大事なのは誠実さ、審査基準も考察

太田祥暉 賞金以外に、受賞の特典って何かあるんでしょうか?

松浦恵介 これも明確には提示されていませんが、審査基準の項目を見ると、メディアミックスを想定しているのはうかがえます

太田祥暉 そういえば「ノベルピア」って、「TOPTOON」と連携しているんですよね? ということは、今回のコンテストの受賞作もWebToon化される可能性が高そうですね。

改めて募集要項を見てみると、R-18作品も募集していて、しかも一般向け作品と部門を分けずに、同じ土俵で審査するという形式は興味深いですね

「第一回ノベルピアWEB小説コンテスト」募集要項/画像はコンテストページから

松浦恵介 要項は全体的におおらかで、他社サイトに掲載している作品でも、無料連載している作品ならOK。共同執筆作品もOKになっています。中国では複数人で小説を制作するチームがあると聞きますが。

太田祥暉 日本だと、「更伊俊介」(※)のようなケースがありますが、一般的ではないですね。昨今だとアンソロジーとかも人気なので、同人サークルで投稿してくるようなケースがあるかもしれません。

更伊俊介:同じ大学の工学系出身の「更」さんと、文学部出身の「伊」さんによる共同ペンネーム。ライトノベル『犬とハサミは使いよう』で知られる。

石井ぜんじ 自由な雰囲気を感じますね。懐が広く、ジャンルは何でもいい的な。

松浦恵介 間口はすごく広いんですけど、その反面、審査基準は明確に提示されていますね。募集要項のページには5つの審査基準が載っているんですが、これが面白いんですよ。

まず1つ目は発展性。作品が今後さらに良い方向へ成長するか。

「第一回ノベルピアWEB小説コンテスト」審査基準/画像はコンテストページから

石井ぜんじ 広がりを持たせながら、連載を継続させられるかという点でしょうね。

松浦恵介 2つ目は独創性。これは新人賞では当たり前のポイントですね。そして3つ目は拡張性。ゲームやWeb漫画など、様々な分野に広げられるかが大事なようです。

石井ぜんじ 漫画だけではなく、ゲーム化も検討しているのか。

松浦恵介 4つ目は大衆性。幅広く受け入れられる作品であること。で、最後の5つ目が面白くて、誠実性(笑)。コンテスト期間中に定期的に連載できたかどうかも、評価の重要なポイントらしいんですよ。日本よりもWeb小説の産業化が進んでいる韓国らしい点かもしれません。

石井ぜんじ なんだかライターの記事の査定みたいだな(笑)。「ちゃんと毎回締め切りを守って記事が上がってくるか」みたいな。

太田祥暉 たとえば、コンテストが終わって受賞したあとに連載が途絶えたら、運営さんから怒られたりするんですか?

松浦恵介 募集要項を読むと、無断で長期間連載をストップさせた場合、受賞が取り消される可能性もあるようです。厳しい!(笑) 

「受賞したけど事情があって連載を続けられないよ」という場合は、運営さんにきちんと連絡を入れて相談しましょう!

石井ぜんじ 審査のポイントをこれだけ明確に出してくるのは面白いですね。日本の新人賞では、ここまではっきり書かない気がします。その辺は海外っぽいなと思いました。

松浦恵介 明瞭なのは良いことですね。あと、日本の一般的な新人賞と違うので注意しないといけない点としては、プロローグ以外は必ず一話あたり2000文字以上書かないといけないということ

2000文字って結構微妙な量なので、ジャンルによって若干の有利不利があるかもしれませんね。極端な例を言うと、ギャグ中心の作品だと一話2000文字は書く方も読む方も苦労しそうです(笑)。

「第一回ノベルピアWEB小説コンテスト」連載規則/画像はコンテストページから

Web小説新時代 時代が求める作品とは?

松浦恵介 さて、ジャンルの話が出てきたところで、「今回のコンテストではどのジャンルの作品が多く送られてくるか」、あるいは「どんな作品に出てきてほしいか」などの話に移りましょう。コンテストに対する、予測と期待ですね。

太田祥暉 今のところ、サイトのホーム画面に表示されている作品を見ると、日本の他のサービスと同じく、異世界ものや成り上がりものが多い印象を受けますね。

石井ぜんじ Web小説って、流行に乗れる時期もあれば、投稿数が増えすぎると埋もれてしまいやすくなることもあって、時期によって読まれやすいジャンルと読まれにくいジャンルがあるじゃないですか。

「ノベルピア」だと読まれやすいジャンルとかあるのかな。

松浦恵介 傾向は日本のほかのサイトと似たような感じじゃないでしょうか。今回のコンテストでは、いわゆる読者選考は使わず、選考者が応募作を読むようなので、ジャンル自体の人気を気にせずに応募してみてほしいですね

太田祥暉 この手のコンテストの初期って、独自性の高い尖った作品が評価されやすい印象があります。他のサイトではあまり読まれない作品を投稿してみるのもありかもしれない。

石井ぜんじ 『ライトノベルの新潮流』をつくるときに調べていて思ったんだけど、新しい新人賞って、それまでにないような新しい作品が出やすいんだよね。

何度も回も重ねちゃうと、募集側も応募側もこなれてきて、面白味がなくなってくる部分がどうしても出ちゃう。そういう意味では、初回っていうのは大きなチャンスだと思います。募集する側にとっても、応募する側にとっても。

太田祥暉 ライトノベルのトップレーベルである電撃文庫の歴史を見ても、初期の頃は異色作品が多いですし、その一つである第4回の大賞受賞作『ブギーポップは笑わない』は、その後時代の流れをつくっていきました。カテゴリーエラーを気にしない胆力があるとうれしいですね

『ブギーポップは笑わない』/画像はAmazonから

松浦恵介 「自分が歴史をつくるんだ!」くらいの気持ちで、意欲作をぶち込んでほしいね。

それはそれとして、ノベルピア側としては、やっぱり現在人気のジャンルの作品も欲しいんじゃないかと思うんです。テンプレ作品だからダメ、ということはないはず。Web小説のテンプレを上手く活用した作品も見てみたいですね。今WebToonで人気の悪女もの、悪役令嬢ものみたいな作品があってもいい。

太田祥暉 悪役令嬢ものはいろんな作品が刊行されてアニメ化作品も増えてきているので、自分も描きたいという人が増えていると思うんですよ。

松浦恵介 最初は「ノベルピア」って男性向けR-18作品が多いので、女性はちょっと近寄りにくいかなとも思ったのですが、すでにある作品を見ても悪役令嬢もあればBLもありという感じで、全然そんなことはないですね。

個人的には、男性向けR-18作品に頑張ってほしいなと思っています。少し前に『ゾンビが溢れる世界で俺だけが襲われない』という作品が流行ったじゃないですか。

『ゾンビが溢れる世界で俺だけが襲われない』/画像はAmazonから

石井ぜんじ Twitterでよく見た、「男の人っていつもそうですね!」のあれだね(笑)。

松浦恵介 あの作品は最初男性向けR-18Web小説サイトで連載されて、書籍化とゲーム化を経てフルカラー漫画になり、セリフがミーム的にウケたことで爆発的にヒットしたじゃないですか

男性向けのR-18作品かつゾンビものであっても、作品とメディアミックス展開が上手くハマれば大成功できるという事実を示してくれました。そういう作品が「ノベルピア」から出てきてほしいです。

石井ぜんじ ゾンビは昔から定番のジャンルではあるんだけど、Web小説の主流ではない感じだよね。あの作品はとても文章が上手くて、完成度が高いので、特別な感じはしますが。

松浦恵介 ほかにも女性向けR-18のWeb小説サイトから生まれたヒット作として『JKハルは異世界で娼婦になった』が思い浮かびます。こちらも書籍化・コミカライズされ、幅広い層の支持を獲得しています。

太田祥暉 個人的には「今のライトノベル」を象徴するジャンルだと思うのでラブコメに期待しています。

ただ、最近は出オチだったり、一発ネタだけで突っ走っているような作品が多いので、そこを打開してジャンルを刷新するような、何か新しいアイデアの作品が出てくると面白いと思います。後続の作品がどんどん生まれる土壌にもなるので。

石井ぜんじ 僕はどういうジャンルがいいかということはさておき、アニメ化するようなビッグタイトルが出てきてほしいと思います。「ノベルピア」の小説サイトとしてのブランド力を上げるような作品が出てきてほしい。

アニメで興味を持った読者が「ノベルピア」にやってきて、サイトにも作家にも利益が回るようになるのが理想です。話を戻すと、僕は昔からあった定番のジャンルでも、現代の感覚で言えばみんな新しいものになるんじゃないかと思っているんです

新しい感覚を用いて書けば、どんなジャンルでも新しいものになるんじゃないかな、という感じですね。

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プロフィール

松浦恵介

松浦恵介

ライトノベル編集者

1980年、広島県生まれ。ゲーム雑誌の編集者などを経て、現在はフリー編集者/ライター。エンタメ系の書籍やムック、ライトノベルの編集のほか、ゲームの開発協力などにも携わる。

石井ぜんじ

石井ぜんじ

元『GAMEST』編集長

1964年生まれ、神奈川県出身。アーケードゲーム専門誌『GAMEST』の元編集長、ゲームライター。主な著書は『ライトノベルの新潮流』『ゲームセンタークロニクル』『石井ぜんじ「ゲームクリエイター」インタビュー集 ゲームに人生を捧げた男たち』『石井ぜんじを右に!』。ゲーム、ライトノベル、SF、ミステリ、アニメ、VTuberなどエンタメ全般に興味あり。

太田祥暉

太田祥暉

アニメ/ライトノベルライター

1996年生まれ、静岡県出身。編集者・ライター。編集プロダクション・TARKUS所属。アニメやライトノベル、特撮を中心に活動中。主な構成書籍に『石浜真史アニメーションワークス』『世話やきキツネの仙狐さん オフィシャルファンブック もっともふもふするのじゃよ!』など。担当中の雑誌に「ニュータイプ」「宇宙船」「ドラゴンマガジン」など。

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