村上隆×片桐孝憲 対談──pixiv Zingaroから3年を経た中野とアートシーン

イラストはいかにしてアートになり得るのか

村上 pixivさんのグッドキュレーションで、思わず売れるみたいな。そういうところがカイカイキキとも肌が合っているのかなと思います。僕もオタク第1世代で『宇宙戦艦ヤマト』のグッズを死ぬほど買った人間ですから。高校2~3年生の頃に映画を見て、デパートでヤマト展をやっているから観に行って。大したものは売ってないのに、わざわざ銀座まで出たんだからってバカ買いして大満足して。いまとなっては何が大満足だったんだろう(笑)。そうならないための価値の設定とか、販売側がもうちょっと真剣に考えると、作品の寿命も伸びるかもですね。ラッセンヒロ・ヤマガタのアート商法って、今となってはなんだったのかな? って、あると思うし。

片桐 確かに。買う人はやっぱりラッセンをアートだと思って買うんですかね。

村上 まあ、一部の人間はアートとか言ってますが、基本イラストですからね。

片桐 pixivでは主に「イラスト」を扱っているわけですけど、アートとイラストの違いって、村上さんはどうお考えなんですか?

村上 ザックリ言えば、時代を乗り越えられるものは、イラストでもアートになりますよね。たとえばロジャー・ディーンっていう、映画『アバター』に出てくる空中に浮かんでる岩とかの元ネタを作ったイラストレーターとかは、やっぱりもうアーティストだと思う。シド・ミードとかもイラストレーターというかメカデザイナーですけど、アーティストなんじゃないだろうかと。

片桐 なるほど、普遍性ですかね。

村上 あと変革者であることも大事です。鳥山明って「まんだらけ」で原画とか出てきたら、オークションでビックリする値段になるんですよ。手塚治虫と同じくらい。もちろん手塚治虫が高いのは戦後のマンガの道標を作った人だから当然なんですけど、鳥山明は『ドラゴンボール』でジャンプシステムみたいなものを確立したわけじゃないですか。ある意味で変革者だったこともあって価値が高くなっているんじゃないかと。イラストがアートになるのは、そういう結果論的な文脈からじゃないですかね。

──pixiv Zingaroで展示されたものも、いまこれがアートだというのではなく、こういうことが起きていて、あとからそういう文脈や価値を獲得するかもしれない、ということですね。

村上 JH科学さんとかは、もう海外の人に結構買われていますよね。
【JH科学展 〜John Hathwayの世界〜】(2011.07.13 - 07.26)

物理工学の研究者という異色の経歴を持つJohn Hathway氏による初の個展。理論に裏打ちされたリアリティを持つ「科学とマンガとアートのはざま」とでも言うべき精密な作品群が「空想科学都市魔法町」を舞台として展開された。http://pixiv-zingaro.jp/exhibition/jhkagaku/

片桐 彼は自分の家にデカい印刷機があって、注文が来たらすぐそれで印刷するらしいですよ。

村上 それは面白い。いまアメリカの現代美術のペインティングの最先端も、みんなプリンタ持ってるみたいです。向こうのアートのムーブメントで「contingency(コンティンジェンシー)」っていうキーワードが出てきて。偶然に起きた出来事のなかにある意味とか、そういうことを指すんです。真っ黒をベタで印刷して、プログラムにノイズ侵入させてそれがプリントアウトされる。それで「これが絵です」とか。僕、このムーブメントに今、ぞっこんなんです。

ウチで展示をやったHugh Scott-Douglas(http://gallery-kaikaikiki.com/category/exhibitions/a_broken_mule/)とか、このWade Guytonとか、こういうデータを作ってプリントアウトしてるだけなんですよ。それをキャンバスに貼って、オークションでびっくり仰天の価格だったんです。7000万円とか。

片桐 ええ~!?

村上 ちょっとビックリするでしょ。言ってみればJH科学さんってイラストだと割り切ってると思うんです。でも割り切れていない部分もあるじゃないですか。これってアートなのかなみたいな。そういう文脈をちゃんと勉強して、これでいいんだって作家も自分のなかで意味や価値を確立できればいいんですよ。だからいまアニメの絵をプリントアウトしたものをキャンバスに貼って売ってるのも、文脈的には全然あり。文脈の話で思い出したんですけど、僕が作ったフォーマットで世界言語みたいになっているのに誰も指摘してくれないことがあって。僕の絵って、キャンバスの脇も描いてるんですよ。

「contingency」の作品集

片桐 ああ、描いてますよね。

村上 これって実は僕がはじめたんですよ! 元はどこかというと、日本の骨董で。たとえば大きな襖絵が壊れたりして、それを掛け軸にしようとするとき、チョキチョキ切って貼り直すんですよ。そういうとき端の方が少しよれてたりしていても、レイアウトしてみるとカッコよかったりする。絵はイリュージョンなので、もともと素材は問題じゃないし、ポップアート以降で少し問題化されていましたが、忘れられていて。そこで僕は「アートの世界の住人にあらず!」ってアピールをしたかったのでキャンバス脇も描いたんです。

片桐 livetuneのMVなどを手がけるファンタジスタ歌磨呂さんがobさん(カイカイキキ所属のアーティスト)の絵を見て「横まで描いてるんだ」って言ってたの思い出しましたよ。あれってカイカイキキ系の作家さんだけなんだ? と思ってました。そういう流れがあるんですね。。

村上 アート絵画は脇にも絵柄が描かれているもんなんだと勘違いしてやってるのかもしれないけど、本来は違うんですよ。いまではビジュアルアート系の人もやってますし、さっき話した「contingency」の人たちもやってます。いまのアニメ系のキャンバスアートも、そういうことはまったく考えていないと思うけど、必然的にああなっちゃってる。そういうのも含めて、キャンバス脇のイメージっていうのは、ひとつの文脈として確立されているなと思っています。

──「contingency」のお話が出たところで、ほかにいま可能性を感じる分野ってありますか?

村上 いま3DCGの「6HP」というアニメ作品をやっていて、3Dプリンターでプリントアウトしてみたりするんですけど、いまは3Dのデータじゃなくて、普通の平面のイラストでも立体造形できちゃうでしょ。あれって等身大の作品にしたら、もう彫刻というかアートですよ。大きさ的に無理ですって言われたんですが、部分ごとに作ってくっつければいいんじゃないですかって聞いたら、それはやる人がいないと。つまり誰かが先にやれば勝ちですよ。

片桐 村上さんがやったらいいじゃないですか(笑)。やってくださいよ。

村上 いやなんかちょっと、自分ではためらうところがあって。でも神田にある印刷会社「東京リスマチック」にはぜひ行ったほうがいいですよ。女の人の手をつくっていて、ディテールがすごすぎて本物としか思えない。片桐さんもご自身の3Dプリントフィギュアを持ってますよね。

片桐 あのときは3Dスキャンに20分くらいかかりましたね(笑)。ずっと立ちっぱなしで大変でした。

村上 いまは映画『マトリックス』の撮影みたいにカメラがたくさんあって一瞬ですよ。ジャンプしてくださいって言われて、一回ピョンと飛んだらすぐできちゃう。コミケみたいな複雑な場所でリアルタイムでやってもできるでしょうし。それってMacがはじめて出てきて、これで絵が描けちゃうって知ったときと同じくらいのショックです。

(収録:埼玉県入間郡三芳にあるカイカイキキの工場)
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