その初音ミクの発展も、彼女の声を使って独自の世界観を表現するVOCALOIDプロデューサー(ボカロP)たちなくしては語ることはできないだろう。
そして2月19日(水)、今人気のボカロP同士による“共作”をコンセプトにした初のコンピレーションアルバム『MIKU-MIXTURE』が発売される。
黎明期から活躍するクリエイターから新進気鋭の注目クリエイターまで、総勢19名のボカロPが集結し、初音ミクと共に12曲の楽曲をつくりあげた。
今回はその中から、ATOLSさん、OSTER projectさん、sasakure.UKさん、西島尊大さん、ピノキオPさん、Lemmさんら6名のボカロPに集まっていただき、アルバム収録楽曲の制作秘話から初音ミクを取り巻くVOCALOIDシーンまで、ざっくばらんに語っていただいた。
発見と化学変化を感じる1枚
──今回は『MIKU-MIXTURE』に参加するボカロPを代表してみなさまに集まっていただきましたが、アルバム全体を聴いてみてのご感想はいかがでしたか?sasakure.UK(以下、ササクレ) それぞれの個性が存分に発揮されつつも、まとまりのあるアルバムになっているなと感じました。
ピノキオP そうですね。それぞれが役割を全うしつつ、「コラボする」というレイヤーが1枚乗っかることでおもしろい変化が起きたと思います。
西島尊大(以下、西島) 個性というところで、ジャンルとしてのバラけも激しいので、普段聴かないようなジャンルに触れてみるいい機会になるんじゃないでしょうか。
OSTER project(以下、OSTER) 私もそう思います!
ササクレ いやいやOSTERさん、それ乗っかってるだけじゃないですか(笑)!
OSTER でも本当にそう思うんですよ(笑)。聴いていて楽しいアルバムになりましたよね。みなさんが普段聴いているボカロPの曲ともまた違うじゃないですか。こんな機会めったにないと思うんですけど、それが聴けるのがこのアルバムの魅力だと思います。
Lemm やっぱりそこが一番の特徴ですよね。今回は、制作段階からすごく発見が多かったんです。相手が1人加わることで、自分には絶対に出せないものが入ってきて、新たな発見や化学変化が起きているのを感じました。
リスナーさん側でも、「この人とこの人を掛けあわせるとこんな音楽ができるんだ」とか、今まで聴いたことがなかったボカロPを知ったりと、色んな発見をしていただければ、と思います。
ATOLS 確かに、色んな意味で発見は多かったですね。
私はきくおさんとのコラボだったんですが、彼とはかなり昔からの友達だったので、「いつかコラボしよう」という話はしていたんです。ただ、なかなかそういう機会をお互いに得られなかったので、今回実現することができて良かったと思います。
制作を始めるにあたって、きくおさんの自宅にお邪魔して、直接やり取りをしながら方向性を決めたりしたんですが、長い付き合いではあるものの、そこでお互いの新たな一面も見せ合えた良い機会にもなりましたね。 ──みなさん普段からお一人で楽曲制作されていると思いますが、この度「共作」するにあたって、苦労したことはありましたか?
ピノキオP 一番最初は「どうしよう」って思いましたよね? どっから手をつければいいのかわからず。
Lemm 確かに。今まで自分1人でつくってきて、自分なりのやり方がある中で、いざ「誰かと一緒につくろう」となっても、どっちが何をやればいいのか、はじめは結構戸惑いましたね。
西島 共作の方法そのものが、作品づくりの一つのパーツであり、最初の難関になっていたと思います。
Lemmさんと僕の場合は、まずLemmさんが作詞と作曲をして、それを私が全編通して編曲をしていく、というやり方で進めました。そして私が編曲したものに対して、Lemmさんが「こうしたらもっと楽しくなるんじゃないか」というアイデアをくれて。
Lemm そんなに上から目線でしたか(笑)!?
西島 そんなことはないですよ(笑)! つまり、完成に向け、2人で色んなものを足したり引いたりしていったということです。ササクレさんとOSTERさんはどうでしたか?
ササクレ 僕らの場合は、最初に「未来」という大まかなコンセプトが与えられて、じゃあどういう未来観を表現していくか、どう展開していくのかというところで、お互いに意見を出し合っていきました。
それから今回の共作では、相手の作風や得意なものを意識しながらつくるという課題もあったんです。OSTERさんは編曲にこだわったり、変拍子の要素をたくさんいれる方なので、そんな所をフィーチャーしながら、お互いの良い所が出るように気をつけました。
OSTER まず全体の構成を決めてから、私の方でモチーフになるメロとコードを、Aメロ・Bメロ・サビぐらいの長さにしてササクレさんに渡すんです。それをササクレさんが組み上げて、ワンコーラス分にまとめて返してくれるんですが、すごく良くなって戻ってくるんですね。そこからまた私が繋げていって、ササクレさんに返して……ということを、だいたい6往復ぐらいやりました。すごく濃密でしたね。
ササクレ やり取りは多かったけど、はじめに想像していたイメージに対して、出来上がったものがいつもしっくりきたので、わりとスムーズに進行できましたよね。
今回は作品の方向性が近い方同士で組まれていた印象があって、みなさんもスムーズにできたんじゃないかなと思っているんですが、どうなんですかね?
ピノキオP 僕も比較的スムーズでしたね。僕は鬱Pとだったんですが、お互い「バラエティが好き」というところで気が合ったんです。音楽というよりはその話題で盛り上がっていました(笑)。
実際につくっていく時も、まず「ネタ」から考えたんです。コラボだから「2人」いる、「2人で何かをする」から、「対談」に決まって。Skypeのチャットでふわっと決めたあと、僕が作詞をして、鬱Pはオケをつくるという分担をして、鬱Pからのオケをもらったら、僕が歌詞にメロディーをのせていこうということになりました。この方向性を決めるまでは結構悩んだんですけど、決まったらわりとあっさりできました。 ATOLS 私ときくおさんのところだと、コードと歌詞をきくおさんが担当して、送られてきたデータをプログラミングしたりするのは私が担当していました。だいたい2・3往復ぐらいで、きくおさんから送られてくるのはほぼ完成している状態だったので、あとは肉付け作業に集中しました。
1人でつくる作品は1人の愛だと思うんですけど、コラボすることで2人の愛、さらにイラストも加われば3人の愛になっていく、そんなデュエットする魅力みたいなものも意識しながら制作しました。
最初に会った時には、私は「ポップなものをやろう」と言ったんですが、対してきくおさんは「いや、アバンギャルドとか、とことん変なものをやろう」って真逆のことを言ったんですよ。でもすぐに、「よし、それでいこう」と(笑)。
僕は彼を信頼しきっているし、お互いに癖もわかっているところもあって、そっちのアイデアの方がはるかにおもしろそうだったんですよ。だから、もう完璧に折れちゃっていいやと思えたんですよね。
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