なぜ椎名もた「少女A」は世界的ボカロ曲になったのか? 発端は海外発の二次創作

コロナ禍に制作された「paranoia」

KENTENSHIさんはティーンエイジャーのときに「少女A」に出会い、そのリミックスとして「paranoia」を発表したという。

「paranoia」以外でリリースされている楽曲はエイフェックス・ツインさんやスクエアプッシャーさんなどにも通じるブレイクコアのスタイルが中心だ。

SoundCloudやYouTubeに公開されている音源の中には、日本のシティポップをサンプリングし、ドラムンベースのスタイルに仕上げているものもある

KENTENSHIさんは、どのようにして自身の音楽的な興味や素養を培ってきたのか? そのルーツや音楽スタイルについても聞くことができた。

──音楽制作をはじめたのはどういう経緯でしたか?

KENTENSHI 音楽に触れるようになったのは、父親のおかげ。

父親は家でよくラップやビートをつくっていて、その機材や楽器がリビングルームに置いてあったんだ。小さいころから興味本位でその機材や楽器をいじるうちに、どんどん夢中になってのめり込んでいった。そういう環境が今の自分を形成するのに大きな影響を与えたと思っている。

で、中学に入ると、母親のラップトップにFL Studio(ベルギーのImage-Line社が開発した音楽制作ソフト。クラブミュージックシーンを中心に支持されている)を入れてデモをつくりはじめた。

そのころは、ビートではなくラップをつくっていた。ジャンルでいうとミーム・ラップかな。それをSoundCloudにあげたりしてた。中学時代はそんな感じで、音楽をつくることはそんなに真剣に考えてなくて、友達とシェアして遊ぶ、といったものだった。

──今のような音楽スタイルに辿り着いたのは?

KENTENSHI 高校に入って、YouTubeでL.Dreという音楽プロデューサーに出会ったのがきっかけ。

彼はLofi Dreとしても知られているインディペンデント・アーティストなんだけど、「自分が制作した楽曲を世の中に配信できるんだ」「レコード会社とかレーベルとか必要ないんだ!」というのが驚きだった。当時の僕はそういうことを何も知らなかったからね。 KENTENSHI なので、とにかく「L.Dreのようになりたい」と思って真似をしてローファイ・ビートをつくって。

でも、出来上がったサウンドが、全然いいものじゃないことに気づいて──真似だから、心が入ってないのがすぐわかったんだ──そこから自分なりに考えて、ローファイ・ビーツを取り入れたドラムンベースをつくりはじめたんだ。

その当時は、自分がつくっている音楽がどんなものなのか、ジャンルが何なのかすらわからなかったんだけど、「これがやりたかったんだ!」と直感した。心に響いたんだ

そのときにつくったのが「HIRATHAE」という曲。好きな曲をサンプリングして、そこにドラムンベースを組み合わせた。完成して、すごく満足したね。
KENTENSHI「HIRATHAE」
KENTENSHI そこからは、自分のやりたい音が見えていたので、どんどん制作していったんだ。配信したのはそのうちの一部だよ。

──「paranoia」をつくったのはいつごろでしたか?

KENTENSHI 高2か高3になっていたかな。音楽というものをもっと真剣に考えるようになった時期だった。

当時、コロナ禍になって外に出られない状況になったのも大きかった。授業はオンラインだし、時間もすごくあったので、引きこもって色々な音づくりを試したよ。

サウンド・デザインとか、プラグインの使い方とか、サンプルやブレイクをどう切り貼りするかとか。そうして少しずつ自分のスタイルを築いていったと思う。

the cabs、Österreich……日本のマスロックからの影響も

──KENTENSHIさんの曲からは、アニメソングやシティポップなど日本のポップカルチャーの要素を再構築しているようなところも感じています。

KENTENSHI そもそも、ドラムンベースをつくるにあたって、一番影響を受けたのは日本のマスロック(ポリリズムや変拍子など変則的なリズムパターンが用いられたロック)だと思う。

マスロックではドラム、そしてコード進行が重要なんだ。小さいころから聴いてたヒップホップは、ドラムがすごく重要だからドラムを聞き分ける耳が出来上がっていたのかもしれない。

好きなマスロックは、やはりthe cabsかな。あとはCö Shu NieTricotÖsterreich鎌野愛も好き。こういう人たちとコラボできたら夢のようだよ。
the cabs「二月の兵隊」
──影響を受けたアーティストや文化について教えてください。

KENTENSHI ちょっと変わっているかもしれないけど、建築なんだ。特にドラムンベースをつくっているときに音楽のインスピレーションを与えてくれるのは、ユニークで個性的な建造物だったり、その建物がある景色全体だったりする。だからよくそれを写真に納めて、その景色に合う音楽をつくろうとするんだ。

アーティストでいうと、ケンドリック・ラマー。彼の自由な発想にすごく惹かれる。自由にジャズをミックスしたり、ドラムのブレイクを加えたり。その新鮮なスタイルが大きなインスピレーションを与えてくれる。
ケンドリック・ラマー「HUMBLE.」
KENTENSHI  あとはタイラー・ザ・クリエイターLTJブケムYaejiDazegxdQuinnYousuke Yukimatsu。好きな日本の作曲家は、照井順政やまだ豊牛尾憲輔だね。

──好きなアニメは?

KENTENSHI 好きなアニメは『東京喰種』と『呪術廻戦』。『東京喰種』はサウンドトラックがいいし、2期のオープニングテーマも最高。『呪術廻戦』のスコアも大好き。『ジョジョの奇妙な冒険』も好きだね。

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1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:10165)

愛して愛して愛してら少女A…
こういうやつが海外ウケ良いのか…成程ね。

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