スチームパンクって知ってっか? 若者を虜にする『グラスマ』の正体

POPなポイントを3行で

  • 350万ダウンロードを突破するスマホゲー『グラフィティスマッシュ』
  • スチームパンクを感じさせる世界観はなぜ生まれたのか?
  • 「塗り」「引っ張り」によるプレイの気持ちよさとキャラクターのつくり込み
スチームパンク」と聞くと、むき出しの歯車やレトロなデザインといった時代錯誤的なテクノロジーを思い浮かべる人が多いだろう。

それを現代的にアレンジし、様々な要素を加え、オリジナリティを獲得したゲームがある。色を塗りながら戦うスマートフォンゲーム『グラフィティスマッシュ』(通称:グラスマ)だ。

2017年10月の配信開始から、現在までに350万ダウンロードを突破。プレイヤーは指揮官(ローダー)となり、ハンターと呼ばれるキャラクターとともにダンジョンに挑む。キャラを引っ張って飛ばした軌道は色が塗られ、塗った面積に応じて攻撃力がアップするなど、視覚以外の新しさも魅力の1つ。

いわゆる「おはじきゲーム」なのだが、遊んでみると爽快で視覚的にも鮮やかなバトルと、どこか懐かしさを感じさせる世界観の虜になり、手駒を弾いた先の爽快感を求め、ついついプレイしてしまうことに気がついた。

心躍る何かがこの作品には隠されている。一体他のゲームと何が違うのだろうか。この感覚の答えを求め、『グラスマ』のアートディレクションを担当したバンダイナムコオンラインの髙橋守さんとプロデューサーの西岡大樹さんに話を聞いてみることにした。

取材・文:エドワード長谷 編集:恩田雄多

「スチームパンク」を若手とともにモダナイズするという挑戦

『グラスマ』イメージボード

──『グラスマ』はそもそもどのような流れで企画がスタートしたのでしょうか?

髙橋守(以下、髙橋) 社内で新しくスマートフォンアプリの企画を立ち上げるときに、最初はコアなターゲットを狙い、徐々に広げていこうというコンパクトな企画を考えていました。

デザイン面でも私自身が他作品とは差別化したかったので、尖った部分を残しつつ、できるだけ作品を広げていきたいなと思っていたんです。

その中で『グラスマ』では、ある仮説を立て、それを今の世の中に提示したらどうなるのか、ある意味「チャレンジ」をしているんです。

──その仮説とは……?

髙橋 本作には「スチームパンク」的なデザイン要素を多く取り入れています。

1980年代後半から1990年代後半に、大友克洋さんの『AKIRA』や森本晃司さんなどの存在によって、アニメやゲームを中心にスチームパンクが大きく盛り上がりました。でも、2000年代以降は、あまりマスに受けている雰囲気ではなかった。

とはいえ、私を含め「かっこいい」と感じる人が確実にいる。そこで、スチームパンクを世界観の軸に置きつつモダナイズしていけば、知らない世代にとって新鮮に受け取ってもらえるのではないか、と考えたんです。 髙橋 新しい世代に打ち出すためにも、外部のイラストレーターと社内のデザイナーで構成される『グラスマ』チームのメンバーはほとんどが20代。若い世代が中心となって、ゲームの世界をつくり込んでいきました。

西岡大樹(以下、西岡) 僕がいま20代ですが、例えば大友克洋さんの『AKIRA』だったら、知ってはいるものの、しっかりと読んだことはなかったんです。「かっこよさ」は感じつつも、ゲームの世界観として取り入れるほど、スチームパンクにどっぷり浸かった経験がありませんでした。

だからというわけではないですが、デザインを制作するにあたって『AKIRA』を全巻読み込みました。というか、髙橋が貸してくれたんです(笑)

『AKIRA』を通じてスチームパンクを読み解き、設定や細かい描き込みに感動しました。そして、それらを今風にアレンジしたら、新しいスチームパンクの良さを若い世代に伝えることができるんじゃないかと、髙橋同様に感じたんです。

左から髙橋守さん、西岡大樹さん

──若手のデザイナーやイラストレーターに、スチームパンクを取り入れた『グラスマ』の世界観を伝えるのは大変でしたか?

西岡 最初は当然、修正やリテイクを指示させてもらって、世界観を伝えるための期間を設けました。タッチやイメージがチーム内で共有できて以降は、比較的自由にデザインしてもらっています。

髙橋 世界観の話で言うと、本作はいわゆるロストテクノロジーと呼ばれる、一度世界が滅びてしまったあと、という設定です。

この崩壊後の世界というのは、スチームパンクではよく見られる背景なんですよ。過度に現代的にするのではなく、新旧のバランスを考えるというのは意識していました。

──スタンダードな要素を残すことで、過去にスチームパンクを体験した人にも受け入れられやすくなりますよね。そうした世界観に加えて、キャラクターもどこかデザイン的な特徴を感じました。

髙橋 キャラクターのトーンは全体的にダークにまとめています。

制作を進めていくうちに、たくさんの人にも遊んでもらう方向にシフトする中で、徐々に明るい部分も増やしてきたんですが、この「ダークさ」というのはあまりブレていない部分なんです。

一見すると明るいデザインのようですが、影もベタ塗りで、それ以外の塗りもペタッとしたフラットな塗りで、このタッチを見ればすぐに「『グラスマ』だ」とわかるような特徴を意識しました。

──存在感という意味では、ベタ塗りすることで非常に強く出ていますね。デザインとして明確に定義しているんでしょうか?

髙橋 統一感を出すために特徴的なアートスタイルにしているんです。

基本的に「主線がはっきりしていて、影は稜線のところに入れて、反射光で紫色が入る」というルールがあって、それだけはしっかり守るようにしています。そうすると、多少キャラクターごとの特徴があってもしっかり作品に馴染むんです。

プレイヤーが最初に選択するキャラクターの2人。左からアーベルとユニス。アーベルの上着の胸部やブーツ、ユニスはさやの赤色の部分などのほか、2人ともに剣そのものに「アークテクノロジー」が使われている

髙橋 ほかにも、スチームパンクということで金色の金属パーツがよく使われていたり、崩壊したきっかけとなった「アーク」と呼ばれる発光する物質を利用した「アークテクノロジー」を、必ずキャラクターデザインに取り入れるようにして、『グラスマ』ならではの個性を際立たせています。

──メインのキャラクターを男女1人ずつという設定は当初から考えていたんですか?

髙橋 そうですね。ヒーローとヒロインのようなキャラクターは必ず立てようと思っていました。

ただ、女性のユニス(女性)に比べてアーベル(男性)は完成までに時間がかかりましたね。『グラスマ』の世界観における主人公像にハマらずに、何度も修正した記憶があります(笑)。

アーベルの過去のデザイン

ワンプレイで気持ちよさを感じさせる「塗り」と「引っ張る」

──スチームパンク的な世界観と並び、「塗り」と「引っ張る」というゲーム性は『グラスマ』の最大の特徴だと思います。この2つの組み合わせるというコンセプトは、どのように生まれたのでしょうか?

西岡 チーム内で何度もディスカッションをした結果ですね。

まず「引っ張る」という要素は、ゲーム性の1つとして僕らが目指した「爽快感」にマッチしていたので、それを軸として考えることにしました。

とはいえ、最近のスマホ向けゲームに多い操作性なので、「引っ張る」だけでは弱いなと。もう1つ要素が欲しくて、いくつもの試行錯誤をする中で「塗り」というアイディアが出てきたんです。

実際に試してみると、キャラクターが移動した軌跡が塗られていく様子がとても気持ちよかったんですよ!

──直前まで弾くポイントを決める緊張感と、その先の弾けるようなエフェクト。だんだんと染まっていくフィールドに、不思議と満足感を感じますね。

西岡 スマホゲームでは、いかにユーザーを気持ちよくさせるかが重要です。どんなゲームでも、ワンプレイで気持ちよさを感じられないと、その後のプレイにつながらないと思うんです。

なので、ビジュアル的な気持ちよさは徹底的にこだわりました。「まだ塗り具合が良くない」とか「このインクのちぢれ具合が違う」とか(笑)。
髙橋 特にインクの塗り──塗り重なったときの見え方──や弾け具合は、何度もやり直しました。でも、「引っ張る」と「塗り」が組み合わさったときにうまくいくかどうか、最初はチーム内でも半信半疑だったんですよ。

──その不安がなくなった瞬間はあったんですか?

西岡 「引っ張る」に対して「塗り」が加わったタイミングで、「ぶつかった敵にも色がつく」「敵を倒すとインクが飛沫する」など、細かな+αのアイディアが開発陣からどんどん出てきたんです。

次々と肉付けをしたくなる企画って、将来性を感じますよね。その瞬間に「この企画はいける」と確信しました。

そこから「フィールドを塗れば塗るほどキャラクターがパワーアップする」「グラフィティを召喚できる」など、現在実装されている機能を詰めていきました。

メディアミックスにも即対応できる『グラスマ』のつくり込み

──『グラスマ』はスマホゲームという特性を深く考えてつくられているんですね。最後に、スマホと好相性な『グラスマ』ならではの魅力を聞かせてください。

髙橋 『グラスマ』はキャラクターそれぞれにストーリーが用意されています。それらを少しずつ読み解いていくことで、ユーザーの中に世界観が構築されていく。

キャラクター以外にも、「ロストフラグメント」という世界の崩壊によって失われた記録を集めていくんですが、そこには「世界がなぜ滅んだのか?」に関するヒントが書かれているんです。それらをつなぎ合わせていくことで、ストーリーを考察する楽しみもある。 髙橋 キャラクターのストーリーもロストフラグメントも、1つ1つは短くしています。なぜなら、スマホで重厚長大なストーリーは合わないから。

常に持っているとはいえ、デバイスを通じて集中している時間は短い。そういう意味では、連続する短いストーリーを追っていける『グラスマ』は、スマホとの親和性が高いと思います。

西岡 例えば、お気に入りのキャラクターを「パートナー」に設定するとホーム画面に表示されたり、キャラクターとの絆が高まるにつれて個別のストーリーが解放されたりと、ビジュアル面だけでなく、コミュニケーションを通じて愛着を感じてもらえるような部分には力を入れています。

常に持っているスマホだからこそ、お気に入りのキャラクターがホーム画面に表示されていて、朝昼晩とログインした時間で違った反応をしてくれるという点も活きるのかなと。

ユーザーがゲームを起動した時間に合わせてコミュニケーションができることで、常にそばにいるような感覚を提供できる。いわゆる隙間時間でも楽しめるのは、『グラスマ』の強みではないでしょうか。 ──ユーザーの反応を見るとキャラクターが非常に愛されていると感じます。こうしたストーリーや世界観のつくり込みが、ゲームの奥深さにつながっているのでしょうか?

髙橋 個人的には、私が今までPCゲームや家庭用ゲームを中心につくってきたので、つくり込みを重視してきたこれまでの経験がにじみ出ているのかもしれません。

ただ、そもそも隙間時間のプレイが多いと言われるスマホ向けゲームだからといって、簡素にデザインするということは絶対にありません。デバイスの高性能化に伴って、今後はリッチでハイクオリティなゲームがさらに登場すると思いますし、『グラスマ』はそうした中でも魅力的なタイトルになるようにつくりました。

西岡 そうですね。「このキャラクターは『グラスマ』以外にはいないくらい魅力的なキャラクターか?」という点は、髙橋やチームのメンバーとも追求して進めていきました。

髙橋 SNSで「#グラスマお絵かき」のハッシュタグで、たくさんのユーザーがイラストを描いていただいているのを見るとうれしいですね。それはキャラクターの名前やイラストだけでなく、各キャラクターにボイスやストーリーがあるからこそ。それらからユーザーが想像を膨らませられるからだと思います。

あとはキャラクターがアニメーションでいろんな表情をするので、ユーザーからすると、恥ずかしがっているとか、照れてるんだなとか、表情から感情を読み取りやすいのかもしれません。

西岡 キャラクターが1人歩きできるようなキャラクターメイキングは意識しています。仮にメディアミックス展開がスタートしても大丈夫なくらい、設定はつくりこんでいるので、今後を楽しみにしてもらいたいです。

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プロフィール

髙橋守

髙橋守

アートディレクター

1995年株式会社ナムコ入社、現バンダイナムコオンライン所属アートディレクター。
ナムコ時代は「ACECOMBAT3」「セブン~モールモースの騎兵隊」「ヴィーナス&ブレイブス」等でキャラクターデザインを担当。
現在はバンダイナムコオンラインにて「グラフィティスマッシュ」でアートディレクションを担当中。

西岡大樹

西岡大樹

プロデューサー

2015年に株式会社バンダイナムコオンライン入社。
現在『グラフィティスマッシュ』のプロデュースを担当。

連載

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