1500万ダウンロードを達成するなど、大人気を誇るスクウェア・エニックスのゲーム『乖離性ミリオンアーサー』がVRになった!
『乖離性ミリオンアーサーVR』は、世界観や基本システムを踏襲しながらも、キャラクターとの触れ合いが楽しめるなど、VR(実質現実)ならではの作品に仕上がっている。本作のプレイレポートと共に、本作の開発者にVRゲーム開発の苦労や、ゲーム業界におけるVRの未来について、話をうかがった。
取材・文:かーずSP 撮影:市村岬 編集:須賀原みち
その『乖離性ミリオンアーサー』がVRコンテンツになって登場! 『乖離性ミリオンアーサーVR』として、5月25日に発売されました。
ワイルドな傭兵アーサーが、元気な盗賊アーサーが、イケメン富豪アーサーが、可愛い歌姫アーサーが、目の前で一緒に戦ってくれる『乖離性ミリオンアーサーVR』、さっそく体感してきましたよ。
本作を開発協力しているHTC社「VIVE」のヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)は見た目ほど重たくなく、バイクのヘルメットをかぶる感覚で装着できます。 オープニングを終え、さっそくストーリーモードを開始。いきなり砂漠へ転送されたような感覚に戸惑っているうちに、ドラゴンが砂を撒き散らしながら飛び込んできました。
小石が顔の横をヒュンって通り過ぎるのにマジでビビって、「うぉ!」って声を出して避けちゃいましたよ。なんというド迫力! VRは奥行きがあるので、ドラゴンの立体的な存在感がリアルに感じられます。 バトルシステムとしては、目の前に浮かんでいるカードに触れて、自分の行動を選択します。奥行きのあるカードをタッチする仕草は、魔術師が魔法を発動させるようなカッコよさ。自分がファンタジー世界の主人公になっているリアリティは抜群です。
自分のカードを選んだ後は、エクスカリバーを振り下ろす必要があります。画面内の剣を掴んで、コントローラで上からバッサリと袈裟斬り! 効いてる効いてる。気持ちいい〜〜っ! 武器を握って、剣を振っている感じがイイですねー。他のアーサーたち(CPU)も次々にドラゴンへ攻撃を決めていきます。
自分+CPU3人のパーティなので、隣に味方がいるのも遠近感を伴ってバッチリ見えます。まるで実在するかのように、仲間と共にいる感じが楽しい。 ドラゴンに炎を吹かれると、自分の身体に一瞬火炎が燃え移ったかのよう! その迫力、臨場感は桁違いです。
等身大フィギュアっぽいのではなく、キャラが生きて、そこに立っている実在感がハンパない!
ウアハサのなでなでは、現実となったキャラクターを撫でている感じ。きめ細かい仕草や美麗なモデリングがそうさせているんだと思います。着せ替えモードも、顔の輪郭や膝小僧の描写などがリアルすぎて、思わずガン見してしまいました。
総じて、ファンタジーという非現実的な世界に潜りながら、没入感の高いVRゲームになっているという印象です。
そんな意欲作に仕上がっている『乖離性ミリオンアーサーVR』について、本作のプロデューサー加島直弥氏にお話をうかがうことに。
モバイルゲームをVR化する時の予想外な困難といった開発の裏話から、ゲームとVRの関係と今後の課題。はたまた、加島氏の描くVRの未来像など。さらにはVRのための驚愕のエピソードまで、いろいろと聞いてきました!
加島直弥氏(以下、加島) 最初は、2016年1月に開催された『ミリオンアーサー』のファン向けイベント『御祭性ミリオンアーサー』にVRをデモ出展したんです。当時、VRはまったく広まっておらず、一般的な知名度もありませんでした。
そんな中で、『ミリオンアーサー』ファンの皆様が、新鮮な気持ちでVRでの触れ合いやバトルをしていて、非常に高評価を得ることができました。そのため、本作の制作を始めた次第です。今回も遊び自体は『乖離性ミリオンアーサー』とほぼ同じ内容で、本格的なカードバトルをVRで楽しめる形になってます。
──初めて『乖離性ミリオンアーサー』を遊ぶ人でも楽しめるということですね。もともとのモバイルゲームをVR化するにあたって、問題などはありましたか?
加島 『乖離性ミリオンアーサー』はモバイル版からすでにキャラクターの3Dモデルがあったので、VR化しやすいタイトルだと思っていました。ところが、実際にVRにした場合、3Dモデルだけではなくて、エフェクトやUIといった、いろいろなグラフィック要素を3Dで表現しないといけないと気づいて、大変でしたね。
──と、言いますと?
加島 モバイル版などでは、エフェクトは決められたカメラの位置から一番カッコよく見える角度で表現すればいいわけです。ですが、VRだといろんな視点から見ることができるため、見る角度によっては派手なエフェクトが全然そうは見えなくなってしまう、といったことが起こってしまうんです(苦笑)。
CPUキャラが剣を振った時に出てくるエフェクトにしても、プレイヤーが横から見てもちゃんと派手に見えるようにしないといけない。こういったエフェクト制作の開発コストが、予想以上に大きかったです。
──それでも、エフェクトには手を抜かなかったのですか?
加島 視覚的にユーザーに一番インパクトを与えるのがエフェクトなので、相当力を入れましたね。
それだけでなく、もちろん『乖離性ミリオンアーサー』には可愛い女の子がいっぱい出てくるので、3Dモデルも重要でした。すぐ近くで見ても全然崩れず、綺麗に見える3Dモデルにするため、細かい仕草だったり髪の毛の揺れ方だったりをかなりブラッシュアップしましたね。
加島 まずVRゲームをやると決めた時に、私を含めたプレイヤー皆がやりたいことは、キャラクターとの触れ合いだと考えました。可愛い子をなでなでして愛でたいという欲求を叶えるためにも、企画当初から触れ合いモードは決まっていました。
ウアハサは『乖離性ミリオンアーサー』でも常にプレイヤーの近くにいるキャラなので、「そら可愛い子がいたら、なでなでしたいよね!」っていう(笑)。 ──ウアハサが、まるで生きているみたいでした。
加島 ウアハサはいろんな角度から見ると、ちゃんとその方向に顔を向けてくれるんです。それに、脚をジッと見つめてると手で隠したりと、プレイヤーの視線を意識して反応もしてくれます。なでているときは生き物っぽく、「そこに妖精がいる」って感じで楽しむことができるんです。
加島 さきほど言ったエフェクト表現もそうなんですが、普通のゲームでは気にならないけど、VRで見るとおかしく見えてしまう部分というのがあるんです。だから、実際にHMDをかけて確認してみないと違和感に気づかないこともありました。
ただ、ゲームの開発経験が長い人ほど、VRを一度体験して「VRってこんなもんか」と思い、そのまま開発中にHMDをかぶらずにつくっちゃう場合があります。でも、それだと実際にHMDでプレイした時には違和感が生じて、最終的につくり直しになってしまったりする。
こうした開発リスクを下げるためにも、HMDをかぶらずに想像で意見を言うのは避けて、まずはHMDをかぶってから意見したり設計するのが大事だと思いましたね。
──現在、VR技術の進化スピードはすさまじいです。技術が急速に進化する中で、初期から開発していた3Dモデルが時代遅れになってしまうといったことはないのでしょうか?
加島 去年の春に「Vive」や「Oculus Rift」がリリースされた時に、VRゲームの推奨スペックとしてはNVIDIA社のグラフィックボード「GTX 970」が基準となったんです。なので、『乖離性ミリオンアーサーVR』もGTX 970で動くレベルの描写に抑えています。他社もこの基準に合わせているので、その心配はありませんね。
──それでは、ほかのVR作品と比較して『乖離性ミリオンアーサー』のすごいところはどこですか?
加島 現在、海外のほうがVRコンテンツの開発は強いのですが、ゾンビやFPSシューティングなど、リアル寄りのジャンルが多いです。反対に、海外でアニメ寄りのVRコンテンツは少なく、『乖離性ミリオンアーサーVR』のような作品は、他のアニメ調作品と比較しても高いクオリティと自負してます。
──VRでのアニメっぽい萌え表現は、日本のゲームメーカーの強みになりそうですね。
加島 キャラクターの可愛さには一番力を入れてます! なので、『乖離性ミリオンアーサーVR』は「アニメの中に入り込んでいる」感覚で遊べる内容となっています。
また、海外VRコンテンツのエフェクトは、銃から飛び散る火花とか、リアルテイストが多いんですよね。だから、魔法や呪文だったり、火炎のブレスといった派手なファンタジーエフェクトのあるゲームは、VRコンテンツの中でも新鮮に映るんじゃないでしょうか。
加島 弊社の研究開発部署であるテクノロジー推進部がVRの研究も行っています。去年のTGS(TOKYO GAME SHOW)では「Project HIKARI」というVR×漫画のコンテンツを展示していました。
──実際、今のゲーム業界において、VRはどのように捉えられているのですか?
加島 「VR元年」と言われた2016年から、一年が経ちました。VIVEやPlayStation VR(以下、PSVR)など、だいたいのVR装置が出揃いましたが、まだまだ成長途中の市場かと思います。VRをめぐる現在の状況は、私が去年予想したよりは下回っていますね。もっと爆発的にVRが広がってほしいという期待を持っています。
──VR普及は遅れ気味であると。
加島 特に日本はPCゲーマーの人口が少なく、(VR機器に対応した)高スペックなPCを持っている人数は海外と比較すると少ないと思います。ただ、今はPSVRを買いたくても買えない人も多いので、まだまだ可能性があると思います。
──VR普及の障害となっているのはなんですか?
加島 高価な値段もそうなんですけど、品質の悪いVRゲームで遊ぶとVR酔いが起こりやすくなってしまうんですよ。そうしたゲームを最初にプレイしてしまうと、VRに対しての苦手感が出てきてしまう。なので、皆さんにはなるべく最初は高品質なVRゲームを体験してほしいですね。
──VR酔いは辛いですよね…。『乖離性ミリオンアーサーVR』では、VR酔いにはどのような対策をしているんですか?
加島 私自身がVR酔いしやすいタイプなので、VR酔いの仕組みは理解しています。なので、『乖離性ミリオンアーサーVR』ではVR酔いしやすい要素を全部省いてます。
VR酔いの基本的な原因は、自分の体が動いてないのにゲーム内で視点が動くから。例えば、ダンジョンを探索するゲームで、自分が動いてないのにカメラが動くと気持ち悪くなってしまう。なので、『乖離性ミリオンアーサーVR』は、プレイヤーが動き回ることはありません。
もう一点、VRでは、現実的な見え方と全然違う見え方をすると酔いやすい。例えば、自分の頭の上にピッタリ張り付くオブジェクト、UIがあると、それがVR酔いの原因になるんです。
──映画なんかでよく見られる、仮想空間にフルダイブした主人公の視点で、端っこにHPが表示されているようなアレですか?
加島 はい。それが酔いやすい原因になるんです。なので、UI自体をVRの“空間”内にオブジェクトとして設置するようにしました。これによって目の疲れを軽減するつくりになってます。
ほかにも、『乖離性ミリオンアーサーVR』では、「プレイヤーはなるべく正面だけに視点を置く」という思想でつくってます。VR内では、何回も左右を見ていると酔いやすいんです。なので、隣り合う味方CPUに向かって回復やバフ(味方支援)の魔法を撃つというアイディアもありましたが、結局なくなりましたね。
──VR酔いが起こらないように設計して、まずVR体験自体への抵抗感を失くしていこうということですね。
加島 私たちコンテンツをつくる側としては、高品質なVRゲームをつくって、楽しく、そしてなるべく酔わないゲームを提供していくことが使命だと思っています。今はVR自体のファンを増やしていって、コンテンツ側も儲かるような良い流れをつくっていく過渡期です。
全国のパソコンショップにて体験会も実施しておりますので、VRを体験したことのないお客様はまずは体験してみてほしいです。本作が、VR入門の良いきっかけになればと思います。
また『ミリオンアーサー』というIPは海外でもすごく人気があって、実は6月以降に韓国や台湾でも『乖離性ミリオンアーサーVR』の販売を計画しています。これから日本と海外との反応の違いを見ていくのも楽しみです。
加島 最近、マイクロソフトが「HoloLens」というデバイスを出しました。あのMR(ミックスドリアリティ)装置は現実空間にオブジェクトが表示され、ちゃんと立体的に見えるんですよ。何十年後かになると、テレビといったモニターはなくなって、壁にスクリーンが投影されるように、仮想のオブジェクトと現実のオブジェクトが融合してる世界が来るんじゃないかな、なんて想像しています。
そういう未来に向かって、自分もその礎として今のVR研究・開発をしています。
──加島さんは大学でもVRを研究されていたんですよね。
加島 もともと、ゲームの中に入り込む設定のゲーム『.hack』にハマってから、「私もゲームの中に入りたい」って気持ちがずっとあったんです。そんな中、大学でVRの存在を知って、研究を始めました。僕、当時メガネをかけていたんですけど、HMDを着ける時にメガネがひっかかってストレスだったので、視力矯正手術をしましたね。
──えっ!?
加島 眼内レンズを埋め込む「ICL」という手術をして、両目の視力が2.0になりました。最先端のVRを楽しむために、PCを用意して、部屋も用意したので、「次は目かな」っていう(笑)。
──最後に、強烈なエピソードが出ましたね(笑)。それでは、『乖離性ミリオンアーサーVR』に興味を持っている皆さんへメッセージをお願いします。
加島 『乖離性ミリオンアーサーVR』を体験してもらって、ぜひ『ミリオンアーサー』の世界やキャラクターの魅力を楽しんでもらえればと思います。もちろん、『ミリオンアーサー』ファンの方は、よりいっそう『ミリオンアーサー』を好きになってもらえるはずです!
──本日はありがとうございました。
『乖離性ミリオンアーサーVR』は、世界観や基本システムを踏襲しながらも、キャラクターとの触れ合いが楽しめるなど、VR(実質現実)ならではの作品に仕上がっている。本作のプレイレポートと共に、本作の開発者にVRゲーム開発の苦労や、ゲーム業界におけるVRの未来について、話をうかがった。
取材・文:かーずSP 撮影:市村岬 編集:須賀原みち
1500万DL突破のモンスターゲーム『乖離性ミリオンアーサー』
聖剣エクスカリバーを抜き、『王』の候補となった4人のアーサーたちの物語を描いたゲーム『乖離性ミリオンアーサー』。1500万ダウンロードを突破しているスクウェア・エニックスの大人気キャラクターコマンドRPGです。その『乖離性ミリオンアーサー』がVRコンテンツになって登場! 『乖離性ミリオンアーサーVR』として、5月25日に発売されました。
ワイルドな傭兵アーサーが、元気な盗賊アーサーが、イケメン富豪アーサーが、可愛い歌姫アーサーが、目の前で一緒に戦ってくれる『乖離性ミリオンアーサーVR』、さっそく体感してきましたよ。
目の前に飛んでくる石つぶてにまじビビり!!
スマートフォン/ブラウザゲームの『乖離性ミリオンアーサー』は基本無料。ですが、『乖離性ミリオンアーサーVR』はパソコン向けプラットフォーム「Steam」から買い切りで遊べる、独立コンテンツになっています。本作を開発協力しているHTC社「VIVE」のヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)は見た目ほど重たくなく、バイクのヘルメットをかぶる感覚で装着できます。 オープニングを終え、さっそくストーリーモードを開始。いきなり砂漠へ転送されたような感覚に戸惑っているうちに、ドラゴンが砂を撒き散らしながら飛び込んできました。
小石が顔の横をヒュンって通り過ぎるのにマジでビビって、「うぉ!」って声を出して避けちゃいましたよ。なんというド迫力! VRは奥行きがあるので、ドラゴンの立体的な存在感がリアルに感じられます。 バトルシステムとしては、目の前に浮かんでいるカードに触れて、自分の行動を選択します。奥行きのあるカードをタッチする仕草は、魔術師が魔法を発動させるようなカッコよさ。自分がファンタジー世界の主人公になっているリアリティは抜群です。
自分のカードを選んだ後は、エクスカリバーを振り下ろす必要があります。画面内の剣を掴んで、コントローラで上からバッサリと袈裟斬り! 効いてる効いてる。気持ちいい〜〜っ! 武器を握って、剣を振っている感じがイイですねー。他のアーサーたち(CPU)も次々にドラゴンへ攻撃を決めていきます。
自分+CPU3人のパーティなので、隣に味方がいるのも遠近感を伴ってバッチリ見えます。まるで実在するかのように、仲間と共にいる感じが楽しい。 ドラゴンに炎を吹かれると、自分の身体に一瞬火炎が燃え移ったかのよう! その迫力、臨場感は桁違いです。
着せ替えモードでは、ついついしゃがんでしまって…
ドラゴンを倒して、基地へ生還。『乖離性ミリオンアーサーVR』ではスマートフォン/ブラウザゲーム版と同じストーリーモードを楽しむことができるほか、アバターの着せ替えも堪能できます。早速、歌姫アーサーに水着に着替えてもらいました。 わっ! め、目の前に歌姫が立ってる! 編まれた髪も常にユラユラ。そして、胸もたゆんたゆん揺れています。等身大フィギュアっぽいのではなく、キャラが生きて、そこに立っている実在感がハンパない!
ウアハサを撫で撫でと愛でるモードもリアリティ抜群!
着せ替えモードはキャラを眺めるだけですが、ナビゲーションヒロインのウアハサには触ったりできるとのこと。さっそくなでなでモードを開始! ウアハサに近づいて頭をなでなでなで……あ、顔を赤らめて気持ちよさそう。ハートマークがふわふわと出てきて、わかりやすい! また、自分が移動すると、ちゃんと視線をこちらに向けてくれます。思わず膝小僧をガン見…これがVRか!
実際に本作をプレイしてみると、三次元の感じがすごく出ていて、エクスカリバーを振って攻撃できる爽快感が予想以上でした。振りたい! 振りたい! と意味なく聖剣をブンブン振り回したくなってきます。「いっけ〜〜〜〜っ!」「おりゃーーっ!」ってテンションを上げて遊ぶと、よりVRの世界に浸れて夢中になれます。ウアハサのなでなでは、現実となったキャラクターを撫でている感じ。きめ細かい仕草や美麗なモデリングがそうさせているんだと思います。着せ替えモードも、顔の輪郭や膝小僧の描写などがリアルすぎて、思わずガン見してしまいました。
総じて、ファンタジーという非現実的な世界に潜りながら、没入感の高いVRゲームになっているという印象です。
そんな意欲作に仕上がっている『乖離性ミリオンアーサーVR』について、本作のプロデューサー加島直弥氏にお話をうかがうことに。
モバイルゲームをVR化する時の予想外な困難といった開発の裏話から、ゲームとVRの関係と今後の課題。はたまた、加島氏の描くVRの未来像など。さらにはVRのための驚愕のエピソードまで、いろいろと聞いてきました!
開発中に気づいた“VR化ならでは”の盲点とは?
──『乖離性ミリオンアーサーVR』を制作するきっかけは何だったんでしょうか?加島直弥氏(以下、加島) 最初は、2016年1月に開催された『ミリオンアーサー』のファン向けイベント『御祭性ミリオンアーサー』にVRをデモ出展したんです。当時、VRはまったく広まっておらず、一般的な知名度もありませんでした。
そんな中で、『ミリオンアーサー』ファンの皆様が、新鮮な気持ちでVRでの触れ合いやバトルをしていて、非常に高評価を得ることができました。そのため、本作の制作を始めた次第です。今回も遊び自体は『乖離性ミリオンアーサー』とほぼ同じ内容で、本格的なカードバトルをVRで楽しめる形になってます。
──初めて『乖離性ミリオンアーサー』を遊ぶ人でも楽しめるということですね。もともとのモバイルゲームをVR化するにあたって、問題などはありましたか?
加島 『乖離性ミリオンアーサー』はモバイル版からすでにキャラクターの3Dモデルがあったので、VR化しやすいタイトルだと思っていました。ところが、実際にVRにした場合、3Dモデルだけではなくて、エフェクトやUIといった、いろいろなグラフィック要素を3Dで表現しないといけないと気づいて、大変でしたね。
──と、言いますと?
加島 モバイル版などでは、エフェクトは決められたカメラの位置から一番カッコよく見える角度で表現すればいいわけです。ですが、VRだといろんな視点から見ることができるため、見る角度によっては派手なエフェクトが全然そうは見えなくなってしまう、といったことが起こってしまうんです(苦笑)。
CPUキャラが剣を振った時に出てくるエフェクトにしても、プレイヤーが横から見てもちゃんと派手に見えるようにしないといけない。こういったエフェクト制作の開発コストが、予想以上に大きかったです。
──それでも、エフェクトには手を抜かなかったのですか?
加島 視覚的にユーザーに一番インパクトを与えるのがエフェクトなので、相当力を入れましたね。
それだけでなく、もちろん『乖離性ミリオンアーサー』には可愛い女の子がいっぱい出てくるので、3Dモデルも重要でした。すぐ近くで見ても全然崩れず、綺麗に見える3Dモデルにするため、細かい仕草だったり髪の毛の揺れ方だったりをかなりブラッシュアップしましたね。
可愛い子をなでなでして、愛でたい欲求を叶える
──ウアハサのなでなでモードを導入した理由は?加島 まずVRゲームをやると決めた時に、私を含めたプレイヤー皆がやりたいことは、キャラクターとの触れ合いだと考えました。可愛い子をなでなでして愛でたいという欲求を叶えるためにも、企画当初から触れ合いモードは決まっていました。
ウアハサは『乖離性ミリオンアーサー』でも常にプレイヤーの近くにいるキャラなので、「そら可愛い子がいたら、なでなでしたいよね!」っていう(笑)。 ──ウアハサが、まるで生きているみたいでした。
加島 ウアハサはいろんな角度から見ると、ちゃんとその方向に顔を向けてくれるんです。それに、脚をジッと見つめてると手で隠したりと、プレイヤーの視線を意識して反応もしてくれます。なでているときは生き物っぽく、「そこに妖精がいる」って感じで楽しむことができるんです。
どのVRゲームでも動作するように、VR業界の基準スペックがある
──VRゲームを開発する時に、通常のゲーム開発と異なっている点はありますか?加島 さきほど言ったエフェクト表現もそうなんですが、普通のゲームでは気にならないけど、VRで見るとおかしく見えてしまう部分というのがあるんです。だから、実際にHMDをかけて確認してみないと違和感に気づかないこともありました。
ただ、ゲームの開発経験が長い人ほど、VRを一度体験して「VRってこんなもんか」と思い、そのまま開発中にHMDをかぶらずにつくっちゃう場合があります。でも、それだと実際にHMDでプレイした時には違和感が生じて、最終的につくり直しになってしまったりする。
こうした開発リスクを下げるためにも、HMDをかぶらずに想像で意見を言うのは避けて、まずはHMDをかぶってから意見したり設計するのが大事だと思いましたね。
──現在、VR技術の進化スピードはすさまじいです。技術が急速に進化する中で、初期から開発していた3Dモデルが時代遅れになってしまうといったことはないのでしょうか?
加島 去年の春に「Vive」や「Oculus Rift」がリリースされた時に、VRゲームの推奨スペックとしてはNVIDIA社のグラフィックボード「GTX 970」が基準となったんです。なので、『乖離性ミリオンアーサーVR』もGTX 970で動くレベルの描写に抑えています。他社もこの基準に合わせているので、その心配はありませんね。
──それでは、ほかのVR作品と比較して『乖離性ミリオンアーサー』のすごいところはどこですか?
加島 現在、海外のほうがVRコンテンツの開発は強いのですが、ゾンビやFPSシューティングなど、リアル寄りのジャンルが多いです。反対に、海外でアニメ寄りのVRコンテンツは少なく、『乖離性ミリオンアーサーVR』のような作品は、他のアニメ調作品と比較しても高いクオリティと自負してます。
──VRでのアニメっぽい萌え表現は、日本のゲームメーカーの強みになりそうですね。
加島 キャラクターの可愛さには一番力を入れてます! なので、『乖離性ミリオンアーサーVR』は「アニメの中に入り込んでいる」感覚で遊べる内容となっています。
また、海外VRコンテンツのエフェクトは、銃から飛び散る火花とか、リアルテイストが多いんですよね。だから、魔法や呪文だったり、火炎のブレスといった派手なファンタジーエフェクトのあるゲームは、VRコンテンツの中でも新鮮に映るんじゃないでしょうか。
VR普及の課題は「VR酔い」解消
──ここからは、ゲーム業界におけるVRの今後について、お話をうかがっていければと思います。今作の開発はGREEとなっていますが、スクウェア・エニックスにVRの開発スタジオはあるんでしょうか?加島 弊社の研究開発部署であるテクノロジー推進部がVRの研究も行っています。去年のTGS(TOKYO GAME SHOW)では「Project HIKARI」というVR×漫画のコンテンツを展示していました。
──実際、今のゲーム業界において、VRはどのように捉えられているのですか?
加島 「VR元年」と言われた2016年から、一年が経ちました。VIVEやPlayStation VR(以下、PSVR)など、だいたいのVR装置が出揃いましたが、まだまだ成長途中の市場かと思います。VRをめぐる現在の状況は、私が去年予想したよりは下回っていますね。もっと爆発的にVRが広がってほしいという期待を持っています。
──VR普及は遅れ気味であると。
加島 特に日本はPCゲーマーの人口が少なく、(VR機器に対応した)高スペックなPCを持っている人数は海外と比較すると少ないと思います。ただ、今はPSVRを買いたくても買えない人も多いので、まだまだ可能性があると思います。
──VR普及の障害となっているのはなんですか?
加島 高価な値段もそうなんですけど、品質の悪いVRゲームで遊ぶとVR酔いが起こりやすくなってしまうんですよ。そうしたゲームを最初にプレイしてしまうと、VRに対しての苦手感が出てきてしまう。なので、皆さんにはなるべく最初は高品質なVRゲームを体験してほしいですね。
──VR酔いは辛いですよね…。『乖離性ミリオンアーサーVR』では、VR酔いにはどのような対策をしているんですか?
加島 私自身がVR酔いしやすいタイプなので、VR酔いの仕組みは理解しています。なので、『乖離性ミリオンアーサーVR』ではVR酔いしやすい要素を全部省いてます。
VR酔いの基本的な原因は、自分の体が動いてないのにゲーム内で視点が動くから。例えば、ダンジョンを探索するゲームで、自分が動いてないのにカメラが動くと気持ち悪くなってしまう。なので、『乖離性ミリオンアーサーVR』は、プレイヤーが動き回ることはありません。
もう一点、VRでは、現実的な見え方と全然違う見え方をすると酔いやすい。例えば、自分の頭の上にピッタリ張り付くオブジェクト、UIがあると、それがVR酔いの原因になるんです。
──映画なんかでよく見られる、仮想空間にフルダイブした主人公の視点で、端っこにHPが表示されているようなアレですか?
加島 はい。それが酔いやすい原因になるんです。なので、UI自体をVRの“空間”内にオブジェクトとして設置するようにしました。これによって目の疲れを軽減するつくりになってます。
ほかにも、『乖離性ミリオンアーサーVR』では、「プレイヤーはなるべく正面だけに視点を置く」という思想でつくってます。VR内では、何回も左右を見ていると酔いやすいんです。なので、隣り合う味方CPUに向かって回復やバフ(味方支援)の魔法を撃つというアイディアもありましたが、結局なくなりましたね。
──VR酔いが起こらないように設計して、まずVR体験自体への抵抗感を失くしていこうということですね。
加島 私たちコンテンツをつくる側としては、高品質なVRゲームをつくって、楽しく、そしてなるべく酔わないゲームを提供していくことが使命だと思っています。今はVR自体のファンを増やしていって、コンテンツ側も儲かるような良い流れをつくっていく過渡期です。
全国のパソコンショップにて体験会も実施しておりますので、VRを体験したことのないお客様はまずは体験してみてほしいです。本作が、VR入門の良いきっかけになればと思います。
また『ミリオンアーサー』というIPは海外でもすごく人気があって、実は6月以降に韓国や台湾でも『乖離性ミリオンアーサーVR』の販売を計画しています。これから日本と海外との反応の違いを見ていくのも楽しみです。
視力矯正の手術をするほど、VRにかけた人生
──今後のVRコンテンツはどのようになっていくと思われますか?加島 最近、マイクロソフトが「HoloLens」というデバイスを出しました。あのMR(ミックスドリアリティ)装置は現実空間にオブジェクトが表示され、ちゃんと立体的に見えるんですよ。何十年後かになると、テレビといったモニターはなくなって、壁にスクリーンが投影されるように、仮想のオブジェクトと現実のオブジェクトが融合してる世界が来るんじゃないかな、なんて想像しています。
そういう未来に向かって、自分もその礎として今のVR研究・開発をしています。
──加島さんは大学でもVRを研究されていたんですよね。
加島 もともと、ゲームの中に入り込む設定のゲーム『.hack』にハマってから、「私もゲームの中に入りたい」って気持ちがずっとあったんです。そんな中、大学でVRの存在を知って、研究を始めました。僕、当時メガネをかけていたんですけど、HMDを着ける時にメガネがひっかかってストレスだったので、視力矯正手術をしましたね。
──えっ!?
加島 眼内レンズを埋め込む「ICL」という手術をして、両目の視力が2.0になりました。最先端のVRを楽しむために、PCを用意して、部屋も用意したので、「次は目かな」っていう(笑)。
──最後に、強烈なエピソードが出ましたね(笑)。それでは、『乖離性ミリオンアーサーVR』に興味を持っている皆さんへメッセージをお願いします。
加島 『乖離性ミリオンアーサーVR』を体験してもらって、ぜひ『ミリオンアーサー』の世界やキャラクターの魅力を楽しんでもらえればと思います。もちろん、『ミリオンアーサー』ファンの方は、よりいっそう『ミリオンアーサー』を好きになってもらえるはずです!
──本日はありがとうございました。
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