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  • 2022.01.27

ボカロPを長く続けるために必要なこと シーンに対する期待と危機感

ボカロPを長く続けるために必要なこと シーンに対する期待と危機感

クリエイター

この記事の制作者たち

ここ数年、ボカロPの商業進出の勢いは目覚ましい。近年よく語られるシンガーソングライター化だけでなく、ピノキオピーみきとPbuzzGナユタン星人かいりきベアなどに代表されるように、ボカロPとしてのプロフィールのままシンガーに曲を提供する作家が増えている。

こうした先人たちのボカロ曲を青春時代に聴いて育った世代が、毎年続々とデビューしている。彼らの中にはボカロというジャンルにサブカル性を感じず、バンドを組むことや弾き語りをすることと同じように、音楽をやる上でのごく自然な選択肢の一つとして選ぶ人もいる

もちろん、「ボカロPとして売れたら、音楽の仕事ができるかもしれない」ということまで見据えてデビューする人がいることも、ボカロ黎明期とは大きく違う点だ。

現在大学生のいよわさんは、今後ボカロとどのように向き合っていくつもりなのだろうか。自身が「すごく苦しかった」と振り返る他者への羨望の気持ちと、そこからの脱却を経て、今目指す”ボカロPとしての在り方”とは。

目次

  1. 今は純粋な好奇心の探求で、活動できている
  2. プラットフォームの選択、TikTokをやらない理由
  3. “ある程度有名になったクリエイターのその後”を考えることが増えた
  4. 「ボカロシーン全体に恩恵をもたらせるようなクリエイターになりたい」

今は純粋な好奇心の探求で、活動できている

──今は大学生でいらっしゃるんですよね。

いよわ そうです。大学3年生です。

──ぼちぼち就活も意識される頃でしょうか?

いよわ 大学卒業後は大学院に行こうと思ってるんです。だから院試の勉強をしなければいけないんですが、あんまりできてないですね(笑)。

──この先、ボカロとの付き合い方としてはどんな形をイメージされていますか?

いよわ 自分の進路の展望としては、大学院に行った後に就職して、就職後も仕事と並行して音楽をやっていくつもりです。

僕の中で第一にあるのが、「つらい思いをしたくない」ということなんです。たとえばボカロ1本に絞ってずっとやっていくとして、作品の伸びがそのまま自分の生活に直結する状態になったときに、ちゃんとメンタルを保ちながら作品づくりを続けられるのかなって考えていて。

僕の場合、金銭面の安定を得ることによって、生活やメンタルを安定させないと、継続的な活動って難しいと思うんですよ。できる限りそういう心配事を抱えたくなくて、それこそ収入の得どころを複数持っておくだとか、自分の心の拠り所を創作だけに置かないだとか、いろんな安全策をとって、できるだけ自分の精神に負担のない形で活動を続けていきたいと思っています。一番の目標が活動を長く続けることなので、それに必要な環境を構築していきたいなと。

アプリコット / いよわ feat.初音ミク

──すごく深い部分まで自己理解されているんですね。ボカロや音楽一本で仕事をすることのリスクまで考えられているというか。

いよわ マイナスな感情って、持つと自分が疲れるじゃないですか。他者への羨望や、成功者が妬ましいような感情って、持てば持つだけ僕自身が疲れてしまう。だから創作における競争に、あまり身を置きたくないんです

「誰かを打ち負かしてどうこう」みたいなことを考えるよりは、自分がちゃんと安定して生きられれば、多分他のことも許容できると思っていて。ひとまずそういう部分で安寧を得ることが、今目指していることかもしれません。

さよならジャックポット / いよわ feat. 初音ミク・flower

──実績や数字だけじゃなく、作風やクオリティまで含めて、他者がうらやましくなることはないですか?

いよわ 人の作品に抱く印象では、純粋に作品に対する感動みたいなものが大きな割合を占めますね。純粋に尊敬しますし、むしろそういう鑑賞者でありたいとも思います。他人が創作でめちゃくちゃ売れたり、幸せになったりするのを見たら、純粋に自分も幸せな気持ちになりたいんですよ。

でも自分の創作における環境が幸せじゃないと、他者に対する悪い気持ちみたいなものが出てきてしまうと思う。それに、そういう感情は自分の創作活動には不要なものなんです。自分を大切にするためにも、そこは大事ですね。

──創作に対しては、昔からずっとその姿勢なんでしょうか?

いよわ 最初からこういう気持ちだったわけではなくて、他人をめちゃくちゃうらやんでしまう時期もありました。すごく苦しかったんですよ。逆に他人から嫉妬の感情を受けて、つらい気持ちになることもありました。

そんな中で、「自分が一番楽になるにはどうしたらいいか」を考えていったら、結局「自分も含めて周りの人がみんな幸せになるのが一番良い形なんだろうな」と思い始めて。それが活動を始めて2、3年経った頃だと思います。

そうしたら純粋な好奇心の探求で、自分の作品のクオリティを上げるような活動形式を目指せるようになりました。それでしばらく活動していくうちに、自分のモチベーションの中で純粋な作品づくりの楽しさとか、表現を探求する楽しさの割合が年々増えていて、結果として、今のように安定した気持ちで作品をつくり続けられる状態になってきました。

さっきもお話ししたんですけど、長く活動を続けていく上では多分こういう純粋な好奇心が一番自分自身を傷つけないし、誰かを傷つけることもないし、心配事少なくやっていけそうだな、と思っています。

プラットフォームの選択、TikTokをやらない理由

──少し先ほどの話と重なるかもしれませんが、昨今は作品そのものだけでなく、SNSなどでクリエイター自身に数字やファンがつくような世の中になっています。この変化についてはどのように受け止めていらっしゃいますか?

いよわ 作曲家って、今まではどちらかというと裏方に回りやすいような職業だったんじゃないかなと思っていて。クリエイター自身に光が当たるのは悪い兆候ではない、むしろ個人的にありがたいなとは感じています。

ただそれでも、「自分がたくさんの人に見てもらえているのは、界隈全体の性質やボカロカルチャーの性質があった上で、ボカロに歌ってもらっているおかげでもある」ということを忘れないようにはしたいですね。自分自身への戒めとして。

聴き手としては、例えば作詞作曲だけに光を当てるんじゃなくて、イラストを担当された方や、動画担当、関わっている全ての人たちみんなにしっかり評価が行き渡るような界隈になれば嬉しいなというふうに思っています。

ヘヴンズバグ

「ヘブンズバグ」MVのイラスト

──ボカロを聴く層の変化も、いよわさんとしては感じていらっしゃるんでしょうか。

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いよわさんがTikTokを使わない理由