ボカロと音ゲーはなぜ邂逅したか──“挑戦の音楽”の裏側 cosMo@暴走P×セガ光吉猛修 対談

ボカロと音ゲーはなぜ邂逅したか──“挑戦の音楽”の裏側 cosMo@暴走P×セガ光吉猛修 対談
ボカロと音ゲーはなぜ邂逅したか──“挑戦の音楽”の裏側 cosMo@暴走P×セガ光吉猛修 対談
ボーカロイド(VOCALOID)文化の祭典「The VOCALOID Collection ~2023 Summer~」(通称・ボカコレ2023夏)が8月4日(金)から7日(月)にかけて開催されている。

特別企画として、セガのアーケード音楽ゲーム『CHUNITHM(チュウニズム)』とのコラボが決定。ボカコレ投稿楽曲の中から、「TOP100ランキング」「ルーキーランキング」で1位を獲得したボカロ曲が『チュウニズム』に実装される。

ボカロ曲と音ゲー──『チュウニズム』はもちろんのこと、初音ミクを冠したリズムアドベンチャーゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(通称・プロセカ)が若年層から熱烈な支持を集めているように、両者の相性は良い。

それはなぜか? その背景を知るために、音ゲーのサウンドクリエイターとボカロPの対談を実施した。

光吉猛修さん:1990年4月株式会社セガ・エンタープライゼスに入社、ゲームミュージックバンド創成期からサウンド開発、声優、歌手として活動中。代表作は『DAYTONA USA』『シェンムー 一章 横須賀』『WCCF』。現在は『CHUNITHM』『maimai』『オンゲキ』の音ゲー3タイトルに携わる。

cosMo@暴走Pさん:「初音ミクの消失」などで知られるボカロP/サウンドクリエイター。2007年頃より動画サイト・SNS上で人気を博し、現在に至るまでゲームやアニメなどの楽曲を制作。音楽ゲームが好きで、『CHUNITHM』をはじめ音楽ゲームにも多数の楽曲を提供している。

一人はセガの現役社員で『チュウニズム』などの音ゲーに携わるゲームサウンドクリエイター・光吉猛修(みつよし・たけのぶ)さん、もう一人は「初音ミクの消失」で知られ、音ゲー曲のコンポーザーとしても活躍するボカロP・cosMo@暴走Pさんだ。

対談を通じて、ボカロ曲と音ゲーの親和性の高さや、音ゲー曲制作の裏側を明らかにしていく。そこには、ボカロ曲ならではの性質と、音ゲーというジャンル特有の“機能”が深く関わっていた。

取材・文:小町碧音 編集:恩田雄多

「The VOCALOID Collection ~2023 Summer~」をチェックする

目次

セガの音ゲー『チュウニズム』のカラーを決定づけた楽曲

──お二人とも長年音ゲーに携わられていますが、お互いの楽曲で一番印象に残っている曲は何ですか?
 
光吉猛修 cosMoさんに提供してもらった曲で思い出深いのは、イロドリミドリ(『チュウニズム』発のオリジナルガールズバンド)に提供していただいた「奏者はただ背中と提琴で語るのみ」です。

2016年くらいに、cosMoさんとこの曲のレコーディングをご一緒したんですけど、そのとき、演奏者に対するディレクションや音楽的アプローチに感動したんです。
cosMo@暴走Pさんのイロドリミドリ提供曲
cosMo@暴走P その節は本当にお世話になりました! 当時はディレクションの“ディ”の字も知らないような状態で、結構無茶をした覚えがあって……。

光吉猛修 いえいえ! とてもバランスの良いディレクションで面白かったです。それがすごく記憶に残っています。

cosMo@暴走P ありがとうございます。光吉さんの曲では断トツで「怒槌(いかづち)」(2015年)ですね。

それまでの『チュウニズム』は、比較的サウンドに対する縛りがなくて、どんな曲でもつくっていいイメージが強かったんですよ。でもそこに「怒槌」が出てきたことで、『チュウニズム』のカラーが決まったと思っています
光吉猛修さん制作の「怒槌」
光吉猛修 「怒槌」をつくったときは、僕が当時の音ゲー曲をほとんどつくったことがない状態だったんです。だから、自分の音楽観や制作論を覆す新鮮な経験でした。

例えば、BPMでいうと「怒槌」は200で。当時の僕は、BPM200の曲なんてつくったことがなかった。

それから、メロディをゲームの機能(ゲーム内で叩くノーツなど)を意識して刻んでいく、メロディだけど打楽器的な機能を果たすというのは斬新でした。

生み出すために自分の中のブレイクスルーが必要になったという意味でも、「怒槌」は印象的な曲です。

セガのアーケード音楽ゲーム『チュウニズム』

cosMo@暴走P せっかくなので「怒槌」制作時にこだわったところお聞きしてもいいですか?

光吉猛修 ありがとうございます! 途中でパイプオルガンの音色が続くパートがありますよね。

cosMo@暴走P 曲の展開がちょっと穏やかになる部分?

光吉猛修 そうです。僕の音楽的なベースは、フュージョンやプログレッシブ・ロックなどをミックスしたものなんですけど、そこのコード進行というか音運びは、自分が昔から好きな音の響きを表現しました。

cosMo@暴走P なるほど! 確かにそういった要素を感じます!

テンポ、ゲーム性、飽きられないこと……音ゲー曲制作の極意

──『チュウニズム』をはじめ、音ゲーへの楽曲提供の多いcosMoさんですが、音ゲー曲をつくる際にはどのような点にこだわっていますか?

cosMo@暴走P とにかく細かくリズムを刻むっていうのが大前提ですね。もちろんこれは難易度の高い曲の話です。それだけゲーム内で叩かないといけないノーツ(音ゲーにおけるリズムアイコン)も増えるので。

それから緩急。ここはちょっと休んで、ここは盛り上げてみたいに、音楽的な面だけじゃなく、ゲームにおけるレベリングも頭に入れつつ制作しています
『チュウニズム』に書き下ろしたきくおさんとのコラボ曲「蜘蛛の糸」
cosMo@暴走P 僕は音ゲーへの書き下ろしの場合、難易度の低い曲をつくることが滅多にないんですよ……なぜか高難易度曲ばかり依頼されるので(笑)。どうしてもその視点からになってしまいますね。

でも、長年音ゲー曲をつくってきたからこその気づきもあって──テンポが速い上に、音程のレンジが広いと、曲の難易度がさらに上がりやすくなるんです。オクターブジャンプというか、突然高い(低い)音に飛ぶとプレイヤー的には難しいみたいですね。

光吉猛修 確かに。オクターブジャンプは歌う場合も難しいですからね。

──音ゲーの楽曲をつくる上で、特に意識していることや楽曲に求められることはありますか?

cosMo@暴走P 音ゲーの場合、人によっては何度も同じ曲に挑戦するので、そういう意味で繰り返し遊んでも飽きない“良い曲”が求められると思います。

僕自身も、音ゲーの曲をつくるときは、何十回、何百回と聴かれても大丈夫なように工夫するんですけど、結構難しいんですよね。

光吉猛修 わかります。音ゲーの曲は、楽曲としてのインパクトはもちろん、ゲームに落とし込んだときの機能面も重要視されます

一方で、繰り返し聴ける曲でもあることも求められる──これって実はそれぞれ相反する要素で、それらを絶妙なバランスで組み立てなきゃいけないんです。

cosMo@暴走P 全く同感! その通りです!

あと、最近の音ゲーはイヤホンで聴けるようになったとはいえ、ゲームセンターは周囲の音が大きいので、そんな環境でも映えるメロディも重要ですね。

光吉猛修 ちなみに『チュウニズム』に提供いただいた「エンドマークに希望と涙を添えて」はどういったことを考えてつくったんですか? cosMo@暴走P 「エンドマークに希望と涙を添えて」は、『チュウニズム』の稼働前にオファーをいただいて、その時点ではまだどんな音ゲーになるかわからなかったんです。

だから、「めちゃくちゃ速い曲をつくっておけばいくらでも調整がきくだろう」と、自分らしさを出しつつ制作した結果、プレイヤーのみなさんにご迷惑をおかけしてしまい(笑)。

光吉猛修 (笑)。

──その難易度の高さから、一部プレイヤーから「エンドマークに“絶望”と涙を添えて」とも呼ばれているとか……。

cosMo@暴走P “音ゲーにおける楽曲の丁度良い尺”みたいなこともわからない状態だったから、当時としては長めな2分40秒という尺でつくってしまいました。重ね重ね、プレイヤーのみなさんには、大変な苦労をさせてしまっているようです。
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