音楽家/文筆家の木石岳さんの書籍『ホラー映画のサウンドスケープ──〈否定の音楽〉論』が、白水社から9月24日に刊行される。
定価は2,420円(税込)、四六判・250ページ。
本書が問いかけるのは、「なぜ、あの音は怖いのか?」。
無調、反復、そして無音──ホラー映画に潜む現代音楽の手法を手がかりに、映像とともに恐怖をつくり出す「音」の正体を解き明かしていく。
無調、反復、無音──ホラー映画を「音」から解剖
ホラー映画の恐怖は、画面に映る怪物や惨劇だけから生まれるわけではない。
鑑賞する者を突然驚かせる大音量のジャンプスケア(飛び上がらせるほどにびっくりさせる演出)や、聞き慣れない不協和音。あるいは、それまで鳴っていた音が不意に消え去る沈黙。
白水社は本書について、「ホラー映画にひそむ現代音楽の手法を解剖」する一冊と紹介。「怖いのは旋律ではない。沈黙は幽霊を呼ぶ」と謳っている。

『ホラー映画のサウンドスケープ――〈否定の音楽〉論』裏表紙/画像はAmazonより
題名に冠された「サウンドスケープ」は、個々の劇伴だけではなく、環境音やノイズ、声、沈黙などを含め、その場を満たす「音の風景」を指す言葉だ。
ヴァイパーウェイヴやドリームコアなどの音楽の潮流も引きながら、ホラー映画の古典であるアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』からスタンリー・キューブリック監督『シャイニング』、そして川村元気監督の『8番出口』まで。恐怖を引き起こす「音響術」を分析する。
音楽と言葉を横断する木石岳
著者の木石岳さんは、山口県下関市出身の音楽家/文筆家。
エレクトロニカユニット・macaroomでは、作詞/作曲/編曲、プログラミングなどを担当。NHKドラマ『星とレモンの部屋』『生理のおじさんとその娘』などの劇伴制作にも携わってきた。
自身のYouTubeチャンネル「アサヒ 音楽と文学は色ガラス」では、現代音楽からポップミュージック、文学、映画まで幅広く批評/解説している。
2018年には、現代音楽を題材にした『やさしい現代音楽の作曲法――はじめての〈脱〉音楽』を刊行。2023年の『歌詞のサウンドテクスチャー――うたをめぐる音声詞学論考』では、歌詞を音声や響きから読み解く試みを展開している。
今回の『ホラー映画のサウンドスケープ』も、音楽や言葉を、それを構成する「音」そのものから捉え直してきた木石岳さんの活動の延長線上に位置する一冊と言えそうだ。
映画『バックルームズ』の「リミナルスペース」も論じる
さらに本書では、9月4日に日本公開されたA24のホラー映画『バックルームズ』にも通じる、「リミナルスペース」のサウンドスケープについて論じられている。
リミナルスペースとは、無人の廊下やオフィス、商業施設など、本来は人の存在を前提とする場所から人だけが消えたような、不安を誘う空間を指す言葉。匿名掲示板・4chanを起点に広がった都市伝説「The Backrooms」も、その代表的なモチーフとして知られている。
白水社も『バックルームズ』の日本公開にあわせ、本書がリミナルスペースのサウンドスケープを扱うことを紹介している。
木石岳さん自身も『バックルームズ』と深く関わっており、8月26日に行われたドルビーシネマ試写会では、上映後トークのゲストとして登壇。さらに劇場パンフレットには、「劣化した記憶のサウンドスケープ」と題した文章を寄稿している。
ホラーを「見る」だけでなく「聴く」ことで、恐怖の輪郭はどのように変わるのか。『ホラー映画のサウンドスケープ』は、その聴覚を開くための一冊になりそうだ。
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