複雑すぎる相関関係図
そして本作、『UFO学園の秘密』も非常に複雑な世界観、勢力分布図を持つ作品となっています。宇宙人というのは「地球外に住む生命体」であり、本来その存在は科学の範疇で理解されるものです。一方で神や悪魔はオカルトの範疇です。ですが幸福の科学では、この2つの「ふしぎなこと」が地続きで理解されており、宇宙人と神や悪魔は密接な関係を持っています。そして、それゆえに非常に複雑な世界観になっています。例えば主人公が敵対することになる敵性宇宙人・レプタリアン。爬虫類型の宇宙人で、彼らはアメリカ、ロシア、中国の軍部に既に人間の姿で潜り込んでいる……とされているのですが、これが一枚岩ではありません。中国に潜むレプタリアンとアメリカに潜むレプタリアンは互いに争っており、しかし、そのレプタリアンたちは「裏宇宙」に潜む「宇宙の邪神」に利用されているに過ぎず、彼らの発動している計画は地球の悪魔である「サタン」により準備されたものなのです。
この通り、「主人公と敵対する宇宙人」一つを取っても、「裏宇宙」という全く未知の概念が出てくるし、勢力も「レプタリアンA」「レプタリアンB」「宇宙の邪神」「サタン」が出てきます。とにかく複雑すぎる。普通のクリエイターなら「『敵』でいいじゃん!」「それ以上の設定いらないよ!」となるところです。しかし、どんなに複雑でも幸福の科学はこれをそのまんまにやる。だって、彼らの中ではそういうことになってるんだから。話が複雑だからって宗教上の世界観を勝手に簡略化できないんですよ。
主人公に味方する宇宙人も「月の裏側」「プレアデス5番星」「プレアデス3番星」「ベガ」「ケンタウロスα星」という5勢力も出てきます。さらにはレプタリアンの中にも「光の神に帰依して地球を守る」者たち──「信仰レプタリアン」なんてのがいて、レプタリアンでありながら一部は主人公に味方するという非常に複雑な相関関係が描かれるのです(映画はそれでもまだ登場宇宙人の数を絞っていて、霊言やリーディングではもっといろんな宇宙人が出てくる……)。
なお、なぜ幸福の科学では「宇宙的なふしぎさ」と「オカルト的なふしぎさ」が地続きで理解されているのかというと、これはおそらく彼らの輪廻転生思想によるものです。彼らの理解によると、魂は地球人として生まれることもあれば宇宙人として生まれることもあり、霊界で神となることもある。さらに宇宙人は、地球人から見ると神に見えたりもする(シュメールの神・エンリルは実はレプタリアンらしいです)。
よって、宇宙人と神は同じベクトルで語られるし、同じ土俵で作品に現れるわけですが、これが僕たち門外漢から見ると「あらゆるオカルト要素をごった煮で詰め込んだすごい作品」に見えるわけですね。
というわけで、『UFO学園の秘密』も前作『神秘の法』よろしく、極めて複雑で複層的な相関関係とオカルトごった煮感を持つ作品でして、通常のアニメ作品ではありえない「厚み」を持っています。通常のアニメ作品ではまず企画が通らない、宗教団体という特殊な出自ゆえに成立し得た作品と言えます。
視聴者置いてけぼりな作劇も……
ですが一方、『UFO学園の秘密』には難点もあって、前作『神秘の法』に比べるとエンタメ性では一枚落ちちゃう。『UFO学園の秘密』は教義説明にかける尺がやや長いんですよね。ちょっと中盤は眠たくなってしまう。『神秘の法』は布教映画である前に「よくできたエンタメ作品」でしたが、『UFO学園の秘密』の方は「はい、ここから教義の説明をしますよー」的な「布教映画要素」を感じてしまいます。『神秘の法』はエンタメを見てるつもりなのに、自然と幸福の科学の世界観が頭に入ってくるつくりが布教映画としても上手かったんですよね。また、見ていてやや共感しづらいところも……。「今のセリフを受けて、なんでこのキャラは納得したの? なんでそう答えたの??」みたいな点が各所にあります。論理が一足飛びというか、視聴者の感情の動きに合わせてくれない、理解の階段を一段飛ばしで駆け上がってしまう、そんなきらいがあります。ひょっとすると信者の方なら、日頃の説法と合わせて考えることでスンナリ理解できるのかもしれませんが、一般人にはやや説明不足です。この辺の不親切さもエンタメ性を損ねていました。
中でもエンタメ的に一番ネックだったのは、主人公たち5人のチームが一時的に仲違いをするシーンです。宇宙人の証拠となる「月の石」が何者かに盗まれて、チームの一人であるタイラくんが「俺たちの中から敵に情報が漏れているのかもしれない」と呟きます。タイラくんの恋人であるハルちゃんの妹がかつて敵性宇宙人にアブダクションされており、そこからの情報流出を疑ったわけです。これは極めて妥当な分析でしたが、妹ちゃんは「どうせ私のせいなのよ!」と泣いて走りだしてしまいます。するとヒロイン連中が急に感情的になって、「ちょっと男子、謝りなさいよ!」モードに突入。理不尽なまでの勢いで男子を責め立てます。小学生女子かよ……。
「あんた本当に悪いと思ってんの!?」「お、思ってるよ……」「思ってないわよ! 思いなさいよ!」「は、はい……」みたいな。作中でも「女子ってめんどくせー」と言われてたけど、本当にめんどうくさい……。
これでタイラくんが反省し(!)、チームに結束が戻ったことから事態が大きく動き出すため、「仲間割れ」→「一致」のプロセスは作中でも非常に重要なポイントなのですが、この通り、ヒロイン連中の非難に全然感情移入できないので、ここのシーンはゲッソリしちゃう。これは信者なら飲み込めるとかいう問題でもないと思うので、単純に作劇ミスってるんじゃないかなー。タイラくんはほんのちょっぴりデリカシーに欠けてたけど、あんな風に責め立てられる謂れはないよ。
まとめ
総じて言うと、『UFO学園の秘密』は世界観の厚みやスケールの大きさでは『神秘の法』にも引けをとらない出来でした。しかし、エンタメ性や部外者へのサービス精神では前作に比べてややクオリティダウンした印象です。というか、前作がよく出来過ぎていた。繰り返しますが、この世界観の異様な重厚さは、幸福の科学産という特殊な状況下でなければ生まれないと思うので、次回作ではその強みとエンタメ性をまた両立させて欲しいですね。期待しています。
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架神 恭介
作家。漫画原作者。『戦闘破壊学園ダンゲロス』『放課後ウィザード倶楽部』『こころオブ・ザ・デッド』などの原作の他、『よいこの君主論』『仁義なきキリスト教史』『完全教祖マニュアル』などの古典・宗教学に関する著述も。サイトはカガミ・ドット・ネット。http://cagami.net/
マンガ家向けのコミュニティもやってます。
https://manga-tech.jp/
1件のコメント
平原法人
「裏宇宙」という言葉について、「全く未知の概念」と書かれていましたが、ラッキーマン読者であった私には既知でした。
まさか幸福の科学の幹部も・・・