1人でも完結できる世界

Lemmさん

──そもそも、みなさんがVOCALOIDで音楽をつくりはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

ピノキオP 元々1人で曲をつくっていたんですが、バンドを組んでいるわけでもないし、歌も上手くはないんです。そこにたまたまVOCALOIDという自分の代わりに歌ってくれる者が現れたというのが一つと、ニコニコ動画自体はずっと見ていて、何でもいいから投稿してみたいと思った時に、自分にできるのがボカロ曲だった、というのがきっかけですね。

Lemm まず、1人で完結させられるというところに魅力がありますよね。

これは変に捉えないで欲しいんですが、私はどちらかと言うと女性に生まれたかったなと思っていたんです。誤解しないでくださいね(笑)? 女性の声というのは、男性には出せない魅力だと思うんです。できることなら自分で歌いたいところなんですが、男なもので、それは叶わない。じゃあどうしようかという時にVOCALOIDという手段を見つけて、自分だけで完結させられるし、せっかくならやってみようと思ったのが始まりでした。

ササクレ それも、歌っているけどそこにはいない、実在していないというのがまたおもしろいと思いますね。そんなVOCALOIDのSF性にも魅力を感じました。

ボカロ曲をつくる前はインスト曲をつくっていたんですが、もっと新しいことをやりたいと思っていたんです。でも、歌ものというのもピンとこなくて。そんな時、OSTERさんをはじめボカロシーン黎明期の方々が作品を公開しているのを聴いて、「こんなにおもしろいソフトがあるんだ!」と驚きました。DTM好きで引きこもりな僕にはたまらないソフトだったんですよね。「これはもうつくるしかない!」と思って制作をはじめて、今に至るという感じです。

西島 僕は、今まさに目の前にいるOSTERさんが、インディーズ系音楽投稿サイトの「muzie」で初音ミクを使った曲を投稿したことで音声合成ソフトの存在を知ったのが始まりでした。けれどその時すぐに使い始めたというわけでもなくて、何年後かに弟がVOCALOIDを使っていることを知って、おもしろいなと思って僕も使い始めたんです。

それまではインストの曲ばかりつくっていたんですが、そこに言葉のある音の流れがのることで、また表現の幅も広がっていくのがおもしろいな、と思ったんですよね。

OSTER 私もずっとインスト曲を書いていたので、音源ソフトを探す目的でクリプトンさんのサイトをめちゃくちゃ見ていたんです。そこでたまたま初音ミクを見つけました。歌ものをやりたいと思う気持ちもずっとあったので、早速使ってみて、発売から2週間ぐらいの頃にニコニコ動画に投稿したのが始まりです。

ATOLS みなさんインストやられてた方が多いんですね。私もずっとインストや打ち込み曲をつくっていました。

私が最初にVOCALOIDを知ったのは、「LOLA」という海外製の世界初のVOCALOIDでした。素直に「おもしろいな」と思ったのが感想で、しばらく経ってから日本でも初音ミクというVOCALOIDが発売されました。それから何週間後かに、なんと友達が初音ミクをプレゼントしてくれたんです。しかも、さらにその後に、また別の友達から初音ミクを貰ったんです(笑)。さすがにここまできたら、「やろう」と思ってはじめました。 ──みなさんそれぞれ色んなタイミングでボカロPとして楽曲制作を始められたと思いますが、その当時よりも今、ボカロシーンはどんどん大きくなっていると思います。その渦中にいらっしゃるみなさんから見て、ボカロシーンがここまで拡大した理由はどんなところにあると考えられますか?
西島 1人でつくれるという参加のしやすさ、敷居の低さというのはとても大きいと思います。また、歌手が歌う曲となると、その歌手に合わせた歌にしようと思うんですけど、VOCALOIDはその逆で、VOCALOIDの方が自分に合わせてくれるんです。私もそこは重宝しています。

ササクレ VOCALOID自体にポップさがあって、すごく取っ付きやすいんですよね。音楽に限らず、絵でも踊りでも何でも良いと思うんですが、色んな文化が入ってきやすい間口の広さは、ボカロシーンのすごいところだと思います。

それから、1人で完結させる上で、自分の世界にこもって「ぼくのかんがえたさいきょうのおんがく」みたいなものをつくっても許される場があるのも、おもしろいですね。だからどんどん個性的なものが出てきますし。

ATOLS ボカロシーンで良いなと思うのは、無限に解釈できるところだと思うんです。それはダンスでもいいし、絵でもいいし、現代芸術でもいい。そのうち宇宙開発の舞台にミクがいたりしてもおもしろいかもしれません。「初音ミク」や「VOCALOID」という記号だけで、無限に誰もがリスナーにもクリエイターにもなれるという、宇宙でいうところの「ワームホール」的な役割をしているのが素晴らしいと思います。

Lemm 仰るとおり、これまでは作り手と受け手ではっきり分かれていたのが、誰でも気軽に発信できる時代になっていた気がします。VOCALOIDというツールやインターネットがあることによって、音楽でもイラストでも、何かしらの形で発信できる環境は、グッと身近なものになっているんじゃないでしょうか。

OSTER やっぱりこの時代だからこそ成立する文化ですよね。私が音楽を始めた頃って、回線速度が遅すぎてMIDIしか公開できなかったんですよ。オーディオファイルを公開できるようになった段階で「時代進んだな」と思ったんですけど、もはや動画が当たり前の時代じゃないですか。そこにちょうど入り込んできたというタイミングの良さもあると思いますね。 ──自分1人で完結できる点に魅力を感じられているとのことですが、二次創作の広がりについてはどう感じられていますか? ご自身の楽曲の二次創作はチェックされていますか?

Lemm よく、「歌ってみたので良かったら聴いてください」って一報くださる方が結構いらっしゃるんです。ご連絡をくれた方は全部チェックさせていただいています。

OSTER 自分の作品を聴いて、そこから何か感じてくれることがあったんだな、っていうのが伝わってくるような作品に関しては、素直に嬉しいなと思いますよね。

ピノキオP それはもう、本当に。

ササクレ たまに、自分の作品を理解してくれすぎていて、「これは自分が作ったんじゃないか?」と錯覚する感覚ってありませんか? ちょっと聴き込み過ぎだろ、みたいな(笑)。

OSTER ササクレさんの楽曲って結構意味深なのが多いじゃないですか(笑)。だから掘り下げ甲斐があるんだと思いますよ。

ササクレ 結構凝っちゃうタイプみたいで、一語一句に色んな意味を入れてしまうんですよね。ちょっと厨二病くさいところもありますけども(笑)。わざと明らかにしていないのに理解してくれたり、考えてくれる人が居るっていうのは、すごく嬉しいですね。

ATOLS それってPVとかも同じで、PVにも小ネタを入れておくことがあるんですよ。何回も見ないとわからないようなところに気づいて、コメントしてくれたりするのも嬉しいです。

今の世代と昔の自分

sasakure.UKさん

──ボカロ楽曲が投稿され始めた初期はアドバイスのコメントが多かったのに対して、今は感想のコメントが多くなったと聞くこともありますが、リスナーの世代の変化などは感じられますか?

ピノキオP それはハッキリと感じますね。

──具体的にはどんなところですか?

ピノキオP 単純に、年齢層が下がったなという感覚があります。いつもコメントもめちゃくちゃ見てるんですけど、コメントの雰囲気も変わったように思いますね。

ササクレ 勢いのある、直線的なコメントが多くなった気がします。昔のコメントは、作品を何回か聴いた上で自分の感想や考察を練ってコメントされる方が多かったんですけど、最近ではより直感的に、思った・書いた・ドンッ! みたいなイメージがあります。

OSTER 「うおおおおお」とか「すげえええええ」とかですね。あと、コメントの半分が「うぽつ」で埋まったりとか(笑)。

ピノキオP あれは、花火を見た時に「たーまやー」と言うのと同じ感覚ですよね(笑)。

ピノキオPさん

──では、楽曲制作の際にも若い人に向けてつくっているという意識があるのでしょうか?

OSTER いえ、自分の好きなものをつくるという感じですね。

Lemm 自分が聴きたいものをつくっているというか。

ピノキオP そうですよね。でも、その「自分」って、「昔の自分」だったりしません?

全員 なるほど。

ピノキオP 「昔の自分が聴いたら喜ぶかな」って考えながらつくることが多いんです。たぶんそれは、今のリスナー層が若くなっているというところとも関係していると思うんですけど。

ササクレ それはありますね。実は僕、中学生の頃から日記やネタをノートにまとめていて、あまりに厨二病全開なので「黒の書」って呼んでいるんですが(笑)、歌詞を書く時にそれをさかのぼってみるんです。読んでいるとちょっと痛くなってくるんですけど、当時の感動もだんだん薄れていってしまうので、一番最初に感動した時のことなどを思い出しながら。

ATOLS 結局のところ、若い世代に興味があるんですよね。だから昔の若かった自分を想像するのかもしれません。即売会に来てくれることもあるんですが、その度に「何を考えているんだろう」「何に興味があるんだろう」、「自分が同じぐらいの時の考え方ってどうだったかな」とか、そういうことを考えながら、ボカロ楽曲制作の時には特に意識しています。

OSTER projectさん

OSTER 私たちの若かった頃と今の若い子とでは、そもそも音楽を取り巻く環境が全然違うから、今の子たちがどんな環境で音楽を聴いているんだろう、っていうのは常々気になるところです。

もう今はネットで聴けるのが当たり前じゃないですか。昔は自分の好みの音楽にたどり着くのって少し手間だったんですけど、今はクリック一つであっという間にできる。それにたぶん、ジャンルの違いみたいなものはあまり意識していないんですよね。ポップスからロックまで、いろんなジャンルが「ボカロ」として認識されて許容されているというか。そこもおもしろいですよね。

ピノキオP 最近だと高速なボカロックが流行っていると思うんですけど、これって、ボカロを聴いてきた世代がつくりはじめた曲って感じもしませんか?

OSTER 確かに。VOCALOIDが出てからもう6年以上経ちますからね。そういう世代がどんな音楽を生むのか、純粋に興味がありますね。

文:たかはしさとみ
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プロフィール

ATOLS

ATOLS

ボーカロイドプロデューサー

2004年頃からサウンドコンポーザー・ビートボクサー「better」として活躍。その後、2007年には「Atols」名義でメジャーアルバム『Lesson1』を発売。2010年からニコニコ動画にて楽曲を配信し、この頃より表記を「ATOLS」に変更。2011年以降は、初音ミクのボカロPとして楽曲を作成しつつ、PSP『セブンスドラゴン2020』に楽曲を提供するなど、多岐にわたり精力的に活動を続けている。

OSTER project

OSTER project

ボーカロイドプロデューサー

2000年よりネットを中心とした音楽活動を始める。JAZZからROCKまで幅広いジャンルの作曲を得意とし、その型に囚われない作曲スタイルやメッセージ性の高い歌詞により、多くのリスナーを魅了している。また、2013年からはDJとしての活動をスタート。さらなる活動の場を広げている。

sasakure.UK

sasakure.UK

ボーカロイドプロデューサー

幼少時代、8ビットや16ビットゲーム機の奏でる音楽に、その後学生時代は男性合唱、文学作品に多大な影響を受け、独学で音楽制作を始める。寓話のように物語の中に織り込められたメッセージ性を持つ歌詞と、緻密に構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立。音楽のみならず映像やデザインも手掛けるマルチな才能が様々なクリエイターから高く評価されている。

西島尊大

西島尊大

ボーカロイドプロデューサー

JAZZ、ポップス、プログレなど様々な要素を混ぜつつも、如実に現れるクラシックアプローチに懐かしさを感じさせる楽曲を生み出す。あまりに綺麗な旋律に心奪われ、音のブラックホールに吸い込まれる事必須。しかし、暗闇に挿し込む一筋のメロディでしっかりと聴く者をサルベージする非凡なクリエーター。

ピノキオP

ピノキオP

ボーカロイドプロデューサー

16歳から4トラックカセットMTRにMIDIドラムとギターボーカルを多重録音、
クラスの仲良い人のみに無理矢理聴かす音楽活動を開始。畑に囲まれた友人の家で、カラオケ機材に突っ込んだギターとドラムを偶然性にまかせながら演奏、奇声をあげたり、文化祭でのバンド演奏を、遠巻きに無表情で眺めるなどの活動も精力的に行っていた。2009年2月ニコニコ初投稿から今に至る。

Lemm

Lemm

ボーカロイドプロデューサー

横浜在住。幼少期よりピアノ、バイオリン、トロンボーン、ドラム、サキソフォン、等様々な楽器に触れて育つ。それに伴い、YAMAHA/QY20を使用して作曲を始め、DTMへの入り口に立つ。それまでの楽器経験を活かしつつも、時に型破りな手法を用いる。主にクリアな音色、透明感のあるサウンドを好み得意とする。

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