魅力的な“嘘”をつくために

──“ハッタリ感”というお話がありました。redjuicesさんはイラストや小説についてのそういった嘘というものを、どういうふうに考えていますか?

redjuice イラストって、8割か9割が嘘(フィクション)なんですよ。(写実ではない)リアルじゃないものにいかに説得力を持たせるかが勝負で、イラストレーターはあらゆるテクニックを使って嘘をつきまくるんです。レンダリングでも影でもライティングでも、現実の世界そのままではなく、作品のために嘘をついた表現です。

代表的なのは、パースの嘘ですね。三点透視だったり二点透視だったり、パースの有名な手法はありますが、どれも嘘ですから。人間の目が実際に見ている世界は3次元ですよね。ある点から別の点に線が走ってるとします。それを二点透視や三点透視で描く場合、その線は消失点に向かって一直線に描かれます。でも現実の3次元の世界では、その線の見かけの角度は視線との交差によって変わるため、平面上に正確にプロットするのがそもそも無理なんですよ。あとは光学、3DCGのシェーダーの原理、物理学、解剖学なんかも交えながらも、よくわかんないところも嘘を入れて良い感じにごまかすというか(笑)。

クリエイターの腕の見せ所は、どれだけ楽しい嘘をつけるのか、だと思うんですよね。嘘をつくのには技術が要りますから。

──redjuiceさんも長谷さんもそうですが、クリエイターとして成功するには、高い嘘の技術を獲得したり、新しい嘘のつき方を発明したり必要があると思います。そのためには何が必要なんでしょうか?

redjuice まず、基礎知識がないと嘘はつけないんですよ。だからまずは、嘘をつくための筋トレをしなきゃいけない(笑)。例えば知識も勉強もそうです。物理や数学、工学、光学、色彩、雑学の本を読んだり、YouTubeでチュートリアルを見て3Dの勉強をしたり、デッサンの勉強をしたり、それらは嘘をつくために必要な筋肉を鍛えているんですね。

長谷敏司 僕としては、いかに普段の生活の中とかでアンテナを張って準備しておくか、ですね。書きたいものができてから勉強を始めるのは大変ですから。特に、半年後に締切りという仕事であれば、半年分の勉強しかできないわけです。でもそれまでの間にずっと勉強をしていたら、その分の勉強量を乗せることができますよね。これは日頃からやっておかないとできないことです。

redjuice 僕は、寄り道しすぎちゃうんですよね。ビジネス的にはとても非効率なんですが、「HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)」という映像表示技術が気になって調べてみたり。やり始めるといろいろ派生してあれもやりたいこれもやりたいとなって、時間がかかりすぎてしまう。スケジュールを圧迫するのであまりよろしいことではないんだけど、作家としてはそういうことが後々生きるだろうなとも思うようにしています(笑)。

あとは、特に何かひとつ、「自分はこれが好きだ」というものがあれば、それは絶対的な強みになります。以前、専門学校で学生の作品の添削をしたとき、やたらとギターの絵が上手い子がいたんです。本当にそれだけでもう、いい絵になるんですよ。フレットの間隔、パーツの配置がちゃんと音の鳴る形になっているし、使い込んだ時の色褪せや傷の付き方までこだわりがあって、とても楽器が好きなんだとわかりました。まず自分の好きなところから入って、あとからそれに必要なものを足していく、でいいと思うんですよ。あとは深掘りする執着心。どこまで深く掘れるかにかかっています。

長谷敏司 僕ももう一つだけ挙げるとすれば、目を育てることだと思います。生成AIで出したいものを出す場合ですら、その次があるんです。どういうことかというと、作品という嘘をついた後には、それが本当にすぐれているか、本当に好きなものを自分の手なりAIなりで出力できたかどうかを判定する、チェック工程があるんですよ。このとき、よいものがなぜよいのかわかるように目を鍛えておかないと、できあがった現物に幻惑されてしまう。

AIが普及して、生産性が上がったにしても、最後には目のいいやつが勝つ構図は今と変わらない気がする。90点以上が全部同じに見える目でチェックしていては、自分にとっての120点を目指してギリギリまで追い込む人間に勝つのは無理ですから。120点を目指せる目と身体感覚を鍛えるために、結局、自分の手でつくるようになる人は増える気もします。

キャラクターの「運用」、VTuberの危険性

──VTuberのお話も先ほど出ました。VTuberに象徴されるような現在のキャラクターのつくられ方、あるいは意味とか存在意義とかといったものは昔とは変わってきているでしょうか? 現在の「キャラクター」はどういうふうに見えてらっしゃるんでしょうか。

長谷敏司 昔と今の違いで言うと、今はキャラクターを売るためには、つくるノウハウと運用するノウハウという2つのものが必要になってると思います。昔はその2つは、「キャラを立てる」みたいに一緒に扱って問題ないノウハウだったのに、現在はこの「キャラクターの作成と運用との分化」が高度になってきたという点は、新しい現象なような気がしています。つくる側だけではなくて、ユーザーとのコミュニケーションの中でキャラクター性が変わってくる部分もかなり新しい。 ──取材を受けてくださるVTuberや声優さんの中には、自分自身がどんどん演じているキャラクターに引っ張られていく、同化してきてしまうということをおっしゃる方もいます。

長谷敏司 キャラクターに感情を乗せるときに、キャラクターを演じながら、しかもVTuberの場合は配信でリアルタイムで振る舞わないといけない。そうなると確かに自分を洗脳するという現象が起こりそうな気はします。生の人間だからこそのリアクションやアクションができるのは、キャラクターコンテンツとして強いけれど、人間が完全にコンテンツになりきるのは無理なので、ストレスも過酷だと思います。

スパチャがもらえる、同接数が増える、そういった報酬が与えられるタイミングが、キャラクターを演じているときなのは、過酷そうです。それまでの人生がある個人の脳なのに、脳が勝手にキャラクターへの報酬に対して最適化しようとする、キャラクターと自分を同化しようとする──というような感じなのかもしれませんね。

──役を演じることで報酬をもらうという点では、役者さんや俳優さんに対しても同じことが起こったりするのでしょうか?

redjuice むしろそっちの方が強いんじゃないでしょうか。演じる人物になりきる「メソッド演技法」ってハリウッドではよく採られていますけれど、あれも精神を壊すらしいですよね。『ダークナイト』でジョーカーを演じたヒース・レジャーや同じく『JOKER』を演じたホアキン・フェニックスが有名ですけれど、心身ともに実生活レベルで役に自分を適応させていくわけですから。

長谷敏司 ただ、俳優さんたちとVTuberの人たちとの違いは、VTuberでは数字という精密な評価が配信中にリアルタイムで見えてしまうということだと思うんですよ。そのわかりやすさと正確さはやはり、ぜんぜん違うと思いますよ。

redjuice 今のVTuberも、プロデューサーの方でちゃんとスケジュール管理とか1日配信は何時間までとか、メンタルも含めてケアしてあげないと危ないとは思います。

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イベント情報

REDBOX

開催期間
2024年3月22日(金)〜 4月7日(日)
開催場所
有楽町マルイ8F マルイノアニメ「SPACE7・8」
営業時間
11:00〜19:30(最終入場18:50)
入場料
無料

スタッフ:
企画 株式会社レッドボックス
株式会社ヴィ
主催 株式会社レッドボックス
協賛・協力 株式会社ACG
株式会社カイユウ
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
草野剛デザイン事務所
CLIP STUDIO PAINT
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社
株式会社Tokyo Otaku Mode
ピクシブ株式会社
株式会社ワコム
デザイン 株式会社ハングオーバープレート
ウェブサイト 株式会社レッドボックス

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プロフィール

redjuice

redjuice

イラストレーター/デザイナー

イラストレーター/デザイナー。2007年頃よりイラストレーターとして活動し、クリエイターユニット「supercell」とのコラボレーションが話題に。2011年放送のTVアニメ『ギルティクラウン』のキャラクター原案に抜擢されたことで脚光を浴びると同時に、コンセプト策定・デザイン・キャラクター原案といった分野まで活動範囲を広げる。以後、2015年公開映画『Project Itoh』全作品(『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』)のキャラクター原案、小説/TVアニメ『BEATLESS』のキャラター・コンセプトデザイン等、様々な分野で活躍している。愛称は「しる」。

長谷敏司

長谷敏司

小説家

1974年大阪府生まれ。関西大学卒。2001年、第6回スニーカー大賞金賞を受賞した『戦略拠点32089 楽園』で作家デビュー。2009年、初の本格SF長篇『あなたのための物語』で「ベストSF 2009」国内篇第2位。2014年、「allo, toi, toi」ほか4篇収録の作品集『My Humanity』で第35回日本SF大賞を受賞した。さらに、『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』で2023年の第54回星雲賞の日本長編部門、および、2024年の第44回日本SF大賞を受賞している。『BEATLESS』(’18アニメ放映)の世界観と設定をオープンにするアナログハック・オープンリソースを運営中。

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