移り変わりが激しいVTuberの世界において目立つことではないが、ウィキペディア上の事情や背景に着目すると大きなトピックだとわかる。
今回はなぜ記事名が「Virtual YouTuber」から「VTuber」に変更されたのか。ウィキペディア、バーチャルYouTuber(VTuber)双方の背景から解説しよう。
文:古月
目次
そもそもウィキペディアとは
日本語版ウィキペディアには「ウィキペディア」という項目(外部リンク)があり、本文冒頭には、とある。ウィキペディアは、誰でも参加できる百科事典をつくるプロジェクトだ。日本語版の他にも、英語版、中国語版、韓国語版など、300以上の言語で様々な記事が作成されている。中でも「バーチャルYouTuber」の記事は19言語で作成されており、各言語の記事を見るだけでも世界広まりを感じることができる。ウィキペディア(英: Wikipedia)は、世界中のボランティアの共同作業によって執筆されるフリーの多言語インターネット百科事典である。
今回記事名が変更された英語版ウィキペディアは、各言語のウィキペディアの中でも作成数・利用者共に最多であり、記事だけでも640.8万記事(管理ページなど一部除く)、活動中の登録者数は12.4万人と数多くのボランティアが参加し、記事の編集などを行っている(データは11月15日時点、外部リンク)。
また余談であるが、今や世界で人気を集めるホロライブの記事もウィキペディアに存在する。
日本語版の「ホロライブプロダクション」や「カバー (企業)」の記事には概略だけで、歴史の解説がされていないのだが、英語版の「Hololive Production」の記事には、2016年からの詳細な歴史が解説されている。
今やホロライブがアプリ企業からはじまったことはあまり知られていないように思うが、英語とフィリピン語だけはこの情報を知ることができるのだ。ウィキペディアは言語ごとに内容が異なるため、こうした言語ごとの違いを楽しめる。機械翻訳を使うだけでまた違った知識を得ることが可能だ。
なぜ変更された? 記事名変更には議論が必要
ウィキペディアには英語版で「トーク」と呼ばれる、その記事の問題点や変更点などについて話し合うページが用意されている。「Virtual YouTuber」から「VTuber」への記事名の変更もそのページで議論された結果変更された。事の発端は、ViperSnake151さんが11月8日に行った「Virtual YouTuber」から「VTuber」に変更する提案からはじまった。その理由は、
と述べられており、その一文とともにページには記事名の付け方についてまとめられたガイドライン「Wikipedia:COMMONNAME」へのリンクが貼られている(外部リンク)。「reliable sources, and even the relevant communities, rarely use the term "virtual youtuber" in full. It is almost always the abbreviation "VTuber". 」
(参考訳: 信頼できる情報源や、関連するコミュニティでも、「バーチャルYouTuber」と省略せずに使うことはほとんどありません。ほとんどは「VTuber」という略語でしょう。)
ウィキペディアは、その品質を保持するために様々なルールがまとめられており、記事名を付ける際にもルール(ガイドライン)が決まっている。ウィキペディアのルールの厳しさは当メディアに投稿されたユーザー記事「Wikipediaに載るにはどうすればいい? 知らないと危険な3つの落とし穴」でも記されており、記事を書くことの難しさを知ることが出来る。
議論やルールに従った編集を適切に行わなければ、編集した内容などがもとに戻されたり、削除されてしまう。実際、スペイン語版ウィキペディアでは、日本語版で「バーチャルYouTuber」にあたる記事「Youtuber virtual」が無断で「VTuber」に記事を変更されたことで、変更が差し戻されている。
ウィキペディアでは、記事名を決めるのに5つの基準が存在する。
ここでは参考として日本語版を例示したが、言語によってルールは若干異なるため、あくまで参考として受け取ってほしい。とにかく上記のように、読者にわかりやすくハッキリとしたものであるべきだと決められている。1.認知度が高い - 信頼できる情報源において最も一般的に使われており、その記事の内容を表すのに最も著名であると考えられるもの。
2.見つけやすい - 読者にとって記事の中で見つけやすいもの(そして編集者にとって最も自然に他の記事からリンクできるもの)。
3.曖昧でない - できれば、記事名が重複してWikipedia : 曖昧さ回避が必要になることを避ける。
4.簡潔 - 短く、要点を突いているもの(曖昧さ回避の場合でも、括弧内を短く保つことは必要です)。
5.首尾一貫している - 他の似たような記事においても、同じように使われているもの。 日本語版ウィキペディア「Wikipedia : 記事名の付け方#記事名の付け方の目安」より
話を本題に戻す。今回の記事名変更では見解が2つに分かれ、議論となった。
1つ目は先述の「VTuber」に変更する案。もう1つは「virtual streamer」(バーチャルストリーマー)に変更する案だ。
「virtual streamer」の案は「VTuber」案に対抗する形で提案されたが、一般的に使用されているものではないこと、VTuberのAZKiさん、バーチャル音楽ユニットのVESPERBELL、BOOGEY VOXXなど、配信中心ではない存在を無視する名称になるとの反対意見が出て、今回は否決に。記事名の決め方の4つの目の基準である「簡潔にすべき」といった賛成意見により、記事名が「VTuber」に決定した。
現在、先述のスペイン語以外にも「VTuber」に変更しようという動きはあったものの、記事公開時点で変更に至ったものはまだ英語版以外にない。
Wikidata「バーチャルYouTuber(Q55155641)」より
この先例を踏まえると、「VTuber」の記事名変更も今後尾を引く可能性がある。各言語のウィキペディアでも都度対応が検討されるだろう。
「バーチャルYouTuber」はいつから使われたか
さて、長らくウィキペディアについての解説が続いたが、ここからはVTuberの話題が中心になる。そもそも、「バーチャルYouTuber」という言葉はいつから使われはじめたのか? 長くバーチャルYouTuberを追ってきた方ならば颯爽に「キズナアイが最初に名乗ったから」と答えることだろう。これは半分正解、半分間違いだ。
ライターの泉信行さんが当メディアの記事「2020年激動のVTuberシーンを総括 今のVTuberを語ることはなぜ難しいのか?」に記している通り、確かに概念を成立させたのがキズナアイ(Kizuna AI)さんなのはゆるぎないように思う。
キズナアイさん自身も雑誌『ユリイカ』2018年7月号のバーチャルYouTuber特集で、過去に「バーチャルYouTuber=キズナアイ」と思われていた時期があったこと、2017年12月ごろより総称のようになったと述べている(同誌、29項より)。
一方、キズナアイさんよりも前にバーチャルYouTuberと呼ばれた人物が他にいることをご存じだろうか。
それが、Ami Yamatoさんだ。彼女はイギリスに住むごく普通の女性を名乗っているのだが、そんなAmiさんを「New World Notes」という自称「インターネットで最も長く運営されているメタバースニュースサイト」が、2013年3月19日の記事「Meet Ami Yamato, A Tongue-In-Cheek Virtual YouTube Personality With Some Impressive Technical Tricks」で「Virtual YouTuber」と呼称している。
私は現時点で、これが「バーチャルYouTuber」と呼ばれた最古の存在であり、それを伝えた記事だと考えている。
ただし、筆者はまだこの結論には満足していない。歴史を紐解けば、キズナアイさんと似た概念を持つ存在はたくさんいる。
例えば、WEATHEROID Type A Airiさんだ。2012年4月13日に気象情報会社・ウェザーニュースの番組「SOLIVE24」(現・ウェザーニュースLiVE)のキャスターとして、当時からYouTubeに登場していた。バーチャルYouTuberが話題になった後に同一視されるようになり、彼女はいまVTuberを名乗るようになった。
また、バービーもよく引き合いに出される。子供向け人形のバービーは、公式サイトで「世界一有名なファッションドール」と謳われているように、世界で根強い人気を博している。
そんなバービーであるが、実はYouTubeチャンネルを持っており、3Dの姿でのVlogを多数投稿している。以下の動画が2013年のものであることからわかるように、長きにわたって投稿が行われていた。
彼女たちがキズナアイさんやAmiYamatoさんのように、1度でもバーチャルYouTuberと呼ばれていた可能性は捨てきれない。
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