衣装デザインで重要なのは「本人がどう見られたいか」
──ここからは、“VTuberのお仕立て屋さん”としてのさえきやひろさんから見た、VTuberの身体・アバターについてお聞きしていきます。まず、今回のように、“中の人”の情報が一切ない状態で依頼されることはあるのでしょうか?
さえきやひろ 自分は経験がないですが、そうしたつくり方をしている方も少なくはないと思います。たとえば、アバター販売サイトで一点ものとして販売するようなスタイルの人とかは、唯一無二のデザインだけど、誰が中に入るかはわからないものですよね。
──さえきやひろさんご自身は、どのようなVTuberの身体/衣装に関する制作案件を受けられるんでしょうか?
さえきやひろ やひろはVTuberデビューしてすぐ自分の3Dモデルをつくりはじめたんですが、その当時に3D化を希望していた先輩VTuberの方々に依頼されたことが縁で、今でも継続してご依頼を受けることが多いです。
具体的には甲賀流忍者!ぽんぽこちゃん、オシャレになりたい!ピーナッツくん、名取さなちゃんなどですね。みんな精力的に活動しているので、シーズンやイベントごとに衣装をご依頼いただくことが多くて。逆に新規でお受けすることが難しいんですよね……!
──VTuber関連の制作の中で意識していることはありますか?
さえきやひろ お洋服やキャラクターデザインのトレンドは常に追いかけています。一枚絵のイラストではパッと見の華やかさが大事なんですが、アバターや衣装のデザインには、ファッショントレンドを取り入れるのも重要です。
「最近こういう服流行ってるよね」とか「こういうの着たいなと思ってた!」って思えると、ご本人のテンションも上がるし、同じような服を買った子も嬉しいと思うはずなので。
さえきやひろ デザインの方向性も、パッと見てかわいいと感じられる要素とか、細かいところが気になる人向けの要素とか、どちらもバランスよく取り入れたいんですよね。
そのために、リアルの女性が着るファッションも一応チェックしつつ、いま人気のある美少女コンテンツ/キャラクターコンテンツの傾向もチェックしています。
あとは、一番大事にしているのはご本人がどう見られたいかですね。「女性ファンを増やしたい」「おしゃれなポップアイコンとして見せたい」「リアルクローズに寄せたい」などなど、人によって重視したいことって、かなり違うんです。その「見せたい姿」にそって、衣装のスタイルを提案することもありますね。
「理想のアバター」をイメージするには、好きなものだけでなく“嫌いなもの”も重要
──VTuberになるハードルは年々下がってきています。一方で、これから活動をはじめようとする人の中には、理想のアバター、言い換えるならば「なりたい自分」を具体的にイメージできない人も少なくないと思うんです。やひろさんに依頼をされる方々は、依頼時点で具体的なイメージを持っているのでしょうか?
さえきやひろ やひろも含めて、明確に「なりたい自分」を持っている人は、そもそも誰かに制作を依頼せずに、自分でつくってしまう人が多いと思いますね。
いわゆる「セルフ受肉」と呼ばれる方たちです。そういう人たちはやっぱり尖った見た目になっている印象です。
さえきやひろ 一方で過去に依頼してくれた方たちは、ビジュアルが先行するというよりも、活動目的や今後やりたいことがはっきりしている印象があります。
なので、そこにあわせて「こんな見た目にしておくと、こういうときに使えるんじゃないですか?」といった提案をすることが多いですね。実はビジュアルの指定や要望が先に来ることは少ない気がします。
そもそも「なりたい自分」って見た目の好みだけじゃなく「サッカーがうまくなりたい」「歌がうまくなりたい」といった理想像も含みますよね。
もっと抽象的な「モテたい」っていう目的にしたって、ヤンキーを目指すのか、爽やかな陽キャを目指すのか──いろんな方向性があるじゃないですか。
「配信でなにをしたいか」と自問してはじめて、自分のやりたいことや好み、そのために必要なビジュアルのイメージを見出す人もいます。なので、最初からビジョンが固まっていることが「なりたい自分がある」というわけではないと思うんです。
──そう言われてみると、美容師さんとの相談に近いですね。「髪を染めたいけど、こういう印象は持たれたくないから、この色は避けたい」みたいな相談から、染めたい色を決めていくような。
さえきやひろ ですね! あと、SNSとかでよく「何が好きかで自分を語れよ!」って言われてますけど(笑)。やひろは「何が好きか」と同じぐらい「何が嫌いか」も、自分を紐解くうえで大事だと思っています。
どちらも深堀りしていけば、自分のなりたい形に近づくんです。
自分にとっての「最強のアバター」をつくる秘訣を語るさえきやひろさん
さえきやひろ それに加えて、「自分に似合うかどうか」という対外的な要素もありますね。それこそ美容院で「本当はショートでオレンジ髪にしたいけど、自分はソフトエレガントでブルベ冬だから多分違いますよね」みたいな相談をする感覚に近いというか。
──VTuberの場合、たとえばトーク内容などは、ビジュアルとイメージが合致するか気にする人が多そうですね。
さえきやひろ そうですね。一度決めてしまうと簡単には変えられない部分なので「似合うかどうか」は必ず考えるはずです。ある程度は客観視しつつ、要素の取捨選択を重ねるところが、VTuberのアバター依頼の要だと思います!
逆にVTuberデビューにあたっては、そうした相談ができる、“相性の良い美容師”のようなクリエイターさんを探すのがよいと思いますよ!

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