるステップへ向かう今田哲史さんが目の前にいた。ただ、筆者は聞かずにいられない質問があった。「もう一回、タートル今田監督としてAVに戻ってくる可能性はありますか?」
今田 「あぁ、それはあるよ。『HMJMで撮れなきゃAV辞める』ってだけだから、HMJMが持ち直せばやるよ。
俺はHMJMでつくるAVが好きだっただけ。俺も岩淵も離れるけれど、ふたりとも映像は続けるじゃん。松尾さんとか梁井は純粋培養でAVしかやってこなかったから、それはそれで先鋭化していくし、また一緒にやれたらいいなって思う。
別に、AVってフォーマットじゃなくてもいいしね。HMJMにいたのは俺にとって財産だし、こいつらには負けたくねぇなって思える仲間ができたから全然暗くはならない。でも今回は、あえて自分からAVを遠ざけたいなって。だから今は、あんまり後ろ向きじゃないです」
「アダルトビデオ」は和製英語である。その歴史は1981年に始まったとされ、再生環境の変化や経済の動向とも影響し合いながら、独自に進化を遂げてきた。趣向もさまざま、演出もさまざまに、“自慰用アイテム” としてではない魅力をもつ作品たちも生まれてきた。撮る人、撮られる人の生き様を織り込みながら、今日もどこかでカメラは回る。
劇場をAVでハックするのか、あるいはドキュメンタリーAVの手法を他で花開かせるのか。2016年の夏──Summer,2016──、HMJMからひとりのAV監督が引退した。次の夏に、ロードは続いていく。
タートル今田監督作を観てみたくなった方へ
今回、特別に読者プレゼントをいただきました。『あの娘のドキュメント AV女優 春原未来のすべて』『劇場版テレクラキャノンボール2013』『ゆうあ ふたたび』『美熟女ドキュメント 風間ゆみのすべて』の4作品です。
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イベント情報
タートル今田&岩淵弘樹 お疲れ会
- 日程
- 2016年9月16日(金)
- 時間
- 24:00〜
- 料金
- 無料
- 会場
- 新宿ロフトBAR
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