菅野 そうですね。菅野聡 補聴器とテイラーメイドイヤホンの両方に知見のある、日本で数少ないイヤーフィッティングのスペシャリスト。東京ヒアリングケアセンター青山店、認定補聴器技能者、唯一のJust ear耳型採取兼フィッティング技術者。
諏訪部 じっくり見られると何だか恥ずかしいですね(笑)。
松尾 耳の中の形を見ているんですが、中も細かったり、広かったり、あとは細いところと広いところがあったりというのがあるので、どこまで耳の型を採ればいいかとか、どうやってフィッティングさせるか。実際に見て、考慮して耳の型を採るんですね。
菅野さんは年間1,000人の方の耳の型を採っています。それこそ若いアイドルグループから、補聴器を使われるご老人まで、いろんな方の耳を見ていらっしゃるんです。
諏訪部 すごいですね……!
松尾 あとやっぱり、人によって耳の形も変わりやすいみたいで、例えばちょっと笑うと耳が大きく動く人とか。
──いますよね、耳が動く人。
諏訪部 自分も動きますよ、耳(笑)。
松尾 そういう方の場合、動いた状態でつくってしまうと、出来上がったときの形が変わってしまいますからね。
──今度は、すごく未来感のあるギアが出てきました。 菅野 通常の耳型を採る順番としては、耳の中に栓をして、それからシリコン剤を流して固めて終わりなのですが、「Just ear」の場合はヘッドゲージをつけて耳のサイズを測定するという工程になっています。
諏訪部 過去に何度かイヤモニをつくったことがありますが……こういう行程は初めてです!
松尾 「Just ear」は、使っている*ドライバーユニットが大きいので、それを耳のどこに配置させるかというのがすごく重要になっているんです。通常のイヤモニよりも外に出てくる部分が多いので、できるだけ耳に沿うような形にしたいんです。このヘッドゲージを使って、耳に対してどう沿わせるかというのを調整しながら、型採りするときに、それが型に反映できるようにしています。
*ドライバーユニット=ヘッドホンの音を鳴らす重要な部品
──そのユニットをどこに配置するかというのを、この作業で調整しているんですね。
菅野 人って、左右の耳の形が違うことも多いんですよ。「Just ear」は部品が大きいので、どう収めるかというのが結構難しいんですよね。
諏訪部 自分の耳はどうですか?
菅野 空間が広いので、部品は入りやすいと思います。ただ、より詰めていこうとしたときに、左右、ここら辺がちょっと違うんですよね、張り出し方が。
諏訪部 そこを個別にきちっと調整出来るのが、テイラーメイドの良いところですね。
──職人技ですね。
松尾 皆さんが思っている以上に耳って複雑なんです。形もそうですし、変化もする。そこも含めて理解されているというところが菅野さんのすごいところです。
──耳の形を測り終わったら、シリコンで型を採っていくんですね。
「Just ear」耳型採取のあとはコーヒーブレイクも味わえる
松尾 このシリコンもドイツから輸入している医療用の材料なので、通常ではちょっと手に入らなかったりします。耳の型を採るときに、口を少し開けた状態で固定しなければいけないので、僕らはちょっと席を外しましょう……。〜〜〜しばし席を外す取材班と松尾さん〜〜〜
──さて、耳型が採取できたところで、ここから音質の調整に入っていくわけですね?
松尾 その前にちょっとワンクッション入るんですよ(笑)。
諏訪部 なんでしょう?
松尾 諏訪部さん、コーヒーは大丈夫ですか?
諏訪部 はい、大好きです。……まさか、ここでコーヒーブレイクですか? 松尾 音質調整モデルの「Just ear」を購入されたお客様は、耳型を撮った後に、私のほうで音質のチューニングに入るんです。やっぱり長時間拘束されて疲れてしまうじゃないですか。なので、少しリラックスしていただきたくてはじめたんです。
諏訪部 こだわりの挽きたてコーヒーが頂けるなんて。まさかの展開ですね(笑)。
松尾 お客様とこういうやりとりをしていると、信頼関係じゃないですけど、割と良い関係になることが多くて。購入してくれたお客様がお店に遊びに来たりとか、差し入れを持ってきてくださったりするんですよ。「松尾さん、甘いもの好きでしょう?」って。メーカーとお客様との関係というのをちょっと越えることができて、自分としては面白がってやっています。
諏訪部 ある意味、「Just ear」は自分のカラダの一部となるようなアイテムですよね。納得のいくものを作るには密なコミュニケーションがやはり必要だと思いますので、緊張をほぐしていただけるのはありがたいです……う〜ん、良い香り! 本当に落ち着きますね。
入念なヒアリングを経て、自分の好みに合った音質の調整へ!
松尾 コーヒーブレイクも終わったので、これから音のチューニングをしていきます。「Just ear」自体は、実際に中のパーツをいじったりしながら音の調整をしていくんですけど、受注の段階では、それをシミュレーションで再現しながら聴いていただいて、こういう音にしていくという方向性を決めていきます。では、さきほどの諏訪部さんの音源を使って調整していきましょう。 諏訪部 「Linaria」の導入部は、スケール感のあるオーケストラの生演奏です。
松尾 オーケストラから入って、EDMの要素もありつつ。
諏訪部 はい。音の要素が盛りだくさんなので、どこか一部分にスポットを当ててまとめてしまうと、別の部分の聴こえが悪くなってしまったり。ミックス作業では、サウンドのバランス調整に苦労しました。生オーケストラとヴォーカルとの兼ね合いも案外難しく。
今回のチューニングでは、調和を崩さないレベルで個々のパートの輪郭を引き締めつつ、ヴォーカルの美味しいところをより引き出すような感じを目指してみたいと思います。ワガママ放題なオーダーでスミマセン。
松尾 わかりました! 結構難しい感じです(笑)。まず、今私のほうで聴かせていただいた感じと、諏訪部さんの声の魅力的なところの要素を踏まえて調整した状態で、1回聴いてみていただこうかなと思います。
諏訪部 わかりました。
松尾 では、再生させていただきます! 〜〜〜リスニング中〜〜〜
諏訪部 空間の広がりが感じられますね。非常に気持ちが良いです。ここからさらに調整するならば、倍音成分をしっかり含んだかたちで自分の声の存在感がもう少し立ってくると、さらに良い感じになると思います。“諏訪部感”アップですね(笑)。今でも十分バランスは良いのですが、声に着目してこのイヤホンならではの味付けが出来るとありがたいです。
松尾 そうですね、もう少し低音部分出ていたほうが、声にはさらに芯が出そうです。
諏訪部 しかし、ちょっと驚きました。自分はトラックダウンやマスタリング作業の際、スピーカーだけでなく、必ず複数のヘッドホンやイヤホンを使ってサウンドチェックを行うようにしているのですが、そのどれより自分好みの音です。音の定位がより明確で、ひとつひとつの楽器が良い意味で粒立っている気がします。フェロ☆メンの楽曲は、ヴォーカルの定位をあちこち動かす演出を施したりと、ヘッドホンやイヤホンで聴くことを想定した遊び心をあれこれ加えているのですが、その狙いがすべてきちんと伝わって来ます。とても良いですね(笑)。
松尾 さらにそこをより良くするために、制作者の方の意図も踏まえて、先ほどいただいた倍音成分も少し出して、という方向で調整しましたので、これでまた聴いてみていただきたいと思います。
〜〜〜リスニング中〜〜〜
諏訪部 さらに聴きやすくなりました。
松尾 もう少し極端に振ってみたりもしますか?
諏訪部 そうですね、Lowをもっと出してみていただけますか。わざとらしい音になってしまうかもしれませんが、声の特徴をより一層際立たせたらどうなるか、ぜひ試してみたいです。汎用性はとりあえず置いておいて。
松尾 まさにそれを実現できるというところが、この「Just ear」の面白いところなんです。
諏訪部 フェロ☆メンは2人組のユニットなのですが、それぞれの声の美味しいレンジは異なります。しかし、どちらの良さもしっかり聴こえていますね。ユニゾンで歌っているパートも、まとまり感はありつつ、それぞれがきちんと存在している感がある。この両立はうれしいですね。
松尾 これ多分、ファンの方が聴くとたまらないんだろうなと思います(笑)。男の私が聴いてもちょっと、ぐっと来ますもんね。
さらに、少し極端かもしれませんけども、振った状態で聴いてみていただきます。 〜〜〜リスニング中〜〜〜
諏訪部 Lowを強調したことで、特にチェロなど低音の弦楽器が前に出て来た感じです。ヴォーカルの方は、ちょっと雑味が増えてしまったような印象です。ここまで出す必要はないみたいですね。しかし、この低音が全体を支えている感は捨てがたいものが……。悩みますね〜(笑)。
松尾 では、今の間をとるぐらいのところで調整してみようかなと思います(笑)。
〜〜〜リスニング中〜〜〜
諏訪部 全体的にとても良いバランスになりました。良い意味でそれぞれの音の輪郭がはっきりしています。粒立ちながらもまとまりのある音。この感じが良さそうです!
松尾 ありがとうございます。今はシミュレーションで調整させていただいていますが、ここの条件のままテイラーメイドで製作します。基本的にはこれと同じ状態で聴けるものがテイラーメイドで出来上がってくる予定です。
あとは実際に聴いてみていただいて、思ったよりもこうだったほうがいいかなとか、それこそ実際に完成版の音源を聴かれたときに、こうしたいとかというのも出てくるかもしれません。そのときはまた調整させていただく形にしましょう。
諏訪部 そうですね。今回使用した音源はマスタリング前のものなので、商品として完成した音源はもうちょっと変わってくる可能性もありますので。しかし、徐々に思い通りの音に仕上がっていく過程は本当にワクワクしますね。
松尾 ありがとうございます。
諏訪部 完成が楽しみです!
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