売れるかどうか考える?

湯浅 そんな感じで辞めたいと思ったこともあったんですけど、5年目ぐらいにすごく楽しい仕事があって「これ天職かも!」って思ったんです。

それは『クレヨンしんちゃん』や『ちびまる子ちゃん』の原画。それまで、演出家の方が描かれた絵コンテが要求していることに、自分の原画がこたえられていないことが非常にストレスだったんですね。だけど自分で絵コンテを描く仕事をもらって、それに原画を描いたら、悩みが解消されて、周囲もすごく褒めてくれて「めっちゃ気持ちいい……!」って思ったんですよね。ホント、頭から変な汁が出るくらいの快感で、アニメ作りがすごく面白いと思えた。

今続けられてるのもその体験があったからですね。 りょーめー そうなんですね……。『夜明け告げるルーのうた』(湯浅監督の劇場最新作/以下、『ルー』)を見て気になったことがいろいろあるんですけど、今聞いてもいいですか?

湯浅 ぜひ。 りょーめー ストーリーは頭からケツまで全部考えてからつくり出すのか、それともつくりながら考えてるところもあるのか、知りたいです。

湯浅 『ルー』は特に人の意見を聞きながらつくっていったので、つくりながら考えてるところがありましたね。僕は売れない監督で(笑)、昔から「お前は偏屈だ」「おかしい」「外れてる」と言われてて、興行的にもうまくいかないほうだった。だから、人が面白いって言うものと自分がやりたいことをうまく組み合わせて売れるものをつくりたいなと。

最初はわりと好きにつくってたんですけど、だんだんそういうことをやらなきゃいけないなと考えるようになって。でもやっぱり自分を引きすぎてもいけないし、せめぎ合いがありつつ、最後にガッとまとめたのがあの形です。

りょーめー 湯浅さんでも、売れることって考えるんですね。

湯浅 そうだね。売れなくても食っていけるなら全然気にしないんですけど、一回仕事がなくなったこともあったんで。

りょーめー へえー。

湯浅 自分ではよくできたと思ったものが、周りに「つまんない」とか「ストーリーがない」とか言われてショックを受けたことも。そこでどう割り切るかですよね。「俺のことをわかってくれる人だけでいい」っていうスタンスもいいけど、その数じゃキャパが狭すぎるし、アニメーション制作はお金がかかるから続けていけない。だから、みんなはどこを見てるんだろう、どんな映画を面白いと思うんだろうと想像しながら『ルー』をつくっていきました。

公開されて、その想像が当たってるところもあるし外れてるところもある。そういうの考えないですか? 「今度の作品は当てたい」とか。

りょーめー 多少は考えますけど、そこばっかり見てると自分らが面白くなくなっちゃうので、バランスですね……。

安田 『ピンポン』のおかげでもあるんですけど、たぶん世間的に爆弾ジョニーの曲のイメージって、速くてガチャガチャしてる感じだと思うんです。でも、7月に出す新作「BAKUDANIUS」にはあんまりそれが入ってなくて。そういう作品を初めて出すから、みんなどんな反応をするんだろうってのは、気になってます。

「歌うたいのバラッド」と音楽の力

──『ルー』の劇中では“音楽の力”が如実に描かれています。音楽には、どんな力があると思いますか?

湯浅 気持ちが入りますね。キレキレのシーンを描くときはテンションの高い曲を聴いて気分を上げてるし、陰鬱なものだったらダルい曲をかけながら描く。アイデアが欲しいときも。自分の中で“アイデアが湧く曲”ってあるんですよ。自分を高揚させてくれたり感動させられたり、そういう音楽の力を利用して作品をつくっている気がします。

りょーめー 『ルー』の主題歌「歌うたいのバラッド」は湯浅さんがセレクトしたんですか?

湯浅 制作サイドでいくつか例が出て、これが一番良いと思って選びました。

安田 クライマックスでカイ(主人公)が「歌うたいのバラッド」を歌うシーン、めちゃくちゃ感動しました。声がすごいよかったです。

りょーめー 僕らみんな、斉藤和義さんもあの曲も大好きで。映画で見てやっぱり強く刺さる曲だなと思いました。それこそ音楽の力を感じましたね。

湯浅 僕は、音楽に絵を付けるっていう演出が好きなんです。音楽に合わせて絵も自然とノッていくから。ただ、音楽は要素として強いので、絵をがんばらないと音楽に負けちゃうんですよね。いつも音楽に負けないようにアニメーションをつくろうとは思ってますね。

りょーめー どんなって言えないけど、音楽は目に見えないすごく大きな力があると思います。湯浅さんがおっしゃるように自分の気分を加速させてくれるものだし、逆に無意識的に影響を及ぼされたりもする。自分らもロックバンドの曲を聴いて、同じようにバンドをやりたいって思ったわけだから、音楽の力を受けて音楽を始めてるんですよね。

安田 アニメも同じかもしれないですけど、曲を聴いた人が何かをしたくなる。受動的にじゃなくて能動的に。なんのために音楽をやってるかと考えたら僕はそういうことかもしれないです。

好きと必然とカタルシス

──それこそ、表現の手段はたくさんある中で、爆弾ジョニーが音楽を、湯浅監督がアニメを選んだ理由はなんだったのでしょう?

湯浅 後から「大変なの選んじゃったなあ」と思いましたけど(笑)。ずっと机に向かってコツコツやらないといけないから。

ギター1本あればどこでも歌って魅せることができる、音楽の人には憧れます。でも僕は小さい頃からテレビアニメを見るのに夢中で、絵を描くのが一番楽しいことだったので、自分もアニメをつくりたいって思ってしまったんですね。

りょーめー 僕も小さい頃から絵を描くのが好きだったし、好きな表現はいろいろあったんですけど、音楽の、形がないところが好きですね。歌なんて自分1人いればできることだから。ボーカルってポジションが、今はすごく気に入ってるんです。

湯浅 なるほど。考えてみたら、今自分が3Dではない絵で未だにアニメをやってるってことは、やっぱり絵でできることをやろうって思ってるんでしょうね。写真通りじゃなくてもいい、どうにでも描ける良さがあるから。

小さい子って絵の中で自分の好きなものを大きく描くじゃないですか。そういうのがすごく好きなんですよね。「描いてる人はこれが好きなんだ」ってわかるもの。

りょーめー ああ!

湯浅 音楽も同じように受け取ります。ギターをガーッと弾いてると、ギターをめちゃくちゃ聴かせたいんだなって思いますから。

キョウスケ なんで音楽を選んだのか……今でもたまに「やっぱ間違ってんじゃねーかな」とか思う瞬間もあるんですけど(笑)、そう思いながらも進んでるこの感じ、もしかしたらすごくロックなことかもしれないって。正しいか正しくないかも、将来どうなるかもわかんない。でも気になっちゃったから進むしかないっていう気持ちでここまで来てる気がします。

──そんな中、「バンドやっててよかった!」とカタルシスを感じる瞬間ってどんなときなんですか?

キョウスケ ライブで5人全員の音がピッタリ合ったときですかね。

安田 音が完全に合うと、なんか無音になるんですよ。それは「うわーキタ!」と思うよね。

りょーめー うん。1回だけハッキリ感じたことある。音と音がキレイに重なると無音になるんだなって。

それと、僕は湯浅監督とのコラボレーションみたいに、違うフィールドの人と何か一緒につくり上げたとき、バンドやっててよかったなってめっちゃ思う。この間ダンサーを入れてライブしたときも思った。その刺激がけっこうモチベーションになってます。

あとは、メンバーとは10年くらい一緒にいるので、1つのヒューマンドラマを見てるみたいでもあって。こいつがこういう曲を書いてきた、その経緯を知ってると感慨深いというか…。人とやってると、自分じゃ思いつかないことが急に入ってくるから、そこはバンドをやってる醍醐味だと思います。

タイチ ライブが終わるたびに「楽しかった」とは思ってるんですけど、具体的に何が楽しかったかって言われるとわかんない。でも、楽しいのは確かなんです。だから続けてるのかもしれないです。得体の知れない楽しさがあるから。

新しい一歩を踏み出したい人へ

──「新気流」や『夜明け告げるルーのうた』は、それぞれ“新しい一歩を踏み出す”ということをテーマに据えた作品だったと思います。それぞれ、これからの“新しい一歩”について、お聞かせください。

キョウスケ 12月4日にZepp Tokyoでワンマンライブが決まってて、そこに向けて一丸となって走っていきたいです。休止を経てリベンジっていう思いももちろんあるし(※2014年12月に同所でワンマンライブを行う予定だったが、りょーめーの体調不良のため中止した)、これまでのワンマンのキャパシティで一番規模がでかいから新しい自分たちへの挑戦っていう思いもあるし。バンド始めてから7年間のすべてをここに詰め込みます。

安田 来てくれた人がなるべく多く「また来たい」って思うようなライブをしたいです。

湯浅 僕は永井豪先生の傑作マンガ『デビルマン』をシリーズアニメ化した『DEVILMAN crybaby』を制作中です。難しい原作ですけど、それがまた認められるといいなと思います。爆弾ジョニーの発言をパクらせてもらうと、「また見たい」と思われるような。みんながギャフンと言うようなやつを一発つくりたい。なかなかギャフンって言わないんですよ。

一同 あははは(笑)。

──それでは、最後に“新しい一歩を踏み出そう”としている読者へメッセージをいただければと思います。それこそ、なかなか踏み出せずにいる人もいるかと。

湯浅 失敗するのが怖いという気持ちがあるかもしれないけど、僕の場合、そんなに心配しないですね。「どうにかなる」って楽観しているし、失敗したときのフォローが自分でできるなら全然失敗したっていい。逆に失敗を恐れてばかりいると結局どこに行きたいのかわからなくなっていくんで、「自分はこうしたい」っていう思いだけしっかり定めておけば、あとは勇気持ってゆっくりでも進んでゆけばいいと思います。

りょーめー 失敗したとしても最後はみんな死ぬから、1回しかない人生、どうせならやったほうがいいですよね。どう使うかはそれぞれ自由だけど、最後に死ぬのは一緒って考えたらだいたいなんとかなるんじゃないかなって思います。
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プロフィール

爆弾ジョニー

爆弾ジョニー

ロックバンド

2010年、vo.りょーめー、gt.キョウスケ、key.ロマンチック☆安田、Ba.小堀ファイアー、dr.タイチサンダーの5人が札幌にて巡り会い、2011年7月にインディ・デビュー。2013年12月には、キューン・ミュージックからのメジャーデビューを発表し、現在3つのシングルと2つのアルバムをリリース!(Now On Sale☆) その夏、RISING SUN ROCK FESTIVALの一番大きいステージに出演するなど全国各地のフェスをアゲ⤴︎ていくのだが、11月より、りょーめーの体調不良を理由に活動を休止(風が止んだ)。しかし1年半後の2016年4月、活動再開を発表し、6月30日に渋谷クラブ・クアトロにて活動再開ライブ「BAKUDANIUS」を行った。秋からは全国9ヶ所にて活動再開ライブツアー「ROAD to BAKUDANIUS 2016」を実施し熱狂のステージパフォーマンスを魅せた。その公演を収録した、ほとんどが新曲という、異例のライブアルバムを2017年2月22日にリリース!不定期ネットラジオ「ジョニーさんといっしょ」をLINE LIVE他で配信中!現在、また世界を爆弾色に染めるためにいろいろ模索中。爆弾ジョニーが目指すものは、“ロックで世界平和”である!!

湯浅政明

湯浅政明

アニメ監督

1965年3月16日生まれ、福岡県出身。日本のアニメーション監督、脚本家、デザイナー、アニメーター。サイエンスSARU代表取締役。
九州産業大学芸術学部美術学科を卒業後、亜細亜堂(アニメ制作会社)へ参加。テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』では、本編原画に加え、初代オープニング「ゆめいっぱい」、初代エンディング「おどるポンポコリン」の作画を担当する。フリーになった後、『劇場版クレヨンしんちゃんシリーズ』は第一作目から設定デザイン・原画などを担当し、近年に至るまで関わり続けている。また映画初監督作品『マインド・ゲーム』(04年)では脚本も担当、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞ほか数々の賞を総なめに。続くテレビシリーズ初監督となったオリジナル作品「ケモノヅメ」(06年)や、のちの森見登美彦原作の監督作品「四畳半神話大系」(10年)でも多くの賞を受賞。2014年には米国の人気テレビシリーズ「アドベンチャー・タイム」にて監督・脚本・絵コンテを手がけたエピソード「Food Chain」が、アニメーション界のアカデミー賞とされる米国アニー賞で、監督賞(TV 部門)にノミネートされるという快挙を遂げた。
現在、劇場版「夜明け告げるルーのうた」「夜は短し歩けよ乙女」が公開中。来春Netflixにて「DEVILMAN Crybaby」配信開始。

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