どんなレベルのプレーにもヒントはある。異色のプロゲーマー・ふ~ど 勝利の哲学

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どんなレベルのプレーにもヒントはある。異色のプロゲーマー・ふ~ど 勝利の哲学
どんなレベルのプレーにもヒントはある。異色のプロゲーマー・ふ~ど 勝利の哲学
日本でゲームだけで食べているプロゲーマーは、数えるほどしかいない。そのうちのひとり、2011年からプロとして活躍するふ~ど選手は異色の存在だ。

格闘ゲーム(以下格ゲー)の『バーチャファイター』『ストリートファイターⅣ』のプレイヤーとして世界トップレベルの実力を持ち、アメリカのゲーム周辺機器メーカー・Razer社のスポンサードを受けながら、Team GRAPHTに所属。

昨年は、海外大会に16回も参加し、世界最大級の格闘ゲーム大会「EVO2016」では準優勝を果たした。

その一方、シューティングゲーム『ガンスリンガーストラトス』(以下ガンスト)でも全国大会を3度制し、トッププレイヤーとして名をはせる。

さらに、最近ではデジタルトレーディングカードゲーム(DCG)の『Shadowverse(シャドウバース)』もプレーし、さまざまなメディアに取り上げられている。

プロゲーマーというと、ひとつのゲームをひたすらやり込んで極めるイメージがあるが、なぜ、ふ~ど選手は複数のゲームを同時進行でプレーし、かつ結果を出せるのか。その理由を尋ねた。

プロゲーマーの仕事は「楽しかったらやり込める環境」がいい

──格ゲーの世界でタイトルを争ってきたふ~どさんが、まったくジャンルの違うシャドウバースをプレーするのはなぜでしょう?

ふ~ど 面白いからやっているだけですよ。DCGは『Magic: The Gathering』もやっていました。カードゲームは戦略ゲームなので対人相手の深さがあって、基本的に楽しいんですよね。

俺がシャドウバースをやって話題になったり、仕事になっているのは、シャドウバースのタイトル自体が強いからじゃないですか。ほかのDCGに比べると良心的で、ゲームの内容自体も深いのに、そんなにお金を使わずに遊べる良ゲーですからね。プロゲーマーは、楽しかったらやり込める環境にあるからいい仕事だなと思います。

でも、シャドウバースは普通に遊んでいるだけで、大会で勝つために時間を使うようなことはしていません。俺よりレベルの高い人もたくさんいるし、格ゲーのやりこみの姿勢と比べるとゆるい感じですね。

──ガンストはやり込んでいますか?

ふ~ど ガンストは、超やりました。2000人ぐらい参加する、優勝賞金1000万円の全国大会は、5回やって3回優勝しています。でも、最近ガンストも、大会に合わせて頑張るぐらいで基本は格ゲーですね。

安定して結果が出せるのは「攻略の対象」が違うから

──やはり、格ゲーメインなんですね。昨年は「EVO2016」の『ストリートファイターV』部門で準優勝されました。2011年に『スーパーストリートファイターIV アーケードエディション』で優勝してから5年が経ちますが、どうやってトップレベルを維持しているのでしょう?

ふ~ど 大会の結果は運の要素がデカいと思っています。運だなと思いつつも、安定して結果が出せるのはなんでかなと考えると、ゲームの攻略ではなく、人の攻略をしようとしているからかな。

対戦相手の動画を見て、分析するのがほかの人よりうまいのかもしれません。格ゲーは、いきなり技が出るんじゃなくて、予備動作がある。だから、動画を見て、この後はこういう動きをするんだなというパターンを見極めるんです。

自分の動画も見ます。そうすると悪い動きではなくて、よくやっている行動がわかる。負けるときは、相手がその癖を知っていて、潰しにきている。試合中は自分の癖に気づきづらいけど、後で動画を見たり、ほかの人から「あれ多かったよね」と言われると、確かにそうだなと思うことも多いんですよ。

まあ、強い人はみんな自分の動画を見て、弱点を分析して、大会では動きを変えてくる。だから運ゲー(運次第)なんですけど。

「性格が悪くて人と付き合えない人は、勝負事には不利」

──情報の分析が重要なんですね。ひとりでひたすらゲームをしたりはしない?

ふ~ど 僕は、家でひとりでゲームをするのはすごく嫌いだし、ひとりの意味がないと思っています。ゲームは知識が増えれば強くなるから、プレーするより考えている時間のほうが大切だと思うんですよ。それならひとりで考えるより、人と話すほうが効率がいい。人数が多い分、情報量が多いじゃないですか。

ゲーマーは引きこもりのイメージがありますけど、僕はいつも外にいます。ゲーセンに行っても、プレーしないで人のプレーを見ていることも多いですよ。弱い人のプレーを見る価値ないと決めつける人が多いけど、僕は「これはなんかあるな」と思って見ています。

ゲーセンに行った後、友だちと酒を飲みに行くことも多いですね。飲みながら、ゲームの動画を見て話をするんです。そうやって人のプレーを見るだけで参考になる。僕は、その吸収率が高いのかもしれない。

──情報の重要性は、ほかのゲームにも共通しているんですか?

ふ~ど そうですね。だから、ゲーセンに行くときは一番流行っているところに行きます。いろんなプレイヤーが集まるから。

ガンストの場合は、自分が通うことで一番流行ってるゲーセンにしました。ガンストは4対4のゲームなので、一緒に組むことができるんですよ。だから、「僕はこのゲーセンにずっといる」とTwitterとかで宣言すると、強いプレイヤーが集まってくる。

四六時中、そのゲーセンに強いプレイヤーがいるという環境になると、トッププレイヤーのプレーを見たい人がどんどん来るようになって、聖地化しました。ガンストは動画を撮る機能があるので、そうやって集まった人たちと動画を見ながら話をするんです。

いまの時代、性格が悪くて人と付き合えない人は、勝負事には不利だなと思いますね。情報が入ってきづらくなって、単純に損をする。だから、みんな嫌われないように意識していると思いますよ。

人生は楽しく過ごすのが重要。だから僕はゲームをやる。

──以前に取材をしたとき、たまたまゲーセンで居合わせた一般の方と一緒にプレーしていたのが印象的でした。プロになる前となった後で、なにか変わったことはありますか?

ふ~ど ゲーセンでサインください、写真撮ってくださいと言われることはあるけど、プレーして、人と話しながら考えて、答えを出して、またゲームをやるというのは同じだから、大きな変化は感じません。

それよりも、純粋に年を取ったなと思いますね。ガンスト勢は20歳前後で、俺はもう30過ぎ。僕が20歳のとき、30歳はおっさんだと思ってたから(笑)。この年齢だと、普通は年相応なことをしてますよね。

──子どもの頃からずっとゲームに熱中してきて、プロにまでなりました。これまでの道のりで、切り捨ててきたものはありますか?

ふ~ど それは特にありません。大きく言うと、人生を楽しく過ごすことが重要で、どうやったら楽しく生きられるか。ほかの人から見たら、切り捨てていると思うかもしれないけど、僕はゲームをやることが一番楽しいから、生活の満足度で言ったら切り捨ててきたとは思ってない。

むしろ、自分はゲームが好きで、ゲームに時間とお金を費やすことでいろいろ得まくってきた人生だと思っています。

いつかプロゲーマーが終わって、ほかの仕事に就いたときに「ゲームは意味なかったな」と思う可能性もあるけど、たぶんそんなことはないでしょう。ゲーム自体、ずっとやっていこうと思っているから。

「五輪でeSportsをやるなら2020年の東京で」

──ふ~ど選手が格ゲーを始めた10歳頃から、ゲームを取り巻く環境も大きく変わりました。4月18日には、中国で開催される2022年のアジア大会で、メダル種目にeSportsを加えると発表されました。いずれは五輪でも正式競技になる日が来ると思いますか?

ふ~ど eSportsは線引きが難しいんですよね。これから明確化しようという流れですけど、eSportsとして人気の『Hearthstone』や『League of Legends』と格ゲーを一緒にするのか。僕はサッカーと水泳ぐらいジャンルが違うゲームだと思うんですよ。

でも、リオ五輪の閉会式で安倍総理がマリオのコスプレをしたじゃないですか。あれはやっぱり日本のゲーム文化を世界にアピールしたものだと思うんで、五輪でeSportsをやるなら2020年の東京でやってほしい。

まあ、世界的に人気のゲームはたくさんあるんで格ゲーは競技に選ばれないと思いますけど(笑)、もし選ばれたら出場したいですね。最近は格ゲーも高額賞金の大会が増えて、海外では注目を集めるようになっていますし。

僕はいま、アメリカのテレビ局が主催している総額2500万円、優勝賞金1500万円の大会に出ているけど、日本で格ゲーのすそ野を広げるなら、日本勢が勝つことがすごく重要だと思います。1500万円取ったら、やってみようかなと思う人も増えるでしょ。今回、かなりチャンスだと思っています。

僕がもし優勝したら、居酒屋を出したいですね。飲むのが好きだから。

取材・文:川内イオ 編集:長谷川賢人(インタビュー実施:2017年4月12日)


本記事のライター・川内イオ氏の著書『BREAK!「今」を突き破る仕事論』(双葉社)では、ふ〜ど選手をはじめ、「普通の人」から世界王者に成り上がった10人の日本人を追っている。

彼らの仕事論には、クリエーターやビジネスパーソンへのヒントが溢れている!(詳しくはこちら

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川内イオ

稀人ハンター

1979年生まれ。新卒で就職した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年にバルセロナに移住し、4年間滞在。10年に帰国後、サッカー誌、ビジネス誌の編集部を経て現在フリーランスの編集者、ライター。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンターとして活動中。

著書最新刊は、「普通の人」から世界王者に登りつめた10人の日本人を追った『BREAK!「今」を突き破る仕事論』(双葉社)。

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