村上隆×片桐孝憲 対談──pixiv Zingaroから3年を経た中野とアートシーン

変容する中野や秋葉原のポップカルチャー

──なぜ秋葉原ではなく中野だったんでしょう。

村上 やっぱり秋葉原は若年層のオタクが多くて。その一方で中野は「まんだらけ」があったり、昔懐かしいものがたくさんあって自分の年齢ににピッタリだなと。実際中年、壮年のオタクの人がイッパイいたんで安心したんです。でも、最近は中野も若者の街になってきていて。いなくなったなぁ~、老年オタク。それに海外の方もよくいらっしゃるようになったし。そう考えるとオタクの生態系って中央線・総武線の沿線を少しずつ西に移動していて、本当にヤバいオタクは、いまはもう立川あたりにいるのかもしれない(笑)。

片桐 僕もなぜ中野だったんだろうって思っていたんですが、いまのお話を聞いてしっくりきました(笑)。

村上 まあ秋葉原はいまさら感があったし、家賃も高い。若いアーティストの交流と発表の場として、たくさんの人に見てもらいやすいショッピングモールを選んだのは結果的に成功でした。自分としては、この前カフェをオープンして(※)当初やってみたかったことはコンプリートできたかな。次にやるとしたら、デパ地下にある、野菜ジュース屋さん。

※Bar Zingaro http://bar-zingaro.jp/
中野ブロードウェイ内のギャラリー「Kaikai Zingaro」「Hidari Zingaro」「pixiv Zingaro」「Oz Zingaro」に続き、カイカイキキが2013年11月2日にオープンしたカフェバー。村上隆セレクトのアート作品に囲まれながら、ノルウェーの首都オスロに本店を持つ「Fuglen」がサポートするスペシャリティコーヒーやオリジナルカクテルを楽しめる。

片桐 デパ地下ですか(笑)。

村上 新千歳空港のターミナルビルってアミューズメント施設&お土産物屋さんとして、お客さんの買いっぷりとかもハンパない。ロンドンのヒースロー空港より経済効果あるんじゃないかって。そんな新千歳空港でお土産物のショップを出店してみたい野心が生まれました(笑)。

片桐 先日、北海道に馬を見に行ってきたんですけど、確かに新千歳空港はハンパないですね。観光客だけじゃなくて、地元の人のデートスポットみたいにもなってますから。

村上 ええ!? 片桐さん、今度は馬主なんですか(笑)?

片桐 いえいえ。好きで見に行っただけで(笑)。まわりの人たちのお金持ちぶりがすごかったですね。会話のなかで普通に「ロスチャイルドさんが~」とか出てきますから。

村上 やっぱり夢を売る商売、凄いなぁ。

片桐 競馬ってヨーロッパが本場ですけど、産業全体で見ると実は日本がトップなんですよ。ヨーロッパでは一部の超大金持ちが「エリザベス女王と握手するために馬を買う」みたいな貴族の文化で、日本ほど若者は見に来ないし、馬券も買わない。そういう意味では、日本の競馬のほうが大衆的な人気がある。

村上 それって日本のマンガやアニメと、それに対するアートみたいな話と似ていますね。

片桐 そうなんですよ。日本はバブルの頃にいい馬を買いまくっていたから、やっぱりいい馬がいて、海外から買いに来たりもするんです。

村上 つまりpixiv Zingaroとちょっと強引に結びつけると、この前大盛況だった『空の境界』の絵とかも、アートとして海外に売れるんじゃないかっていうことですね(笑)。
【画展 空の境界】(2014.03.20 – 04.01)

奈須きのこ氏による日本のゼロ年代を代表する伝奇小説『空の境界』。そのヴィジュアルを15年にわたって担い続けてきたイラストレーター・武内崇氏の初個展(企画:株式会社星海社)。選りすぐりの作品全19点が展示され、全国各地から会場限定の直筆サイン入りプリマグラフィを求める客が大挙して押し寄せ話題となった。 http://pixiv-zingaro.jp/exhibition/karanokyokai/

pixiv Zingaroから3年が経った

──pixiv Zingaroの展示で印象に残っているのは?

村上 反響の部分でのビッグインパクトは、やっぱり「画展 空の境界」ですね。ほかにも「JH科学展」とか『エルシャダイ』の「竹安佐和記原画展」とか「魔法陣グルグル展」とか、いろいろありましたけど。
【魔法陣グルグル展】(2013.07.25 - 08.06)

1992年8月から11年間「月刊少年ガンガン」で連載されたRPG風ギャグファンタジー作品「魔法陣グルグル」の貴重な生原画を50点以上展示。幅広い世代の支持を集めた作品の展示には、多くの来場者が詰めかけた。 http://pixiv-zingaro.jp/exhibition/guruguru/

片桐 僕は個人的には、ぬQさんの「3点トーリツ展」とか、どちらかと言えば作家の個展が好きですね。

村上 一番やって良かったなと思ったのは、中野ブロードウェイの空気の特異点となり得たこと。pixiv Zingaroのお客さんって、オタクでもソフト路線というか、ファッションもこざっぱりした方が多いですよね。

片桐 そうですね。今っぽいというか。洗練されていますね。

村上 経営的には赤字だったりするんですが(笑)。pixivさんもそうだと思いますが、こういう形でカイカイキキがpixivと一緒にやっていることで、双方にとって相乗効果があればいいなと思ってやってます。

片桐 もともと中野はKaikai Zingaroからですよね。

村上 そうですね。海外からアートを買いに来るお客さんに来てもらおうと。彼らにとって日本といえば寿司とか天ぷらみたいなグルメだったり、建物や風景は名物として知っているけど、オタク文化は秋葉原とかコスプレくらいしか知らない。でも、たとえば「まんだらけ」では、そういったものに値段がついているじゃないですか。まずこういうものが買えるんだという経験をしてもらって。向こうの相場でこれは4~5倍になるから安いな、と思ってもらえば、ブロードウェイ中毒になるんじゃないかと。そこでハマった人がウチのいろんなものを買ってくれたらというスケベ根性でした。

片桐 ううむ。さすがですね。

村上 そういえば、ちょうど東京は世界中のお金持ちが群雄割拠状態ですよ。今のシーズン、みんな桜を見に来てるんですが(※本対談は4月初頭に行 われた)、アメリカの大物コレクター同士が6組くらい同じホテルで顔を合わせて驚いたり(笑)。そういう海外のお客さんって、ねらい撃ちで来ますから。半年くらい前から自分でコーディネートして評判のレストランを食べ歩いて。日本のアートが盛り上がっているっていう間違った情報が伝わっているのか、アーティストのスタジオ訪問も活発に行なっているようです。

片桐 グルメなフランス人の知り合いが、フランスの和食のレストランだと、うどん、そば、寿司、天ぷらって全部同じ店で同時に食べられるけど、日本ではそれぞれが別の店になっていてビビったみたいなことを言っていて(一同・笑)。それをちょっと思い出しました。

──日本人からしたら、そこに驚くんだみたいなギャップはありますよね。 村上 東京は世界中のシェフにとって力試しをする場所、食の世界の首都みたいになっているらしいです。

中野でもブロードウェイの周りには、まだ戦後みたいな猥雑な感じのする場所も残っているし。海外の方は絶対ああいうの好きですよ。最近は中野ブロードウェイそのものがだんだん洗練されていって、いいのかなぁと思いつつ、来やすくはなったんじゃないか、とか。

──pixiv Zingaroで予想していなかった出来事ってありますか?

片桐 知り合いの知り合いくらいにニューヨークで絵を描いている人がいて、なかなかビザが取れなかったらしいんですけど、pixiv Zingaroの展示に参加したら、村上さんのギャラリーで展示されているなら大丈夫だと思われたのか、すぐにアーティストビザが取れたっていう話を聞きました(笑)。

村上 アニメの宣伝をするプラットフォームみたいな形でpixiv Zingaroが利用されているのを見て、そういう使い方もあるんだなと思いましたね。あと「画展 空の境界」では1週間くらい前から「大変なことになります。こういう風に行列を形成しないといけないのでスペースを使わせてください」とか頻繁にpixivの担当さんからメールが来るようになって(笑)。フタを開けてみたら本当にすごかった……pixivさんのいいところって「売らん哉」がない、何が何でも売れればいいみたいな感じじゃないのがいいところですよね。

片桐 一応、売る気はありますけど(笑)。あんまり押しが強いとお客さんもいなくなっちゃうと思いますよ。

【次のページ】イラストはいかにしてアートになり得るのか
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