MCバトルイベントの一夜を書き上げるとしたら主人公は誰でもいい。誰でもいいというのは決して投げやりな意味合いではなくて、誰にでもスポットライトを当てる価値があるという意味だ。天狗様ノ鼻頂戴シマスライムベリー「韻果録」
2015年12月27日に行われた「戦極MCBATTLE 第13章 全国統一編」には、65人のMCが参加した。(64人じゃないの?って思った方もいると思うが、その辺は割愛させていただきたい)
つまり65通りのバトルレポートを書くことができる。さらに、誰目線でそれを語るかという点を加味すると、一気にレポートの種類が増える。65×65通り?そんなもんじゃない。
お客さんやオーガナイザー、DJやスタッフ、在宅でSNSに噛り付いていたバトルファン、数えたらキリがない目線で、それぞれのレポートを書くことが可能だ。僕は掛け算が苦手なので、全部で何通りのドラマがあるのか計算できない。
なので、ここでは1通りだけ書かせてもらう。
これは、ハハノシキュウの視点から書いたライムベリー・MC MIRIについての話。
文:ハハノシキュウ
アイドルにフリースタイルを教えるということ
ライムベリー - 韻果録【MV】
MIRIちゃんにフリースタイルを教えてほしいと、ライムベリーの運営さんから依頼があった。ライムベリーというのは、アイドルラップの中でも代表的なグループの一つだ。
その頃、僕はおやすみホログラムの8月ちゃんとMIRIちゃんのユニット・8mmにラップの歌詞を何曲か提供してはいたが、彼女とは表面的なコミュニケーションしか取れないでいた。僕は、自分が初見で話しにくいタイプの人間だとわかっているし、自分からそれを解けるほど器用でもない。
センチメンタル / 8mm (ハチミリ) @2015.07.15 新宿LOFT 【おやすみホログラム×ライムベリー】
多分、普通の真面目なラッパーだったら、ここで「なめんなよ」と言って、その依頼を断ると思う。多分、失礼なくらいにこの子は素直なんだなと、感じる人も多いと思う。
だけど、僕は「この子はひねくれてんなー」と思ったのを鮮明に覚えている。ブーブー言いながらもやることは一生懸命やるタイプなんだろうなと、なんとなく察した。彼女の素直じゃない感じにモチベーションが上がったのも明確な事実だ。
もし、僕の質問に「そうなんですよ!ハハノシキュウさん!私は自分の意思でMCバトルに出たいんです!」なんて言われたら、社交辞令のような気がして無駄に勘繰ると思うし、逆に社交辞令じゃなかったとしたら、わざわざ僕なんかに頼まずに、サイファーとか探した方がいいよなぁとか考えてしまう。
そんな夏だった。
初めてのフリースタイルセッション
完全に好みの問題なんだけど、僕はフリースタイルにおいて、韻やフロウよりも生まれ持った才能や努力じゃ手に入らないものを重要視している。その日、ハハノシキュウはライムベリーの主催イベントに演者として呼ばれていた。僕は意を決して、自分のライブセットをリハーサル後だと言うのに大幅に変更にした。持ち曲を2曲減らして、MIRIちゃんとフリースタイルセッションしようと考えたわけだ。
その日、僕と同じようにライブで呼ばれていたあっこゴリラちゃんにも声をかけた。この時が初対面だったけれど、彼女が「戦極MCBATTLE 12章」でかなりの活躍を見せたことは知っていたので、迷いはなかった。
「即席の3人セッションをぶっつけ本番でやろう」と提案するとMIRIちゃんは「絶対無理です!」と言っていた。僕は「絶対できるだろうな」と思っていたけれど、彼女に一言だけアドバイスをした。
「無理して韻を踏もうとしなくていいから言いたいことを言えばいい」今から思えばこれが大正解だった。
「韻なんてやってれば後から付いてくる」と、付け足すように僕は言った。
この日の僕のライブは、はっきり言っていつも1人でやってるセットよりもはるかに盛り上がった。
あっこゴリラちゃんのサービス精神の旺盛さに助けられ、MIRIちゃんの予想以上に内容のこもったフリースタイルに驚嘆した。「ライブでフリースタイルしても『どうせ用意してきてるんでしょ?』ってお客さんに言われるけど、今考えてやってんだよ」と内心を吐露し、お客さんを盛り上げた。
そしてMIRIちゃんが「高校生ラップ選手権に出てやる!」と初めて公言する。その瞬間がこの日一番の盛り上がりだった。
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