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  • 2020.08.07

同人音楽の中の民族音楽

同人音楽を辿る本連載。

今回は少しユニークなつながりがある、「民族音楽」について。

同人音楽の中の民族音楽

クリエイター

この記事の制作者たち

同人音楽を様々な観点からめぐる連載「新世紀の音楽たちへ」。

今回は「民族音楽」について。実は、同人音楽と民族音楽には少しユニークなつながりがある

ニコニコ動画やYouTubeの音楽関連のタグで、よく「民族音楽」という言葉を見かける。音楽系即売会・M3のカタログにも毎回一定の数、民族音楽のサークルが登場する。

でも、これってよくよく考えてみると不思議なことじゃないだろうか。
 

民族音楽

別に特殊な言葉じゃない。ニコニコ動画で「民族音楽」というタグを検索して見ればたくさんの動画がでてくる。2ちゃんねるのスレッドなどでもよく使われているようだ。

それどころか、「民族音楽+電子音楽の楽曲を教えろください!」なんていうような質問も見かけたりする。

同人音楽即売会や、音楽サークルのホームページを見ても「うちは民族です!」と、「民族音楽」を旗にかかげる人たちもたくさんいる。僕も同人音楽でよく聞くような「民族音楽」がとても好きだ。たとえばこんな一枚のCDがある。

【FullAlbum】アルティナ・トスの召喚壁に捧ぐ

もちろんTSUTAYAにそんな棚はない……と思ったらあった。

都心の某TSUTAYAの民族音楽の棚には、日本でもブームを巻き起こした「ワールドミュージック」を中心に「アフリカ大陸セネガル民族音楽ジェンベ・シリーズ」がちゃんとおいてあった。TSUTAYA、やるじゃねぇか……っ。

でも、TSUTAYAの民族音楽(ないし民族)の棚と、同人音楽における「民族音楽」はちょっと様子が違っているようにも見える。TSUTAYAの棚では、特定の地域に住んでいる部族が受け継いできた器楽と音調からなる音楽だったり、宗教祭儀に使われたりする音楽が並んでいる。

けれどもイベントに合わせて制作された同人音楽CDは、そうした民族の生活や祭儀と深い関係をもつ「民族音楽」なわけではない。

だから、「民族音楽」と区別し「民族調音楽」という呼び方も一般的だ。でも、今回は「民族調」とは言わずに「民族音楽」で統一させてほしい。

例にあげた『アルティナ・トス』がHPで標榜している「民族音楽の要素」、つまり「民族音楽らしさ」というのは一体なんだろう? それは、どこから来たのだろう?

それから、なぜ世界中の諸地域の音楽と、別にそうした地域の生活を代表しない民族調の音楽が共に「民族」と「音楽」という共通した言葉で説明されるのだろう。そしてなぜそれが同人音楽の世界で広く需要され制作されているのだろう。いろんな疑問がわいてくる。

同人音楽の中の「民族音楽」は、同人音楽の発展の中で小さくない役割を担ってきた。一般的なミュージックシーンではあまり聞かない「民族音楽」が一つのジャンルを形成していて、その中にも多種多様の音楽が存在する。同人音楽における「民族音楽」の世界は奥深いし、また一般社会での「民族音楽」との関係を通しても面白いものが見えてくるはずだ。

そこで「同人音楽と民族音楽の世界」に踏み込んでみよう、というのが今回のテーマである。

執筆:安倉儀たたた 編集:新見直

※本稿は、2015年に「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの

目次

  1. 「民族音楽」とはそもそも何か?
  2. 民族音楽の代替「ワールドミュージック」のエキゾチシズム
  3. enyaによる「ケルティックサウンド」と功績
  4. 同人音楽における「世界観」の表現

「民族音楽」とはそもそも何か?

さて、同人音楽では当たり前に使われるジャンルである「民族音楽」。繰り返すけどもちろん、その大半は現実世界にいる諸民族の音楽の何かを代表しているわけではない。

そもそも、文化が違えば音楽も違う。いまの僕らが多種多様な世界中の音楽を――なんとなくであれ――「民族音楽」として認識できるのは、過去にそうした音楽好きな人が世界中で音源採集や採譜に励んできてくれたからだ。その軌跡は、学問的には「民族音楽学」としてまとめられている。

「民族音楽学」の起源は、西欧圏の音楽を中心にした上で、それ以外の音楽を比較する学問「比較音楽学」である。その領域の名著に、アレクサンダー・ジョン・エリス『諸民族の音階』(音楽之友社、1951:原著1885)がある。

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「民族音楽」は音楽の常識に疑問を投げかけていった