連載 | #14 漫画百景 いま読むべき漫画たち

殺るか殺られるか……漫画『ポケットモンスターSPECIAL』のハードな世界観

あのジムリーダーが言い放った悪役すぎるセリフ

「死ね!虫けらどもめ!」


よもや児童向けの『ポケモン』作品で、こんなに悪役らしい台詞を見ることになるとは思いませんでした。子どもながらに衝撃を受けたことを覚えています。


しかも、これをゲームではジムリーダーだったナツメが言っているのだから二重の驚きです。


そう、『ポケスペ』ではナツメがめちゃくちゃ悪役してるのです。

ナツメがちゃんとジムリーダーしていたゲーム『ポケモン』特別CM

彼女以外にもゲームではジムリーダーのマチスキョウが悪役で、悪の組織・ロケット団の3幹部として登場します。もちろんボスはゲームでもアニメでも悪役然としていたサカキです。


彼を頂点にしたロケット団は、特に赤・緑・青編で略奪に生体実験まで悪逆の限りを尽くし、ポケモン図鑑の完成を目指す主人公・レッドの行く先に立ちはだかります。


それどころか、レッドはマチスに死ぬ寸前まで追い詰められます。マチス、マジで悪いやつ

トレーナーも攻撃対象になるポケモンバトル

そんな世界観であるため、ポケモンバトルも一筋縄ではいきません。


トレーナーへのダイレクトアタックが上位の選択肢になるのです。


ちまちまポケモン同士を戦わせるよりも、トレーナーを黙らせたほうが効率が良いという考え方です。悪役の思考としては当たり前ですね。しかし、これを悪役だけでなく主人公サイドのキャラクターも平気で行うのだから『ポケスペ』はすごい。


主人公のレッドはさすがにその描写は控えめですが、実利主義で合理的なライバル・グリーンは、ある人物と対峙した際にノータイムでポケモンによる攻撃を加えようとした非情さがありました。

『ポケットモンスターSPECIAL』5巻の書影。左奥のキャラクターがグリーン/画像はAmazonから

そのほか、モンスターボールの開閉スイッチを破壊してポケモンを出させなくする荒業もあり。ポケモン同士の技を組み合わせて人為的な雷雲を生んだり、見えない攻撃をつくり出すなど多彩な攻撃方法も見どころ。


競技としてのポケモンバトルではなく、何でもあり。殺るか殺られるかのポケモンバトルが本作の特徴です。


そしてこの殺伐とした作風であることが、真っ当であろうとする主人公をより輝かせます。

レッドとイエローが救った、悪役たちの心

赤・緑・青編の主人公・レッドと、イエロー編の主人公・イエローは、共に真っ直ぐな心根を持っています。


レッドは船に忍び込んだりと清廉潔白なタイプではないのですが、本質的にはポケモンを愛するトレーナーです。


ロケット団の科学力を駆使してポケモンを道具のように扱い、力に溺れるマチスを退けた後、「ポケモンと仲良くできなきゃ楽しくないのに…。」とこぼした彼の姿は切なかった。


また、ロケット団の研究者として破滅的なパワーと持つミュウツーを生み出し、その罪悪感に苛まれていたカツラ(ゲームではジムリーダー)に対して、「作られた命でも、人間と仲よくしちゃいけないはずないでしょ。おしえてあげてよ、カツラさんの手で」と語りかけ、彼の心を救いました。

『ポケットモンスターSPECIAL』4巻の書影。真ん中のキャラクターがイエロー/画像はAmazonから

イエローはポケモンを回復することができる稀有な能力の持ち主で、攻撃してくるポケモンや悪意のあるトレーナーもなるべく傷つけないようにする優しい心を持っています。


グリーンにはそれを甘さだと指摘されますが、生きるために何かを破壊し続けなければならない人の業の反対に立つキャラクターとして、環境破壊が一つのテーマになっていたイエロー編を牽引。


過去のトラウマから優秀なトレーナー以外の人間を排除しようとするカントー四天王・ワタル(イエロー編では四天王が全員敵!)の野望を打ち砕き、結果的に彼の人生を変えました。


ハードでシリアスな世界観だからこそ光るこうした主人公たちの姿。ゲームともアニメとも一味違う、もう一つの『ポケットモンスター』の醍醐味は本作でしか味わえません。

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漫画百景 いま読むべき漫画たち

テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げて、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。

祝!『ポケットモンスター』28周年!

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