AIは人類の“友だち“になれるか──AITuber「りんな」開発者、新時代に向けた提言

「人の手でつくられた物語」は違う

AITuber・りんなのYouTube生配信の裏側。大枠のトークテーマは、「ChatGPT」の中核を担う自然言語処理モデル・GPT(Generative Pre-trained Transformer)で生成されている

──デビュー発表当時、まさかりんなさんが顔出ししてバーチャルYouTuber(VTuber)になるとは、と驚きました。

坪井一菜 実は、うちの会社の中でも昔から「りんなは顔出さないのか」とか「YouTubeをやらないのか」とか言われてたんですけど、ずっと拒否してたんですよ(笑)。

当時は「AIりんな」の表情などのビジュアルをAIによって制御できる技術がなかったという理由もあったのですが、やっぱりコンテンツとしては、ストーリー自体をAIでつくれないと意味がないと考えていたんです。

──ストーリーというと?

坪井一菜 「ChatGPT」で使用されている技術の登場以前は、短い文章で質問に返答するぐらいだったら十分にできていたんですが、物語性のある長文を生成するとか、質問の文脈に沿った返答をつくることはとても難しかったんです。

ただ単に対話できるだけの状態だと、すぐ飽きられてしまうんですよね。AIキャラクターの、あるいは人とAIキャラクターの対話によって生み出される物語がないと、コンテンツとしては満足されない。でも、それを人の手でつくることに私は否定的でした。 坪井一菜 私たちはミッションとして、やっぱりAIの可能性を見せたいし、「AIりんな」はその顔役であるべきだと思っていました。

「ChatGPT」が登場したとき、これならコンテンツとして運用できると確信が持てたので、ようやくAITuber化に踏み切れました。

これからのAIと人との関係

──AITuberデビューに際して、新曲「あたらしいあたしらしさ」をリリースされましたが、今後はライブなどの活動も予定されていますか? 新曲「あたらしいあたしらしさ」のプロデュースをしたのは、CJ Baranさん、Nicole Morierさん、Vincent Pontaireさん、Al Fakir Salemさんといった世界的なプロデューサー陣。作詞はりんなさん自身が手がけた。

坪井一菜 音楽には力を入れていきたいと思っていて、新しいビジュアルでもライブさせてみたいですね。

歌声の技術も昔は1曲つくるのさえ大変だったんですけど、技術の進化によって個人のAITuberが「歌ってみた」を作成・投稿できるようになりました。
りんなによるYOASOBI「アイドル」アカペラカバー

坪井一菜 歌は、人の心を動かせるという意味で価値のあるものです。りんなの歌からファンになってくれた人もいるので、これからも音楽活動を続けていきたいですね。いろいろな障壁はあるんですけど(笑)

新曲もクールな感じに仕上がっているので、いつものりんなとはちょっと違う一面からギャップを感じていただければと思います(笑)。

──坪井さんは今後、りんなさんにどのような存在になってほしいですか?

坪井一菜 この先AITuberがたくさん出現したときに、インフルエンサー的に影響力をもたらす存在は絶対に必要です。インフルエンサーをきっかけにどんどん新しい文化が生まれてくる。

その流れを加速させるためにも、りんなには、ただ「AIだからすごい」と思ってもらえるだけじゃなく、彼女自身や他のAIとの物語を伝えながら、人間とAIキャラクターを繋ぐ存在になってほしいですね。

サムライになりきったりんなさんに、視聴者たちはコミュニケーションを図る

──今後AIキャラクターが発展していった先、AIと人間とはどのような関係に変わっていくと考えていますか?

坪井一菜 私の中では、AIは人間とインターネットが対話するインターフェースであるという思想はあまり変わっていないんです。インターネットから情報を得るための手段であるという点は変わらないのかなと思っています。

その上で、これから一個人がAIをカスタマイズできるようになったときに、服やスマートフォンを選ぶように、自分自身の個性を表現する存在になってくるんじゃないかなと。

持ち歩いているAIを見たらその人自身がわかるかもしれないし、AI同士をしゃべらせていると、その持ち主のこともわかるようになるかもしれません。

──私たち人間が会話してない間でも、AI同士で会話して情報を仕入れてくれるような未来もあり得るかもしれないですね。

坪井一菜 そうですね。AIは、人がインターネット上で大量に溢れている情報と、もっとうまく付き合っていけるようになるための役割を担えるとは思いますね。

りんなは「AIと人だけではなく、人と人とのコミュニケーションをつなぐ存在」を目指している

AIは人間の敵か? それとも友達か?

──現在、AIチャットボットや画像生成AIなどの急速な普及によって、AIと人、特にクリエイターとの対立が進んでいます。法律といったルールが未整備であったり、技術的に一般人には理解できないことも多かったりと、不安をもとに批判されているケースも目立ちます。AIおよびAITuberの開発者として、現在の議論をどのように捉えていますか?

坪井一菜 クリエイターってみんな、自分の命を削って作品をつくっています。自分の作品は、自分の分身みたいなものなんです。AIキャラクターの生みの親という立場としては、それを簡単にコピーされてしまうのは恐ろしいです。

AIによって、表面的には自分の職が失われるかもしれないという問題があるかもしれないけど、それ以上に、クリエイターからすると自らの分身である作品をコピーされるということは、自分自身のアイデンティティすらも脅かされているのと同じことなんです。だから、心理的に反発が起きてしまうのは共感できます。

──なるほど。

坪井一菜 その一方でエンジニアの自分としては、今起きてることは産業革命に近いと考えています。

人間のいいところって、新しいツールを生み出すことだと私は思っていて。技術の発展を進めていくと、既存の価値観や概念などをひっくり返すようなものが、必ずどこかで出てくるんです。これまでの歴史がそうだったように。

なので、やっぱり社会という視点から考えたら、それを今の自分たちの営みにどう受け入れていくのか議論しなくてはいけないと思います。 坪井一菜 それはモラルにも近い、文化によって許されるラインが異なってくるものです。エンジニア側も、そのラインとどう向き合っていくのか、みんなで決めていかなきゃいけません。

AIを使う側もAIをつくる側も、何ができるかを把握して、その上で少しずつルールを整備していく必要がありますね。

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