TORIENAデビュー記念インタビュー、担当はネットレーベル主宰のtomad「なんで今さらメジャーなの?」

音楽シーンは変容した?

──それぞれがネットレーベルを主宰し、ネットを戦場にしてきた2人がタッグを組んで、今、メジャーの土俵に上がることになりました。

それは日本の音楽シーンのフェイズが変わってきたという象徴でもあると思いますが、なぜ「Maltineのtomad」さんはメジャーで働くことにしたのでしょうか?

tomad (Maltineで活動していた)tofubeatsがメジャーにいって、そこのワーナーの担当の人経由で、「トイズファクトリーの社長が僕に会いたがってる」っていう話があったんです。

──ワーナーの人経由でトイズファクトリーの社長と会う話があったと(笑)。

tomad (笑)。面白そうだから会いに行って、その時は雑談みたいな感じで終わりました。そしたらその数ヶ月後、今TORIENAさんをマネージメントしてくれてる渋家と僕に「横浜スタジアムのゆずのライブ時間を30分あげるから、ゆずの曲をダンスっぽくアレンジして演出も全部考えてくれ」っていう無茶振りがあったんです(笑)。そうそうある機会じゃないし、面白そうだからやってみたのが2年前の夏。

※渋家:渋谷の一軒家を拠点に、年齢、職業が異なるクリエイター/アーティストが集うシェアハウス。及び、そこで生活・活動を行うアーティストの総称

そこから「新しく面白いアーティストをリリースしたい」という提案を受けて、いくつかのアーティストを紹介する中で、最初にPa's Lam System(Maltineで活躍している音楽ユニット)がデビューすることになりました。

Pa's Lam Systemの一連のリリースはかなり良いものが出来たと思っていて悪くなかったんですが、僕もはじめてお金を掛けてやったリリースでもあるので、やっていく途中で勉強した部分やいくつか反省点があり、それを踏まえて次にこの枠組で面白くなりそうなアーティストとしてTORIENAさんを提案して、今に至るという感じです。

──2005年から一貫してネット上にmp3音源をリリースし、2010年に初めて出したCDのタイトルが『MP3 killed The CD star?』(外部リンク)だったことを思えば、Maltineのtomadさんがメジャーレーベルのスタッフとして活動することは想像できませんでした。tomadさん自身、ここ数年で何かが変わってきている?

tomad 2010年頃にはメジャーとネットレーベルの対立軸があったと思います。でも、今はSoundCloudやBandcampなど誰でも音楽配信ができる土壌が整ってきて、メジャーレーベル側でもデジタル配信が盛んになったり、Spotifyといったサブスクリプションサービスも出てきた。そんな風に徐々にメジャーとネットレーベルの明確な境界が薄れてきたように感じます。

Maltineでやりたいことはまだまだあるし、Maltineを今さら有料にしても面白くないからフリーでやろうと思ってますけど、やっぱりフリーだとお金をかけてMVをつくったりとか楽曲をシーンの外側に宣伝することがなかなかできないし、Maltineはそれをやる場所でもないと思っていて。

身の回りのアーティストの成長を見ながらシーンの外側に向けてさらにステップアップする局面がそろそろ必要だなとここ数年考えていて、それができる環境があったのでやってみたという感じですね。

トイズファクトリーでのPa's Lam Systemのリリースでも、ちゃんと「そうしなければいけない」理由を説明すれば楽曲をSoundCloudにアップする理解も得られた(外部リンク)。そうやって、今までのフィールドと地続きでメジャーシーンでやることを許してくれたので、やってみようと思ったんです。

──アメリカではフリーでの配信しかしないままグラミー賞をとったチャンス・ザ・ラッパーなど、メジャーかインディーズかという枠組みはなくなってきています。日本でも、メジャーとインディーズレーベルの区別は本当になくなっているのでしょうか?

tomad 今までだったら、アーティストは下積みで頑張ってメジャーデビューしてそこからプロとしてスタートするという認識があったと思うんですが、たぶんそれもなくなってきているように感じますね。それこそ誰でもインディーレーベルをつくれるし、自主リリースも簡単にできる、アーティストがお金を儲ける手段自体は日本でも多様化されてきていますね。その中で「企業として、音楽(アーティスト)に対してお金をかけようとしている会社=メジャーレーベル」が存在しているぐらいの認識だと思うんです。

──少し前まではゲリラ的なネットレーベルっぽい戦い方や、大量に予算を投下するといったメジャーらしい戦術があったけれど、今ではそういった戦略の違いやこれまでの音楽業界にあったメジャー>インディーというヒエラルキーがなくなってきている?

tomad ヒエラルキーはなくなってはないですが、薄れてきてるなと。Maltineからリリースしたことのあるアーティストでも何人かはメジャーでリリースしてますし、それぞれのアーティストが取る戦略も多様になってきてると思います。特に新人アーティストに関しては一つの道が正しいという時代でもなくなったので、アーティストがレーベルも含めて音楽活動の周囲にいる人とどう関わるかを自身の成長に合わせて上手く選択していくことが、以前よりも重要になっているかなと思います。

総合芸術としての音楽

──こうした状況で、実際にメジャーデビューをしたTORIENAさんは何か意識が変わったりしましたか?

TORIENA まったく意識を変えないってことはなかったです。せっかく色んな人に見てもらえるチャンスなので、デビューに合わせてポップスをいっぱい聞いて勉強したり、なるべく自分の芯は変えずにより届けられる範囲を広げるというのは意識しました。

──メジャーとネットレーベルを柔軟に行き来する2人が手がけることで、結果的に今回のEP『MELANCOZMO』はすごく広がりのある作品に仕上がっていますね。

tomad あまり無理な力は入れずにやれたかなと。実際にやってみて、良かった点も悪かった点もあるので、そこを反映して次につなげていきたいですね。

──TORIENAさんはどうでしたか?

TORIENA 私、それまでいわゆる「大人」に自分のこだわりを左右されてしまうことが嫌で、インディーで楽しくやろうと思ってたんですよね。でも、実際にプロデューサーの方と話す機会もある中で、「格好良いな」って憧れる気持ちもあったんです。メジャーでやろうと思った大きな理由のひとつに、tomadさんだったらちゃんと音楽を知っていて、変な売り方をされることもないだろうっていうのがありました。本当に、tomadさんとやれて良かったと思っています。 あと、やっぱり私がやりたい総合芸術としての音楽は、メジャーの方がやりやすいと思いました。

私はチップチューンというマニアックなジャンル出身だからこそ、メジャーに手が届くんだったら、しっかりとそのチャンスを掴んでやっていきたい。そうしたらチップチューンのファン人口ももっと増えてくれるでしょうし。やっぱりファンの人口が少ないと、アーティストも育たないんですよね。めっちゃ偉そうですけど、そのジャンルやシーンのファンを増やす目的の上でも、メジャーデビューをするのは意味があることだと思っています。

──今後、メジャーという戦場でお二人がどう戦っていくのか、期待しています。本日はありがとうございました!
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イベント情報

TORIENA 2nd ワンマンライブ<不安定な宇宙で>

開催
10月13日(金)
場所
原宿アストロホール(東京都渋谷区神宮前 4-32-12 ニューウェイブ原宿 B1)
時間
開場 19:00/開演 19:30
チケット
前売:3000円 https://toriena.thebase.in/
当日:3200円 ※整理番号順に入場/Drink別
お問合せ先
info@toriena.net(マネジメント担当)

関連キーフレーズ

TORIENA

チップチューンガール/MADMLIKY RECORDS 主宰

サウンド(作詞・作曲・編曲)&アート(イラスト・デザイン)を全てセルフプロデュースで行っている。GAMEBOY実機とDTMを使ったポップでハードな作曲を得意とし、暴れまくるスタイルが特徴。「Square Sounds Melborne 2015(オーストラリア)」「Lucca comics&games 2015(イタリア)」出演。コナミ社、カプコン社の音楽ゲームに楽曲提供など。

4件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1161)

す、すごいー

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1157)

tomadさんってトイズだったんだ

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1156)

神々しい、、、

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