「VTuberさんがうらやましかった」
──このプロジェクトでは、新章のコンセプトである「2.8次元アイドル」を皆さんそれぞれに解釈されて、表現に落とし込まれています。では「2.8次元アイドル」を皆さんはどのように解釈されたのでしょうか?篠田 コロナの前だったら「現実に出てきそうな感じ」というイメージだったんですけども、今では「目指せVR空間」になっているんですよ。VR空間は、僕にとってはもうひとつ新しい地球ができたと思っているんです。
僕自身がVR空間によく入っていて、そこでも新しいコミュニケーションが出来上がっているんですよね。そういう意味では、もう2.8次元とかではなくだんだん「次元のないアイドル」になっていくのかもしれないですね。アイドル、歌手、アーティストなのか……そこもあいまいになっていくというか。
──現実の事象に大きな影響をうけて、クリエイティブ面で自分たちでも思ってもいなかった方向に動き始めている?
篠田 当初考えていた「2.8次元アイドル」という部分は明らかに変化しつつあると言ってもいいかもしれないです。
バーチャル空間にいる人たちは、そこが「バーチャル空間だ」とすら思わず、生活空間だと感じていらっしゃる方も多い。今度VR空間で放送される番組に出演するんですけど、番組のミーティングがそもそもVR空間で行われているんですよ。
内田 すごいですね…!
篠田 VR空間でも2.8次元な存在として、アイマリンちゃんがいればいいなと思いますね。
彼女を演じるのは生身の内田さんなわけで、VR空間にいても3次元にも2次元にもなりきらない存在、そこに2.8次元らしさが宿るんじゃないかと思ってます。 emon 僕の中では、2.8次元って、モニターからキャラクターが飛び出している状態というイメージです。
篠田 なるほど、いいですね。今後のMVで使えそうです(笑)。
emon だから海に潜るというコンセプトが自分の中で出てきたと思ってます。
声優とアイドル、2.8次元アイドルの可能性
内田 わたしはセーラームーンのように「女の子が普段とは違う姿になって戦う」「それまでとは違うわたしではない存在になれる」というものに小さいころから憧れていたんです。声優になりたいと思ったきっかけでもありました。色んな作品で色んなキャラを演じさせていただく中で、時にはわたし自身がキャラと同じ衣装を着て、歌って踊るということもやらせていただきました。簡単な言葉では言い表せないんですが、最初は抵抗がなかったわけじゃなかったんです。
わたしとキャラを重ねて見てくれるファンがいるのは嬉しいんですけども、「わたしじゃなくて、あの子はあの子なんだ!」、あの子の可愛い姿のまま、わたしの声とマッチしたところで(そのキャラの)完成形として見てほしいっていう気持ちがあって。
──自分は声優であって、キャラは別にいるんだと。
内田 時代の流れなのか、そういうものが本当に多くの方に受け入れてもらっている。ただ、自分がどこに立っているのか、わからなくなる瞬間があるんですよ。
そんななかでVTuberさんがどんどん確立されているのをみて、「なるほど! すごいなぁ〜!」と思っていました。
──うらやましさがあるということでしょうか?
内田 そうですね。顔は出さない、声だけでのキャラクターの表現に集中できる。それでいて、VTuberさんだったら、自分の声で話しかけて、ファンの人とコミュニケーションもちゃんと取れる。中の方の人格としてではなく、キャラクターの性格として素を出せたりもする……いいなぁ!楽しそうだなぁ!って(笑)。
もちろん、すでに知られてしまっている声優さんの場合はすぐに誰かわかってしまうので、(キャラとして受け入れられないから)それはまた違うんでしょうけど。
篠田 たしかに、キャラと中の人が同一視されていくコンテンツが盛り上がっていった印象はありますね。 ──だからこそ、VTuberではないけれど、自分ではない2.8次元アイドルとして振る舞うアイマリンプロジェクトは、内田さんのなかではしっくりくる部分がある?
内田 そうですね。
篠田 逆に言えば、そういうコンテンツが一気に盛り上がったことで、みんなの中で価値観が崩れたと思うんです。それまで全然別だったジャンル、例えば初音ミク、アイドルアニメ、VTuber、少し突っ込むと現実のアイドル、それぞれのカルチャーやファンの価値観が混ざっていった。
アイマリンちゃんもその流れの一部に入ってくるのかなと思います。「アイドルがいる次元は、どこなのか?」というのをみんなが考えるようになったように思うんです。
内田 「アイドルのキャラクター」として出演しても、世間からみるとわたし自身がアイドルのメンバーとして見られてしまうこともあるわけですしね。
篠田 アイマリンプロジェクトはちょうどいいかもしれないですね。アイドルだけど、設定があってキャラクターがあって、ライブではキャラを投射する形になるかもしれないです。
内田 わたしも生身の人間なので、年齢を重ねていって変わってしまうと思うんですけども、演じる心や表現は変わらないかもしれない。それを保ったままできるのが2.8次元アイドルなんじゃないのかなと思います。
何十年経っても、(声と演技であれば)少女ができる、男の子ができる、人間でないものができる。そういうところに声優の浪漫を感じていたので、自分自身が出てしまうとそれが崩れてしまうし、堂々と「キャラクター」として出ていくという意味であればどこまででも演じていけるなと思えますね。
それぞれの立場から語る、VRの可能性
──大変興味深いお話が飛び出していますね。内田さんはキャラを打ち出す「アイマリンプロジェクト」だから居心地がいいというお話でした。実際、新章「アイマリンプロジェクト」の公式サイトを見ると、現時点ではキャストの情報が掲載されていない。知名度的には内田彩さんを打ち出すのが常套手段だと思いますが、あえてそれをしてないのも印象的です。篠田 世界観は一番大事にしているところなので、小説があって、キャラクターの設定もあるなかで、ライブ公演をするとなると内田さんがつくっていくアイマリンちゃんが必要になると思うんです。アニメではコンテがありますけども、ライブではコンテがないですし、ぼくが全部演出しきれるわけでもないですから。
アイマリンプロジェクトでは設定と世界観は大事にしていますけども、設定といっしょに進化していければいいと思います。
──いろんなクリエイターさんがたくさんの解釈を持ち寄って、影響をしあって、面白いものをつくっていければいいと。
篠田 今までも、3Dクリエイターからガジェット系のクリエイターも加わっていて、いろんなかたに関わってもらってます。新しくて面白いことをしようと思うと、いろんな分野のかたに参加してもらったほうが多角的になりますしね。その上でライブの実現を目指すとなると、ただのライブでは終わらないと思いますよ。
「バーチャルマーケット5」でも、内田彩さんに出演してもらうなど、VR空間での活動を徐々に活発化していきたいなと思ってます。 ──「バーチャルマーケット5」ではアイマリンのVRアバターを販売するとのことです。それは、みんながアイマリンになれるという意味があるんでしょうか?
篠田 内田さんが演じているからこそアイマリンちゃんだというのはブレません。ただ、そもそもアイマリンちゃんがいる世界はVR空間なので、すべてがデータ化されているんです。だから、ガワはいくらでもコピーできる。 篠田 『攻殻機動隊』的に言うならば、アイマリンちゃんのゴーストは内田さんが演じるキャラのなかにあるけど、ゴーストがなくても仮想空間ではその恰好だけはできる、という感じです。
──『攻殻機動隊』で言う「義体」を配っていくという感じですね。
篠田 そうですね。アイマリンちゃんのライブが開催されたとして、内田さんがVR空間にアイマリンちゃんとしてステージに上がり、お客さんもアイマリンちゃんの姿で迎えることになったら面白そうですよね。リアルなライブでは絶対にできないことですよね。そこまで堅苦しく考えずに、面白い謎空間が出来上がることを想像していますよ。 ──それもVRの拡張性や可能性ですね。emonさんや内田さんにとっては、VRの可能性はどこにあると思いますか?
emon 普段は行けないような、海外のライブ会場とかを再現したようなものがあれば面白そうですね。海外旅行という意味でも興味があります。
篠田さんが、最近ではVRクラブが存在していて夜な夜なそこに遊びにいっていると言っていて、驚きました。現実では表現しきれないものが出来上がることもあって、期待しかないですね。
内田 VRの空間はまるでアニメの中の世界みたいなんですよね。そこでアバターの姿を借りてキャラを演じる。それって声優本来の仕事に近いんです。近年顔出しの仕事も多かったりする中、これは原点回帰に近いのだと思います。
篠田 しかも、自分の声に加えて体がついてくるというのは大きいですよね。
内田 そうなんです。だから、VRは声優の役割、演技者の本来の役割を拡げてくれるもの。そう捉えてますね。 12月26日(土)には、「バーチャルマーケット5」アイマリン&ナギナミ特設ブースで重大発表が行われるという。
詳しくはアイマリン公式Twitterをチェックしてほしい(外部リンク)。
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