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  • アメコミの巨匠スタン・リーが死去
  • アメコミに何を持ち込んだのか?
  • スタン・リーが生み出したスーパーヒーローの魅力

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追悼:アメコミの巨匠「スタン・リー」以後の世界を我々は生きている

スタン・リー

スタン・リーが亡くなってしまった。95歳。大往生である。95歳といえば、プロレスラーの力道山より2歳年上だ。

つい最近まで(というか、『アベンジャーズ4』のカメオは撮り終えているらしいので実質死後もということになるが)マーベルのスーパーヒーロー映画にちらっと出演していたスタン・リーは、タイムスケール的には力道山がいまだにリング上でパフォーマンスしていたに等しい。ここまでの人物は二度と出てこないであろう。

執筆:しげる 編集:新見直

スタン・リーは、アメコミに何を持ち込んだか

スタン・リーは、近年では前述のようにマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)作品に登場する好々爺として知られていた。

もっと言えば『ファンタスティック・フォー』を皮切りに60年代以降のマーベル・コミックスのスーパーヒーローを生み出した原作者・編集者であり、同時にジャック・カービーらアーティストとの間に問題を抱えた人物でもある。とてもではないが、一面的な評価を下せる人物ではないのは確かだ。

ジャック・カービー:スタン・リーと組んで、『ファンタスティック・フォー』や『X-メン』などを生み出した漫画家。のち『ファンタスティック・フォー』で得た名声や収益を巡って、スタン・リーと対立する。

スタン・リーの功績として特に語られるのが、スーパーヒーローたちの物語を等身大のものとして描いた点、そして現実の問題をコミックスに落とし込んだ点の革新性である。

これらの功績は今から60年近く前に成し遂げられたものであるが、これは今もってアメリカン・コミックスの基礎となり続けている変化だ。しかし、これらの功績は現在では当たり前になりすぎて、逆に何がすごいのかよくわからないところがある。今の時代に、3コードしか弾けない人間がバンドを組んだところで、誰も驚かないのと同じである。 よく聞くのが、スタン・リーのセリフや会話劇についての話だ。例えばスパイダーマンの口調は普通の学生に近いものであり、それが当時は新しかったという。つまりこれは、それ以前のコミックスのキャラクターは、普通の若者のような口調で話すことが少なかったということの裏返しである。

いわば明治期の日本文学界で起こった言文一致運動に近いことを、スタン・リーはコミックスに持ち込んだのだ。

小さなことのようだが、これには大きな意味がある。スーパーマンはメトロポリスの正義の守護者であり、バットマンはゴッサム・シティの番人である。つまり、コミックス草創期を代表するスーパーヒーローの代表格2人は、現実のニューヨークに似ているけど違う場所を拠点にしていた。

しかし、スタン・リーの生み出したヒーローたちは違った。

彼らは現実のニューヨークや、アメリカや、この地球にいる存在としてつくり出された。だから我々と同じような喋り方をするし、我々と同じように悩む。60年代のスタン・リーのアプローチが新しかったのは、その点をスマートかつ楽しく提示した点にある。

スタン・リー以降の世界を生きている

「スーパーヒーローは現実に、我々と同じ世界にいる」という点をフックにすることで、アメリカン・コミックスは新しい次元に到達することができた。

例えば、おれが好きな『マーベルズ』というコミックがある。ライターはカート・ビュシーク、アーティストはアレックス・ロスなのでスタン・リーは直接的には関わっていないが、スタン・リーの功績によって何が可能になったのかを端的に表している作品だ。 『マーベルズ』の主人公はスーパーヒーローではない。1939年から数十年にわたって、フィル・シェルダンというカメラマンが体験したことがまとめられている。

舞台はアメリカ。1939年に最初のスーパーヒーローであるヒューマン・トーチが現れ、それに続いて幾多の(スタン・リーが生み出した)ヒーローたちが誕生。大戦の行方を左右するほどの戦力となった彼らはやがて人類の脅威とみなされるようになっていく。

ヒューマン・トーチ:スタン・リーとジャック・カービーが生み出したヒーローチーム「ファンタスティック・フォー」の一員

その様を、一人のカメラマンの視点から描いた作品だ(ちなみにフィルの見た目はちょっとスタン・リーに似ている)。

ビュシークの渋いストーリー、そしてロスの実在感あるアートによって描かれる名作である。

しかしつまるところ、スタン・リーのもたらした革新がなければ『マーベルズ』は生まれなかったかもしれないし、自然発生するにしてもずっと時間がかかったのではないかと思う。

スタン・リーが「もしもスーパーヒーローが現実の存在だったら?」「我々と変わらない悩みを抱えていたら?」という想定のもとで作品を生み出し続けたことで、コミックが扱うことのできる題材は大きく広がった。

その先に『マーベルズ』のような「スーパーヒーローの活躍を極めて現実的に描きつつ、一方で主人公を普通のカメラマンにする」というトリッキーな作品が生まれたのである。

スタン・リーの功績の一部は、例えるならば『機動戦士ガンダム』でロボットアニメに絶対的な"正義と悪"ではなく相対的な"敵と味方"という対立軸を持ち込んだ富野由悠季に近い。この対立軸が持ち込まれた以前と以後とでは、明らかにジャンル全体のルールが不可逆の進化を遂げた。

ゲームをプレーするのがうまいプレイヤーはたくさんいても、ゲームのルールそのものを進化させる存在は一握りだ。スタン・リーは、間違いなくその一握りの存在のうちの一人だった

アメリカン・コミックスという業界全部を象徴するアイコンという意味で、おそらくスタン・リーを上回る存在は今後出てこないと思う。本当の意味で不世出の存在だった。

95歳だし、大往生ではあるけど、でもやっぱり寂しい。ひとまずしばらくは、家に積んであるコミックスを読み返して過ごそうと思う。

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しげる // shigeru

Writer

1987年岐阜県生まれ。プラモデル、アメリカや日本のオモチャ、制作費がたくさんかかっている映画、忍者や殺し屋や元軍人やスパイが出てくる小説、鉄砲を撃つテレビゲームなどを愛好。好きな女優はメアリー・エリザベス・ウィンステッドとエミリー・ヴァンキャンプです。
https://twitter.com/gerusea
http://gerusea.hatenablog.com/

しげる

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