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  • 2024.05.04

「歌舞伎町は、犯罪の境界も曖昧」元ホストのラッパーが暴く、新宿の闇

「歌舞伎町は、犯罪の境界も曖昧」元ホストのラッパーが暴く、新宿の闇

これほど歌舞伎町周辺が世界の耳目を集めた時代はないだろう。

若年層を中心に独自のコミュニティを形成するも、事件やトラブル、死傷者も続出した「トー横界隈」。そして、歌舞伎町の目と鼻の先にある大久保公園で、個人間での売春取引が横行し外国人観光客からも好奇の視線が集まっている立ちんぼ・交縁問題

ルポ:トー横#2 路上売春”交縁”とは

さらには、ホストに入れ込んで巨額の詐欺罪などの罪で懲役9年の実刑判決が下った“頂き女子りりちゃん”こと渡辺真衣被告も世間で注目を集めている。

そしてその背景にあるとされている、ホストクラブでの売掛金(女性客へのツケ)が社会問題となり、経営者らは“自主規制”を決断。4月からは売掛金全廃と打ち出している。

売掛金撤廃──ホストに入れ込んだ女性が売掛金という名の「借金」を肩に、望まない形で風俗業に従事させられる。そんな時代に終わりが来るのだろうか?

歌舞伎町で幅広い人脈を持ち、繁華街の社会学を専門に『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』や『歌舞伎町モラトリアム』、『オーバードーズな人たち』などを次々と上梓したライター・佐々木チワワ

16歳でホストになって歌舞伎町の違法店舗で夜の世界に浸った経験を持つ異色のラッパー・釈迦坊主。その後足を洗ったものの自身のルーツとしてたびたびリリックにも表れている。

共に歌舞伎町の闇を覗いてきた2人は口を揃えて言う。「そんなことしても本質はなにも変わらない」と。

全く立場の違う異色対談を通して理解を深める、「歌舞伎町」学──

目次

  1. 『歌舞伎町』って国なんですよね──
  2. 歌舞伎町ホストの今昔
  3. 犯罪かどうかの感覚も麻痺する……歌舞伎町の深淵
  4. 薄っぺらい、金目当ての関係性。だからこそ
  5. ヒップホップとは真逆、だけど共通する部分も

『歌舞伎町』って国なんですよね──

──まずはお2人の自己紹介からお願いします。

佐々木チワワ 基本的には大学生活と歌舞伎町生活を両立したライターとして活動していて、ちょうど数日前に卒業論文を提出したばかりです(その後、無事卒業)。

大学時代にホストにはまって、その話をネタにしてお金を取り戻してやろうと思った結果、そのお金を今も使い続けています(笑)。

大学では「歌舞伎町の社会学」を研究していて、卒業論文もホストの労働をテーマにしています。それ以外にもトー横や海外出稼ぎ、最近の歌舞伎町の時勢を連載で書いたり、コメンテーターとして出演したり、最近は専門家っぽい活動もやらせてもらってます。

──専攻している社会学とはどのような学問なのでしょうか?

佐々木チワワ 人々が営んでいる文化圏やコミュニティを一つの社会と捉えたときに、そこで何が起きているかを考える学問ですね。

ホストだったら「ハイブランドを着ているのがかっこいい」という文化があるよねとか、ラッパーだったらこういう文化があるよねみたいな。その界隈独特のカルチャーを学問として捉えるものが社会学だとざっくり思ってもらえれば。

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佐々木チワワ

釈迦坊主 なるほど……かしこな感じっすね。

佐々木チワワ そうなのかもしれません(笑)。

釈迦坊主 自分は今はラッパーとして活動しているんですけど、元々16歳からホストをやってて。ホストを始めたことがきっかけで高校を中退して、そこからスカウトとかサパーとか、歌舞伎町の仕事を一通りやってました。

一回歌舞伎町に入るとそこから抜けられないんですよね。『歌舞伎町』って国なんですよ。例えば昼の仕事を「昼職」って言ったりするし。「仕事って昼やん」って感じなんですけど、それくらい常識も全く違う。

結局ホストからアガった後も、遊ぶのは歌舞伎町だった。音楽で収入を得るようになってからはフェードアウトしていって、今は全然行かないっすね。だから、別にホストカルチャーの今を知ってるとかではないです。

──ありがとうございます。そもそもホストクラブとは、改めてどういう業態なのでしょうか?

佐々木チワワ 男性の従業員(ホスト)が女性を接客して、その飲食代としてお金をもらうというのが基本です。「初回」というシステムがあって、一見さんは3000円から5000円くらいでお店に入れちゃうんですよ。お酒も飲み放題、5分くらいで入れ替わり立ち替わり色々な従業員が来て、いいなと思った人を選ぶ。

キャバクラと大きく違うのは永久指名制という点で、一つの店で一人しか指名ができない。だから目移りができなくて、その店では“俺の女”となる。そこからは座るだけで飲食代っていうのが掛かって、結構高い金額いきます。

女の子は飲食代以外にもホストを応援する意味でお金を使う時もあれば、アフターとか同伴と言われる店外での営業もある。デートだったり一緒に旅行に行くだったり、時にはセックスだったり。高い売り上げを上げるために、店内での接客以上のものを商品に変えて女性客に提供している、という業態ですね。

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歌舞伎町の様子/編集部撮影

しかも、キャバ嬢とご飯に行ったら男性側が払うと思いますが、ホストの場合、店外のお金は基本的にホストが出すんですよ。女性はお店ではホストにお金を払って男を立てて、その見返りにお姫様扱いしてもらう。そのかわり店の外ではホストに、女性にお金を出させない“男らしさ”を求める。

だから送迎タクシーとか高級なご飯をおごってくれるような、派手にお金を使うホストが好まれる。基本的にどんなに売れてない頃でもそうした振る舞いをするべきという教育がなされています。

キャバクラみたいにその場で飲むだけで、いっぱいお金を使ってくれるというわけじゃないんですよね。「ホストクラブで飲むだけで2〜300万円も使うなんて、客は騙されてる」とか言われますけど、そのくらいの時間外労働、心理的にしんどい仕事をホスト側もしている。そこが歌舞伎町という“見えないものを商品にしている町”として、私は面白いなと思っています。

釈迦坊主 「オフィシャルなヒモ」というか。直接女の子からお金を引っ張るのは気まずいから箱(お店)っていうシステムを噛ませてお金を使ってもらうみたいな感じなのかな。

今はママ活やメン地下(メンズ地下アイドル)とかそういう人がいっぱいいる中で、ヒモ種族の中では一番紳士的なムーブをやってるのがホストだと思う。酒とかわけわかんないぐらい高いけど(笑)。でも、どうなんすかね? お店によってもホストの働き方は全然違うし。

佐々木チワワ 釈迦坊主さんはどういうお店で働いてたんですか?

釈迦坊主 僕は16でホストやるぐらいだったので、最初に入った店はゴリゴリの違法店なんですよ(18歳未満が夜に働くのは労働基準法違反)。お客さんもミテコ(18歳未満または未成年の客のことで、「身分証明提出できない子」の略)が多くて。

今はもうない星座館ビルの「BLACK」っていうお店で、ワケわかんないぐらい狭かった(笑)。その後トップダンディ(Topdandy)系列の大型店に行って、「結構ちゃんとしてるとこはちゃんとしてるんや」って感じでした。5店舗ぐらい働いたんですけど、店によって接客とかも全然違う。

トップダンディ系列では例えば「下ネタ禁止」。下ネタ禁止されて何しゃべったらいいんやって感じではあるんですけど(笑)。店によっては店外デートやアフターとか、女性をケアする紳士なムーブをしないホストもいっぱいいますね。

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