前作『ヒゲドライバー 3UP』以来となる本作には、POLYSICSのハヤシさんやKICK THE CAN CREWのMCUにそっくりな後輩・MC8bitさん、声優の山村響さん、小澤亜李さんと、親交のあるアーティストがフィーチャリングとして参加しています。
「Sunday」「回レ!雪月花」「吹雪」など数々のアニメソングのヒット、さらにはアイドルへの楽曲提供など、着実に活躍のシーンを広げ、2016年には10周年を迎えたヒゲドライバーさん。
前回の10周年アルバムのリリースでは、山口のご実家にまでお邪魔して、「なぜ童貞の青年がモテなくてミュージシャンになったのか」をドキュメンタリー風にレポートしたが、今回は何をしよう? と、担当さんと頭をひねって考えました。 KAI-YOUでただのアーティスト対談をやっても面白くないので、居酒屋にとにかく所縁の人たちを集めて、ヒゲドライバーさんに物申してもらおう!
ということで、アルバムに参加した前述のアーティストに加え、「ヒゲドライバー」がここ最近で最も話題を呼んだ楽曲──と言えば「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」への提供曲「あんきら!?狂騒曲」ということで、歌唱を担当している双葉杏と諸星きらりを演じる声優、五十嵐裕美さんと松嵜麗さんという5組6名をお呼びしました。
この10年で生まれた互いの出会いとともに、「作曲家としては売れたけど(自分名義でCDをリリースする)アーティストとしては成功してない」(事務所社長談)と言われるヒゲドライバーさんへのアドバイスや意見、居酒屋トークなど、この場でしか聞くことができない貴重なお話をうかがいました。
取材・編集:新見直 文:恩田雄多 撮影:山口雄太郎
取材協力:鶏豚きっちん 渋谷道玄坂店(東京都渋谷区道玄坂2-10-10 世界堂ビル1F)
「ヒゲドライバーの居酒屋対談!」目次
1.POLYSICSハヤシさんの場合・POLYSICSはほとんどの曲が200BPMからだから
・ヒゲくんはチップチューンのイメージを変えた
2.小澤亜李さんの場合
・私、幸せになりたいです!
・ここで言えないようなエロいことばっかり考えてる
3.五十嵐裕美さん・松嵜麗さんの場合
・二人を知っている人だったら“あん肝”は出てこなかった
・初めて聞いたプロデューサーさんの反応を見てほしい
・アイマスはクリエイターを尊重してくれてる
4.山村響さんの場合
・Tridentの縁が生んだ曲は解散から1年後のファンへ
・「ツーマンライブやりませんか?」って話をしていて
5.MC8bitさんの場合
・「マイティボンジャック」はここ5年で最高の曲
・見られ方なんて、どうでもいいんだよ。音楽でかっこいいものをつくれれば
1.POLYSICSハヤシさんの場合
トップバッターはロックバンド・POLYSICSのハヤシさん。アルバム収録曲である「NO PARTY, NO PARTY」にも参加しているハヤシさんとは、音楽家ならではのジレンマトークに花が咲きます。果たして、ハヤシさんに「チップチューンのイメージを変えた」とまで言わせるヒゲさんの才能とは?POLYSICSはほとんどの曲が200BPMからだから
──お二人の出会いは?ハヤシ もう3年前くらいかな。「SUN ELECTRIC」という曲で、チップチューン系で面白い人いないかなって探してたときに見つけたヒゲくんにプログラミングしてもらったんだよね。SoundCloudに上げてたくるりのリミックス音源が面白いなって。オリジナルの曲を力技で変えるっていう解釈が俺にはなくて、衝撃を受けた。 ヒゲドライバー (話をもらった時は)びっくりでしたよ。当時の僕って基本的にゲーム音楽だから、バリバリのロックバンドと絡むことはなかったし、それも昔から好きなPOLYSICSだし、もう「マジか〜〜〜!!」って感じでしたよ。
ハヤシ それでも最初にプログラミングしてもらったやつが完璧で、言うことなしの状態だった。
──そんなヒゲさんから、今回のアルバムへのボーカル参加を依頼された際は?
ハヤシ 内容聞かずにOKして。でも、ヒゲくんて振り幅あるから、今回の1曲目みたいな感じだったらどうしようと思って(笑)。とりあえず、曲を聞かせてもらったら大丈夫だったから改めて「いいよ」と。
ハヤシ あ、そうなんだ。
ヒゲドライバー 僕の中でハヤシさんのテンションが活かせる、かつPOLYSICSでやってないテンポ感というテーマがあって。「NO PARTY, NO PARTY」はだいたい130BPMから140BPMくらいで、いわゆるEDMのテンポ感。そういう遅い曲はほとんどやってないと思うんですけど。
ハヤシ 確かに、POLYSICSはほとんどの曲が200BPMからだからね。
ヒゲドライバー 速い(笑)。
ハヤシ 新鮮だったけど、POLYSICSでも最近同じようなテンポの曲(「Tune Up!」)をやったりしたから、割と抵抗はなくて、楽しくできたよ。でも、メロディが難しくて、全然歌えなくて……ごめんね、本当に。
ヒゲドライバー いやいやいや(笑)。
ハヤシ ヒゲくんのメロディって、歌ってみて初めてわかるけど、勢いだけじゃない部分があって。さすがメロディメーカー、この感じ、俺にはないなって。
ヒゲドライバー ありがとうございます。こっちこそさすがだなって。いわゆるハヤシさん的な掛け声の部分は、ほかの人じゃ出せないですよね。聞いた瞬間やっぱりすごいって思いました。
ハヤシ 「俺をわざわざ呼ぶならここは叫ばないと」って感じのパートあるもん。なおかつめちゃくちゃ音重ねるよね。「この短時間で“イェイ!”超言うな」って思った。
ヒゲくんはチップチューンのイメージを変えた
ハヤシ 俺にとってヒゲくんは、チップチューンのイメージを変えた人かな。自分にとっては結構エポックメイキングな出来事で、それまでもチップチューン聴いてたし、電子音とかゲーム音楽も好きだったけど、それほど自分のアンテナには引っかからなかった。でもヒゲくんのつくるチップチューンに出会ったときに「!」となって、なんかざらついてて、パンクを感じた。型にはまってない感じ。 ヒゲドライバー ありがたいです。もともとチップチューンて言葉も、チップという昔の携帯電話に入ってた音源チップからきてて、それを使った音楽がチップチューンなんです。だから僕のはチップチューンじゃないんですよね、原理主義的に考えると。ハヤシ そうなんだ。
ヒゲドライバー 自分ではチップチューンとはあまり言ってなくて、ピコピコ音楽と言ったり。 ハヤシ でも、荒削りというか、決まった音色の中でいかに個性出すか、ポップなものをつくるかってすごく面白いことだよね。今は音色をつくるよりもすでに用意されたものから選ぶ時代になってて、自分でも使うけど、あの選ぶっていう時間、すごい無駄だなって思う。
ヒゲドライバー わかります。難しいんですよね。それに、一般の人にとっては、どうしてもコアな世界に映っちゃうし。
ハヤシ とはいえ、(ゲーム音楽自体が)まったく過去のものでもないよね。わからない人でも楽しめる音楽じゃないとっていうヒゲくんのジレンマもすごくわかるけど、もっと自信もっていいとも思う。
ヒゲドライバー ありがとうございます。もっと広がってくれるといいですよね。
ハヤシ 細野晴臣さんが監修してるナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)の「ビデオ・ゲーム・ミュージック」というサントラに出会ったときにすごくパンクを感じて、自分のルーツにもなってるんだけど。何かヒゲくんにアドバイスあればって言われたけど、自分の話で言うと、僕は、ブームとか周囲に合わせないで来たから続けて来れたのかも。
ヒゲドライバー 個性的で居続けることで20年続けてきたというのはすごいことですよね。
ハヤシ 息抜きを上手くやるのは重要だと思うよ。次から次に作曲だとどうしても1つ1つが薄くなりがちだから、僕は無理やり休む。
ヒゲドライバー 絶対その方がいいと思うんですが、勇気がないんですよね…。人間だし、休む時間は必要なんだからTwitterもしてもいいと思うんだけど、「こいつ仕事してるのか?」って思われそうで怖くて何もつぶやけなくなってますね…。 ハヤシ 真面目すぎると自分がしんどくなるよ。一方でヒゲくんには、「ビデオ・ゲーム・ミュージック」を聴いた時の感覚を蘇らせてくれるような衝撃があったよ。「チップチューンはゲーム音楽だけじゃないよな」って。精神面でのパンクを感じたというか、少ない音数を工夫していかにカラフルに聞かせるかとか、そういう感覚を思い出させてくれた。
ヒゲドライバー 根はパンクなんですよね。
自分で音楽やりたいって最初の衝動を感じたのがゆずで、そこからバンドかっこいいって思って、大学生くらいのときにパンクにハマって、世の中に物申したくなったんです。その頃に聞いてたのが、それこそHi-STANDARDとか銀杏ボーイズ、GOING STEADY、ガガガSPとか。でも結果的に、バンドは組めずにピコピコを始めたと。
──だからパンクスピリットにあふれたピコピコ音楽になるわけですね。
ハヤシ すごくきれいに(話が)つながったじゃん!
ヒゲドライバー おかげさまで(笑)。
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2.小澤亜李さんの場合
アニメ『月刊少女野崎くん』の佐倉千代役や、『ポッピンQ』の大道あさひ役などを担当する人気声優の小澤亜李さん。今回、小澤さんが参加した「マカロンが食べたい」は、非常にかわいらしい曲に仕上がっています。が、二人のトークは、冒頭から予想外の方向に展開していきました。私、幸せになりたいです!
──ヒゲさんに対する印象は?小澤 レコーディングには毎回来てくださって、ディレクションしていただいてるんですが、今までこうして話す機会はなくて、今回色々と発見している途中です。
でもヒゲさんの歌を聞いたり、生きる意味についてのブログ(外部リンク)を読んだりして、素敵な音楽をたくさん生み出しているヒゲさんもそういうことを考えるんだ! と、すごく親近感を感じていて。
実は私も生きる意味についてよく考えてます。生きる目的ってなんだろう。夢かな? 人との関わりかな? とか。声優という自分のなりたい職業で今は食べていますが、もし食べられなくなったらすっぱり諦めて別の道を歩かなきゃなとも思いますし、何があってもいいように調理師免許も取っていて。これからどうやって人生を歩んでいこうってよく考えたりします。
ヒゲドライバー ごめん、わりと、もっとあっけらかんと生きてるんだと思ってたよ。
小澤 人ってそれぞれみんな違った価値観がありますよね。私は今、仕事の中で夢や目標があるので前に進めているんですが、やりたいこともなくて大切な人もいないって人が身近にいて、何を日々考えて過ごしているのか気になってます。
ヒゲドライバー でもさ、みんな漠然と、何かやりたいとか、その瞬間瞬間は目標とか夢もあるものだよ。でも、死ぬまでそのやりたいことを続けるのも土台無理な話で、どっかで目標を見失うこともあれば、目標が変わることもあるものだと思うんだよね。
小澤 そうなんですね。私、やりたいことをやってるだけじゃ、つらいなって思う瞬間が多くて。幸せを感じられる瞬間をなるべく増やしたいんです。そうなると仕事だけじゃなく、誰か添い遂げてくれる存在がほしい。ヒゲさんはどうですか?
ヒゲドライバー 僕も結婚願望はすごくある。僕の理想の家族像が『クレヨンしんちゃん』の野原家なんだけど、ああいう家庭を築けたらいいな、野原ひろしになりたいなって、人生を考えるたびに思うんだよね。
小澤 喧嘩もあるけど、まとまるときにはしっかりまとまる──確かに幸せな家族ですね。私は、自分の家族が、自分の理想とする家族像からは遠くて、お互いに干渉することが少なかったんですよ。
ヒゲドライバー そうなんだ。僕はそういう意味じゃ、家族の愛をずっと感じながら生きてきたかもしれない。恋愛のというか、僕の最終的な目標は、かつての父親と母親の関係性だから(参照)。 ──家族の話で盛り上がってるところに水を差すようで恐縮ですが、ちなみにヒゲさんは33歳で童貞なんです。
小澤 えええ! そうなんですか!? ちなみに33歳で童貞ってすごいこと?……ですよね? その長い間に「もう捨ててやる!」って衝動にかられたりしなかったんですか?
ヒゲドライバー そこまでの衝動はまだないなぁ。大学時代にホストやってた時も、話すと面白がってくれる。最近はさすがにちょっと心配されることもあるけど、1つのネタとして自分のアイデンティティになってる部分はあるかなって。
──でも、モテたくてミュージシャンになったんですよね?
ヒゲドライバー うん、ミュージシャンだからこそ、面白い人生、人に話して笑われる人生をって。だからもう今の目標は、女優、もしくはAV女優と結婚すること。
小澤 へえぇ! 今まで踏み込まなかったところに意を決して踏み込んでみたら「こんなもんか」ってこともありそうですよね。でも、卒業したときには是非インタビューしてほしいなぁ。
ヒゲドライバー そのときは、意味もなく泣く気がする。
小澤 1つ課題(童貞)を乗り越えた(卒業した)ときに、音楽が変わるってことはあるんですか?
──社長の村田さんは、卒業したらもう曲をつくらないんじゃないかって心配されていたこともありました。
小澤 曲はつくれるんじゃないかなと思います。でも音楽が変わりそうですよね。
ヒゲドライバー 33年も生きてるから、意外と動じなかったりするような(笑)。
小澤 芝居の場合だと、年齢を重ねることで変化したりするんですけど、音楽でもそういうことってあるんですか?
ヒゲドライバー あると思うけど、僕個人としては変わってないかも。昔から、別れる曲のほうが好きだし、恋愛の歌詞は「あまりうまくないね」って社長によく言われるから。片思いとかフラれる歌詞はいくらでも書けるけど、付き合ってからの恋愛の話があまり書けないんだよね
小澤 でも、成就してるときって満たされてるから、そもそも音楽で癒やされたいって思わないですよね? 悲しい時に、私は音楽聞きたくなっちゃう!
ヒゲドライバー そう! 幸せなときって、何聞いても楽しい。自分が一番凹んでるときにしみるのが良い音楽だよね。
小澤 特に女の子は悲しいときに敏感になるから。そこに音楽があると、つい聞き込んでしまったり。あれ、でもそういう意味じゃ、ヒゲさんは満たされないほうがいい……?
ヒゲドライバー ミュージシャンとしてはそう思う…。
言えないようなエロいことばっかり考えてる
──小澤さんから見て、ヒゲさんはなぜモテないんだと思いますか?小澤 非常におだやかで男くさくないところも個人的にはとてもいいと思うんですが、モテないんですか? 実は女性に興味あるのかが疑わしいと思ってました。
ヒゲドライバー 本当は、ここでは言えないようなエロいことばっかり考えてる(笑)。でも、そういうドロドロしたものが女性を惹きつけないのかもなって。童貞なのは、それが大きいのかも。
小澤 と言いつつも、ぶっちゃけモテません?
ヒゲドライバー …モテない、というと嘘になる。(過去記事参照)
小澤 あーーなるほど、いつでも選択できるから選ばない。
ヒゲドライバー そういうやらしいところもあるのかなぁ……。自分の中で、ハードルが上がっちゃってるっていうのはあるかもしれない。 ──…さて、そろそろ曲の話をしませんか?
小澤 あ、そうでした! でも曲はいい感じになってるんじゃないかなと思います。キャラクターソングじゃないので表現の自由度が高いのも発見でした。色々試せて楽しかったです。レコーディングのときのディレクションは、本当に勉強になりました。
ヒゲドライバー けだるくっていうディレクション。力の抜き方みたいなところだよね。
小澤 アルバムの中では割と異色な感じがするんですけど。
ヒゲドライバー ウィスパーっぽい声がすごくよかったです。 小澤 ちなみに、自分が歌った曲以外だと、1曲目の「ガールズエンド」と最後の「独り言」が好きですね。あの歌詞って本当のことですか? ヒゲドライバー 基本、嘘はないです。
小澤 おお! またひとつヒゲさんのことが知れる歌詞と歌声だなと思って。私、さらけ出してる曲が結構好きなんです。
ヒゲドライバー ありがとう。……いやしかし、まさか今日、こんな話しちゃうとはな。
小澤 ですね(笑)。またヒゲさんの印象が変わりました! 音楽のことも、まだまだお話したいことがいっぱいです。また飲みましょう!
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