およそ90年にわたるディズニー・アニメーションの歴史を紐解く企画展「
ディズニー・アート展 いのちを吹き込む魔法」が、2017年4月8日(土)から9月24日(日)まで、東京・お台場の日本科学未来館で開催される。
ミッキーマウスの誕生作である1928年の『蒸気船ウィリー』や、第89回アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞した『ズートピア』、さらには公開中の最新作『モアナと伝説の海』まで、原画やスケッチ、コンセプト・アートなどを展示する。
展示作品のセレクトは、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの芸術的遺産の保存・保護を目的とした施設「アニメーション・リサーチ・ライブラリー(ARL)」が担当。保有する6,500万点以上の原画から選ばれた
約500点は、その
98%が日本初公開だ。
トーキーへの時代の変遷で生まれた『蒸気船ウィリー』
大きなコンセプト・アートが印象的なエントランスを抜けると、ディズニー・スタジオのアニメーターが使用していた作画・トレース台が来場者を出迎える。
何枚もの紙を使って描かれる生き生きとしたキャラクターたち。それらを生み出した、ディズニーのクリエイティブの源泉から展示はスタートする。
続いて、東京会場限定で、ウルトラテクノロジスト集団・チームラボによる体験型コンテンツを設置。スクリーンに投影された原画が、来場者に応じて動き出す。
会場では、各年代で生まれた作品とともに当時の最新技術を紹介。なかでも注目は、ミッキーマウスの初主演作『
蒸気船ウィリー』の原画とストーリースケッチ。
無声映画から動きと音がシンクロするトーキー(発生)映画へという、映画界の技術革新をフル活用した同作では、ウォルト自らが声を当て、作画は「ミッキーマウスの真の生みの親」と呼ばれるアブ・アイワークスが担当している。
初期作品を紹介するゾーンではほかにも、ミッキーマウスの幻のデビュー作となるサイレント映画『プレーン・クレイジー』をはじめ、『グーフィーの野球教室』『ボランティア・ワーカー』など、おなじみのキャラクターが登場する1930年代から1940年代の作品を展示。
また、各キャラクターの動かし方の基準となる「キャラクター設定シート」など、現在のアニメーション制作に通じる資料も展示されている。
表現に対する追求から生まれた新たな技術
続く「魔法のはじまり」と題したゾーンでは、世界初の長編アニメーション『白雪姫』を筆頭に、『ピノキオ』『ファンタジア』『ダンボ』『バンビ』などの作品が登場する。
「視覚」「音」「自然」「心」「旅」――それら作品内で表現するために用いた技術を、ディズニーならではの魔法として紹介。
例えば『ピノキオ』では、ディズニー・スタジオが開発した撮影技術「マルチ・プレーン・カメラ」に、また『ファンタジア』ではアメリカのベル・テレフォン研究所と共同で開発した「ファンタサウンド」に、それぞれフォーカス。
一方、『バンビ』では、
スタジオで2頭の子鹿を飼い、動物のリアルな動きを研究したエピソードも披露されている。
ベテランとともに活躍した魔法の使い手
魔法は生み出すだけでなく、使い手が存在して初めて成立する。次のゾーンでは、そうした魔法使いたちによるコンセプト・アートや背景画を展示。
『ラテン・アメリカの旅』や『ふしぎの国のアリス』などでカラー・スタイリストとして活躍したメアリー・ブレア、『眠れる森の美女』のコンセプト・アートがウォルトに認められ、『わんわん物語』などで背景画を担当したアイヴァンド・アール。
1930年代から活躍した9人のベテランアニメーター「ナイン・オールド・メン」とともに、ディズニーの表現力や世界観を広げた2人だ。
現在まで通じるミュージカルスタイルの確立
1989年の『リトル・マーメイド』以降、ディズニーでもCGをはじめとするデジタル技術を徐々に取り入れていった。
同時に、ハワード・アシュマンとアラン・メンケンのコンビなど、一流のミュージシャンが参加するようになり、『ライオン・キング』『ポカホンタス』と、音楽とともに物語を紡ぐ「ミュージカルスタイル」が確立した。
アニメーション史上初めてアカデミー賞にノミネートした『美女と野獣』では、ヒロイン・ベルと野獣のダンスシーンで初めて3DCGを採用。
のちに『塔の上のラプンツェル』で製作総指揮/キャラクターデザインを担当したグレン・キーンさんの作画とともに、印象的なシーンをつくり上げた。
会場では原画以外に、マケット(キャラクターの姿やかたちを検討するためにつくられる立体模型の雛型)も展示されている
最新作『モアナ』の監督による貴重なスケッチブック
最後に用意されたゾーンでは、ピクサーが加わって以降、本格的に3DCGで制作された作品群が登場。『塔の上のラプンツェル』や『シュガー・ラッシュ』、大ヒット作『アナと雪の女王』、『ベイマックス』に『ズートピア』と、多様な価値観、社会的テーマを色濃く描いた作品が続いている。
『アナと雪の女王』ではおよそ2,000種類の結晶モデルをCGでつくり、劇中の雪や氷を表現。
また『ベイマックス』では、光線の反射などを正確に表現できるCG技術「Hyperion(ハイペリオン)」を開発。自らの道具を自らでつくるというディズニーのDNAは、現代においても変わらない。
公開中の最新作『
モアナと伝説の海』からも、カラースクリプトや共同監督の1人であるジョン・マスカーさんのスケッチブックなど、貴重な資料を展示。
多数の原画を提供したARLのマネージング・ディレクター、メアリー・ウォルシュさんによれば、「『モアナ』の印象的な水の描写は、『ピノキオ』『リトル・マーメイド』といったディズニーの伝統を受け継いでいるので、ぜひ注目してほしい」と話す。
展示ゾーン終了後には物販スペースを用意。会場限定の「純金200gフィギュア 蒸気船ウィリー」(3,500,000円+消費税)など、420点以上のオリジナルグッズが販売される。
なお、展示ゾーンの音声ガイド(有料)は、山寺宏一さんと最新作の日本語版でモアナを演じる屋比久知奈さんが担当している。
本展から見えるディズニーの奥深さは、ディズニー映画をより楽しむ手がかりとなるだろう。
All Disney artwork (C) Disney Enterprises Inc.
1985年生まれ。ポップポータルメディア「KAI-YOU.net」編集長、東京工芸大学アニメーション学科卒業後、B2Bの業界誌やフリーマガジンの編集として従事。フリーライター/アニメショップ店員を経てKAI-YOUへ。2020年1月から現職。ジャニーズJr.に応募して、ジャニー喜多川さんと面接したり、Jr.の人たちとスタジオでレッスンしたことがある。
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