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  • 2019.12.28

K-POP業界に必要な変化 現地ジャーナリストが語ったアイドル産業の「裏面」

K-POP業界に必要な変化 現地ジャーナリストが語ったアイドル産業の「裏面」

「IZ*ONE」(C)CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved

サバイバルオーディション番組「PRODUCE 101」シリーズにおける投票不正操作問題と接待容疑。その結果としての番組プロデューサーの逮捕と、番組からデビューしたアイドルグループ「IZ*ONE」「X1」の活動停止。そして相次いだ人気ガールズグループ元メンバーたちの痛ましい事件。

日本に住むファンには、その背景にある韓国の芸能界の構造がなかなか見えづらい。K-POPアイドルたちがどういう状況に置かれているのか。芸能事務所と放送局との関係や、彼ら彼女らの社会における位置づけはどうなっているのか。事情がわからない以上は報道を一方的に受け入れるほかなく、歯がゆい思いで過ごす日々が続いた1年だった。

今回、K-POPジャーナリストのパク・ヒア氏(氏自身のWebサイト)へのインタビューを企画したのは、そうした韓国芸能界の背景にある構造や、アイドルたちが置かれている状況を少しでも把握したかったからである。

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パク・ヒア氏

氏は長らくメディア「IZE」に所属し、アイドルや業界関係者への取材を行ってきたジャーナリスト。何冊かの著書のうち、『K-POPスターへのインタビュー』は日本語訳もされている(Amazon)。現在はフリーランスとして活動し、この11月には自らのアーカイブメディア「REAL K-POP LAB」を立ち上げている。

実は、何かのきっかけでパク・ヒア氏を知って以来、現地の言説に触れるために筆者はずっと氏のTwitterアカウントをチェックしていた。アイドルのパーソナリティに深く寄り添いつつも、必要であれば芸能界への批判や提言も厭わないスタンスには信頼が置けた。

投票操作事件をきっかけに、K-POP産業の問題点や改善点、アイドルの人権を守るための提言、ジャーナリストとしてのスタンスなど、翻訳を介したメールインタビューという形でさまざまにうかがい、いずれの質問にも丁寧にご回答いただいている。

回答のニュアンスをなるべく残すため、原文そのままに近い形で掲載するよう努めた。

取材・執筆:松本友也 翻訳監修:岡崎暢子 編集:新見直

目次

  1. 怒りの背景には、公平さへの強いこだわりが
  2. 芸能事務所と放送局の対立と癒着
  3. K-POP業界は変われるか?
  4. アイドル専門カウンセラーを育成するべき
  5. 日韓アイドル文化の比較──インディーシーンやセカンドキャリア
  6. K-POPジャーナリストとしての使命感
  7. 具体的に語ることの倫理──インタビューを終えて

怒りの背景には、公平さへの強いこだわりが

──今回の事件に関して、私たち日本人が理解しづらかったのは「なぜ、芸能番組における不正が、刑事事件にまで発展したのか」ということです。番組内の「やらせ」に対して警察が動くのは少し大げさにも思えますが、これは韓国特有の事情が関係しているのでしょうか? 単に日本にいる私たちが、不正の常態化に慣れすぎているだけなのかもしれませんが。

パク・ヒア 無条件に韓国特有の事情が関係しているとは考えられませんが、警察が投入されるほどに大きな事案に発展した背景には二つの要因があると思います。

第一に、視聴者に有料でSMS投票をしてもらっていたことです。視聴者は「投票結果によってメンバーが決まる」という制作陣の言葉を信用し、有料で投票しました。それが結果的に虚偽だったため、法的に問題になる可能性があります。

第二に、国民の感情的な動揺も大きな要因でした。「PRODUCE 101」シリーズは韓国で非常に人気のある番組です。視聴者に「国民プロデューサー」という肩書きを与え、「自分たちが直接アイドルグループをつくれる」という期待を煽り、社会的に大きな反響を呼びました。しかし、番組制作者による投票結果の改ざんが発覚したことで、「国民プロデューサー」という言葉が演出にすぎなかったことが明らかになり、大衆が不快さを感じたのです。

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(C)CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved

また、この過程で芸能企画会社(※筆者注:芸能事務所とほぼ同義)が、番組制作陣との利害関係のためにいわゆる「接待」を行ったことが表沙汰になりました。こうした企画会社と制作陣との関係を知らずに、好きな練習生を応援するために努力した視聴者が怒るのも無理のない状況と言えます。

韓国では、血縁、地縁、学縁(学閥)といった特定の縁を利用して享楽を提供したり、それによって不正・腐敗が蔓延ったりすることを、大きな社会問題と捉えます。たとえば韓国では、“ロビイスト”を職業として認めることができないと主張する人も多いです。韓国の民主主義が定着するまでに私たちが経験した政治的な事件のなかにも、地縁や学縁から生まれた非合理的な結託、政治・経済の癒着関係などが少なくありませんでした。

このような事件を経験し、不正・腐敗に対して敏感に反応するようになった韓国国民の傾向が、今回の投票操作のような事案を決して軽くない問題として受け取る結果を招いた。ある面ではそう考えることもできるでしょう。

※編注:歴代5人が収賄容疑などで有罪判決をうけている大統領をはじめ、韓国では度重なる汚職問題に、長きにわたって悩まされている

──今回の事件はただ不正を犯しただけでなく、「真正性」が演出に過ぎないということを暴露してしまったので、あのような大きな騒動になったのだと思います。私は、以前の連載(関連記事)でも、韓国の芸能番組における「真正性」の功罪についてふれたことがありますが、こうした公平性や真実に対する韓国国民の高い関心は、今回の事件がここまで大きな話題になったことと関係があるのでしょうか?

パク・ヒア たしかに、おっしゃっていただいた「ただ不正を犯しただけでなく、真正性が演出に過ぎないということを暴露してしまった」部分は、今回の「PRODUCE 101」シリーズ投票操作事件によって韓国人が怒った要因のキーポイントです。先ほどの国民性についての回答は、おそらくこの問いに対する答えにもなっていると思います。

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