裏技なんてない──Web小説に最適化するため試行錯誤する日々
──本腰を入れて投稿をスタートしたきっかけは何だったんですか?森田季節 空き時間ができたことが一番大きかったと思います。ただ、きっかけはもう一つあって。友人の作家に、Web小説出身の作家さんの話が聞きたいとお願いしたんですよ。
そのとき、その友人から「構わないけど、本気で挑戦してから聞いた方がいい」と返されて。たしかにWeb小説に挑戦したこともない奴が、話を聞かせてくださいというのは失礼な話だなと反省しました。それで、明らかにWeb小説の側の方からも自分たちの側の人間だと思ってもらえるぐらいには投稿してやろうと。
──その結果、書籍化に繋がったんですね。
森田季節 はい。その後、実際にWeb小説出身の作家さんにお話をうかがったんですが、やっぱり書籍化への裏技なんてなくって。
その時に聞けた話は、どんどん更新していくとか、終わらせる作品はちゃんと物語を完結させるとか、読者の方が楽しめない展開をあまり多く入れないとか、連載を続けるうちに自然と行っていたようなものでした。
時流を読みつつ、継続的に投稿するしかない。僕の場合、お話を聞くために連載をはじめたら、書籍化に辿り着くことができました。
最初に『チートな飼い猫のおかげで楽々レベルアップ。さらに獣人にして、いちゃらぶします。』の書籍化オファーが届いたときは、とても嬉しかったですね。 ──2016年には『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』で投稿サイト上の日間ランキング第1位を獲得しました。
森田季節 あの時は報われたという気持ちが一番でした。既に商業デビューしている書き手が小説投稿サイトに現れたら、やっぱり嫌がる人も多いと思うんです。
でも、日間ランキング1位を獲ったときには、交流も何もなかったWeb小説の作家さんたちまで褒めてくださって。Web小説の世界で受け入れられている実感があって、とても嬉しかったです。
──日間ランキング1位になるまで、欠かさずしていたことはありますか?
森田季節 失敗したら次の作品で修正する、という形でハイペースに投稿をしていました。バッティングセンターで少しずつフォームの修正をしていく、そんな感覚に近いと思います。
『スライム倒して300年』のときは散歩中にふとタイトルが思いついたから、プロットなしで書きはじめたんですよ。だから、書籍版の第1巻・第2巻ぐらいの話は、とにかく新キャラクターが登場していて(笑)。いわば小説の自転車操業だったんですよね。
Web投稿していたときに読者から不評だったエピソードとかもあって、書籍化の際に削除するなんてこともしています。
Web小説で人気を得るために絶対必要なこと
──新しい連載を始めようというとき、森田季節さんはどういった形で企画を考えられるのでしょうか。森田季節 Web小説って、小説家が書きたいものを書いて人気になることは極めて少ない分野なんですよ。そのときの日間ランキングと月間ランキングを見て、分析することが本当に重要で。
タイトルによく入っている単語を見つけたら、そこからお話を考えていく……という流れで作品をつくっていきますね。ランキング上位がSFで埋まっているところにラブコメを投げる人はあまりいないでしょうし、本当に読者から人気を集めたいのであればランキングを確認することは必須だと思います。 ──小説投稿サイトごとに傾向は存在すると思いますが、「ノベルピア」のような新興サイトの場合はいかがでしょうか?
森田季節 その場合でもランキングを見て、考えることが必要だと思います。一方でランキングを気にしないで「俺はこれを書きたいんだ!」という作品を発表したい人もいるはずです。そういった方は新人賞に応募する、という選択肢も考えてみてもよいかと思います。
サイト内でのランキングに乗りづらそうでも作品を世に出したい、という場合は、今回の「ノベルピアWEB小説コンテスト」のような賞に投稿するのもありだと思います。
小説家・森田季節が最もセンスを感じた作品
──今回、森田季節さんは「ノベルピアWEB小説コンテスト」の特別審査員をつとめられました。審査で読まれた作品からは、どういった印象を受けましたか?森田季節 ライトノベルの新人賞に比べると、振り幅が広かったですね。ライトノベルの新人賞って「新しい才能を重視してます!」とは言いますけど、大前提として文章の上手さで選別されてしまう面はあります。「才能はあるが日本語になってない」ものは小説としては評価できないのは、やむをえないところです。
ただ、最終選考作品を読んだ限りにおいては、Web小説の賞では「文章に穴はあるけどセンスがいい」という作品でも上に進める可能性がライトノベル新人賞よりも高くなっていると感じました。
もちろん卓抜した文章の方もたくさんいましたが、一方でライトノベル新人賞だったら内容は面白いけど二次選考の段階で落とされてしまうだろうなという原稿もあったんです。 ──その中でも特にセンスが光っていた作品について教えてください。
森田季節 銀賞の『人間嫌いの大賢者に創られた最強の魔法人形は人間に憧れて旅に出る』(外部リンク)という作品です。
この作品は人形の主人公が生と死についてやり取りをしていく──というもので。普通の作品では死の扱いについてそこまでは踏み込んでこないだろうというところで、いきなり突っ込んでくる表現があったりして。とてつもないセンスを感じました。
ただ、一文が全体的にかなり長い傾向にありました。違う内容の文章を一文にまとめているせいで、主語と述語の関係がおかしい箇所がいくつか見受けられて。そういった文章も作者の方の個性とも言えるのですが、今の段階だと日本語としての不自然さのほうが勝ってしまっている印象です。
これから文章の技術を直していけば、本当に唯一無二の作品になるのではないかなとも思いました。
ただ、直すというのも難しいところで……文章を調整した結果、逆に面白くなくなってしまうケースもあるんですよね。
これが小説の厄介なところで、文章としては読みやすくなっているのに本来の味が薄れてしまうことがある。無責任かもしれませんが、書籍化などの際は編集者の方はぜひこの作品のよさがより多くの人に伝わるような改稿を提案していただきたいです。
本当に「この表現、うまい!」と感じるところがいくつもある小説でした。
──それでは、金賞の『俺だけスキルツリーが生えてるダンジョン学園』(外部リンク)はいかがでしたでしょうか?
森田季節 この作品は、現代世界に現れたダンジョンをクリアし、スキルを獲得することで成長していくという物語です。
物語の核となるスキルの設定にオリジナリティがあり、それがちゃんとストーリーに生かされていたのがよかったです。
加えてこの作品には、20話以上の連載が応募条件になっている今回ならではの評価点がありました。冒頭では文章が設定の羅列になっている印象が強かったんです。もちろんそういうWeb小説の文体も一般的なんですが、一文一文がコンパクトすぎて、キャラクターの個性を表現したりするのには不向きな面もあります。
それが、回を重ねるにつれて、文章も変化していって、キャラクター同士の人間ドラマで読者を引き込めるようになっているんです。
連載を続けることで作者が成長しているんです。
これは、ライトノベル新人賞など応募に原稿用紙の枚数制限がある形式では見られない面白さでした。読んでいて作者を応援したくなりましたね。
センシティブな題材を扱うなら、ちゃんと踏み込む胆力が必要
──「ノベルピアWEB小説コンテスト」では、『そうだ。奴隷を冒険者にしよう』(外部リンク)が大賞に輝きました。森田季節 この作品はむしろ、純粋に文章がめちゃくちゃ上手かったです! ライトノベルでも新人賞レベルでこれほど上手い文章に出会ったことはほとんどありません。
Web小説的なキャラの立て方ができているし、文章に文芸的な表現のうまさもある。それでいて、敵が退場していく展開などもよく考えられています。今後の続きも本当に気になります。
非の打ちどころがない作品でした。正直、これが大賞になるのはもう確実だなと感じていましたね。
──ノベルピアを他の小説投稿サイトと比較したとき、成人向け作品の投稿ができる、という特徴があります。大賞の『そうだ。奴隷を冒険者にしよう』も奴隷というセンシティブな題材を取り扱っていますね。
森田季節 これは難しい側面もあって。もしアニメ化やコミカライズとかまで見据えているのであれば、“奴隷”というワードをタイトルに入れてしまうと、躊躇してしまうプロデューサーさんや編集者さんがいらっしゃるかもしれません。
僕はそんなことを考えてしまうんですけど、新人賞に投稿する段階で、そこまで考えて書くなんてしなくていい(笑)。それにこの作品はテーマとして、物語として奴隷を扱うことに必然性がありましたから。ノベルピアで行われた小説賞ならではの投稿作だったのかなと思いますね。
この作品には、信頼や依存やいろんな感情が混ざり合った奴隷と主人の人間関係を書くことに強い必然性があります。しかし、ただ目立つからというだけで攻撃的だったり差別的だったりする内容を入れてしまうと、それで作品の広がりを弱めるケースも考えられます。
そこは今後コンテストなどに投稿される方などは気をつけていただくほうがいいかもしれません。
Web小説らしくない作品も受け入れる「ノベルピアWEB小説コンテスト」
──まだ第1回、生まれたばかりのコンテストですが、次回が開催されるとしたらどんな人に投稿を勧めたいですか?森田季節 まだまだはじまったばかりで、未知の話なので断言はできませんが──回数を重ねたコンテストだと、どうしても受賞作の傾向が固まってしまうことが多いです。
その点、今回のコンテストではSFやR-18作品が各賞に選出。大賞作品のように、少し堅い文体で、Web小説的な世界を描く作品も見られました。
こういった作品はこれまで、ライトノベル・Web小説の双方で評価されづらい傾向がありました。今回のコンテストは、既存の評価軸では評価されづらかった作品が日の目を浴びる場になっていたと思います。
なので、Web小説の主流とは少し違った作品を書く人は、受け入れてくれる「ノベルピアWEB小説コンテスト」に投稿するといいと思います! ぜひ、そういった方にはノベルピアを覗いてみてほしいですね。
「第1回ノベルピアWEB小説コンテスト」の投稿作を読んでみる
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