後半戦:おめがシスターズ、0b4k3、篠田利隆によるVRクリエイター座談会
「アイマリンプロジェクト」はパチンコメーカー・SANYOの次世代エンタメコンテンツ創出プロジェクトとして、これまでにもヒゲドライバーさん、emon.さんを起用し、ファンからも「神曲しかない」と称されるキャッチーな楽曲を制作。篠田利隆さんによるVRやフォトグラメトリーなどの最先端技術を取り入れたMVとともにリリースし、注目を集めてきた。
後半では、VRワールド「メタバース水晶宮」の制作を担当した0b4k3さん、MVを担当した映像監督・篠田利隆さんが登場。
ワールドの細部、演出に込めた意図、MV制作の裏側、それぞれの表現の強みや「メタバース水晶宮」で開催される今後のイベントについてお話をうかがった。
座談会では、おめがシスターズの2人もクリエイターとして参加。「アイマリンプロジェクト」と同じく、リアルとバーチャルを越境する表現を続ける2人は、バーチャルを専門とするクリエイターとして「アイマリンプロジェクト」をどう見ているのか――。
「サイバーパンク」すぎない、世界観に合う街
──おめがシスターズの2人には、前編でもこのワールドの細部を見ていただきました。いかがでしたか?本当に住みたいですね。
入り口のシャチホコや門からワールドの雰囲気が伝わってきて、そこから奥に進むと実際にこの世界が広がってるのにめちゃくちゃ感動しました。
没入感がすごいですよ。
ワールドに入ったとき、最初はワイヤーフレームだけが表示されて、そこから進んでいくと世界が広がっていく演出とか、細部のクオリティが高いですよね。
前編のあといろいろ見て回ったんですが、イチカゼロちゃんのお部屋に行くまでの、奥まった通路を歩くのも楽しくてワクワクしました。
SANYOさん主導で、プロジェクトチーム全体で原作小説を制作。その小説をもとに各MVの世界観をつくり出していっています。
僕自身もVRが好きで、0b4k3さんがつくっているワールドにもよく行ってるんです。そういう中で「この小説の世界観を、0b4k3さんにつくってもらったらどうなるんだろうか」とお願いしたという感じです。
篠田さんからいただいたテーマの中に「サイバーパンクのようにネオンがいっぱいある複雑な街と、世界観を表現する細かなディテールがたくさん詰まった街にしてほしい」という話がありました。
参考としていわゆる「サイバーパンクっぽい街」の参考資料をたくさんいただいていたんですが。
実際に「アイマリンプロジェクト」の小説を読んでみると、真ん中にビルがあって周りにスラム街が広がっているような「サイバーパンクっぽい街」というよりは、海沿いの港町やコンテナがいっぱい積んである場所、軍艦島のようにスケールはちょっと小さいけれどギュッと詰まっている街というイメージを持ったんです。
小説の挿絵を見ても異国情緒あふれる港町という方向性を感じたので、その要素を踏襲しつつ、サイバーパンクな街でよく引用される台湾や中国の町並みや、和風の要素を取り入れて、サイバーパンクになりすぎず、アイマリンの世界観に合うような街として制作しました。
水晶宮は設定として、デジタルデータの世界なんだけど、EDEN社のシステマチックな統治に反抗した人たちが自由を求めてつくった隠れ家なんです。
システマチックなデジタル世界は海の向こう側にあって、ある日、そこからイチカ率いる「Salvation_Navy」が攻めてきたというストーリーなんですよ。
アイマリンプロジェクト自体は「I(アイ)」とついているように、AIとかデジタル的なイメージがあって、それを新章※で広げていった形なんです。自由を求めるレジスタンスの拠点なので、僕も九龍城のような少し治安の悪いイメージをしていたんですが、0b4k3さんにはそれをうまく捉えていただいて、より自由な雰囲気にしていただけました。
※アイマリンプロジェクトは当初、アイマリンを軸にVol.ごとに異なる複数のクリエイターが集結し、珠玉のMVを共創していくという形でスタート。2020年からは新章として、バーチャルとリアルの垣根を飛び越えた「2.8次元アイドル」というコンセプトや物語性を打ち出した現在の形になっている
今回、0b4k3さんに「ある程度(メタバース水晶宮が)できたんで見に来てください」って言われて行ったら、羅生門みたいな門がドーンとあるので、いい意味で裏切られました。蟹が刺さったり大漁旗が立ってたりしてるとは思わなかったなぁ(笑)。
どうしたらユーザーは世界に没入できるのか?
──おめシスの2人からもワールドに入った際に、ワイヤーフレームのみの画面から徐々に世界が描かれていくという演出のお話がありましたが、演出などでこだわった部分はどこでしょうか?VRChatのワールドって自分自身がその世界に入っていくので、正直、特段演出をしなくてもワールドだけあれば結構楽しめると思っているんです。
ただ今回の場合は、そもそも「アイマリンプロジェクト」を知らない方もこのワールドを訪れることが多いと思うんですね。そのとき、最初にこの「メタバース水晶宮」がただドンとあっても何が何だか良く分からない。
文脈が伝わらず、世界観に没入しづらいと「何か良さげなワールドだな」程度の印象になってしまう。
そこにギミックや演出を付け加えることで、「ここは他とは違うんだな」というある種のエンタメ感を来場者の方々に楽しんでいただければ良いなと思い、オープニングの演出を組んでみました。
確かに「何があるんだろう?」っていうワクワク感がすごいもん。
はじめてVRでこのワールドを体験したらすごい満足感があると思います。
0b4k3さんのつくったワールドでいうと「GHOSTCLUB」も、電話ボックスで受話器を取って世界に入っていくという導入で。
0b4k3さんのそういう世界観に没入するようにつくられているクリエイティブがめっちゃ好きなんです。「メタバース水晶宮」もそういう導入があることで、「これこれ!」って思いました。
現実とVR、撮影用と観賞用ワールドの違い
そんなわけで、最初からワールド自体の空間の体験としてはバランスが良かったんです。けど、MVの撮影に使うとなるとそれ用の調整が必要で、そこは普段のワールド制作と違う部分だったかもしれないですね。
現実とVRを行き来する演出のために、双方似たロケーションで撮影をしまして。その中でも0b4k3さんと一番調整したのが路地をイチカとアイマリンが走るシーンでした。
その通路は細くてかっこよかったんですけど、細すぎてどうしても2人が並んで走れない。最初の雰囲気は良かったけど撮影にならないということで、ちょっと広げてもらうことになりました。
VRのロケーションは調整できるけど、現実はそうもいかないので。逆にVRの方ではアングルもばっちりだったんだけど、現実でロケハンしてみたら…っていうこともありましたね。
今回の制作で難しかったのが、ワールドとしての体験の良さと、ある一点から撮ったときの映え方みたいな部分の良さを同居させる必要があったことでした。しかも、今回は静止画ではなく映像を撮影しなければならないじゃないですか。
都市とか背景の撮影は、現実のとんでもない情報量があってこそ成立する。VRでそれと同じことをやろうとすると、現実と同じぐらいつくり込まなきゃいけないんですよね。
今回の場合、この水晶宮をMVの制作に使うだけならともかく、実際に訪れて楽しい空間設計にもしなくてはならない。そこの塩梅を決めるのが難しかったですね。
「メタバース水晶宮」には、今回のMVでは全部は表現しきれないくらい良いロケーションがいっぱいあるんです。また違う企画で撮影したいですね。
マグマに覆われた「おめがマグマ」というワールドで。みんなで一緒にYouTubeを見れるようにモニターがあるような小さいやつです。
私がワールドをつくったときには、最初ワールドに入った時どこに登場するか、どこに人が集まりやすいか、という導線を意識しました。通ってほしくない場所にはあえて柵を立てたりとか。
小さいワールドでも結構いろいろと考えたので、こんなに大きいワールドをつくるにはどれくらいのことを考えたらいいのか、想像もつかないですよね。
企画段階から考えると去年末ぐらいにMVの実写パートの撮影をしてたので、その頃にはコンテはあった感じですね。そこからこのワールドをつくる期間は、0b4k3さんどうだったっけ?
篠田さんと話していた中で結構ぬるっと制作がはじまったので、正確には何とも言えませんが、企画設計や打ち合わせを含めて大体3,4ヶ月くらいじゃないですかね。
ちなみに「おめがマグマ」は2週間くらいです。
それも結構大変ですよね(笑)。
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