骨の髄まで『スーサイド・スクワッド』を楽しむためのアメコミ6選レビュー

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骨の髄まで『スーサイド・スクワッド』を楽しむためのアメコミ6選レビュー
骨の髄まで『スーサイド・スクワッド』を楽しむためのアメコミ6選レビュー

映画『スーサイド・スクワッド』

批評家たちの悪評をはねのけ、全米でおよそ3億ドルの興行成績を叩き出したアメコミ映画『スーサイド・スクワッド』が、いよいよ日本でも公開!!

本作は『X-MEN』や『スパイダーマン』、『アイアンマン』といった人気シリーズを擁するマーベル・コミックとアメコミの覇権を争う老舗出版社、DCコミックスが満を持して放つ“DCエクステンデッド・ユニバース”の一編です。
この映画版『スーサイド・スクワッド』は、昨今のアメコミ映画同様、何の前知識もなくても楽しめるよう配慮されていますが、雑誌『映画秘宝』2016年10月号のインタビューで監督のデヴィッド・エアーが「ほとんどのシーンはコミックスの場面を映像化したもの」と語っているように、原作コミックへのリスペクトにあふれた作品に仕上がっています。

そこで映画の出来はご自身の目で確かめていただくとして、ここでは観てから読んでも、読んでから観ても、映画も原作も10倍楽しめる『スーサイド・スクワッド』関連書籍をご紹介したいと思います。

文:雑賀洋平 編集:新見直

これが映画の原点だ! 記念すべき新生スーサイド・スクワッド!!

映画『スーサイド・スクワッド』

世界崩壊の危機に、政府は、服役中の悪党たちによる特殊部隊“スーサイド・スクワッド”を結成。命令の背いたり、任務に失敗したら、自爆装置が作動する、まさにスーサイド(自殺)な状況の中、愛するジョーカーのことしか頭にないハーレイ・クインと、正義感も団結力もない寄せ集めの10人の悪党たちは、一体どんな戦いを魅せるのか?(映画『スーサイド・スクワッド』公式サイトより)

まず最初に「スーサイド・スクワッドとは何か」についてお話しておきましょう。

彼らは、刑務所に収監された犯罪者やスーパーヴィラン(悪役のなかでも上位の存在)たちで編成された玉砕覚悟の自殺部隊で、恩赦や報酬と引き換えに実現不可能な任務に挑みます。

実は1959年『ブレイブ&ボールド』誌で初登場した初代“スーサイド・スクワッド”は、合衆国の秘密機関・タスクフォースXの管理下に置かれたエリート集団で、海外での諜報活動を任された準軍事組織でした。

しかし、80年代半ばに、現在のようなスーパーヴィランたちが毒をもって毒を制す方向に大きく路線変更します。これは同時期、『ウォッチメン』や『バットマン:ダークナイト・リターンズ』を筆頭にダークな路線のアメコミが台頭し始めたのと無関係ではないでしょう。

この路線は好調で、1992年の第1期終了後も、スーサイド・スクワッドたちは他のシリーズに登場したり、2001年に第2期を、2008年にミニシリーズを展開しました。

そして2011年、DCコミックスの主要シリーズが一斉に設定を一新して始めた“THE NEW52!”シリーズで、『スーサイド・スクワッド』も正式に復活しました。

左:『スーサイド・スクワッド 悪虐の狂宴』 右:『スーサイド・スクワッド:バジリスク・ライジング』

その第1弾として日本で発売されているのが『スーサイド・スクワッド 悪虐の狂宴』です。

スーサイド・スクワッド―それは減刑と引き換えに、政府の極秘任務を押しつけられたスーパーヴィランの特殊部隊。命令に服従させるために、首にはナノ爆弾が埋め込まれている。命の価値はゼロ、倫理観もゼロ、死と暴力は日常茶飯事。奴らの最初の標的は6万人の生体兵器。世界規模の脅威を解決できるのは、スーサイド・スクワッドだけ。ただし、奴らが仲間同士で殺し合わなければ…。あらすじ

この“THE NEW52!”シリーズの『スーサイド・スクワッド』は、初めてハーレイ・クインがチームに参加した記念すべきシリーズであると同時に、特殊なアーマーと銃を装着した狙撃の達人デッドショット、炎を操るエル・ディアブロといった今回の映画版に参加したメンバーが登場しており、映画版に強く影響を与えたシリーズといえるでしょう。

いきなりスーサイド・スクワッドの面々が敵に拷問を受けている場面から始まり、チームの初任務である6万人の生体兵器との対決、そしてある人物の裏切りによりチームが窮地に追い込まれて行く様は、濃厚な作画と相まって、まるで一本の映画を観たように胸に重く迫ります。

新時代“スーサイド・スクワッド”の序章にあたる作品で、スーパーヴィラン、それぞれのオリジン(出自)も描かれており、映画版から入った人にも自信を持ってお勧めできる一冊です。

また“THE NEW52!”シリーズとしてはカルト教団と戦う続編『スーサイド・スクワッド:バジリスク・ライジング』も刊行しています。こちらにはアマンダ・ウォーラーがスーサイド・スクワッドを結成するに至る前日譚も収録されています。

壮大なDCコミックスの歴史を総括! 出自(オリジン)が知りたいなら、これだ!!

『DCキャラクター大事典』

シリーズを超えたヴィランたちの競演が『スーサイド・スクワッド』の魅力のひとつなのですが、彼らは一体どんなシリーズで活躍(?)していたのかは当然気になるところ。そんなお悩みをたちどころに解決するのが『DCキャラクター大事典』です。

ちなみに本書で映画版『スーサイド・スクワッド』メンバーの「初登場」「本名」「職業」「特殊パワー/能力」を調べてみると、

ハーレイ・クイン
初登場(コミックス:メイン):『バットマン:ハーレイ・クイン』#1(1999年10月)
本名:ハーリーン・クインゼル博士
職業:犯罪者
特殊パワー/能力:驚異的な運動能力と敏捷性。

ジョーカー
初登場:『バットマン』#1(1940年春)
本名:不明
職業:アナーキスト
特殊パワー/能力:特に力が強いわけでも、何かの技術に長けているわけでもない。

デッドショット
初登場:『バットマン』#59(1950年6月)
本名:フロイド・ロートン
職業:傭兵
特殊パワー/能力:あらゆる銃器と爆撃物のエキスパート。コスチュームには銃と照準器が仕込まれている。

キャプテン・ブーメラン(初代)
初登場:『フラッシュ』#117(1960年12月)
本名:ジョージ・ハークネス
職業:犯罪者
特殊パワー/能力:ブーメランのエキスパート。特殊能力つきのブーメランを多数開発している。

カタナ
初登場:『ブレイブ&ボールド』#200(1983年7月)
本名:山城タツ
職業:武術家、格闘技の達人
特殊パワー/能力:格闘技の達人で、彼女が持つ刀“ソウル・テイカー”には、殺した者の魂が宿っている。

エル・ディアブロ
初登場:『オールスター・ウエスタン』Vol,2#1(1970年11月)
本名:ラザルス・レイン
職業:冒険家
特殊パワー/能力:射撃と乗馬のエキスパート。

キラー・クロック
初登場:『バットマン』#358(1983年4月)
本名:ウェイロン・ジョーンズ
職業:カーニバルのレスラー、ギャング、殺人者
特殊パワー/能力:超人的な腕力と鋭い牙と爪。

エンチャントレス
初登場:『ストレンジ・アドベンチャーズ』#187(1966年4月)
本名:ジューン・ムーン
職業:フリーランスの芸術家、冒険家
特殊パワー/能力:物質に命を吹き込んだり、容姿の変化、空中浮揚などが可能。

アマンダ・ウォーラー
初登場:『レジェンズ』#1(1986年11月)
本名:アマンダ・ブレイク・ウォーラー
職業:スーサイド・スクワッドのリーダー
特殊パワー/能力:戦闘訓練は受けていないものの、目的を実行するためには手段を選ばない鋼のような意思を持っている。スーパーヴィランを集め、新生スーサイド・スクワッドを結成した。

リック・フラッグ
初登場:『ブレイブ&ボールド』#25(1959年9月)
本名:リチャード・フラッグ・ジュニア
職業:秘密工作員
特殊パワー/能力:アマンダ・ウォーラーが結成した新生スーサイド・スクワッドの指揮官。父リチャード・フラッグ・シニアも第二次世界大戦中に活動した初代スーサイド・スクワッドの指揮官である。

スペースの関係で「初登場」「本名」「職業」「特殊パワー/能力」のみ要約、抜粋しましたが、実際にはメインキャラクターで大判2ページ分、端役でも1/6ページ分の解説が記されています。

紹介しているヒーロー&ヴィランの数は、大事典の名にふさわしくスーパーマン、バットマン、フラッシュ、ワンダーウーマンほか1000体以上

さらにジャスティス・リーグといったチームの変遷までも詳細に解説。1935年から2004年までのDCコミックスの歴史を、存分に堪能できる一冊になっています(それでも解説が掲載されていないスリップノットさんの立場って……)。

今後、更に拡張する“DCエクステンデッド・ユニバース”の予習にももってこいの一冊です。

悪党たちのアイドル、ハーレイ・クインにメロメロなアナタへ!

『バットマン:ハーレイ・クイン』

最後に、映画版ではほぼ主役扱いのハーレイ・クインに焦点を当てた一冊『バットマン:ハーレイ・クイン』を紹介します。

映画版のプラチナブロンドにスカジャンのハーレイ・クインを最初に目にした方は、違和感を感じるかもしれませんが、当初ハーレイ・クインのコスチュームは、書影のようにジョーカー同様ピエロを模した姿が定番でした。

ハーレイ・クインは、元々コミックではなく、1992年にテレビアニメ『バットマン・ジ・アニメイテッド』で初登場したキャラクターで、その人気の高さからコミック版『バットマン』シリーズに逆輸入。2000年には単独の『ハーレイ・クイン』シリーズがスタート、そして2011年の『スーサイド・スクワッド』参加以降は、赤と青のボンテージ姿がメインになっていきます。映画版のハーレイ・クインの髪の色に青と赤が入っているのは、その名残なのですね。
ずいぶん脱線してしまいましたが、この『バットマン:ハーレイ・クイン』は、その題名通りバットマンの宿敵であるジョーカーの相棒、あるいは愛人としてバットマンに立ち向かうハーレイ・クインの物語が多数収録されています。

ジョーカーはもちろん、ポイズン・アイビーやリドラーといった「バットマン」シリーズのヴィランが登場したり、ハーレイ・クインが前職の精神科医の技を活かしてバットマンを診断したりというエピソードもありますので、「バットマン」ファンは、特に楽しめるのではないでしょうか。

左:『ハーレイ・クイン:パワー・アウテイジ』 右:『ハーレイ・クイン:ホット・イン・ザ・シティ』

彼女の魅力にノックアウトされた人には、“THE NEW52!”シリーズで展開している単独シリーズ『ハーレイ・クイン:ホット・イン・ザ・シティ』『ハーレイ・クイン:パワー・アウテイジ』がオススメ。ヤンデレ女子の私生活とかクレイジーな女子会を覗き見るスリルと背徳感が楽しめますよ

『スーサイド・スクワッド』を含むDCエクステンデッド・ユニバースとは?

映画『スーサイド・スクワッド』

ちなみに、映画『スーサイド・スクワッド』も含むこの“DCエクステンデッド・ユニバース”シリーズは、2013年に公開された『マン・オブ・スティール』を起点とし、2020年の『グリーンランタン コープス(仮題)』まで様々なヒーローが活躍する11作の映画を、世界観を共有するひとつのシリーズとして展開するという壮大なプロジェクト。

これまでの『スーパーマン』や『バットマン』ほかDCコミックスのマンガを原作にしていた映画は除外されています。

ぶっちゃけマーベル・コミックが仕掛けた『アヴェンジャーズ』シリーズに連なる“マーベル・シネマティック・ユニバース”に対抗してのプロジェクトなのですが、先述の『マン・オブ・スティール』と、2016年の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』が、スーパーマンとバットマンというDCコミックスの二大巨頭を担ぎ出した割にはビミョーな興行成績で終わってしまいました。

そのため、本来シリーズ的にはハシ休めとして企画されていたはずの本作は、いつの間にかプロジェクトの行く末を左右する立場になってしまいました。

そもそも主役のチームのメンバーがみんな犯罪者、それも『バットマン』『フラッシュ』といった代表的なDCコミックスの悪役=ヴィランたちというのですから、前2作と比べて、どれだけ期待が薄かったかがわかるでしょう。

ハマれば無限の面白さ! アメコミの世界

さてずいぶん駆け足でご紹介してきましたが、1938年のスーパーマンの誕生から78年、いわゆるヒーローものだけでも、これだけの歴史があるアメコミとキャラクターの魅力の一片でも伝えることができたでしょうか?

それぞれ作品毎に完結する日本のマンガに比べて、同じ作品が長期にわたり続き、時にスピンオフや番外編が同時進行するアメコミは、初心者が気軽に読み始めにくいジャンルだとは思います。

スーパーマンやバットマン、X-MENやスパイダーマンといった作品やキャラクターの著作権を、DCコミックスやマーベル・コミックら出版社が所有する形をとっているため、ひとつの作品を複数の作者で延々と描き続けていたり、同じヒーローでもシリーズによって性格や出自が違っていたりします(あえて日本の作品と比較するのなら『ゲゲゲの鬼太郎』など度々リメイクされるアニメシリーズ、特に『機動戦士ガンダム』シリーズの状況が近いかもしれません)。

しかし、それゆえに長い歴史の間のキャラクターや物語の変遷や、その時代背景と作品の関係考察など、独特の楽しみ方ができるのも事実です。アメコミは、入り口は狭いが、一度ハマれば無限の世界が広がっているといわれている所以です(底なし沼という説もありますが)。

これを機に、もしアナタがほんの少しでもアメコミに興味を持って、書店に足を運んでいただけるのなら、こんな嬉しいことはありません。

では、またいつか皆さんとアメコミのお話ができる機会があれば。

※記事初出時、一部記述に誤りがございましたのでお詫びして訂正いたします

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